拳の剣聖

シンカイ

文字の大きさ
9 / 29

9 見たくなかった一面

しおりを挟む
「ごちそうさまでした」

 中々に楽しめた食事も終わり後片付けに入る。家族の人たちがせっせと動いているなか客人とはいうものの、じっとしているのは辛いので、手伝いを申し出た。

「俺にも何か手伝うことってあるかな?」

 俺はアーリィに聞いてみた。

「ん、ありがと。でも大丈夫よ」

 やんわりと断られてしまった。こうなると特にやることもないのでひたすらに暇になってしまう。
 そんな俺の様子を捉えたのか、グリアスが近づいてくる。

「それならば村長の所へ行ってみるといい。村長からも連れてくるように言われていたからな、丁度いいだろう」

 (ああ…まぁそれもいいかな)

 本当にやることがないので丁度いい案件だ。しかし一つ問題があった。

「でも俺は村長がどこにいるのか分からないんですけど」
「む、それもそうか。なら…、おーいアーリィ、リン君を村長の家に連れて行ってもらえないか」

 未だ作業中のアーリィにグリアスが呼びかける。

「ん~、家事が終わったらでい~い~?」

 アーリィは作業を一旦中断してこちらを振り向いた。

「いや、私たちがやっておくから今行って来ていいぞ」

 そんなグリアスの発言を聞いてアーリィは目を丸くする。

「え~!? 珍しい、普段なら『家事は女がやるものだ』とか言って自分の部屋に戻るのに!」
「わ、私だってそういうことがしたくなる時もある! いいからさっさと行きなさい!」

 厳つい顔からは想像できない少し上ずった声でグリアスが怒鳴る。

「はぁ~い、分かったわよ、全く。じゃあリン、行きましょうか」
「うん、そうだね」

 話が纏まりこれからすることが決まった。そしてさぁ出かけよう、というタイミングで

「リラも行きます!」

 リラが俺に飛びついてきた。

「ちょっとリラ? よしなさいよ、付いてきたって面白いことなんにもないわよ、きっと」
「お姉ちゃん、リラね、リンさんのそばにいたいの!」
「なぁっ!?」

 リラの言動に童貞の哀しい部分が揺り動かされる。

「お姉ちゃん……ダメ?」
「だ、だめじゃ無いけど……。と、というかそういうことはリンに聞きなさい!」
「リンさん…いいですか?」
「う、うん! いいよ大歓迎だよ!」

(断る理由もないしね!)

 俺のそんな様子を見てアーリィは一つ嘆息した。

 結局リラも連れての三人で家を後にすることとなった俺たちは、家から少し離れたところまで歩いて行くと、アーリィが口を開く。

「……で、あんたはいつまでそのままでいるつもり?」
「え、なにがぁ?」
「それよそれ!」

 ビシィっとアーリィは俺のの部分へと力強く指を指す。するとそこには

「よーしよしよし」
「えへへ~」

 俺に撫でられて幼さの感じられる笑顔でニコニコ笑うリラがひっついている。

「だーかーらぁー! それのことを言ってるの!」
「え? なんかダメなの?」
「う~リンさんナデナデやめないでください!」
「あー、ごめんごめん。はい、よしよし」
「えへ~、気持ちいいですぅ~」
「あーもう、なんかムカつくから取り敢えずそれをやめなさいっ!」

 ツカツカと歩み寄ってきたアーリィはリラを引き離しにかかる。

「ほらっもう離れっなさいリラ!」
「ん~~やだ!」
「やだじゃないの! ほら離れて!」

 アーリィは結構力づくで引き剥がしにかかっているので、リラに掴まれている俺の足は当然

「いたっ痛たたたた!」

 同時に引っ張られるのでその力に応じた痛みが右足に走る。

「あ、ごめんっ」

 俺が痛がっているのを理解したアーリィは咄嗟にリラから手を離す。

「いや、大丈夫だよ」

 心配そうにこちらを窺うアーリィにそう伝える。

「そう? ならいいけど……。本当にごめんね?」
「ん、大丈夫だよ本当に。それにしてもリラちゃんはなんでそんなに俺にくっつきたがるの?」

 別に嫌じゃないけど。と小声で付け足しリラに聞いてみる。

「それはですね…、リンさんはリラの王子様だからです!」
「え?」
「は?」
「「王子さまぁ?」」
「そうです!」

 グッと精一杯背伸びをしてずずいっとリラの顔が俺の顔に近づけられる。

「うおう……!」

 チキンで童貞な俺にこんなイベントを体験する機会などなかったので、思わず後ずさりをしてしまう。

「ふぇ……リンさんはリラのこと、嫌いですか…?」

 そんな俺の行動を避けられたと認識したのだろうか。今にもリラは泣きそうな表情でこちらを見ている。

「いやいやいや! 全然全く嫌いじゃないよ! さっきのはちょっといきなりだったから驚いただけだから!」

 ここでやめておけばいいのに、俺は更に言葉を続ける。

「リラちゃんはどっちかといえば好きだよ、うん!」
「え?」
「え?」

 リラの反応に思わずリラと同じ言葉を繰り返す。

「じゃあじゃあじゃあ! リンさん、リラをお嫁さんにしてくれますか!?」
「は!?」
「また始まったわね……」

 アーリィが小さく呟いた声を俺は聞き逃さなかった。

「えっとアーリィ? またってなに?」
「え? 私そんなこと言ったかしら?」
「言ったよ! がっつり意味深なことを言ったよね!?」
「イヤね、言ってないわよ? それより早くアーガスのところに行きましょ?」
「リンさん言いましたよね、リラのこと大好き、愛してる! って!」
「えぇ!? そ、そこまでは言ってないはずだよ!」

(…うん、言ってないね絶対!)

「ウソです、リラは聞きました! リラ大好き、愛してる、結婚しよう! って!」
「なんか追加されてると思う俺はおかしいのかな!?」
「おかしいです!」
「幼女に断言された!?」
「二人とも~さっさと行くわよ~」

 気だるげな声でそう呼びかけるアーリィに俺はこの状況を打破するために、即座に反応した。

「うんわかった! さぁ行こうかリラちゃん! この話はまた今度じっくりとしようねぇ?」
「あ、リンさ」
「ほら早く行かないと時間がもったいないよ! 手を繋いであげるから! ね?」

 再び何かを言いかけるリラ。それを上から被せるように口が動くままに言葉を出す。

「でもリ」
「ああゴメン! リラちゃんはこっちの方がいいもんねぇ? よいしょと!」
「ひ、ひゃあぁぁぁ…! こ、これは恥ずかしいです!」
「さぁいっくぞぉ! アーリィ案内よろしくぅ!」

 色々テンパった俺はもはや自分が何を喋って何をしたかは明確には覚えていない。ただ、村長の家にハイテンションで突撃し、至極簡潔な挨拶を大声でかまして言うだけ言って、村長の家を飛び出して行ったのを村人全員に目撃されたことだけはアーリィから聞いた。

 …………死にてぇ………。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

神様を育てることになりました

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
死後の世界で転生待ちをしていた。誘導にしたがって進んでいたが、俺だけ神使に別の場所に案内された。そこには5人の男女がいた。俺が5人の側に行くと、俺達の前にいた神様から「これから君達にはこの神の卵を渡す。この卵を孵し立派な神に育てよ」と言われた。こうしてオレは神様を育てることになった。

処理中です...