拳の剣聖

シンカイ

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12 明日に向けて

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 村人たちにそれはもうもみくちゃにされた疲労困憊な俺は、他の村人たちが去った後リラやアーリィたちに介抱された。
 ただ悔やむべきは持ってきた薬草が村長の目にとまったことだろう。

「おぉ! これは薬草かい? こんなに集めてくれるとは思わんかったわい。 それじゃあこれはありがたくいただいておくよ」

 そう言うなり村長は採集キットを避けて袋を引っ掴むと上機嫌で俺の前から姿を消したのだった。

(思い出したらまた腹が立ってきたな……!)

 メラメラと怒りの炎が湧き上がる。だが今は身体を動かせるほどの体力はもうない。なので俺はリラの家までリラやアーリィたちに状態だ。
 そう、文字どおりに。荷車で。
 傍からみればその様は、不気味なゲル状の物体を運ぶ怪しい集団だ。
 俺の今の状態は既に乾いてプルプルにはなったものの村人たちにぐちゃぐちゃにされた所為で、寒天のようなゼリー状のものをお身っきり叩きつけたらこうなるんじゃないかと言うような、端的に言えば正直触るのも躊躇う様相になっていた。
 これにはさしものリラも引くのではと、思ってみれば。

「リンさんはどんな格好でもカッコいいです! 素敵です! そのままの格好でいいから今すぐリラと結婚しましょう!」

 俺の予想の斜め上の答えを繰り出してきたのには驚いた。因みにアーリィはと言うと。

「流石に触れるのはちょっと抵抗があるわね……」

 うん、まぁ至って普通の反応だった。そうだよね、俺だってできることならこんな感触とは一刻も早くおさらばしたいもん。
 結局俺は自力でなんとかリラの家に向かうことにしたのだが──え? 何でナチュラルにリラの家に向かってんのかって? 気にすんな!──、やはり自力で歩くのももはや難しかった。
 そして色々思い悩んだ末出した答えが、これである。

「いや、もうアーガスさん、申し訳ないです」

 ガラガラ音を立てて引かれる荷車の上でアーガスに謝罪の言葉を浴びせる。

「……気にするな」

 だがアーガスは寡黙なのかそれだけ言うと、別段喋ることもなく黙々と荷車を引いている。
 アーリィとリラはというと、二人で何やら話し込んでいて話しかけるのを躊躇った。
 そこで俺は暇潰しにステータスの確認でもしようと思いついた。

「ステータス」

 名前   リン ミヤマ
 性別   男
 LV   8
 職業   なし
力   21
守   18
命中   17
魔力   16
素早さ   20
 スキル   スキルの種 lv unknown
                   我流武術   327/500
                          神眼 lv 1
 ユーモアスキル   スライム擬態   lv 4
 称号   謎の一般人
※新しい称号があります

 ザッと目を通す。すると我流武術のカウントが変動を開始したからなのか、常に表示されるようになっていた。

(あれだけ倒したのに約180とか……マジか)

 確かにカウントは減っている。だが目標にはまだまだ距離があった。この調子で三日間でそこまで到達できるのだろうか。そんな不安が頭をよぎった。

(まぁ、悩んでてもしょうがないよな。明日も頑張るしかないか)

 そう結論づけた。

「ん?」

 目下の問題を処理した後だろうか。俺は称号の欄に表示されている文章に気がついた。

(新しい称号があります? こりゃまた随分とお約束な……)

 ピカピカと明滅を繰り返すその文章は、俺が気がつくと同時に表示が変わった。

称号   謎の一般人
 NEW! 物好き   NEW! マゾ   NEW!拳術見習い   NEW! 人気者(笑)
 ※現在の称号を変更できます

 うん、ちょい待てや。

(何だこのほとんど悪意全開の称号は!?)

 俺の予想ではあんだけスライム倒したしスライムキラーとかそんな感じの称号が増えるんだろうな、とか思っていた。だが結果は全く違う。拳術見習いぐらいしかまともな称号が無かった。
 なんか下の方に称号の変更ができるとか書いてあるけど、実質一択だよね、これ。

『称号を【拳術見習い】に変更しました』

 無機質な音声が頭の中にフッと生まれて消えた。どうやら称号が変わった、と言うことなんだろう。

 俺はステータスを閉じて辺りを見回す。するとそこは既にリラの家の目の前だったようだ。
 ここでアーガスは初めて自主的に声を出した。

「……降りろ」

 アーガスはこちらを見てそう告げる。俺は指示通りに何とか荷車から自力で降りた。

「アーガス、急にごめんね、助かったわ」
「アーガスさん、ありがとです!」

 俺が降りたのを確認して、再び荷車を引いて帰ろうとしたアーガスに二人が声をかける。

「……別に、これぐらいお安い御用だ」

 そう言って再び歩を進め出す。と、突然アーガスはこちらにクルリと向き直り、

「薬草、助かった。感謝する」

 そう短く告げ、今度こそ歩みを止めることなく去っていった。

 俺たちはその後ろ姿を見えなくなるまで見送った後、俺もいつまでもこの格好じゃダメだと思い、どこかの水辺でスライムゼリーを流すためその場を離れようとした。

「じゃ、俺もそろそろ……」

 そう声をかけその場を離れようとしたのだが。

「リンさんどこに行くんですか?」
「あ、いや、この身体を洗おうかと思ってね。あ、そうだどこかに水辺とかないかな?」
「それならお家の井戸のお水を使うといいですよ!」
「いやでも、これ以上お世話になるわけには……」

 頑として自分の意見を曲げない俺に対してしびれを切らしたのは、なんとアーリィだった。

「つべこべ言わないでさっさと中に入りなさいっ!」
「え、うわぁっ!?」

 アーリィは俺の背中を押し出すように力強く蹴り出した。そしてそのタイミングで一体どうやって打ち合わせをしていたのかわからないほどの、鮮やかなコンビネーションでリラが家の扉を開いた。
 前のめりにつんのめった俺に抗う術はなく、慣性の赴くままに俺は家の中に転がり込んだ。

「あらおかえりなさい、3人とも」
「ただいま、お母さん」
「ママ、ただいまです!」

 アイーシャは帰って来た俺たちに対して温かい出迎えの言葉をくれた。

「リン君もおかえりなさい」
「え、あ…た、ただいま…? え、どう言うこと?」

 思わずアーリィとリラに疑問の言葉を吐いた。そして二人の口から出た言葉に俺は衝撃を受けることになった。

「あれ、言ってなかったっけ?」
「リンさんは、ここに住むのですよ!」
「まぁ、あんたさえ良ければだけどね。一応家族全員了承済みよ」
「………は、はぁ !? え、そりゃ嬉しいけどいいの!?」
「ん、まぁね」

(ま、マジかぁ、異世界ってこんなにあっさり見ず知らずの人を泊めてくれたりするんだぁ……)

 あまりにも突然の幸運に戸惑いながらも、俺はありがたくその申し出を受けて心地よいベッドの上で一夜を明かすのだった。
 あ、もちろんスライムゼリーは洗い流したよ!
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