拳の剣聖

シンカイ

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5 料理の合間に

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 さて、招待されたのはいたって普通の木造建築の家だった。家の大きさは外見的に2階建だろう。
 中にお邪魔するとこれまた質素な木製のテーブルに椅子、といった様相だった。

(結構普通だな……)

 なぁんて考えていたのはそこまでだった。

「じゃあ今から作るわねっ! 今日はゲストがいるから頑張らなきゃ!」
「え、アーリィ…さんが作るんですか?」
「え?そうよ、いってなかったかしら?」
「言ってなかったも何も俺はあなたとは道中一度も話してないんですけど…」
「あら、そうだった? と言うかアーリィさんって何よ、普通にアーリィって呼んで欲しいのだけど」
「いやっ、そんな恐れ多いことは……!」
「別に恐れ多いとかそんなことないわ。いいから名前で呼んでみなさいっ?」

 俺はアーリィの眩しすぎる眼光に押され、しどろもどろで名前を呼んだ。

「あ、じゃあ、あ、アーリィ……」
「って、べ、別に名前呼んだくらいでなに顔赤くしてんのよっ…、こっちまで照れるじゃないっ!」
「ご、ごめん」
「あーもう、まぁいいわっ。とっととご飯作っちゃうわね」
「お、お願いします」

 と、会話が終わるなりアーリィは食材を取り出して調理を開始した。そしてそれと同時に驚きの連鎖が始まる。
 まずアーリィは譫言うわごとのように何かを呟く。すると…から水が湧き出るように出現した。それを使って野菜を軽く水洗いし始める。
 この時点で俺の口は陸に上がった魚のようにパクパクしていたが気にしないでもらいたい。アーリィはさらに何事かを呟き今度は、虚空からなんと子供の拳くらいの火の球を出現させた。アーリィはそれを鍋の下で着火させる。
 俺はそこまで見てたまらずアーリィに声をかけた。

「あ、あのさ!」
「? なによ」
「それって魔法……だよね?」
「そうよ? それがどうかしたの? 別に珍しいものじゃないでしょ」
「いや、ゴメン、俺は魔法なんて初めて見たからさ」

 と、俺の発言を聞いたアーリィの手が止まった。

「え? 冗談よね?」
「えっとその……、冗談じゃないんだよね……」
「………ええぇぇぇ!?」

 心底信じられない、とでもいうような顔でこちらを見ている。

(そんなに驚くことなのかな)

 今まで向けられた事のない視線に実感がいまいち湧かない俺はボヤッとそんな感想を抱いていた。
 暫く驚きっぱなしだったアーリィは、ハッとすると

「っいけない、続きしないと! 話はまた後でねっ!」
「あ、うん」

 慌てて再び鍋の方を向いて再度、魔法を使いこなして料理に取り組んだ。

   ☆

 そこから何を話すでも無く只々だらっと机に伏せていた俺は段々と強くなる食欲を誘う香りに、冷たいテーブルから身を起こす。
 匂いのする方へと目をやると景気良く鍋を振るアーリィの姿があった。鼻歌交じりに楽しそうに鍋を扱う彼女の後ろ姿は何というか、非常に唆るものがある。

(何だろうな、新妻にしか見えないな)

 後ろ姿にポケーっと見とれていた俺は彼女が料理を盛り付け食卓に用意する際にこちらを向くまでその状態だった。
 やがて俺にじーっとそれこそ視線が刺さって穴が空くんじゃないかと思うほど見られていたのに気付いたアーリィは何と無く身体を局所的に隠した。

「な、なに見てるのよ!」

 声を当てられようやく意識が帰ってきた俺は、なにも考えず口を動かした。

「いや、なんかすげー綺麗だなぁって」
「なっ」
「………ん、あれ?」

(俺いま何つった?)

 まるで温度計のように下から上へと赤くなっていくアーリィを見て先程発言した言葉を思い返す。思い出すにつれて自らの言葉を理解し顔が熱くなっていく。

「え、っとあ、い、いや違う! あ、違わないな……、じゃなくて、っと、とりあえずゴメンっ!」

 なにを言えばいいのか分からず咄嗟に出てきた言葉がこれだった。一方アーリィは

「…………」

 先程と全く変わらぬ体勢で彫像の如く立っていた。この様子だと俺の言葉もどうやら届いていないようだ。

「あの、ちょっと?」
「…………」
「えっと聞こえてる?」
「…………」

 何度も声をかけるが反応しない。こちらを凝視しながら固まっている彼女は中々シュールだ。そして必然、彼女がこちらを見ているのだからこちらも断然気になってしょうがない。だから俺も彼女をまじまじと見つめる。

「やっぱり、うん、イイな」
「!?」

(あっ! しまったまた……!)

「あ、あんたねぇ、いきなりなに言ってくれてるのよ!!」

 漸く彫像が動き出す。今なら言葉も届くと思いすかさず俺は謝罪した。

「気を悪くさせたんだったら本当にゴメン!」

  アーリィは顔を赤に保ちつつそっぽを向きながら照れを隠すように早口で言った。

「ま、まぁいいわよっ、悪口とか言われたわけじゃないしっ? ゆ、許してあげるわっ」
「よ、よかったぁ……」

 どうやら許してもらえたようだ。本当に良かったと心の底から安堵する。

「ま、まぁそんなことはもう置いといて! ご飯にするわよ!」
「あ、はい。あ、じゃあ手伝うよ」
「ん、あ、じゃあコレとソレを運んでくれる?」
「うん、了解」

 俺は言われた料理と食器をいそいそと食卓に運んでいく。

「じゃあそれ置いたらちょっと待ってて。お母さんたちを呼んでくるわ」
「ん、わかった」

 アーリィがパタパタと階段を上っていく後ろ姿を見送りながら俺は、返事をして元いた席に座る。
 だがこの時異変が起こった。突如として俺は強烈な睡魔を感じた。その感覚はまるで魂が優しく包まれ何処かへと抜き去られていくような、兎に角俺の体から不思議な感覚だった。

「あ、れ……?」

 身体の力が抜け、せっかく座った椅子から転がるように落ちた。そして俺は体も動かせず、そのまま意識を闇の中へと手放した。





「ん……、あれ…ここは………?」
「やぁやぁやぁ気付いたかい?」

 意識を取り戻した俺の視界に先ず映ったのはロン毛で美形の半裸の男だった。

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