拳の剣聖

シンカイ

文字の大きさ
3 / 29

3 激闘の末

しおりを挟む
 息を大きく吐き、一つ深呼吸をすると疲れが全身から吹き出てきたような感覚に襲われる。さっきまで命のやり取りをしていたのだ、無理もないことだと我ながら思った。
 俺はその場に腰を下ろし寝転がった。

「つ、疲れた……」

 そんな俺の横には、俺が初めて自分の意思で殺した『敵』がその身を横たわらせていた。
 その身体は俺とは違いもう息をしていない。当然だ、俺がコイツの命を奪ったのだから。だから、先程のように襲ってくることはもうないだろう。

     *

 さて、そろそろ柔らかい草原の上に寝転がってたおかげで疲れも少し和らいだ。俺は身体を起こし、はたと気付く。

「あっ、そういえば女の子は!?」

 バッ、と女の子がいるはずの場所へと顔を向ける。すると、未だに痛みで動けずにいる女の子の姿が確認できる。俺は慌てて女の子のもとに駆けつけた。

「お~い大丈夫かい?」
「は、はい、ありがとうございますっ」

 女の子は突然声をかけられたことに驚いたのか、若干声が上ずっていた。

「怪我は平気かい?」
「は、はいっだいじょうぶ、ですっ」
「そっか、なら良か……、って良くないな」
「あ、あのっ、見捨てないでくれてありがとう、ですっ!」
「ははは、見捨てるなんてあり得ないよ」

(そうだ、あり得ない…あり得ないことだ、そんなことは絶対に……っだけど俺は………)

「あの…?」

 俺が突然黙ってしまったことに不安を感じたのだろうか。女の子は小さく愛らしい藍色の瞳をクリクリとさせて、こちらを心配そうに伺っている。

「あ、ああごめんね、なんでもないんだ。と、それよりも、とりあえず安全な場所に移動しようか」
「あ、は、はいそうですね、でもわたし……」

 悲しそうな目で自らの腫れてしまった華奢な足を見つめる女の子。そんな様子を見て察した俺は女の子にこんな声をかけた。

「良ければ俺が君を運ぼうか?」
「え、ええ!? でもそんなこと…申し訳ないですし、その……(はずかしいです…)」
「いやいや、流石にそんな痛々しい足で歩かせたらこちらが申し訳ないよ。どうしても嫌なら仕方ないけど……」

(頼むっ、運んでくださいって言ってくれ! マジでそんな痛そうに歩く姿とか見たくねぇ!)

 俺の祈りははたして通じたのだろうか。はたして女の子は蚊の鳴くような声で呟く様にこちらに意思を告げる。

「じゃあ、あの、よろしくお願いします、です……」
「ん、よしきた! じゃあほら、乗って!」

 女の子にくるりと背を向けその場にしゃがむ。

 「は、はい、じゃあその、しつれいします……」

 おずおずと女の子は俺の肩に腕をかけ、落ちない様に己の身体を固定させるためギュッと力を入れる。

「よし、じゃあ立つよ」
「は、はいっ」

 宣言通りにゆっくりと立ち上がる。それと同時に俺の上半身に女の子特有の柔らかな感触が伝わっていく。

(うはぁ、やわらけぇ~! 女の子の体って小さくてもなんか、こう女の子なんだな…)

 小さな身体を大事に運ぶ。それは、思わず父親だか母親だかになった気分にしてくれる。

(と、余計なことを考えるのは程々にしないと)

 「そういえばどこに向かったら良いんだ?」
「あ、あのっ、この先にわたしのお家がある村があるんです、けど」
「ん? それならそこに行こっか。他にいくあてもないし。じゃあ案内してくれる?」

 後ろに首を捻り、告げる。途端にその女の子は急にあわあわしだした。

「ああああのあのあの、はい分かりましたですっ!」
「うん、よろしくね」

(かわええなぁ、ほんと)

 女の子のその様を見て思わずそんなことを思う。それと同時に、これはさっき頑張った自分へのご褒美なのかもなぁ、と思った。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
死後の世界で転生待ちをしていた。誘導にしたがって進んでいたが、俺だけ神使に別の場所に案内された。そこには5人の男女がいた。俺が5人の側に行くと、俺達の前にいた神様から「これから君達にはこの神の卵を渡す。この卵を孵し立派な神に育てよ」と言われた。こうしてオレは神様を育てることになった。

処理中です...