発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅱ 貴族アルファが来る

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 ゆっくり休んで気分が良かった。夢の様なまどろみから抜け出したくなくて、ウルイは温もりにすり寄った。

『可愛い』
 どこかから低い声が聞こえてきた。身体の芯に入り込むような声だ。

(可愛い? 誰が?)
 不思議に思いウルイは目を開けた。

「ウルイ、体調はどう?」
 優しい低い声がウルイの身体に響く。

 はっと覚醒し、ウルイは温かい存在から離れた。驚きで飛び起きてしまった。

 ウルイはベッドの上に座り込み、ライを見た。どう見てもウルイと一緒に寝ていた、と思える状況だ。

「え? 一緒に寝ていたの?」
「ウルイが寒いって寝言で言うからね。抱き締めてみたら落ち着いて、そのまま」

 起き上るライを見た。シャツ一枚に簡易ズボン姿だ。身体の厚みが良く分かる格好に心臓がドキリとして、ライを直視できない。
「そっか。それは、迷惑をかけてゴメン」

 水浴びが寒かったから寝言が出てしまったのかもしれない。ふと首後ろが気になって触れると、軽い痛みが走った。

「あ、うなじを軽く噛んでしまった。我慢が効かなくてすまない。甘噛みくらいだけど、少し傷になったかな?」
 ウルイは手で触って血が出ていない程度だと確認する。

「いいよ。ライは首が好きなんだな。ちょっと変態って覚えておく」
 ウルイは軽く笑った。
「変態かぁ。そうきたか」
 ライは頭を掻いた。

「あ、やっば! 時間! 仕事に行かなきゃ」
 ベッドから飛び出そうとしたが、ライの太い腕に引き戻される。

「水色キッチンには今日は休みって伝えてある」
「いや、何言っているんだよ。僕が働かないと生活費、困るって。店からの残り物で食をつないでいるし」

 本気で焦って、丸太の様なライの腕を引きはがす。

「今日は俺が雇うから大丈夫。帰りに重箱弁当もつけるぞ。俺、このオアシスの事を調査しに来ている。その情報収集をウルイに手伝ってほしい」
 食料と仕事は魅力的だが、ウルイでは役不足だと思った。

「僕はオアシスにいないから無理。オアシスに住んでいる人に頼んでほしい」
「いや、ウルイがいい。水色キッチンの三倍の給与を出すよ。どうかな?」

『三倍のお金』にウルイの心が歓喜に踊る。

「三倍! やるよ! 僕で良いなら!」
「そっか。じゃ、ウルイの体調次第で今日の仕事を考えよう」

「大丈夫だよ。これくらいの熱ならいつも働いている」
「ダメだ。無理はさせたくない。とりあえず食べられそうならご飯を食べよう」

 ライから食事の提案をされてウルイのお腹が鳴る。
 ウルイの熱は朝の水浴びで出ただけで、風邪などの病気からくるものではない。下がってくれば大丈夫だ。

「食べたい」
「じゃ、起きようか」

 二人でクスクス笑いながらベッドから出た。
 起きてみてウルイは柔らかな肌障りのパジャマを着ていることに気が付いた。

「これ、僕が着て大丈夫?」
「大丈夫だよ。こういった宿泊施設は無料で部屋着を貸してくれるから」

「無料なのか。安心した。そうだ。ライはこのオアシスに何を調べに来ているの? 鉱物調査?」
「うん。そんなところ。鉱物や資源調査は少し先の国視察がやる。俺はその前の治安と市民の生活実態調査ってとこかな」

「あ、国の視察は『アルファ様がくる』ってやつだ。じゃ、ライはアルファ様の下で働いているんだね」
「まぁそんなとこ、だな」

 貴族アルファ様のもとで働いているのならお金には余裕があるだろう。羨ましいなぁと思った。

 ライが指示して宿のスタッフが室内に山ほどの食べ物を運んできた。食べてみたいと思っていたステーキまであった。

 ウルイが「食べ方が汚いかも」と気にすると、「俺は手づかみで食べることだってある」と、ライが胸を張った。そんな事は自慢することじゃない。おかしくて笑いあった。

 楽しくおいしく食べよう、とライが言ってくれた。作法を気にせず食事が出来て楽しかった。
 食べ残りは持ち帰れるように、ライが手配してくれた。

「ウルイ、服が乾いていない。調子良ければ、少し街を歩きたいから服をプレゼントしていいか?」
「え? これでいいよ」

「それは宿の中だけの室内着だ。外には着ていけない。行商を呼んである。腹の具合が落ち着いたら着る服を選ぼう」
 ライの提案は嬉しいけれど、金銭の心配が出てしまう。

「湿っていても自分の服で良いよ」
 今日一日のために服を買うなど勿体ないと思えた。

「それがビチャビチャレベルだ。ウルイの体調を優先して世話していて、回収した服を乾かすのを忘れていた。もう一度洗い直している。すまない。行商から買う洋服代は、潜入調査費として雇い主が出すから大丈夫だ」

 それならライに迷惑がかからず良いのかもしれない。服を買うことに承諾すると、途端にライがキラキラした。
 ウルイには、ライの笑顔が輝いて見えた。
    
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