発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅵ オアシスの変化

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 ライは長期休暇をとってくれて、すぐにオアシスに向けて出発となった。

 浮遊移動車に乗り、車窓から小さくなる伯爵邸を眺めていると、ウルイは胸がスッとした。

 旅に付いてくれるのはササラやトムでは無かった。軍の特殊警備隊員だけ。

 伯爵邸の使用人を付けなくて良いのか不思議だったが、ライが「ウルイと二人を楽しみたい」と言ってくれた。

 もともとライは脱走癖があり、野宿でも生きていける変わり者だから良い、と言っていた。

 出会った頃を思い出して、その通りだと思った。

「ウルイは浮遊移動車が好きだね」
 急に声がかけられて、車窓からライに視線を移す。

「好きなのかは分からないけれど、ぐんぐん景色が変わるのが面白いんだ」

「あぁ、そうか。馬車はもっとゆっくりだからね」
「うん。ほら、あんなに大きな王都をもう脱出だ」

 窓の外を指さす。王都から離れたことが嬉しくてウルイはニカっと笑った。

「うん。久しぶりにウルイって顔だ」
目を細めたライに声をかけられて首を傾げた。

 ウルイらしい顔って何だろうと考える。すると困ったような母の顔が思い浮かんだ。

(懐かしいなぁ。たかが数か月なのに)
 母を思うと、父や妹の顔が次々に頭に浮かんだ。
(皆、元気かなぁ)
 窓の外を見ていると「はい」とウルイにコップが手渡される。

「ありがとう。ライチ? ブドウ?」
「ライチの濃厚ハチミツ入り。少しでもウルイを太らせたいからね」

「何だ、それ。もうだいぶ戻っただろ?」
 発情期明けから栄養剤や滋養剤を飲んで、出来るだけ食べて、見る間に身体に肉が戻った。医術ってすごいのだと知った。

 ウルイはこれまで熱が出ようが、怪我をしようが、医者に診てもらうなどなかった。だからこそ有難さが分かる。

 そして回復の大きな要因がもう一つ。三度目の発情期後からササラたち怖い侍女を見ていない。そのことがウルイの心を癒した。

 始めは気のせいかと思った。だけど部屋に出入りする侍女は見たことがない人たちばかりで、意図的にそうしているのだろうと思えた。

 ウルイには何も言ってこないけれど、ライが何か気が付いたのかもしれない。そのことに触れて良いのか分からず聞けないままだ。

 ライチジュースをコクリと飲んだ。
「あっま」
 いつもよりハチミツ味が強くて感想が漏れ出ていた。

「美味しいだろ? 小さい頃に風邪を引くと良く飲んでいた。大人になって飲むと、こんなに甘かったかなぁと思うけどね」
 あはは、と笑うライを見つめた。

 ライチジュースを飲む姿が上品だ。作法を学んでいる最中からこそ、ライの所作が洗練されたものだと分かる。やはり住む世界が違うなぁと思った。

「何? 何か気になる?」
 見つめすぎてしまい声をかけられた。

「何でもない」
 見とれてしまったことが恥ずかしくて横を向く。
「お腹すいた?」
 ライの発言に思わずコップを落としそうになった。
 ライは少しズレていて面白い。ウルイの心に優しい笑いが沸き上がる。

「さっき朝食食べて来たじゃないか。もう忘れたのかよ」
 笑い返してライを見ると嬉しそうに目を細めていた。ライの心を反映している表情だ。こんなライの顔を見るのがウルイは好きだ。

「良い顔」
 つい一言が出てしまった。

「え? 俺がイケメンってこと?」
 すかさず反応するライにまたしてもガクッとなる。

「おい、自意識過剰すぎじゃんか」
「そうじゃないよ。ウルイが褒めてくれたかと思ったんだ。自分でイケメンだなんて思っていないよ」

 慌てるライが可笑しくて声を出して笑った。ウルイが笑うとライも笑う。二人でいれば優しい時間になる。

(ずっと、二人でいいのに)
 そう思いながら車窓の外を見れば、護衛の移動車が見えた。

 アルファであるライは貴重な存在であり、周囲から大切にされる存在だ。だから二人きりで居たいなどとウルイが望んではいけない。

 叶うはずのない願いを心の奥に押し込んだ。


 途中宿泊しながら五日かけてウルイの地元オアシスに向かった。旅の道中はライと二人で過ごした。苦しかった日々を忘れ去るような時間だった。

 王都を見てアドレアは大きな国だと知ったウルイだが、砂漠地帯に点在するオアシスを見て、自分は狭い世界で生きていたのだと分かった。
 オアシスごとに都市の雰囲気が違って面白かった。

 宿に泊まると大きな風呂や温水プールなどもあり楽しめた。動物を街内に飼育しているオアシスもあった。

 野性の動物と一定の距離をとっていたウルイのオアシスでは考えられないことだった。何もかもが新鮮だった。

 護衛は離れた場所にてウルイたちに干渉してこない。だからライと二人きりのように思えて嬉しかった。

 気持ちが落ち着くと食べ物が美味しくなった。匂いを嗅ぐと食べたいと思うようになった。

 そうして観光をしているうちに、ウルイは自分の体力が戻っていることを実感した。
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