発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅶ ガリイ国の奴隷<Sideライ>

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 暗闇に動く影は徐々に距離を詰めてきているように思う。遠目に見る限りでは数頭だ。だが、体格が犬ハイエナより大きい。馬に乗って逃げ切れるのだろうか。

 どうしていいのか分からず腕が震えた。考えても生き延びる策が思い浮かばない。ライの額に汗が流れた。

「ブルル」
 急に馬が鼻を鳴らした。馬を見れば、つぶらな瞳が一瞬ライを見た。そのまま、鼻をライの身体に押し付ける。まるで「行け」と言う様な仕草だ。

「お前……」
 馬の考えが分かってライは涙が流れた。その時、馬の気持が流れ込んできたような気がした。

『外を自由に走りたかった。願いが叶ったから、いいよ』

 馬の黒い瞳が輝いていた。

 悲しみと悔しさで止まらない涙を拭えないまま、ライは数歩ずつ距離をとった。

 馬は徐々に離れるライを見ることは無く、真っすぐに獣と向き合っていた。

「ヒヒ~~ン」
 急に鳴き声を上げ、馬が勢いよく走り出した。

 その瞬間を逃さず、ライは馬と反対方向に全力で駆けた。

 後ろに獣たちの鳴き声と足音が聞こえていた。けれどライは振り返ることは無く走った。

(ごめん。アドレアでもっと幸せな馬人生にしてあげたかった。お前が居なければガリイ国から出られなかった。ごめん、ごめん)

 溢れる思いのままに泣いて走った。遠くに馬の嘶きが聞こえた。ライは走りながら祈りを捧げた。

(どうか、あの馬に幸せな来世を)
 静かになった砂漠にライの願いが吸い込まれるようだった。



 そのまま一時間も走っていると流石に足が動かなくなってきた。アルファにも限界がある。

 それでも今度は倒れるものかと歩みを進めた。腕の中のウルイを守り切る。あの馬の雄姿に恥じてはならない。夜の獣はいつ襲ってくるのか分からない。絶対に生き延びる。その思いで必死に歩いた。

 一歩一歩が重くなってきたとき、遠くにキラリと何かが見えた。光が速いスピードで移動している。あれは、浮遊移動車の灯だ。それに気が付いて心が歓喜で沸き立った。オアシスが近いのだ。とうとう、帰って来られたのだ。

「ウルイ、聞こえるか? 浮遊移動車だ。もう、大丈夫だ!」

 嬉しくて気絶しているウルイに必死に語りかけた。語りかけながら光の方に進むと、偶然にも浮遊移動車が一台こちらに向かってくる。ライは逸る気持ちを抑えきれず叫びを上げた。

「お~~い! 助けてくれ! こっちだ!」
 声を上げながら浮遊移動車に向かって足を進めた。

(こっちだ! 気が付いてくれ!)
 そのライの願いが通じたのか、浮遊移動車がライの傍に停車した。それを見て、喜びでその場に座り込んだ。

 もう、動けなかった。夢じゃないよな、と何度も思った。

「ライ様! ライ伯爵公ですか⁉」
 ドアが開いた瞬間の声を聞いて、安堵にライの意識が遠のいた。

「ライ様! ウルイ様!」
 どこかで聞いた声だ。誰だったかな、と考えて一人の人物が思い浮かんだ。これは、オアシスの副長の声だ。

 懐かしくて頬が緩んだ。そこでライの意識が完全に途切れた。
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