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Ⅱ 貴族アルファが来る
⑧
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十分ほど経過すると大荷物の数名が部屋に入って来た。
「ウルイ、立って」
「はい」
ライの指示通りに起立する。身体のあちこちを測定されて緊張した。ライが数着の服を指定して、バタバタとやり取りするのを見守った。
ウルイはどうしていいのか分からず、立ち尽くした。
その内に行商の人がバタバタと帰っていった。あっという間だ。
呆然とするウルイの肩にライが触れる。ウルイはハッとライを見上げた。
「おーい、ウルイ。大丈夫? とりあえず既製品の数着と靴を買ったから着替えてみて」
「えぇ? 靴まで? いいのか?」
「いい。これからまだ調査に付き合ってもらいたいから」
これは仕事の制服みたいなものだろうとウルイは考え、受けとった。
『まず今日はコレを着て』と言われるままに、ラフなシャツと黒ズボンに着替えた。
ライは「うん、よく似合う」と声を溢した。ウルイは照れくさくて下を向く。ちらりとライを見れば頬が紅くなっている。
その様子が可笑しくて笑った。ライは気さくな良い人だ。
「じゃ、髪の毛を整えていい?」
「うん」
ライはウルイの髪にオイルをつけて梳かし右側面を結い上げてきた。大きな手がウルイの黒髪に触れている。
胸がドキリとする。もっと触れて良いのに、と思う自分がいる。
少しも痛くない、優しい髪の扱いだった。その感覚にウルイの背筋がゾクリとした。
噛まれた首後ろがジンと熱を持つ。おかしな感覚に戸惑っているうちに、ライの手が離れた。
「ライ、慣れている」
「妹がいるからね。兄さんもいるよ。はい、出来た」
ライに促されて、ウルイは鏡を見た。耳下まで伸びた髪が右側だけ結われている。顔半分がハッキリ出ると、別人のような自分が居る。
自分の瞳がこれほど大きいとは思っていなかった。黒い髪が肌の白さを際立たせている。
街の若者の中に居ても目立ちそうだ。つい自分に見とれた。自分じゃないみたいだ。見ていると、鏡越しにライが寄り添ってきた。何だか恥ずかしくて、前を直視できない。
「ほら、ウルイは綺麗だ」
満足そうなライを見て、ウルイは笑いがこみ上げた。
「僕に綺麗とか使わなくていいよ。着飾れば何とかライの隣に居られる、かな?」
「十分すぎる。俺には勿体ないくらいだ」
頬を染めて優しく答えてくれるライに、ウルイの胸がドキリと鳴った。
先ほどから変な動きをする心臓と、熱くなる頬が理解できず、ウルイは首を傾げた。
ライが市場調査だ、とウルイを連れて来たところは、オアシスで最高級店が並ぶ一番街だ。セレブ街でありウルイは立入ったことが無い。
「ほら、ウルイ。あちらの店を見てみよう」
「いいけど。これ、仕事になっているのか?」
ソワソワするウルイの腰に手を回して、ライはご機嫌だ。自然と密着してくるライにウルイは緊張するばかり。それに、ウルイの目玉が飛び出そうな価格の品を買うライに驚いた。
「どうせ調査費用で雇用主に請求できるんだ。買っておく方が得だろう?」
お茶目に囁くライに笑ってしまい、ウルイの緊張が解けた。
ふと、店舗の大きな鏡に映る自分たちが目に入った。
身体の大きな逞しいライは、例えるなら砂漠の雄ライオンだ。紺色ジャケットが上品さを醸し出している。
そのライに寄り添うウルイ。こうして整容を整えると、ウルイには中性的な美しい雰囲気がある。ライと並ぶのに見劣りしない。
まるでライオンに寄り添う草食動物のようだ。自然界では有り得ないペアだけれど。ライと出会った湖にいたガゼルを思い出して、ウルイの頬が緩んだ。
なんだか嬉しくなって、背筋を伸ばしてライの横を歩いた。
人々が『素敵なカップルがいる』と見てくる視線が気持ち良かった。これまでウルイが経験したことがない状況だった。
「お疲れ様。どうだった?」
ライの泊っている宿に戻ると直ぐに、ウルイはソファーに倒れ込んだ。
「疲れたぁ。歩いて街を回っているだけなのにレストランで働くより疲れたよ」
「そっか。付き合ってくれてありがとう。おかげで、街の様子や人々の生活がリアルに見られた。ウルイのおかげだ」
「僕は知らない世界を見た気分だ。疲れたけれど、楽しかった。すごい経験をしたよ。ライ、ありがとう」
ソファーの背に寄りかかってウルイが微笑むと、横にライが座ってくる。顔をウルイの首筋にうずめてくる。くすぐったくて笑ってしまった。
「いい匂いだ、ウルイ」
耳元でライの声が低く響く。
ウルイに甘えるような様子が可愛らしく思えて、ライの背に腕を回した。
優しくポンポンとライの背中を叩くと、抱き締め返される。労わり合う様な抱擁に胸が温かくなった。
逞しい身体に包まれて、ウルイの心臓がバクバクと存在を主張していた。
「ウルイ、立って」
「はい」
ライの指示通りに起立する。身体のあちこちを測定されて緊張した。ライが数着の服を指定して、バタバタとやり取りするのを見守った。
ウルイはどうしていいのか分からず、立ち尽くした。
その内に行商の人がバタバタと帰っていった。あっという間だ。
呆然とするウルイの肩にライが触れる。ウルイはハッとライを見上げた。
「おーい、ウルイ。大丈夫? とりあえず既製品の数着と靴を買ったから着替えてみて」
「えぇ? 靴まで? いいのか?」
「いい。これからまだ調査に付き合ってもらいたいから」
これは仕事の制服みたいなものだろうとウルイは考え、受けとった。
『まず今日はコレを着て』と言われるままに、ラフなシャツと黒ズボンに着替えた。
ライは「うん、よく似合う」と声を溢した。ウルイは照れくさくて下を向く。ちらりとライを見れば頬が紅くなっている。
その様子が可笑しくて笑った。ライは気さくな良い人だ。
「じゃ、髪の毛を整えていい?」
「うん」
ライはウルイの髪にオイルをつけて梳かし右側面を結い上げてきた。大きな手がウルイの黒髪に触れている。
胸がドキリとする。もっと触れて良いのに、と思う自分がいる。
少しも痛くない、優しい髪の扱いだった。その感覚にウルイの背筋がゾクリとした。
噛まれた首後ろがジンと熱を持つ。おかしな感覚に戸惑っているうちに、ライの手が離れた。
「ライ、慣れている」
「妹がいるからね。兄さんもいるよ。はい、出来た」
ライに促されて、ウルイは鏡を見た。耳下まで伸びた髪が右側だけ結われている。顔半分がハッキリ出ると、別人のような自分が居る。
自分の瞳がこれほど大きいとは思っていなかった。黒い髪が肌の白さを際立たせている。
街の若者の中に居ても目立ちそうだ。つい自分に見とれた。自分じゃないみたいだ。見ていると、鏡越しにライが寄り添ってきた。何だか恥ずかしくて、前を直視できない。
「ほら、ウルイは綺麗だ」
満足そうなライを見て、ウルイは笑いがこみ上げた。
「僕に綺麗とか使わなくていいよ。着飾れば何とかライの隣に居られる、かな?」
「十分すぎる。俺には勿体ないくらいだ」
頬を染めて優しく答えてくれるライに、ウルイの胸がドキリと鳴った。
先ほどから変な動きをする心臓と、熱くなる頬が理解できず、ウルイは首を傾げた。
ライが市場調査だ、とウルイを連れて来たところは、オアシスで最高級店が並ぶ一番街だ。セレブ街でありウルイは立入ったことが無い。
「ほら、ウルイ。あちらの店を見てみよう」
「いいけど。これ、仕事になっているのか?」
ソワソワするウルイの腰に手を回して、ライはご機嫌だ。自然と密着してくるライにウルイは緊張するばかり。それに、ウルイの目玉が飛び出そうな価格の品を買うライに驚いた。
「どうせ調査費用で雇用主に請求できるんだ。買っておく方が得だろう?」
お茶目に囁くライに笑ってしまい、ウルイの緊張が解けた。
ふと、店舗の大きな鏡に映る自分たちが目に入った。
身体の大きな逞しいライは、例えるなら砂漠の雄ライオンだ。紺色ジャケットが上品さを醸し出している。
そのライに寄り添うウルイ。こうして整容を整えると、ウルイには中性的な美しい雰囲気がある。ライと並ぶのに見劣りしない。
まるでライオンに寄り添う草食動物のようだ。自然界では有り得ないペアだけれど。ライと出会った湖にいたガゼルを思い出して、ウルイの頬が緩んだ。
なんだか嬉しくなって、背筋を伸ばしてライの横を歩いた。
人々が『素敵なカップルがいる』と見てくる視線が気持ち良かった。これまでウルイが経験したことがない状況だった。
「お疲れ様。どうだった?」
ライの泊っている宿に戻ると直ぐに、ウルイはソファーに倒れ込んだ。
「疲れたぁ。歩いて街を回っているだけなのにレストランで働くより疲れたよ」
「そっか。付き合ってくれてありがとう。おかげで、街の様子や人々の生活がリアルに見られた。ウルイのおかげだ」
「僕は知らない世界を見た気分だ。疲れたけれど、楽しかった。すごい経験をしたよ。ライ、ありがとう」
ソファーの背に寄りかかってウルイが微笑むと、横にライが座ってくる。顔をウルイの首筋にうずめてくる。くすぐったくて笑ってしまった。
「いい匂いだ、ウルイ」
耳元でライの声が低く響く。
ウルイに甘えるような様子が可愛らしく思えて、ライの背に腕を回した。
優しくポンポンとライの背中を叩くと、抱き締め返される。労わり合う様な抱擁に胸が温かくなった。
逞しい身体に包まれて、ウルイの心臓がバクバクと存在を主張していた。
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