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Ⅶ 王太子殺し
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夕食後、部屋に来たのは思いがけない人物だった。
「黒オメガ、調子はどうだ?」
無遠慮に入って来たのはネモスだ。ジリスは気持ちが沈んでいて、睨むようにネモスを見た。
「ごきげんよう、ネモス殿下」
「ふん、可愛げのない奴だ」
ネモスは室内を見渡してから、ダイニングセットにドカリと座った。楽しそうなネモスの表情にジリスは警戒をした。
「ご用は、何でしょうか」
「まぁ、情報の共有だな。お前の世話係のアルの事だ」
アルの名前が出てハッとした。ネモスがアルを罰しているのだろうか。それで来られなかったのではないか。
「アルに何をしたのですか!」
「おいおい、落ち着けよ。アルの事だが、あいつは侯爵家の跡取りだからな。そろそろ、結婚を考える時期だろう。もう王になる事などないのだから、妻を娶るべきだ。そこで、俺が結婚相手を見つけてやることにした」
ジリスは頭を金槌で殴られたような衝撃が走った。
「け、結婚、相手? アルに?」
声が震えてしまった。
「何だ。そんな悲しそうな顔するなよ。世話係の祝い事だろう。喜んでやれ。それから、結婚準備でアルは忙しくなるからな。世話係の仕事は日数を減らすことにした。発情期が来ないのだから問題ないよな?」
ジリスは聞いたことが受け止めきれず、ガタガタと震えた。
じゃあな、と立ち去るネモスに何も言うことが出来なかった。
――アルが、結婚する? 妻を、娶る? アルが、僕のアルが!
言いようのないショックがジリスを襲った。
その夜は眠れなかった。
翌朝。ジリスは食事が喉を通らず、とにかくアルを待ち続けた。やっと部屋にアルが来た時には安堵感で涙が滲んだ。
「アル!」
思わず抱きつけば、逞しい胸が受け止めてくれる。
「ジリス様、昨日は申し訳ありません。どうしても外せない急用ができまして」
声が不安げに揺れている。
「ネモス殿下から結婚を勧められている用事?」
アルが息を飲んだのが身体から伝わって来た。
「どうしてそれを……」
「昨日、ネモス殿下が来た。アルに結婚相手を紹介するって」
アルが顔を青くする。ジリスを抱き締める力が弱まった。ジリスは寂しさに肩を落とした。
「アル、結婚、するの?」
沈黙が流れた。痛いような静かな時だった。
「結婚が、王家からの正式な指示であった場合、侯爵家は断れません」
アルの一言が槍のようにジリスの心臓を刺した。
その日は互いに言葉が少なかった。ジリスの心にポカンと穴が空いたようだった。
アルの訪室が二日に一回になった。
室内で過ごす暇つぶしのために、アルが本を沢山用意してくれた。
冒険物語や歴史書、流行りのファッション誌もある。茶菓子も黒茶葉もあるが、ジリスはどれも手が付けられなかった。空気の抜けた風船のように、しょんぼりと日々を過ごした。
その内に、週に一度は食事を共にしよう、とネモスから誘いがあった。
アルがいない日の夕食をネモスの居室の食事ルームで食べることを指示された。
何か狙いがあると思っていたが、アルに紹介する女性の写真を見せられた。日中にどの女性と会っていたかを聞かされた。
ネモスは気が付いている。ジリスが特別な感情をアルに抱いていることを。
だが、こんなことをして何が楽しいのかジリスには到底理解できなかった。ネモスが最低最悪な奴にしか思えなくなっていた。
ネモスとの食事から部屋に戻る途中、後ろから声が掛けられた。
「ジリス様」
女性の声に驚いて振り向くと、ミーナがいた。
「少し、お話よろしいかしら?」
扇で口元を隠しているが、楽しそうに吊り上がっているのが想像できた。
「部屋に戻りたいので、少しだけなら」
ため息をついて返事をすれば、周囲についていた侍女たちが距離を置いた。
「ねぇ、ジリス様。アル様って性行為のご経験が無いのは知っていました?」
急に明け透けな話をするミーナに驚愕し、同時に教養のない女性なのだと理解した。
「そのようなお話、興味ありません」
踵を返して立ち去ろうとしたが。
「わたくし、ネモス様のご指示で、教えて差し上げたの。アル様ったら、とっても逞しくて、初めてとは思えないお上手さ、でしたわ」
離れようとしたのに、驚愕で足が止まった。
「アル様ったら、やっぱり抱くのは女がイイ、ミーナは最高だって褒めてくださって」
聞きたくないと思いながら、ジリスの足が動かなかった。
「男って、女を知ったら女が良くなるの。この胸にしゃぶりつく可愛いアル様をお見せしたかったわ。女性の身体を夢中で味わうアル様は、素敵な男だったわよ。あら、あまり引き留めても申し訳ないですね。わたくしは、これで」
ふふふ、と笑ってミーナが立ち去った。
ジリスは怒りにブルブル震えた。
(アルが、ミーナを、抱いた? ネモスの、指示で?)
言いようのない感情の渦が生じて、ジリスの頭が爆発しそうだった。
「黒オメガ、調子はどうだ?」
無遠慮に入って来たのはネモスだ。ジリスは気持ちが沈んでいて、睨むようにネモスを見た。
「ごきげんよう、ネモス殿下」
「ふん、可愛げのない奴だ」
ネモスは室内を見渡してから、ダイニングセットにドカリと座った。楽しそうなネモスの表情にジリスは警戒をした。
「ご用は、何でしょうか」
「まぁ、情報の共有だな。お前の世話係のアルの事だ」
アルの名前が出てハッとした。ネモスがアルを罰しているのだろうか。それで来られなかったのではないか。
「アルに何をしたのですか!」
「おいおい、落ち着けよ。アルの事だが、あいつは侯爵家の跡取りだからな。そろそろ、結婚を考える時期だろう。もう王になる事などないのだから、妻を娶るべきだ。そこで、俺が結婚相手を見つけてやることにした」
ジリスは頭を金槌で殴られたような衝撃が走った。
「け、結婚、相手? アルに?」
声が震えてしまった。
「何だ。そんな悲しそうな顔するなよ。世話係の祝い事だろう。喜んでやれ。それから、結婚準備でアルは忙しくなるからな。世話係の仕事は日数を減らすことにした。発情期が来ないのだから問題ないよな?」
ジリスは聞いたことが受け止めきれず、ガタガタと震えた。
じゃあな、と立ち去るネモスに何も言うことが出来なかった。
――アルが、結婚する? 妻を、娶る? アルが、僕のアルが!
言いようのないショックがジリスを襲った。
その夜は眠れなかった。
翌朝。ジリスは食事が喉を通らず、とにかくアルを待ち続けた。やっと部屋にアルが来た時には安堵感で涙が滲んだ。
「アル!」
思わず抱きつけば、逞しい胸が受け止めてくれる。
「ジリス様、昨日は申し訳ありません。どうしても外せない急用ができまして」
声が不安げに揺れている。
「ネモス殿下から結婚を勧められている用事?」
アルが息を飲んだのが身体から伝わって来た。
「どうしてそれを……」
「昨日、ネモス殿下が来た。アルに結婚相手を紹介するって」
アルが顔を青くする。ジリスを抱き締める力が弱まった。ジリスは寂しさに肩を落とした。
「アル、結婚、するの?」
沈黙が流れた。痛いような静かな時だった。
「結婚が、王家からの正式な指示であった場合、侯爵家は断れません」
アルの一言が槍のようにジリスの心臓を刺した。
その日は互いに言葉が少なかった。ジリスの心にポカンと穴が空いたようだった。
アルの訪室が二日に一回になった。
室内で過ごす暇つぶしのために、アルが本を沢山用意してくれた。
冒険物語や歴史書、流行りのファッション誌もある。茶菓子も黒茶葉もあるが、ジリスはどれも手が付けられなかった。空気の抜けた風船のように、しょんぼりと日々を過ごした。
その内に、週に一度は食事を共にしよう、とネモスから誘いがあった。
アルがいない日の夕食をネモスの居室の食事ルームで食べることを指示された。
何か狙いがあると思っていたが、アルに紹介する女性の写真を見せられた。日中にどの女性と会っていたかを聞かされた。
ネモスは気が付いている。ジリスが特別な感情をアルに抱いていることを。
だが、こんなことをして何が楽しいのかジリスには到底理解できなかった。ネモスが最低最悪な奴にしか思えなくなっていた。
ネモスとの食事から部屋に戻る途中、後ろから声が掛けられた。
「ジリス様」
女性の声に驚いて振り向くと、ミーナがいた。
「少し、お話よろしいかしら?」
扇で口元を隠しているが、楽しそうに吊り上がっているのが想像できた。
「部屋に戻りたいので、少しだけなら」
ため息をついて返事をすれば、周囲についていた侍女たちが距離を置いた。
「ねぇ、ジリス様。アル様って性行為のご経験が無いのは知っていました?」
急に明け透けな話をするミーナに驚愕し、同時に教養のない女性なのだと理解した。
「そのようなお話、興味ありません」
踵を返して立ち去ろうとしたが。
「わたくし、ネモス様のご指示で、教えて差し上げたの。アル様ったら、とっても逞しくて、初めてとは思えないお上手さ、でしたわ」
離れようとしたのに、驚愕で足が止まった。
「アル様ったら、やっぱり抱くのは女がイイ、ミーナは最高だって褒めてくださって」
聞きたくないと思いながら、ジリスの足が動かなかった。
「男って、女を知ったら女が良くなるの。この胸にしゃぶりつく可愛いアル様をお見せしたかったわ。女性の身体を夢中で味わうアル様は、素敵な男だったわよ。あら、あまり引き留めても申し訳ないですね。わたくしは、これで」
ふふふ、と笑ってミーナが立ち去った。
ジリスは怒りにブルブル震えた。
(アルが、ミーナを、抱いた? ネモスの、指示で?)
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