11 / 80
Ⅱ 貴族アルファが来る
⑦
しおりを挟む
ゆっくり休んで気分が良かった。夢の様なまどろみから抜け出したくなくて、ウルイは温もりにすり寄った。
『可愛い』
どこかから低い声が聞こえてきた。身体の芯に入り込むような声だ。
(可愛い? 誰が?)
不思議に思いウルイは目を開けた。
「ウルイ、体調はどう?」
優しい低い声がウルイの身体に響く。
はっと覚醒し、ウルイは温かい存在から離れた。驚きで飛び起きてしまった。
ウルイはベッドの上に座り込み、ライを見た。どう見てもウルイと一緒に寝ていた、と思える状況だ。
「え? 一緒に寝ていたの?」
「ウルイが寒いって寝言で言うからね。抱き締めてみたら落ち着いて、そのまま」
起き上るライを見た。シャツ一枚に簡易ズボン姿だ。身体の厚みが良く分かる格好に心臓がドキリとして、ライを直視できない。
「そっか。それは、迷惑をかけてゴメン」
水浴びが寒かったから寝言が出てしまったのかもしれない。ふと首後ろが気になって触れると、軽い痛みが走った。
「あ、うなじを軽く噛んでしまった。我慢が効かなくてすまない。甘噛みくらいだけど、少し傷になったかな?」
ウルイは手で触って血が出ていない程度だと確認する。
「いいよ。ライは首が好きなんだな。ちょっと変態って覚えておく」
ウルイは軽く笑った。
「変態かぁ。そうきたか」
ライは頭を掻いた。
「あ、やっば! 時間! 仕事に行かなきゃ」
ベッドから飛び出そうとしたが、ライの太い腕に引き戻される。
「水色キッチンには今日は休みって伝えてある」
「いや、何言っているんだよ。僕が働かないと生活費、困るって。店からの残り物で食をつないでいるし」
本気で焦って、丸太の様なライの腕を引きはがす。
「今日は俺が雇うから大丈夫。帰りに重箱弁当もつけるぞ。俺、このオアシスの事を調査しに来ている。その情報収集をウルイに手伝ってほしい」
食料と仕事は魅力的だが、ウルイでは役不足だと思った。
「僕はオアシスにいないから無理。オアシスに住んでいる人に頼んでほしい」
「いや、ウルイがいい。水色キッチンの三倍の給与を出すよ。どうかな?」
『三倍のお金』にウルイの心が歓喜に踊る。
「三倍! やるよ! 僕で良いなら!」
「そっか。じゃ、ウルイの体調次第で今日の仕事を考えよう」
「大丈夫だよ。これくらいの熱ならいつも働いている」
「ダメだ。無理はさせたくない。とりあえず食べられそうならご飯を食べよう」
ライから食事の提案をされてウルイのお腹が鳴る。
ウルイの熱は朝の水浴びで出ただけで、風邪などの病気からくるものではない。下がってくれば大丈夫だ。
「食べたい」
「じゃ、起きようか」
二人でクスクス笑いながらベッドから出た。
起きてみてウルイは柔らかな肌障りのパジャマを着ていることに気が付いた。
「これ、僕が着て大丈夫?」
「大丈夫だよ。こういった宿泊施設は無料で部屋着を貸してくれるから」
「無料なのか。安心した。そうだ。ライはこのオアシスに何を調べに来ているの? 鉱物調査?」
「うん。そんなところ。鉱物や資源調査は少し先の国視察がやる。俺はその前の治安と市民の生活実態調査ってとこかな」
「あ、国の視察は『アルファ様がくる』ってやつだ。じゃ、ライはアルファ様の下で働いているんだね」
「まぁそんなとこ、だな」
貴族アルファ様のもとで働いているのならお金には余裕があるだろう。羨ましいなぁと思った。
ライが指示して宿のスタッフが室内に山ほどの食べ物を運んできた。食べてみたいと思っていたステーキまであった。
ウルイが「食べ方が汚いかも」と気にすると、「俺は手づかみで食べることだってある」と、ライが胸を張った。そんな事は自慢することじゃない。おかしくて笑いあった。
楽しくおいしく食べよう、とライが言ってくれた。作法を気にせず食事が出来て楽しかった。
食べ残りは持ち帰れるように、ライが手配してくれた。
「ウルイ、服が乾いていない。調子良ければ、少し街を歩きたいから服をプレゼントしていいか?」
「え? これでいいよ」
「それは宿の中だけの室内着だ。外には着ていけない。行商を呼んである。腹の具合が落ち着いたら着る服を選ぼう」
ライの提案は嬉しいけれど、金銭の心配が出てしまう。
「湿っていても自分の服で良いよ」
今日一日のために服を買うなど勿体ないと思えた。
「それがビチャビチャレベルだ。ウルイの体調を優先して世話していて、回収した服を乾かすのを忘れていた。もう一度洗い直している。すまない。行商から買う洋服代は、潜入調査費として雇い主が出すから大丈夫だ」
それならライに迷惑がかからず良いのかもしれない。服を買うことに承諾すると、途端にライがキラキラした。
ウルイには、ライの笑顔が輝いて見えた。
『可愛い』
どこかから低い声が聞こえてきた。身体の芯に入り込むような声だ。
(可愛い? 誰が?)
不思議に思いウルイは目を開けた。
「ウルイ、体調はどう?」
優しい低い声がウルイの身体に響く。
はっと覚醒し、ウルイは温かい存在から離れた。驚きで飛び起きてしまった。
ウルイはベッドの上に座り込み、ライを見た。どう見てもウルイと一緒に寝ていた、と思える状況だ。
「え? 一緒に寝ていたの?」
「ウルイが寒いって寝言で言うからね。抱き締めてみたら落ち着いて、そのまま」
起き上るライを見た。シャツ一枚に簡易ズボン姿だ。身体の厚みが良く分かる格好に心臓がドキリとして、ライを直視できない。
「そっか。それは、迷惑をかけてゴメン」
水浴びが寒かったから寝言が出てしまったのかもしれない。ふと首後ろが気になって触れると、軽い痛みが走った。
「あ、うなじを軽く噛んでしまった。我慢が効かなくてすまない。甘噛みくらいだけど、少し傷になったかな?」
ウルイは手で触って血が出ていない程度だと確認する。
「いいよ。ライは首が好きなんだな。ちょっと変態って覚えておく」
ウルイは軽く笑った。
「変態かぁ。そうきたか」
ライは頭を掻いた。
「あ、やっば! 時間! 仕事に行かなきゃ」
ベッドから飛び出そうとしたが、ライの太い腕に引き戻される。
「水色キッチンには今日は休みって伝えてある」
「いや、何言っているんだよ。僕が働かないと生活費、困るって。店からの残り物で食をつないでいるし」
本気で焦って、丸太の様なライの腕を引きはがす。
「今日は俺が雇うから大丈夫。帰りに重箱弁当もつけるぞ。俺、このオアシスの事を調査しに来ている。その情報収集をウルイに手伝ってほしい」
食料と仕事は魅力的だが、ウルイでは役不足だと思った。
「僕はオアシスにいないから無理。オアシスに住んでいる人に頼んでほしい」
「いや、ウルイがいい。水色キッチンの三倍の給与を出すよ。どうかな?」
『三倍のお金』にウルイの心が歓喜に踊る。
「三倍! やるよ! 僕で良いなら!」
「そっか。じゃ、ウルイの体調次第で今日の仕事を考えよう」
「大丈夫だよ。これくらいの熱ならいつも働いている」
「ダメだ。無理はさせたくない。とりあえず食べられそうならご飯を食べよう」
ライから食事の提案をされてウルイのお腹が鳴る。
ウルイの熱は朝の水浴びで出ただけで、風邪などの病気からくるものではない。下がってくれば大丈夫だ。
「食べたい」
「じゃ、起きようか」
二人でクスクス笑いながらベッドから出た。
起きてみてウルイは柔らかな肌障りのパジャマを着ていることに気が付いた。
「これ、僕が着て大丈夫?」
「大丈夫だよ。こういった宿泊施設は無料で部屋着を貸してくれるから」
「無料なのか。安心した。そうだ。ライはこのオアシスに何を調べに来ているの? 鉱物調査?」
「うん。そんなところ。鉱物や資源調査は少し先の国視察がやる。俺はその前の治安と市民の生活実態調査ってとこかな」
「あ、国の視察は『アルファ様がくる』ってやつだ。じゃ、ライはアルファ様の下で働いているんだね」
「まぁそんなとこ、だな」
貴族アルファ様のもとで働いているのならお金には余裕があるだろう。羨ましいなぁと思った。
ライが指示して宿のスタッフが室内に山ほどの食べ物を運んできた。食べてみたいと思っていたステーキまであった。
ウルイが「食べ方が汚いかも」と気にすると、「俺は手づかみで食べることだってある」と、ライが胸を張った。そんな事は自慢することじゃない。おかしくて笑いあった。
楽しくおいしく食べよう、とライが言ってくれた。作法を気にせず食事が出来て楽しかった。
食べ残りは持ち帰れるように、ライが手配してくれた。
「ウルイ、服が乾いていない。調子良ければ、少し街を歩きたいから服をプレゼントしていいか?」
「え? これでいいよ」
「それは宿の中だけの室内着だ。外には着ていけない。行商を呼んである。腹の具合が落ち着いたら着る服を選ぼう」
ライの提案は嬉しいけれど、金銭の心配が出てしまう。
「湿っていても自分の服で良いよ」
今日一日のために服を買うなど勿体ないと思えた。
「それがビチャビチャレベルだ。ウルイの体調を優先して世話していて、回収した服を乾かすのを忘れていた。もう一度洗い直している。すまない。行商から買う洋服代は、潜入調査費として雇い主が出すから大丈夫だ」
それならライに迷惑がかからず良いのかもしれない。服を買うことに承諾すると、途端にライがキラキラした。
ウルイには、ライの笑顔が輝いて見えた。
124
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます
かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ
)は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。
ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。
今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。
本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。
全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。
(本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)
【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末
竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。
巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。
時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。
しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。
どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。
そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ……
★『小説家になろう』さんでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる