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Ⅶ 王太子殺し
①
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ジリスが黒魔術で紅甘実の神木を復活させてから三か月が経過した。
ジリスの腕は相変わらずだ。茶黒い皮膚が引きつれるから曲げ伸ばしは上手くいかない。指先まで茶黒く変色しているため、左手がうまく使えない。
全く動かない状態でないことが救いだ。ジリスの左手は黒手袋が着けてある。薄布製で着け心地がいい。アルがプレゼントしてくれた物だ。
そして、相変わらずアルは毎日ジリスに軟膏を塗る。その表情が必死だから好きにさせている。
そして、ジリスの身体に変化が起きた。
前回発情期から二か月が経過しても発情期は来なかった。ネモスはジリスの不貞を疑った。
しかし、ジリスは白魔術の監視下に置かれていたため、不義の事実が無いのは明白だった。その時は、悔しそうなネモスの顔が見られて、心の底がスカッとした。
結局、黒魔術を立て続けに使ったことによる後遺症で発情期が来ないのだろう、とネモス専属の医師から告げられた。
本来は国王陛下に報告しなくてはいけない。しかし、報告すればネモスの愚行が露呈する。困ったネモスは、ジリスに静養を指示した。
そうして、ジリスはアルとゆっくりとした時間を送っている。
「アル、発情期が来ないって、気持ちが楽だぁ」
温かいハチミツ入り黒茶を飲みながらジリスはニカっと笑った。アルは優しく微笑みを返してくれる。
「そうですね。俺もジリス様が苦しまれずに過ごせて安堵しています。しかし、オメガにとって良い事ではないと思います。ジリス様のお身体が心配です」
黒茶のカップをカチャリと置いて、黒桃タルトを一口頬張ってからジリスは答えた。
「いいんだよ。黒国では発情期が来ないようにフェロモン抑制剤を使ってた。その頃と同じだ」
ジリスにとっては発情期が来ない自分の方がしっくり来ている。
「そうでしょうか。ジリス様のお身体をちゃんと治療していただく方が良いと思うのですが」
アルはいつもジリスを心配してくれる。
「それよりさ、ネモス殿下が静かだね。平穏だぁ。こうしてアルとだけ過ごすって幸せだ」
アルがふわりと微笑んでくれる。
アルはあれから、ジリスが黒国に戻る話をしてこない。ジリスだって、ネモスなんかと離れて黒国に戻りたいと思う。
けれど、本当にそうしたら次期王妃のオメガが不在になる。白国は神の掟を破ったとして神の罰を受ける。
どのような罰か分からないが、白国は怒るだろう。そして白国は黒国にアルファを嫁がせなくなる。
そうなれば、次は黒国が神の罰を受ける。悪循環で二国間の関係はどんどん悪化する。
ネモスとジリスだけの問題では済まない。国の未来が揺らいでしまう。
それが分かっているからこそ、ジリスは我慢してネモスのもとにいるのだ。アルもそれを理解しているはずだ。
だから、ジリスが黒国に戻る話は、もうしない。あれは、アルの感情が高ぶって出てしまった戯言だ。
それでも、ジリスは少しだけ期待した。本当は黒国に帰りたいから。
そして、夢を持って良いのなら、アルを黒国に連れて行きたい。アルと生涯を過ごしたい。
アルの温かい心に触れていたいと思う。アルの責任感と自制心の強さにジリスの心は惹かれている。
――アルと離れたくない。
それは都合のいい夢なのだけれど。
ジリスは首後ろの噛み跡に触れてため息をついた。アルといたいと思っても、ジリスはネモスの番だ。その現実を考えると、ジリスの心臓がズキッとした。
ジリスの腕は相変わらずだ。茶黒い皮膚が引きつれるから曲げ伸ばしは上手くいかない。指先まで茶黒く変色しているため、左手がうまく使えない。
全く動かない状態でないことが救いだ。ジリスの左手は黒手袋が着けてある。薄布製で着け心地がいい。アルがプレゼントしてくれた物だ。
そして、相変わらずアルは毎日ジリスに軟膏を塗る。その表情が必死だから好きにさせている。
そして、ジリスの身体に変化が起きた。
前回発情期から二か月が経過しても発情期は来なかった。ネモスはジリスの不貞を疑った。
しかし、ジリスは白魔術の監視下に置かれていたため、不義の事実が無いのは明白だった。その時は、悔しそうなネモスの顔が見られて、心の底がスカッとした。
結局、黒魔術を立て続けに使ったことによる後遺症で発情期が来ないのだろう、とネモス専属の医師から告げられた。
本来は国王陛下に報告しなくてはいけない。しかし、報告すればネモスの愚行が露呈する。困ったネモスは、ジリスに静養を指示した。
そうして、ジリスはアルとゆっくりとした時間を送っている。
「アル、発情期が来ないって、気持ちが楽だぁ」
温かいハチミツ入り黒茶を飲みながらジリスはニカっと笑った。アルは優しく微笑みを返してくれる。
「そうですね。俺もジリス様が苦しまれずに過ごせて安堵しています。しかし、オメガにとって良い事ではないと思います。ジリス様のお身体が心配です」
黒茶のカップをカチャリと置いて、黒桃タルトを一口頬張ってからジリスは答えた。
「いいんだよ。黒国では発情期が来ないようにフェロモン抑制剤を使ってた。その頃と同じだ」
ジリスにとっては発情期が来ない自分の方がしっくり来ている。
「そうでしょうか。ジリス様のお身体をちゃんと治療していただく方が良いと思うのですが」
アルはいつもジリスを心配してくれる。
「それよりさ、ネモス殿下が静かだね。平穏だぁ。こうしてアルとだけ過ごすって幸せだ」
アルがふわりと微笑んでくれる。
アルはあれから、ジリスが黒国に戻る話をしてこない。ジリスだって、ネモスなんかと離れて黒国に戻りたいと思う。
けれど、本当にそうしたら次期王妃のオメガが不在になる。白国は神の掟を破ったとして神の罰を受ける。
どのような罰か分からないが、白国は怒るだろう。そして白国は黒国にアルファを嫁がせなくなる。
そうなれば、次は黒国が神の罰を受ける。悪循環で二国間の関係はどんどん悪化する。
ネモスとジリスだけの問題では済まない。国の未来が揺らいでしまう。
それが分かっているからこそ、ジリスは我慢してネモスのもとにいるのだ。アルもそれを理解しているはずだ。
だから、ジリスが黒国に戻る話は、もうしない。あれは、アルの感情が高ぶって出てしまった戯言だ。
それでも、ジリスは少しだけ期待した。本当は黒国に帰りたいから。
そして、夢を持って良いのなら、アルを黒国に連れて行きたい。アルと生涯を過ごしたい。
アルの温かい心に触れていたいと思う。アルの責任感と自制心の強さにジリスの心は惹かれている。
――アルと離れたくない。
それは都合のいい夢なのだけれど。
ジリスは首後ろの噛み跡に触れてため息をついた。アルといたいと思っても、ジリスはネモスの番だ。その現実を考えると、ジリスの心臓がズキッとした。
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