発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅷ 変わるべきは……<Sideライ>

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 この帰りから宿に移った。

 宿に着くと「目が回る」とふらつくウルイを慌ててベッドに寝かせた。

 さすがにあれだけの事は、病み上がりのウルイには負担になったのだろう。
 すぐに軍医を呼んで診察を依頼した。眩暈はウルイの体力が戻っていないための疲れだと言われた。

 眩暈止めの薬を飲ませると、すぐにウルイは寝入った。

 ウルイは回復傾向であり生活は普通で良いと許可は出しているが、疲れやすいから気を付けて欲しいと軍医に言われた。さらに、まだ性行為はダメだと言われた。

 心の中で舌打ちした。そんなことは十分わかっている。

 本当はウルイの全てを愛したいと思っているが我慢しているのだ。そんなとこまで踏み込んでくる軍医にイライラした。

 ライの顔を見て青くなった軍医が逃げるように立ち去った。

 何だろうと不思議に思い鏡に映った自分を見ると、眉間に皺が寄っていた。明らかに不機嫌顔だ。

 同席していたサードに「ウルイ様が絡むと、ライ参謀は別人です」と言われた。

 確かにこれまでは、心の奥で怒っていても表面上は穏やかな仮面を着けて過ごしていた。今のように自分の感情が抑えられないことは無かった。

「なぁ、サード。俺は情けないよなぁ」
 こぼすように声に出した。

「ライ参謀、自分はそんなライ参謀が人間らしくていいと思えます。ただ、ウルイ様は愛らしく魅力的な方のため、不安になるのも仕方ないかと思います」

 淡々としたサードの言葉だが、内容が聞き捨てならない。

 立っているサードの真正面にライが立つ。身長ではライが十センチ高い。サードを見下ろす。

「俺の、ウルイだ」

「承知しております。そういう嫉妬心丸出しのところが、最近のライ参謀の好感度が上がっているところです」

 嫉妬心丸出しと言われれば、それが図星のように思えて恥ずかしくなる。
 ヤケクソになって、もう一度「俺のウルイだからな!」と念押しした。

 笑い出すサードにそれ以上の言葉をかけられず、赤くなる顔を隠すように背を向けた。

 後ろから小さな笑い声が聞こえていた。居たたまれなくてその場から逃げた。
 
 隣の寝室に入り、ベッドで寝ているウルイをひと撫でする。ライの事を「痩せた」と言ったウルイの優しさを思い出す。

「ウルイの方が、痩せたよ。ウルイはいつも自分のことは後回しだよな。そんなところが大好きだ。今日は、カッコ良かったよ」

 寝ているウルイを起こさないように小声で語りかけた。

「ウルイ、好きだ。愛している。オメガだとかどうでもいい。ウルイが、好きだ」

 言葉にしてみると心が晴れ晴れした。きっとこれが人を愛す気持ちだ。寝ているウルイの手の甲にそっとキスを落とし、愛おしさに目の奥が熱くなった、が。

「コンコン」
 控えめにドアをノックする音で幸福感が一気に萎れる。イラついてドアを薄く開ければサードが立っていた。

「お邪魔して申し訳ありません。陛下及び国防軍上層部、国法局への報告書類を作成お願いします」

 ライと目を合わせないように立つサードを睨みつけてしまった。

「後にしてもいいのですが、ウルイ様が寝ているうちの方がよろしいかと」

 申し訳なさそうなサードの提案を、深呼吸して受け入れる。

「そうだな。その方が、ウルイが起きてから一緒に居られるな」

 ライの返事にサードが安堵した様子が伝わって来た。怖がらせたように思った。

(ちょっと俺の態度がよくないなぁ)
 ポリポリと頭を掻いて反省し、執務に取り掛かった。


 今はウルイの傍に居たい。だから全力で報告書類の作成をした。

 国王陛下への書状、ウルイの失踪経過とオアシスの情勢報告、オアシスの治安報告、ガリイ国での経過、帰国経過と帰国後の対応報告と、山の様な量だった。もともと仕事は早い方だが、さらに今日は早かった。

「凄い……。ライ参謀はやはりアルファです。人間レベルのペースではありません」
 書類作成に付き合っていたサードが驚愕の表情を見せていた。

「ウルイの傍に早く戻りたいからな」
 手を止めずに声だけで返事をした。

「承知しました。国への書類送付は自分が行います。これさえ済めば、回復に時間を使っていただいて結構です。国王陛下から体調回復を最優先とするように指示がありました」

 サードの言葉を聞きながら報告書の束を手渡した。

「では、これで数日のんびりしていいか? もちろんサードが見張っていていい。オアシスの様子が見たい。ウルイ誘拐実行犯への温情を考慮する時間が欲しい。長が変わることで民衆の動きがあるかもしれん。ウルイの家族のこともあるしな。それらを確認して王都に戻る」

「承知しました。部隊の半分は先に王都に戻るようにしましょう。ま、全員がライ参謀とともに居たいと言い張りそうですが」

「ははは。そのあたりはサードの采配に任せるよ。心配かけてしまった自覚はある。全員が残りたいのなら、俺の指示のもと残ったことにして良い」

 彼らの涙を思い出して心が温かくなった。

 アドレアにいると人の優しさに触れる。人を大切にする思いが繋がって平和と幸福を招くのだろう。ガリイ国に無かったものだ。隣国なのに、この違いに切なくなった。

「承知しました。我々のボスはライ参謀です。皆、あなたを敬愛し、守りたいのですよ」

 意外な言葉に驚いてサードの顔を見た。少し恥ずかしそうにサードが横を向いた。真面目なサードの思いが心に伝わってくる。

 ライは感動で言葉がすぐに出なかった。ひと呼吸して席を立ち、サードに丁寧に頭を下げた。

「……ありがとう。皆にも、感謝を伝えて欲しい」
「もちろんです」

 サードが嬉しそうな笑みを浮かべた。彼が部下で幸せだと思った。
 外出の時には教えて欲しいと言い、サードは退室した。
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