5 / 29
5 料理の合間に
しおりを挟む
さて、招待されたのはいたって普通の木造建築の家だった。家の大きさは外見的に2階建だろう。
中にお邪魔するとこれまた質素な木製のテーブルに椅子、といった様相だった。
(結構普通だな……)
なぁんて考えていたのはそこまでだった。
「じゃあ今から作るわねっ! 今日はゲストがいるから頑張らなきゃ!」
「え、アーリィ…さんが作るんですか?」
「え?そうよ、いってなかったかしら?」
「言ってなかったも何も俺はあなたとは道中一度も話してないんですけど…」
「あら、そうだった? と言うかアーリィさんって何よ、普通にアーリィって呼んで欲しいのだけど」
「いやっ、そんな恐れ多いことは……!」
「別に恐れ多いとかそんなことないわ。いいから名前で呼んでみなさいっ?」
俺はアーリィの眩しすぎる眼光に押され、しどろもどろで名前を呼んだ。
「あ、じゃあ、あ、アーリィ……」
「って、べ、別に名前呼んだくらいでなに顔赤くしてんのよっ…、こっちまで照れるじゃないっ!」
「ご、ごめん」
「あーもう、まぁいいわっ。とっととご飯作っちゃうわね」
「お、お願いします」
と、会話が終わるなりアーリィは食材を取り出して調理を開始した。そしてそれと同時に驚きの連鎖が始まる。
まずアーリィは譫言のように何かを呟く。すると…何もない空間から水が湧き出るように出現した。それを使って野菜を軽く水洗いし始める。
この時点で俺の口は陸に上がった魚のようにパクパクしていたが気にしないでもらいたい。アーリィはさらに何事かを呟き今度は、虚空からなんと子供の拳くらいの火の球を出現させた。アーリィはそれを鍋の下で着火させる。
俺はそこまで見てたまらずアーリィに声をかけた。
「あ、あのさ!」
「? なによ」
「それって魔法……だよね?」
「そうよ? それがどうかしたの? 別に珍しいものじゃないでしょ」
「いや、ゴメン、俺は魔法なんて初めて見たからさ」
と、俺の発言を聞いたアーリィの手が止まった。
「え? 冗談よね?」
「えっとその……、冗談じゃないんだよね……」
「………ええぇぇぇ!?」
心底信じられない、とでもいうような顔でこちらを見ている。
(そんなに驚くことなのかな)
今まで向けられた事のない視線に実感がいまいち湧かない俺はボヤッとそんな感想を抱いていた。
暫く驚きっぱなしだったアーリィは、ハッとすると
「っいけない、続きしないと! 話はまた後でねっ!」
「あ、うん」
慌てて再び鍋の方を向いて再度、魔法を使いこなして料理に取り組んだ。
☆
そこから何を話すでも無く只々だらっと机に伏せていた俺は段々と強くなる食欲を誘う香りに、冷たいテーブルから身を起こす。
匂いのする方へと目をやると景気良く鍋を振るアーリィの姿があった。鼻歌交じりに楽しそうに鍋を扱う彼女の後ろ姿は何というか、非常に唆るものがある。
(何だろうな、新妻にしか見えないな)
後ろ姿にポケーっと見とれていた俺は彼女が料理を盛り付け食卓に用意する際にこちらを向くまでその状態だった。
やがて俺にじーっとそれこそ視線が刺さって穴が空くんじゃないかと思うほど見られていたのに気付いたアーリィは何と無く身体を局所的に隠した。
「な、なに見てるのよ!」
声を当てられようやく意識が帰ってきた俺は、なにも考えず口を動かした。
「いや、なんかすげー綺麗だなぁって」
「なっ」
「………ん、あれ?」
(俺いま何つった?)
まるで温度計のように下から上へと赤くなっていくアーリィを見て先程発言した言葉を思い返す。思い出すにつれて自らの言葉を理解し顔が熱くなっていく。
「え、っとあ、い、いや違う! あ、違わないな……、じゃなくて、っと、とりあえずゴメンっ!」
なにを言えばいいのか分からず咄嗟に出てきた言葉がこれだった。一方アーリィは
「…………」
先程と全く変わらぬ体勢で彫像の如く立っていた。この様子だと俺の言葉もどうやら届いていないようだ。
「あの、ちょっと?」
「…………」
「えっと聞こえてる?」
「…………」
何度も声をかけるが反応しない。こちらを凝視しながら固まっている彼女は中々シュールだ。そして必然、彼女がこちらを見ているのだからこちらも断然気になってしょうがない。だから俺も彼女をまじまじと見つめる。
「やっぱり、うん、イイな」
「!?」
(あっ! しまったまた……!)
「あ、あんたねぇ、いきなりなに言ってくれてるのよ!!」
漸く彫像が動き出す。今なら言葉も届くと思いすかさず俺は謝罪した。
「気を悪くさせたんだったら本当にゴメン!」
アーリィは顔を赤に保ちつつそっぽを向きながら照れを隠すように早口で言った。
「ま、まぁいいわよっ、悪口とか言われたわけじゃないしっ? ゆ、許してあげるわっ」
「よ、よかったぁ……」
どうやら許してもらえたようだ。本当に良かったと心の底から安堵する。
「ま、まぁそんなことはもう置いといて! ご飯にするわよ!」
「あ、はい。あ、じゃあ手伝うよ」
「ん、あ、じゃあコレとソレを運んでくれる?」
「うん、了解」
俺は言われた料理と食器をいそいそと食卓に運んでいく。
「じゃあそれ置いたらちょっと待ってて。お母さんたちを呼んでくるわ」
「ん、わかった」
アーリィがパタパタと階段を上っていく後ろ姿を見送りながら俺は、返事をして元いた席に座る。
だがこの時異変が起こった。突如として俺は強烈な睡魔を感じた。その感覚はまるで魂が優しく包まれ何処かへと抜き去られていくような、兎に角俺の体から何かが抜け出るような不思議な感覚だった。
「あ、れ……?」
身体の力が抜け、せっかく座った椅子から転がるように落ちた。そして俺は体も動かせず、そのまま意識を闇の中へと手放した。
☆
「ん……、あれ…ここは………?」
「やぁやぁやぁ気付いたかい?」
意識を取り戻した俺の視界に先ず映ったのはロン毛で美形の半裸の男だった。
中にお邪魔するとこれまた質素な木製のテーブルに椅子、といった様相だった。
(結構普通だな……)
なぁんて考えていたのはそこまでだった。
「じゃあ今から作るわねっ! 今日はゲストがいるから頑張らなきゃ!」
「え、アーリィ…さんが作るんですか?」
「え?そうよ、いってなかったかしら?」
「言ってなかったも何も俺はあなたとは道中一度も話してないんですけど…」
「あら、そうだった? と言うかアーリィさんって何よ、普通にアーリィって呼んで欲しいのだけど」
「いやっ、そんな恐れ多いことは……!」
「別に恐れ多いとかそんなことないわ。いいから名前で呼んでみなさいっ?」
俺はアーリィの眩しすぎる眼光に押され、しどろもどろで名前を呼んだ。
「あ、じゃあ、あ、アーリィ……」
「って、べ、別に名前呼んだくらいでなに顔赤くしてんのよっ…、こっちまで照れるじゃないっ!」
「ご、ごめん」
「あーもう、まぁいいわっ。とっととご飯作っちゃうわね」
「お、お願いします」
と、会話が終わるなりアーリィは食材を取り出して調理を開始した。そしてそれと同時に驚きの連鎖が始まる。
まずアーリィは譫言のように何かを呟く。すると…何もない空間から水が湧き出るように出現した。それを使って野菜を軽く水洗いし始める。
この時点で俺の口は陸に上がった魚のようにパクパクしていたが気にしないでもらいたい。アーリィはさらに何事かを呟き今度は、虚空からなんと子供の拳くらいの火の球を出現させた。アーリィはそれを鍋の下で着火させる。
俺はそこまで見てたまらずアーリィに声をかけた。
「あ、あのさ!」
「? なによ」
「それって魔法……だよね?」
「そうよ? それがどうかしたの? 別に珍しいものじゃないでしょ」
「いや、ゴメン、俺は魔法なんて初めて見たからさ」
と、俺の発言を聞いたアーリィの手が止まった。
「え? 冗談よね?」
「えっとその……、冗談じゃないんだよね……」
「………ええぇぇぇ!?」
心底信じられない、とでもいうような顔でこちらを見ている。
(そんなに驚くことなのかな)
今まで向けられた事のない視線に実感がいまいち湧かない俺はボヤッとそんな感想を抱いていた。
暫く驚きっぱなしだったアーリィは、ハッとすると
「っいけない、続きしないと! 話はまた後でねっ!」
「あ、うん」
慌てて再び鍋の方を向いて再度、魔法を使いこなして料理に取り組んだ。
☆
そこから何を話すでも無く只々だらっと机に伏せていた俺は段々と強くなる食欲を誘う香りに、冷たいテーブルから身を起こす。
匂いのする方へと目をやると景気良く鍋を振るアーリィの姿があった。鼻歌交じりに楽しそうに鍋を扱う彼女の後ろ姿は何というか、非常に唆るものがある。
(何だろうな、新妻にしか見えないな)
後ろ姿にポケーっと見とれていた俺は彼女が料理を盛り付け食卓に用意する際にこちらを向くまでその状態だった。
やがて俺にじーっとそれこそ視線が刺さって穴が空くんじゃないかと思うほど見られていたのに気付いたアーリィは何と無く身体を局所的に隠した。
「な、なに見てるのよ!」
声を当てられようやく意識が帰ってきた俺は、なにも考えず口を動かした。
「いや、なんかすげー綺麗だなぁって」
「なっ」
「………ん、あれ?」
(俺いま何つった?)
まるで温度計のように下から上へと赤くなっていくアーリィを見て先程発言した言葉を思い返す。思い出すにつれて自らの言葉を理解し顔が熱くなっていく。
「え、っとあ、い、いや違う! あ、違わないな……、じゃなくて、っと、とりあえずゴメンっ!」
なにを言えばいいのか分からず咄嗟に出てきた言葉がこれだった。一方アーリィは
「…………」
先程と全く変わらぬ体勢で彫像の如く立っていた。この様子だと俺の言葉もどうやら届いていないようだ。
「あの、ちょっと?」
「…………」
「えっと聞こえてる?」
「…………」
何度も声をかけるが反応しない。こちらを凝視しながら固まっている彼女は中々シュールだ。そして必然、彼女がこちらを見ているのだからこちらも断然気になってしょうがない。だから俺も彼女をまじまじと見つめる。
「やっぱり、うん、イイな」
「!?」
(あっ! しまったまた……!)
「あ、あんたねぇ、いきなりなに言ってくれてるのよ!!」
漸く彫像が動き出す。今なら言葉も届くと思いすかさず俺は謝罪した。
「気を悪くさせたんだったら本当にゴメン!」
アーリィは顔を赤に保ちつつそっぽを向きながら照れを隠すように早口で言った。
「ま、まぁいいわよっ、悪口とか言われたわけじゃないしっ? ゆ、許してあげるわっ」
「よ、よかったぁ……」
どうやら許してもらえたようだ。本当に良かったと心の底から安堵する。
「ま、まぁそんなことはもう置いといて! ご飯にするわよ!」
「あ、はい。あ、じゃあ手伝うよ」
「ん、あ、じゃあコレとソレを運んでくれる?」
「うん、了解」
俺は言われた料理と食器をいそいそと食卓に運んでいく。
「じゃあそれ置いたらちょっと待ってて。お母さんたちを呼んでくるわ」
「ん、わかった」
アーリィがパタパタと階段を上っていく後ろ姿を見送りながら俺は、返事をして元いた席に座る。
だがこの時異変が起こった。突如として俺は強烈な睡魔を感じた。その感覚はまるで魂が優しく包まれ何処かへと抜き去られていくような、兎に角俺の体から何かが抜け出るような不思議な感覚だった。
「あ、れ……?」
身体の力が抜け、せっかく座った椅子から転がるように落ちた。そして俺は体も動かせず、そのまま意識を闇の中へと手放した。
☆
「ん……、あれ…ここは………?」
「やぁやぁやぁ気付いたかい?」
意識を取り戻した俺の視界に先ず映ったのはロン毛で美形の半裸の男だった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です
流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。
父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。
無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。
純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
神様を育てることになりました
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
死後の世界で転生待ちをしていた。誘導にしたがって進んでいたが、俺だけ神使に別の場所に案内された。そこには5人の男女がいた。俺が5人の側に行くと、俺達の前にいた神様から「これから君達にはこの神の卵を渡す。この卵を孵し立派な神に育てよ」と言われた。こうしてオレは神様を育てることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる