【本編完結】番殺しの黒オメガが背負う愛は

小池 月

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Ⅴ 黒魔術

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 その内にいつもと変わらない日常に戻った。

 アルは穏やかで優しい。けれど、どこか陰りを帯びるようになった。

 きっと発情期に苦しめてしまったせいだ。心の距離が出来てしまった。それが寂しい。

 アルが抱えるモノをどうにかしてあげたいのに、ジリスには何もできない。アルにしてもらってばかりで、挙句に苦しめて。

(僕が、アルのためにできる事は、何だろう?)
そんな事を考えるようになった。


 そんなある日。突然の事に衝撃が走った。
「は? 間違いじゃないの?」
 侍女から渡された封書にジリスは口をあんぐりさせた。

「間違いではございません」
 相変わらずジリスに無関心で、口先だけの返答をして侍女が退出した。

 残された封書を掴み上げて、ジリスは静止した。
 封書はジリス宛で間違いない。サインはネモス殿下の自筆だ。封蝋はネモス殿下の公式印。

「気持ち悪!」
 ジリスの口から正直な気持ちが漏れ出た。公印が使われている以上、正式な文書であり開封しないわけにいかない。

 さらに言えば、先ほどの侍女からネモス殿下に文書が渡った報告がされるはずだ。知りません、では通らない。

 テーブルの上に封書を置いて、アルが来たら一緒に開封してもらおうと考えた。

 悶々として朝食どころではなくなっていた時。コンコンとドアのノックが聞こえ、アルが入って来た。

「アル!」
 挨拶より先に声を掛けてしまった。

「おはようございます。ジリス様。どうかされましたか?」
「うん。ネモス殿下から、封書が来た」

 アルに見えるようにテーブルの上の封書を指さした。アルの顔が見る間に青くなる。

「え? いつ、ですか? 開封はされていないのですか?」
「さっき侍女が持ってきたばかり。開封するか迷って、アルを待っていたんだ」

 アルが睨むように封書を見つめる。

「早めに開封しましょう。内容によっては無視をしたと言われかねません。ネモス殿下の事です。公式用事をわざと伝えずに、ギリギリになって知らせてくる、なんて意地悪もしそうです」

 ハッとした。もし公式行事に間に合わなかったら、ジリスが不義理をしたことになる。連絡が無かった、などの言い訳は通らない。
 アルが顔を青くした理由が分かった。

「アル。開封するから、一緒にいて」
「はい。もちろんです」

 ジリスは覚悟を決めて封を開けた。

『ジリス・イーリー妃

王太子主催の夜会に招待する。

本日十九時にダグリー伯爵家子息アルとともに参加をするように。

白国王太子ネモス・ウィル』

封書の中身は夜会に参加せよ、という短い内容だった。
 本日夜なら準備時間はある。ジリスは緊張がほどけた。

「良かった。アルも一緒で良いみたいだし、夜会に顔さえ出せばいいってことだよね」

 ジリスは安堵してアルを見たが、アルは眉間に皺を寄せて、何かを考えている。

「アル?」
 声掛けにハッとしたようにアルがジリスを見た。

「すみません。ジリス様、何でしょう」
「いや、何でしょう、は僕のセリフだよ。どうかした?」

「少し、心配事があります。ネモス殿下はこれまでジリス様を表に出すことはありませんでした。それが、なぜ、このタイミングでしょう? 国家行事もない時期です。プライベートな夜会でしょうね。なぜ、急に今夜……?」

 不安そうなアルを見て、ジリスまで不安がっては心配をかけてしまうと思った。

「大丈夫だよ。僕はアルが居てくれれば平気だ。挨拶してすぐに退席するから」

 無理やり微笑みを浮かべれば、青い瞳が不安そうにジリスを見つめる。

「はい。とにかく準備をしましょう」
 アルは自分の正装をとりに侯爵邸に戻った。

 ジリスに侍女が届けたのは、婚姻の時に持ってきた黒国の正装だった。

 ジリスの荷物はこの部屋に持ち込めず、全て捨てられたのかと思っていた。残されていたことが嬉しかった。

 寝室の白いベッドの上に黒国正装を広げてみた。真っ白を闇のような黒が占拠する。それが嬉しくてボスンと黒い服の上に倒れ込んだ。

「はぁぁ! 黒だぁ」
 懐かしい服に頬ずりした。ギュッと抱きしめてフフっと笑った。

 ネモスの夜会などどうでもいいが、自分の物が部屋に一つでもあることがジリスの心を温めた。

 この服を手元に戻してもらえるのなら、夜会くらい出てやるか、と思った。自分の黒が側にあるだけで、ジリスは安心感に包まれた。

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