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Ⅵ オアシスの変化
②
しおりを挟む王都を出発して五日が経過し、懐かしいウルイの育ったオアシスに着いた。車窓からの景色だけでウルイの気分が高揚した。
「あ、ほら! ライ、一番街だ。変わってないなぁ」
「本当だね。懐かしいなぁ」
ウルイの声に車窓を覗き込むようにしてライが外を見る。狭い窓に二人で引っ付くようにして顔が触れる様な距離。
そんな些細なことにウルイの顔が綻ぶ。
自分の故郷に戻った喜びで小さなことでも嬉しくなってしまう。心が浮足立っている。
「えへへ」
つい声に出して笑ってしまった。
「ふはは」
ライもつられたように笑う。何となく額をくっつけてクスクスと笑い合った。腹の底から温かいものがこみ上げた。
これは笑い合戦になるかと思ったが、浮遊移動車がガタンと停止して意識が逸れた。
「着いたね」
ライの一言にウルイに緊張が走る。
戻りたかったオアシスなのに、いざ到着すると心臓がバクバク鳴り出す。ソワソワして落ち着かない。
「つ、着いたんだね」
意味もなくライの言葉を繰り返した。帰ってきた感動を噛みしめて深呼吸をした。
ライに続いて浮遊移動車から下車をした。正面に見える家族が目に入り一瞬感動が溢れたが、驚きのほうが勝ってしまいウルイは静止した。
数メートル先にゴテゴテと着飾ったウルイの父と母、妹が居た。
その左右には集落の皆が立っている。皆、綺麗な服にギラギラと宝石をつけて満足そうな笑みを浮かべている。
その変わりようにウルイは言葉が出なかった。
「ウルイ! お帰り。我が息子、オメガ様であるウルイ!」
動けないウルイとは反対に父が両手を広げてウルイに駆け寄った。腕や首につけている貴金属の装飾がジャラジャラ鳴っていた。
「あぁ、アルファ伯爵様、ウルイの父です。アルファ様のオメガの父でございます」
偉そうな金持ち風の父の様子に、ウルイは呆然とするしかなかった。父の後ろから母と集落の人たちが同じようにライに媚びへつらっていた。
彼らを見てウルイはゾッとした。ウルイのことを『オメガ』と呼び、ライのことを『アルファ伯爵様』としか見ない父や母が怖くなった。
なぜかササラたちの姿が頭を過った。ウルイを気にせずライにむらがる父母の後ろには、冷たい目を向けるオアシスの住人たちがいた。
その目が、ウルイに向けられていて震えが走った。怖くなりライの背中にそっと隠れた。
「皆の歓迎に感謝する。我々は長旅のため疲れている。挨拶はこのくらいで」
異常な雰囲気を察してライが場を制した。
「それでしたら我が家にお越しください。伯爵様から贈られた邸宅はオアシスで一番の豪邸でございます。使用人も沢山おりますので何不自由なく過ごせます」
胸を張った父が大きな声を上げるが、ウルイは現状が受け入れられず『いやだ』と拒否したくなった。ライの服の裾をぎゅっと握った。
するとライが一瞬振り返り、ウルイを見た。その目から(ウルイの気持ちは分かっているよ)と伝わってきて、少し安堵した。
「いや、オアシスでは宿に滞在する。ウルイの家族の家には後日うかがおう。前回の視察で利用した宿で良いが、手配を頼めるか?」
「はい、はい。もちろんです! おい、副長《ふくおさ》! すぐに手配しろ」
父が命じている声に驚いてウルイは父を見た。
父の後ろから、元はオアシスの長《おさ》であったはずの方が、苦虫を噛みつぶしたような顔で「では直ぐに」と返事をしている。父に副長と呼ばれている人は、オアシスでは一番の権力者だったはず。
その人に父が偉そうに命令して動かしている。父とその人を交互に見ると、父が嬉しそうにウルイに話しかけてきた。
「ウルイ、驚いただろう? 今は私がこのオアシスの長だよ。当然だよな。オメガ様の父親なんだ。このオアシスの誰よりも偉くなったんだ!」
ふんぞり返る父の後ろで怒りに満ちた表情の副長が睨んでいた。
「父さん、なんか、別人みたいだ」
やっとのことでウルイが言葉にすると父は笑った。
「そうだ。すべてウルイのおかげだ!」
そう言う父が、ウルイの知る父ではないと思えて混乱した。オアシスで何が起きているのか全く想像できていなかった。
そんなウルイをエスコートして、周囲の目から守るようにライが足を進めた。
冷たい目が心に突き刺さるようで、ウルイは下を向いて歩いた。
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