拳の剣聖

シンカイ

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13 勘違い

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 朝が来た。貸してもらった客間の一室へと暖かな陽光が優しく射し込み、俺の顔を照らした。
 目覚めた俺は太陽の眩しさによって目を眩ませる。すると何故だろう、急に俺の顔のあたりにフッと影がさす。

(んお? 何だ急に? 雲が太陽を隠してくれたりでもしたのかな?)

 目覚めたばかりのゆるい頭でそんなことを考える。とりあえず起きようか、と思ったのだがどうしてか身体が動かない。

(これはあれか、頭は起きてるけど身体は寝てるってやつか)

 話には聞いたことはあるが、体験したのは初めてだ。
 でもそれなら、と思いまた寝ることにした。

「ふふふ、リンさんかっこいいです……」

(おや、なんか声が聞こえるな……)

 とか思っているとかけて使っていた毛布が持ち上がり、何かが侵入してくる。

「う…んしょ…、よし、まだねてるですね……」

 そのままその侵入者は俺にピトッとくっついてくる。

(何やってんだろな~。というかこれは、リラかな?)

 リラなら別にいいや。俺はもはや覚めているのか覚めていないのか曖昧な頭でそんな結論を出した。

「後はこれでをつくれば……ふっふっふ」

(わぁるいこと考えてるなぁこの子は)

 これまた可愛らしさの目立つあくどい笑い声がすぐ横から聞こえてくる。

(しっかしねぇ………はぁ!? 既成事実ぅ!?)

 瞬間パチリと完全に目が覚める。そして俺は対象から距離を取るべく、素早く後方へと飛び退いた。そしてベットから勢いよく転がり落ちた。

「ばぁッ! はぁっ、はぁっ、ハァ…」
「リンさん! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ、うん大丈夫、大丈夫だよ」

 リラはベッドから降りて、こちらの心配をしてくれる。俺はそれを手を拡げてリラの動きを牽制しながら返事を返した。
 そんなポーズを動悸が治るまで続けた。

「…ふぅ。あのさリラ、何で俺のベッドにいたの?」

 俺が怒っていると思ったのだろうか、俯きシュンとしながら理由を述べた。

「あ、あの、本当はきのういっしょにねたかったんですけど、お姉ちゃんがどうしてもダメだって言ってそれで……」
「ああ…。あったねぇ……」

 確かにリラは昨日俺と一緒に寝たいと、寝る直前まで言っていた。俺は

「流石に会ったばかりの子と一緒に寝るのはちょっと……」

 と断った。アーリィも、

「私も反対ね。間違いなんて起こしてもらったら大変だし………リラが」

 と言って反対していた。ちなみに最後の一部分は俺は聞いていない。
 あれやこれや二人掛かりで何とか諦めさせようと思考錯誤していると、グリアスが出て来て鶴の一声を放つ。

「娘が他の男と寝るのは断じて認めん!」

 こう言われては、流石のリラも返す言葉もなく、渋々折れてくれたのだった。

 昨夜のやり取りを思い出し納得する。

「なるほど。それはわかったけど何でこの部屋にきたの?」

 俺の問いに対してリラは待ってましたとばかりにスラスラと質問に答える。

「それは、リンさんを起こしにきたからです! 」
「ふ~ん? つまり起こしに来たらまだ俺が寝てたから、今なら一緒に寝られると思ってベッドに入って来たってこと?」
「そうです!」

(んまぁ可愛いこと考えてるねぇこの子は!)

 だが忘れてはいけない。この子が俺のベッドに入ってやろうとしたことを。

「なんか既成事実がどうとか聞こえたんだけど?」
「!?」

 やった切り抜けた! みたいなしてやったり顔で安堵していたリラの顔が引き攣った表情を浮かべた。

「そ、それはですね……」
「うん」
「リースお姉ちゃんが、好きな人と一緒に寝たら…んっと」
「うん」
「結婚できるって言っててそれで……」
「うん?」

(なんかおかしいね)

 端的に言うと話がぶっ飛んでる気がする。というかぶっ飛んでる。

「リ、リラ? ちょっといいかい?」
「は、はい、なんですか?」
「リラは好きな人と一緒に寝たらどうなると思ってる?」
「え、えと…結婚できるって……」
「う、う~んなんて言ったらいいのか分からないけどちょっと違うかなぁ」
「ええぇ!?」

 驚き過ぎでしょ。

「ん~リラはどうして結婚できるって思ってたの?」
「それは、リースお姉ちゃんがそうやって教えてくれたから…」
「じゃあさ、リラは一緒に寝るだけで結婚できるって思ってたの?」
「? はい」

(…そういうことかぁ)

「……くっ、ははっはははっ!」
「え、ど、どうしたですか?」
「うんうん、リラはかわいいなぁ!はっはっは!」

 ワシャワシャと頭を撫でてやる。

「え、え、え?」

 リラは訳も分からず頭上にはてなマークを浮かべて困惑している。
 考えてみてほしい。小さな女の子が好きな人と一緒に寝るだけで結婚できると思ってたんだ。一緒に寝るだけで、だぜ?

(いやいや可愛過ぎだろうマジで!)

 結果的にはリラはリースお姉ちゃんとやらに嘘を吹き込まれていた訳だが結果的にそれが功を成した。

(幼女に貞操奪われるとか、ありえないもんなぁ、うんうん)

 俺はひとしきり頭を撫でられて顔を真っ赤にしているリラに満面の笑顔でこう言った。

「リラは今がいっちばん可愛いよ!」
「……ぷしゅ~…」

 俺の言葉がトドメになったのか、パタリとその場に倒れてしまった。

「おっと」

 俺は気絶したリラを抱え上げ部屋を出た。すると、リラが遅いのを心配して来たのだろうか、アーリィにバッタリと出くわした。

「あぁリン、大丈夫だった!? ってその様子じゃあ大丈夫だったみたいね…」
「ん? もしかしてリラが既成事実をつくりに来たこと?」
「それを知ってるってことは……まさか!」

 顔色を変えてこちらを警戒しだすアーリィ。

「ああ待って待って。全く大丈夫だから、アーリィが考えているようなことじゃなかったからね」
「? どういうこと?」

 そういうアーリィにさっきまでのやり取りを話す。話し終えるとアーリィはたまらず声をあげて笑い出した。

「あ、あっははははは! まさかそういうことだったなんて! はははははっ、もう、心配しちゃったわよ!」
「ねー! もう驚いちゃってびっくりして笑っちゃったよ!」
「ふふふふ! 本当にビックリよねぇ、リースの嘘が役に立つなんてね!」

 アーリィの笑い声は止む気配がない。

「ふふっふふふっ、じゃあ今までのこともぜぇんぶ勘違いだったのね!」
「え?」
「あの子人を好きになるとすぐに結婚したい! って言いだすのよ? それでどうしたらできるかってリースに聞いたことがあったの。 内容はわからなかったけど話し終えたあとリースが笑いをこらえてたから、何かしら変なことをあの子に吹き込んだことはわかったんだけど…、その後からリラの口から既成事実って言葉が出るようになってねぇ、リースが教えちゃいけないようなことを教えたんだと思って、リラに教えようとしたんだけどダメだったの」

 アーリィの話は続く。

「でもそれが…こんな…くっ、ことだったなんてッ、ふふふっ」
「ははっ、本当にね。一時はどうなることかと思ったけど、今回はそのリースって人に助けられたよ」
「そうね、後で教えてあげないと…ふふふ」

 そんなこんなでひとしきり二人揃って笑った後、リラを抱えた俺とアーリィは並んで歩きながら食卓へと向かった。
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