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14 サイクロプス
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「じゃあ行ってくるね」
「うん、分かったわ。いってらっしゃい」
家の扉の前に立つ俺の背中を押すように、アーリィが言った。
軽く手を振りつつ扉の取っ手に力を入れ押し開ける。扉を閉めるまで家族に賑やかな話し声が聞こえ、食器を片付ける音が耳についた。
楽しいひと時を過ごしたせいかこの場を後にすることに対して非常に後ろ髪を引かれる思いだったが、成し遂げなければならない事を思い起こし怠惰な感情を心の奥底に何とかつめた。
今日やるべきこと……そう、つまり昨日の続きだ。正直やりたくない。おそらく特殊な性癖でも持っていなければあの感覚を好きで味わえる人はいないと思う。うん、いやマジで。
「あ~くそ…めんどくさいな…」
だがしかし、これをやらねば来たる自らの命日に抗うことすらできなくなってしまう。
ジェイドから聞いた話によれば魔神とやらが俺の命を狙っているらしいからな、恐らく物理的な暴力などで命を狙いにくるに違いない…と、俺は踏んでいる。
「死にたくないなら頑張らないと、か……よしっ」
気合いを入れ直し長閑な村の様子を横目に見つつ村の出口へと足早に歩を進める。
思ったよりも速度が出ていたのか数分と経たずに村の出口が見えてきた。
「…ん?」
と、そこで俺は昨日とは違った村の光景に目をとめた。
俺は目と鼻の先の人だかりに近づき耳を傾けた。
「その情報は確かなのか?」
「あ、ああっ!そうだ、どっどうする!?」
「どうするっていったって、俺たちにはどうしようもないだろう!領主様に兵を派遣してもらおう!」
「あ、ああそうだな!そうしようっ」
「だが、兵が到着するまでに被害がないとは限らない。やはり何かしらの対策は取らなければ…」
ふむ。
話の内容は概ね理解できた。要するに村の近くに害を及ぼしかねん魔物だか何だかが出没したということらしい。
俺は目の前でプルプル震えながら今後どうするべきなのか、と思案している村人たちに興味本位で聞いてみた。
「あの」
「なんだ!」
「ヒェッ」
「あ、ああ君は確か、グリアスさんのところの…」
(こっわ…ビックリしたぁ…)
服にジンワリと汗を滲ませつつ平静を保ちながら、
「あ、燐です」
「すまないね、驚かせてしまった」
「ああ、だい大丈夫ですよ」
今噛んだことは見逃して欲しいと切に願う。
「ところで、皆さんどうしたんですか?かなり慌てているようですけど」
「ああ、かなりまずいことにな…『サイクロプス』が出たらしい」
「サイクロプスって…あの一つ目の?」
「ああそうだ!あの恐ろしい一つ目の巨人だ…!」
そういうなり俺に話をしてくれた人は頭を抱えブルブルと震えだした。
「アイツは、アイツだけは絶対に駄目なんだ…!」
「で、でも助けはもう呼んだんですよね?」
「あ、ああ…だけど助けが到着するまでに襲ってこないとは限らないだろ!?」
「それはそうですけど…」
そんなに怯えなくてもいいのでは?ーー
そう言葉を続けようとした俺は次の村人の言葉に言葉を切らざるを得なかった。
「お、俺の前いた村はあの一つ目にやられたんだ…」
「え……?」
「俺のいた村は、あの一つ目に…、あ、ああの一つ目に襲われて……!」
歯をガチガチと鳴らしながら話す村人の様子を見て、思わず生唾を飲み込んだ。
それもそのはず。怖かった体験談を本当に恐ろしかったと顔面蒼白になりながら話す人を俺は見たことがある。
しかし今俺の目の前にいるこの村人とは様子が似ても似つかないほどに違っていた。
(真面目に本当にヤバい奴ってことだよな…)
いつの間にか俺の目の前で母体の腹の中で眠る胎児のように蹲っていた村人の背をさする。
はじめはビクビクと震えていた背中は段々と静まっていき、やがて止むと村人は
「あ、ありがとな…」
と呟くようにそう言った。さらに村人は言葉を続ける。
「君は、外に行くのか?」
「ええ。やらなければいけないことがあるんです」
「さっきの話を聞いた後でもか…?」
「はい。もちろん怖いですけどね…、俺には時間がないんです」
「そうか………君は、強いんだなぁ…」
村人は徐に立ち上がるとこちらの瞳を強く見据える。
「俺は、魔物が怖い…何よりもアイツが…一つ目が怖い…。だから君を行かせたくない。俺の背中をさすってくれた優しい君を…!もしかすると一つ目に遭って死んでしまうかもしれないから!」
(なんだろう…むず痒いな、すごく…)
「だから俺はこれしかできないが、君の無事を見るまで…」
そこで一旦言葉を区切り両手をパンと平と平でくっつけ合わせ合掌の形を作る。そして笑顔で俺に告げた。
「ひたすら祈ろう、君の無事を!」
「あ、ああ、ありがとうございます」
(新手のパフォーマンスみたいだな…)
「では、気を付けてな!」
「はい、行ってきます!」
返事だけはきちんと律儀に返した俺に満足げに頷き、村人は道を開けた。
(しめた、急げ俺!)
漸く、本当に漸く村人から解放された俺は一目散に村の外へと駆け出した。
村の外に出たところでチラリと後ろを確認する。すると未だ合掌の手を解かぬままにこちらに熱い眼差しを向けてきていた。
その様子に俺はなんとも言えない不気味な気配を感じた。
(って、んなこと考えてる場合じゃないか。時間は有限だもんな)
余計な思考をやめ、持ってきた荷物をよいしょ背負い直す。エックスデーまで後たったの1日。改めて考えるとその猶予の短さに俺は思わず溜息をついた。
「うん、分かったわ。いってらっしゃい」
家の扉の前に立つ俺の背中を押すように、アーリィが言った。
軽く手を振りつつ扉の取っ手に力を入れ押し開ける。扉を閉めるまで家族に賑やかな話し声が聞こえ、食器を片付ける音が耳についた。
楽しいひと時を過ごしたせいかこの場を後にすることに対して非常に後ろ髪を引かれる思いだったが、成し遂げなければならない事を思い起こし怠惰な感情を心の奥底に何とかつめた。
今日やるべきこと……そう、つまり昨日の続きだ。正直やりたくない。おそらく特殊な性癖でも持っていなければあの感覚を好きで味わえる人はいないと思う。うん、いやマジで。
「あ~くそ…めんどくさいな…」
だがしかし、これをやらねば来たる自らの命日に抗うことすらできなくなってしまう。
ジェイドから聞いた話によれば魔神とやらが俺の命を狙っているらしいからな、恐らく物理的な暴力などで命を狙いにくるに違いない…と、俺は踏んでいる。
「死にたくないなら頑張らないと、か……よしっ」
気合いを入れ直し長閑な村の様子を横目に見つつ村の出口へと足早に歩を進める。
思ったよりも速度が出ていたのか数分と経たずに村の出口が見えてきた。
「…ん?」
と、そこで俺は昨日とは違った村の光景に目をとめた。
俺は目と鼻の先の人だかりに近づき耳を傾けた。
「その情報は確かなのか?」
「あ、ああっ!そうだ、どっどうする!?」
「どうするっていったって、俺たちにはどうしようもないだろう!領主様に兵を派遣してもらおう!」
「あ、ああそうだな!そうしようっ」
「だが、兵が到着するまでに被害がないとは限らない。やはり何かしらの対策は取らなければ…」
ふむ。
話の内容は概ね理解できた。要するに村の近くに害を及ぼしかねん魔物だか何だかが出没したということらしい。
俺は目の前でプルプル震えながら今後どうするべきなのか、と思案している村人たちに興味本位で聞いてみた。
「あの」
「なんだ!」
「ヒェッ」
「あ、ああ君は確か、グリアスさんのところの…」
(こっわ…ビックリしたぁ…)
服にジンワリと汗を滲ませつつ平静を保ちながら、
「あ、燐です」
「すまないね、驚かせてしまった」
「ああ、だい大丈夫ですよ」
今噛んだことは見逃して欲しいと切に願う。
「ところで、皆さんどうしたんですか?かなり慌てているようですけど」
「ああ、かなりまずいことにな…『サイクロプス』が出たらしい」
「サイクロプスって…あの一つ目の?」
「ああそうだ!あの恐ろしい一つ目の巨人だ…!」
そういうなり俺に話をしてくれた人は頭を抱えブルブルと震えだした。
「アイツは、アイツだけは絶対に駄目なんだ…!」
「で、でも助けはもう呼んだんですよね?」
「あ、ああ…だけど助けが到着するまでに襲ってこないとは限らないだろ!?」
「それはそうですけど…」
そんなに怯えなくてもいいのでは?ーー
そう言葉を続けようとした俺は次の村人の言葉に言葉を切らざるを得なかった。
「お、俺の前いた村はあの一つ目にやられたんだ…」
「え……?」
「俺のいた村は、あの一つ目に…、あ、ああの一つ目に襲われて……!」
歯をガチガチと鳴らしながら話す村人の様子を見て、思わず生唾を飲み込んだ。
それもそのはず。怖かった体験談を本当に恐ろしかったと顔面蒼白になりながら話す人を俺は見たことがある。
しかし今俺の目の前にいるこの村人とは様子が似ても似つかないほどに違っていた。
(真面目に本当にヤバい奴ってことだよな…)
いつの間にか俺の目の前で母体の腹の中で眠る胎児のように蹲っていた村人の背をさする。
はじめはビクビクと震えていた背中は段々と静まっていき、やがて止むと村人は
「あ、ありがとな…」
と呟くようにそう言った。さらに村人は言葉を続ける。
「君は、外に行くのか?」
「ええ。やらなければいけないことがあるんです」
「さっきの話を聞いた後でもか…?」
「はい。もちろん怖いですけどね…、俺には時間がないんです」
「そうか………君は、強いんだなぁ…」
村人は徐に立ち上がるとこちらの瞳を強く見据える。
「俺は、魔物が怖い…何よりもアイツが…一つ目が怖い…。だから君を行かせたくない。俺の背中をさすってくれた優しい君を…!もしかすると一つ目に遭って死んでしまうかもしれないから!」
(なんだろう…むず痒いな、すごく…)
「だから俺はこれしかできないが、君の無事を見るまで…」
そこで一旦言葉を区切り両手をパンと平と平でくっつけ合わせ合掌の形を作る。そして笑顔で俺に告げた。
「ひたすら祈ろう、君の無事を!」
「あ、ああ、ありがとうございます」
(新手のパフォーマンスみたいだな…)
「では、気を付けてな!」
「はい、行ってきます!」
返事だけはきちんと律儀に返した俺に満足げに頷き、村人は道を開けた。
(しめた、急げ俺!)
漸く、本当に漸く村人から解放された俺は一目散に村の外へと駆け出した。
村の外に出たところでチラリと後ろを確認する。すると未だ合掌の手を解かぬままにこちらに熱い眼差しを向けてきていた。
その様子に俺はなんとも言えない不気味な気配を感じた。
(って、んなこと考えてる場合じゃないか。時間は有限だもんな)
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