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Ⅴ 王都での生活(後編)
⑪
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スープを運んできたのはササラでは無かった。ウルイは胸をなで下ろした。
「どう? 食べられそう?」
目の前に並ぶスープの香りを吸い込むと、久しぶりに『食べたい』と思えてくる。
「うん。ライも食べる?」
「もちろん」
ダイニングテーブルに隣同士で座る。この横並びに最近は慣れた。本当は正面で向かい合って食べるのがルールだ。
だけど「ウルイが横に居るほうが落ち着く」とライに言われてから、部屋で食べるときはいつも隣だ。
「こっちは具が大きいから食べれないかも。僕はトロトロの方を食べてもいい?」
ウルイの言葉にライが破顔する。
「よし! じゃ、乾杯だ!」
ライの言葉にウルイが少し笑う。
「出会った頃にも言ったじゃないか。食べ物で乾杯はしないんだよ」
「そうか。そうだった。ん? そうだよ! ウルイ、オアシスに遊びに行こう。里帰りして家族に会ったら元気が出るんじゃないか?」
ライの言葉にスプーンを持つ手を止めた。
「オアシスに、帰っていいの?」
「一時的なものだけど、それでもいい?」
ライの提案に心が温かくなる。コクリと頷きで返事をした。
懐かしいオアシスがウルイの頭を過った。父と母に会いたかった。
オメガになる前の貧しい生活が懐かしくて、ウルイの目の奥が熱くなる。涙がこぼれそうになりスプーンを置いた。
「ごめん。今はこの話は止めよう。せっかくウルイが食べる気になったのに! あぁ、俺はバカだ。どうしよう」
頭を抱えるライが面白くてウルイはクスッと笑った。
「食べるよ。大丈夫。今ならいけそうだから」
ライに微笑みを向ければ、労わるように大きな手が頭を撫でてくる。
ついでにうなじの噛み跡をライがひと撫でした。ゾクリとして、肩をすぼめた。クスッと笑いがもれた。ライらしいな、と思うと心が落ち着いた。
ゆっくりスープを口に運ぶウルイに合わせて、ライが仕事の話をしてくれた。ウルイから話す事は何もないけれど、ライは時々自分の事を話してくれる。
ウルイはライの仕事の話が好きだ。特に、小型偵察機の開発話はワクワクする。理解できない事も多いけれど、ライが生き生き話してくれるのが嬉しい。
原理を聞けば、光エネルギーの仕組みは何となくわかる。それを偵察機に組み込んで、半永久動力として利用する考えなど、人間に出来るとは思えなかった。
まるで魔法の様な話だ。
半永久機動する偵察機を使えば、地方の視察を簡単に行える。治安の良し悪しや普段の姿が見えるらしい。
それに、他国に偵察機を飛ばすことが可能になれば、周辺国の情勢が把握できる。これらは全てアドレア国を守ることになる、とライが話してくれた。
仕事の話をするライは特別輝いて、カッコいい。ライが若いのに、国防軍特別参謀という偉い立場にいる意味が分かった。
ライは凄い人なのだとウルイは実感した。
そして貧弱で何もできず、発情期の相手を務めて寝込む自分が恥ずかしくなった。ウルイはライの隣に相応しくないと改めて思った。
(できたら僕は発情期の義務だけ果たして、正式なお嫁さんをライが迎えればいいのかも)
それが一番いいとウルイは思った。そうすればササラたちも納得してくれるはずだ。
ライが可愛らしい奥様を迎える未来を考えると息が苦しくなった。胸の痛みを誤魔化すように、スープを口に運んだ。
何とかスープを一皿食べきると、泣きそうな顔のライに抱きしめられた。隣の席だからすぐにライの腕の中だ。
「よかった。食べることが、出来たね」
安堵の声がウルイに染み込む。目を閉じて甘えてみた。スープを飲んだせいもあるだろうけれど、お腹のあたりがホカホカした。
将来はライに『上流階級貴族の妻』が出来るかもしれない。そうしたら、ライの隣を奥様に譲らなくてはいけない。
でも、今だけはライの優しさを独占していたい。
悲しいようなひと時の安堵感にウルイは身を任せた。
「どう? 食べられそう?」
目の前に並ぶスープの香りを吸い込むと、久しぶりに『食べたい』と思えてくる。
「うん。ライも食べる?」
「もちろん」
ダイニングテーブルに隣同士で座る。この横並びに最近は慣れた。本当は正面で向かい合って食べるのがルールだ。
だけど「ウルイが横に居るほうが落ち着く」とライに言われてから、部屋で食べるときはいつも隣だ。
「こっちは具が大きいから食べれないかも。僕はトロトロの方を食べてもいい?」
ウルイの言葉にライが破顔する。
「よし! じゃ、乾杯だ!」
ライの言葉にウルイが少し笑う。
「出会った頃にも言ったじゃないか。食べ物で乾杯はしないんだよ」
「そうか。そうだった。ん? そうだよ! ウルイ、オアシスに遊びに行こう。里帰りして家族に会ったら元気が出るんじゃないか?」
ライの言葉にスプーンを持つ手を止めた。
「オアシスに、帰っていいの?」
「一時的なものだけど、それでもいい?」
ライの提案に心が温かくなる。コクリと頷きで返事をした。
懐かしいオアシスがウルイの頭を過った。父と母に会いたかった。
オメガになる前の貧しい生活が懐かしくて、ウルイの目の奥が熱くなる。涙がこぼれそうになりスプーンを置いた。
「ごめん。今はこの話は止めよう。せっかくウルイが食べる気になったのに! あぁ、俺はバカだ。どうしよう」
頭を抱えるライが面白くてウルイはクスッと笑った。
「食べるよ。大丈夫。今ならいけそうだから」
ライに微笑みを向ければ、労わるように大きな手が頭を撫でてくる。
ついでにうなじの噛み跡をライがひと撫でした。ゾクリとして、肩をすぼめた。クスッと笑いがもれた。ライらしいな、と思うと心が落ち着いた。
ゆっくりスープを口に運ぶウルイに合わせて、ライが仕事の話をしてくれた。ウルイから話す事は何もないけれど、ライは時々自分の事を話してくれる。
ウルイはライの仕事の話が好きだ。特に、小型偵察機の開発話はワクワクする。理解できない事も多いけれど、ライが生き生き話してくれるのが嬉しい。
原理を聞けば、光エネルギーの仕組みは何となくわかる。それを偵察機に組み込んで、半永久動力として利用する考えなど、人間に出来るとは思えなかった。
まるで魔法の様な話だ。
半永久機動する偵察機を使えば、地方の視察を簡単に行える。治安の良し悪しや普段の姿が見えるらしい。
それに、他国に偵察機を飛ばすことが可能になれば、周辺国の情勢が把握できる。これらは全てアドレア国を守ることになる、とライが話してくれた。
仕事の話をするライは特別輝いて、カッコいい。ライが若いのに、国防軍特別参謀という偉い立場にいる意味が分かった。
ライは凄い人なのだとウルイは実感した。
そして貧弱で何もできず、発情期の相手を務めて寝込む自分が恥ずかしくなった。ウルイはライの隣に相応しくないと改めて思った。
(できたら僕は発情期の義務だけ果たして、正式なお嫁さんをライが迎えればいいのかも)
それが一番いいとウルイは思った。そうすればササラたちも納得してくれるはずだ。
ライが可愛らしい奥様を迎える未来を考えると息が苦しくなった。胸の痛みを誤魔化すように、スープを口に運んだ。
何とかスープを一皿食べきると、泣きそうな顔のライに抱きしめられた。隣の席だからすぐにライの腕の中だ。
「よかった。食べることが、出来たね」
安堵の声がウルイに染み込む。目を閉じて甘えてみた。スープを飲んだせいもあるだろうけれど、お腹のあたりがホカホカした。
将来はライに『上流階級貴族の妻』が出来るかもしれない。そうしたら、ライの隣を奥様に譲らなくてはいけない。
でも、今だけはライの優しさを独占していたい。
悲しいようなひと時の安堵感にウルイは身を任せた。
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