発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅱ 貴族アルファが来る

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 ウルイはその日の仕事を楽しく感じた。
 ひたすら増える食器の洗い物は、『ガンガン持ってこ~い』、と声に出したくなるくらい、テキパキと処理できた。

 店のオーナーからも「いい働きだ」と褒められた。
 とても気持ちが良かった。

 仕事が終わり帰宅している時、ウルイは気が付いた。彼の名前を聞き忘れた。
 明日は忘れず名前を聞こうと思った。

 見慣れた夜の砂漠を目に映し、輝く月を綺麗だと思った。

 翌日、ウルイは朝から湖に来た。昨日の仕事帰りに買った小さな石鹸を手に持っている。

 昨日は、「頑張ってくれているから」、とオーナーが少し多めにバイト代をくれた。
 オーナーは機嫌が良いとウルイに小遣いをつけてくれる。お菓子かジュースを買える程度だけど嬉しい。

 いつものウルイなら妹にお菓子を買って帰るが、昨日はどうしても石鹸が欲しかった。

 湖で会った彼はウルイの髪や頬を触った。首後ろは舐められた。
 改めて考えるとウルイは自分の汚れが気になってしまった。

『臭い、汚い、貧乏人』

 聞こえるようにウルイに向けられる言葉が頭を過ったから。彼にもそう思われていないか、と不安になった。
 だからウルイは、彼に会う前に全身を洗おうと考えた。

 ザバーと湖水を浴びて、あまりの冷たさに全身をブルブルと震わせた。

「う~~! さっぶいぃ!」
 朝の湖水は肌が痛いほど冷たい。でも我慢、我慢、とウルイは自分に言い聞かせる。

 ガタガタ震えながら全身を泡で洗う。汚れを丁寧に落とさなくてはいけない。
 髪まで洗うと自然乾燥に時間がかかる。あとは服も洗って乾かしたい。だから早朝しかないのだ。

 全身を洗い終えてタオルで拭きあげると、びしょ濡れよりは身体の冷えがおさまる。

 そのまま一気に石鹸で服を洗う。日が出て気温が上がれば乾くはず。今だけの辛抱だ。

 そう考えても、身体の震えが引いてくれない。つまりすごく寒い。寒すぎて皮膚が痛い。

 いつもは暑くて嫌な太陽だが、今は早く砂漠の気温を上げて欲しかった。
 早朝水浴びがこれ程寒くて辛いとは思っていなかった。
 タオルで身体の水分をとっても、髪が濡れていて体温を奪う。予備の服がないから裸のままだ。
 ウルイの歯がガチガチと鳴り続けている。

 その内に砂漠に明るい光が差した。徐々に気温が上がることに安心を覚える。早く乾かしたくて、ウルイは裸のまま日光を浴びた。

 この湖には人が近づかないから、見られる心配はない。日の当たる場所に服を干していると、思いがけず声がかけられた。

「ブハっ! な、なにしているんだ! 裸? ウ、ウルイ?」
 ものすごい大声と、駆け寄る足音が耳に届いた。
 ウルイが振り返ると、顔を真っ赤にした昨日の彼がいる。

 こんなところを見られると思っていなかったから、ウルイはその場で凍り付いた。

 彼の目がウルイの頭の先から下まで、全身を見たのが分かった。途端に恥ずかしさが沸き上がる。身体に火が付いたように熱くなる。

 干してある服に手を伸ばしたが、まだ洗ったばかりで着られそうにない。

 どうしていいのか分からず、タオルで前だけは隠した。恥ずかしすぎて彼が見られなかった。

「ウルイ、これを着て。聞いてもいい? 何か、あったの?」

 彼の上着をウルイにかけてくれる。優しく問われたが、恥ずかしさで答えられず、ウルイは下を向いて震えた。

「うん。分かった。大丈夫だよ。ウルイ、俺は怖くないよね? このままじゃ風邪をひくから抱き上げるよ。服と荷物はコレで全部?」

 抱き上げると言われて、意味が分からずウルイは首を傾げた。

 混乱で静止していたウルイは、あっという間に彼の腕の中に閉じ込められた。『降ろして』と言う間もなく、彼の馬に一緒に乗せられる。

「ウルイ、もう大丈夫だよ。怖かったね」
 馬を走らせながら何度も彼が言葉をかけて来た。ウルイには、その意味が分からなかった。

 冷えた身体が彼の体温でホカホカと温まる。その内にウルイは腕の中で眠ってしまった。

(昨日は遅くまで働いて、朝から水浴びしたから疲れたなぁ)
 ウルイは人肌の心地よさに身を任せた。

 
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