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Ⅲ 世話係のアルファ
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ジリスと目が合うと、アルは瞳の目尻を優しく下げてくれた。その瞳に黒国の人々の優しい顔が重なった。
ジリスの兄はいつもこんな優しい瞳でジリスを見ていた。母も父も、そうだった。
優しさが普通だと思っていた。白国に来ての一か月の間にジリスの価値観がひっくり返ってしまった。
優しさは当たり前じゃないし、愛されない番もいる。
自分は幸せになどなれない。そんな思いが心に渦巻く。ジリスの心の変化を読み取ったのか、アルが腕の力を強めた。
「あなた様に、辛い思いをさせて、申し訳ありません」
突然の言葉にジリスは身を固くした。アルが、謝っている。その意味は、何だろう。
ジリスは許すとも言えずに、アルを見た。
「なぜ、あなたが謝るのですか?」
純粋な疑問を口にした。
「……体調が戻りましたら、ゆっくりとお話します。まずは、回復に力を注ぎましょう。満たされない孤独な発情期は、あなたの心身を疲弊させているはずです」
アルがジリスの状況を理解している事が引っかかった。
発情期については、ジリスは王妃教育で知った。番を得た発情期は、全てを番のアルファに委ねるよう教えられた。
オメガは飲食もままならなくなるが、事後の回復期も含めてアルファがするものだと教育を受けた。
そして、番のいない発情期を過ごすことは、オメガの心身への負荷が大きすぎて、狂ってしまうこともある、と。
だが、これは一般に知られていない知識だ。アルは、どうして王妃教育で得ることを知っているのだろう。
「発情期の事は、俺も教育を受けているので知っています。オメガについても、知識があります。ジリス様は心配しなくても大丈夫です」
ジリスが質問するより早く、口にゼリーが流し込まれる。聞きたいことを口にしたいから、ジリスは慌ててゼリーを飲み干した。
すぐに声を出そうとして、ゲホゲホとむせ込んだ。
「大丈夫ですか?」
アルが背中をさすってくれる。大きな身体に、大きな手だ。体力が落ちているジリスは咳だけで眩暈がした。
「身体を清めるのは、ひと眠りした後にしましょう」
丁寧な扱いでベッドに戻された。
その間、ジリスはシーツにくるまれていた。アルは、むやみにジリスの裸体を見ようとせず、紳士的な態度だった。
「まって、一つ聞きたいから」
寝かしつけようとするアルを、何とか引き止めた。
「あなたは、次期王候補、ですか?」
ジリスの考えが正しければ、アルは番教育を受けた貴族か王族のアルファだ。
「はい。俺はアルファです。王位継承権第二位です。王維継承者としての番教育を受けています」
アルの静かな声がジリスの心臓をキュッと突き抜けた。
――この人が、番相手なら、良かったのに!
稲妻のような考えがジリスの脳を駆け抜けた。
次に目が覚めると、室内にアルがいた。白の国に来てから、ジリスの傍に人がいることなど無かったから驚いた。
「調子は、どうですか?」
「うん。どうだろ……」
頭痛や眩暈はしていないが、全身の疲労感が抜けていない。試しに起き上がろうとしたが、腕がブルブル震えて身体を持ち上げられなかった。
どさりとベッドに沈み込む前に、アルの腕がジリスを支えた。
「しばらくは、俺がジリス様をお運びします。ですが、先ほどよりは動きがとれそうですね」
「さっきよりは、いいかも」
自分の状態を確認したのに、アルの返事がない。アルを見れば、面食らったような顔をしている。
「なに?」
ジリスが首を傾げると、アルがクスッと笑った。思わずジリスの心がドキリとする笑みだった。
「ジリス様は、普通にお話してくださると、こんな風なのだなぁと思っただけです」
ハッとした。つい、敬語も使わずフランクに接してしまった。
「俺の前では気遣い無用です」
ニコニコするアルを見て、いい人そうだ、とジリスは思った。
「じゃ、アルって呼んでも良い?」
「もちろんです」
こんな会話が久しぶりで、ジリスは軽く微笑んだ。するとジリスを支えているアルの身体がビクリとしたのが伝わってきた。
「どうかした?」
アルを見上げれば、アルは頬を染めて目をキョロキョロさせていた。
「虫でもいた?」
「はっ、いえ。何でもありません」
気を取り直したようにアルが顔を引き締めた。意味が分からずジリスは首を傾げた。
「では、少し水分と栄養剤をとって、お身体を清めましょう」
身体を清める、と聞いて今度はジリスが赤面した。
ジリスの兄はいつもこんな優しい瞳でジリスを見ていた。母も父も、そうだった。
優しさが普通だと思っていた。白国に来ての一か月の間にジリスの価値観がひっくり返ってしまった。
優しさは当たり前じゃないし、愛されない番もいる。
自分は幸せになどなれない。そんな思いが心に渦巻く。ジリスの心の変化を読み取ったのか、アルが腕の力を強めた。
「あなた様に、辛い思いをさせて、申し訳ありません」
突然の言葉にジリスは身を固くした。アルが、謝っている。その意味は、何だろう。
ジリスは許すとも言えずに、アルを見た。
「なぜ、あなたが謝るのですか?」
純粋な疑問を口にした。
「……体調が戻りましたら、ゆっくりとお話します。まずは、回復に力を注ぎましょう。満たされない孤独な発情期は、あなたの心身を疲弊させているはずです」
アルがジリスの状況を理解している事が引っかかった。
発情期については、ジリスは王妃教育で知った。番を得た発情期は、全てを番のアルファに委ねるよう教えられた。
オメガは飲食もままならなくなるが、事後の回復期も含めてアルファがするものだと教育を受けた。
そして、番のいない発情期を過ごすことは、オメガの心身への負荷が大きすぎて、狂ってしまうこともある、と。
だが、これは一般に知られていない知識だ。アルは、どうして王妃教育で得ることを知っているのだろう。
「発情期の事は、俺も教育を受けているので知っています。オメガについても、知識があります。ジリス様は心配しなくても大丈夫です」
ジリスが質問するより早く、口にゼリーが流し込まれる。聞きたいことを口にしたいから、ジリスは慌ててゼリーを飲み干した。
すぐに声を出そうとして、ゲホゲホとむせ込んだ。
「大丈夫ですか?」
アルが背中をさすってくれる。大きな身体に、大きな手だ。体力が落ちているジリスは咳だけで眩暈がした。
「身体を清めるのは、ひと眠りした後にしましょう」
丁寧な扱いでベッドに戻された。
その間、ジリスはシーツにくるまれていた。アルは、むやみにジリスの裸体を見ようとせず、紳士的な態度だった。
「まって、一つ聞きたいから」
寝かしつけようとするアルを、何とか引き止めた。
「あなたは、次期王候補、ですか?」
ジリスの考えが正しければ、アルは番教育を受けた貴族か王族のアルファだ。
「はい。俺はアルファです。王位継承権第二位です。王維継承者としての番教育を受けています」
アルの静かな声がジリスの心臓をキュッと突き抜けた。
――この人が、番相手なら、良かったのに!
稲妻のような考えがジリスの脳を駆け抜けた。
次に目が覚めると、室内にアルがいた。白の国に来てから、ジリスの傍に人がいることなど無かったから驚いた。
「調子は、どうですか?」
「うん。どうだろ……」
頭痛や眩暈はしていないが、全身の疲労感が抜けていない。試しに起き上がろうとしたが、腕がブルブル震えて身体を持ち上げられなかった。
どさりとベッドに沈み込む前に、アルの腕がジリスを支えた。
「しばらくは、俺がジリス様をお運びします。ですが、先ほどよりは動きがとれそうですね」
「さっきよりは、いいかも」
自分の状態を確認したのに、アルの返事がない。アルを見れば、面食らったような顔をしている。
「なに?」
ジリスが首を傾げると、アルがクスッと笑った。思わずジリスの心がドキリとする笑みだった。
「ジリス様は、普通にお話してくださると、こんな風なのだなぁと思っただけです」
ハッとした。つい、敬語も使わずフランクに接してしまった。
「俺の前では気遣い無用です」
ニコニコするアルを見て、いい人そうだ、とジリスは思った。
「じゃ、アルって呼んでも良い?」
「もちろんです」
こんな会話が久しぶりで、ジリスは軽く微笑んだ。するとジリスを支えているアルの身体がビクリとしたのが伝わってきた。
「どうかした?」
アルを見上げれば、アルは頬を染めて目をキョロキョロさせていた。
「虫でもいた?」
「はっ、いえ。何でもありません」
気を取り直したようにアルが顔を引き締めた。意味が分からずジリスは首を傾げた。
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