69 / 80
Ⅸ 王都への帰還
③
しおりを挟む
だが、気持ちが落ち着くと、ウルイはどんな顔をしてオーナーに会えばいいのか分からなくなった。
ライから離れてウルイはその場に静止した。
「どうかした?」
ライに顔を覗き込まれた。
「うん。どの面下げて来たんだって怒られる、かな」
正直に答えると、ライの大きな手がウルイの頭を撫でる。
「大丈夫だと思うよ。じゃ、俺の後ろに隠れておいで」
不安な気持ちには勝てず、ウルイはライの影に入り込んだ。
ガチャリと入り口ドアを開けると『カランコロン』と来店を知らせる鐘が鳴る。
「は~い、いらっしゃいませ」
女性スタッフが対応してくれて店内に案内された。オーナーは見当たらない。少し緊張の糸が緩んだ。
席について一息つくと、店員が水とメニューを持ってテーブルに来た。コトンとテーブルに水が置かれた。
「いらっしゃい、ウルイ」
声が掛けられてハッと顔を上げた。ウルイの横にオーナーが立っていた。
ウルイはどう声をかければ良いのか分からず口をパクパクさせた。そんなウルイにオーナーがニコリと微笑み、ライと挨拶を交わし始めた。
その様子を見守りながら、ウルイは決意を固めた。
「では注文を承りました。少々お待ちください」
「オーナー、あの……」
立ち去ろうとするオーナーを呼び止めた。
「ウルイ、なんだ? オメガ様になったお前はもう雇ってやらんぞ」
「いえ、僕がいたせいで、嫌な思いをさせてしまって、すみません。お店、ごめんなさい」
こんな謝罪しても意味がないのかもしれない。すでにオーナーの前の店は潰れてしまった。それでもウルイは頭を下げずにはいられなかった。
「おいおい、やめてくれ。ウルイは何を思ったか知らないけどな、店を閉めたのは俺の責任だ。俺はウルイの頑張るところが気に入っていたんだ。だからな、ウルイを悪く言うならウチの店に来るなぁ、って何回か客に啖呵きったんだ。ま、客にそんな事をすれば店は繁盛しないよな」
ははは、とオーナーが笑った。ウルイはただオーナーを見つめた。
「俺は後悔していないさ。もともと自分の決めた正義のもとに生きて行くのがモットーだ。そして、今はこの店を大きくするために奮闘中だ。どうだ? 前ほどの大きさじゃないが、いい店だろう?」
オーナーに言われてウルイはコクコクと頷きを返した。感動でそれ以上何も言えなかった。
「じゃ、料理と飲み物持ってくるからな」
オーナーはキッチンに消えて行った。
「ウルイ、良かったね。ウルイを大切に思ってくれていたね」
ライの声に涙がジワリと滲む。温かい涙だ。目元をそっと拭ってライと微笑み合う。
「よし、たくさん食べよう。ライは水色キッチンの味は知っている? オーナーがレシピ作っていて、本当に美味しいんだ」
「そうか。適当におススメを頼んだが、ウルイの好きなのを追加しよう。持って帰ってもいいよ」
沢山注文してサードにも食べてもらった。全部を「美味しい」と笑いながら食べた。楽しくて嬉しくて最高な食事だった。
護衛兵の分のテイクアウト弁当をライが注文した。気前よくお金を使うライを見ると、伯爵公だなぁと感じた。
帰るときにオーナーが「また、顔を見せにおいで」と見送ってくれた。オーナーが優しく笑ってくれていた。必ず立ち寄ることを約束して店を後にした。
店から宿まで歩いた。街頭や店の灯りがキラキラ輝いて見えた。
心が温かくて、隣を歩くライの手にそっと触れてみた。
ライが目線だけウルイに向けた。ライのたれ目が優しくウルイを見つめている。
心に温かいものが溢れ続けて、ウルイはライの手をそっと握った。熱くて大きな手だ。この手に『ありがとう』が伝わるように願った。
ライは時々ウルイに視線を向けて、嬉しそうに微笑んでいた。
その後は各地のオアシス都市を楽しみながら王都まで五日かけて戻った。
少し距離が出来ていたように感じたライとの距離が、いつの間にか元に戻った。ギクシャクするよりこの方が良い。
ウルイは発情期以外に性的な事はしないと心に誓った。
ライから離れてウルイはその場に静止した。
「どうかした?」
ライに顔を覗き込まれた。
「うん。どの面下げて来たんだって怒られる、かな」
正直に答えると、ライの大きな手がウルイの頭を撫でる。
「大丈夫だと思うよ。じゃ、俺の後ろに隠れておいで」
不安な気持ちには勝てず、ウルイはライの影に入り込んだ。
ガチャリと入り口ドアを開けると『カランコロン』と来店を知らせる鐘が鳴る。
「は~い、いらっしゃいませ」
女性スタッフが対応してくれて店内に案内された。オーナーは見当たらない。少し緊張の糸が緩んだ。
席について一息つくと、店員が水とメニューを持ってテーブルに来た。コトンとテーブルに水が置かれた。
「いらっしゃい、ウルイ」
声が掛けられてハッと顔を上げた。ウルイの横にオーナーが立っていた。
ウルイはどう声をかければ良いのか分からず口をパクパクさせた。そんなウルイにオーナーがニコリと微笑み、ライと挨拶を交わし始めた。
その様子を見守りながら、ウルイは決意を固めた。
「では注文を承りました。少々お待ちください」
「オーナー、あの……」
立ち去ろうとするオーナーを呼び止めた。
「ウルイ、なんだ? オメガ様になったお前はもう雇ってやらんぞ」
「いえ、僕がいたせいで、嫌な思いをさせてしまって、すみません。お店、ごめんなさい」
こんな謝罪しても意味がないのかもしれない。すでにオーナーの前の店は潰れてしまった。それでもウルイは頭を下げずにはいられなかった。
「おいおい、やめてくれ。ウルイは何を思ったか知らないけどな、店を閉めたのは俺の責任だ。俺はウルイの頑張るところが気に入っていたんだ。だからな、ウルイを悪く言うならウチの店に来るなぁ、って何回か客に啖呵きったんだ。ま、客にそんな事をすれば店は繁盛しないよな」
ははは、とオーナーが笑った。ウルイはただオーナーを見つめた。
「俺は後悔していないさ。もともと自分の決めた正義のもとに生きて行くのがモットーだ。そして、今はこの店を大きくするために奮闘中だ。どうだ? 前ほどの大きさじゃないが、いい店だろう?」
オーナーに言われてウルイはコクコクと頷きを返した。感動でそれ以上何も言えなかった。
「じゃ、料理と飲み物持ってくるからな」
オーナーはキッチンに消えて行った。
「ウルイ、良かったね。ウルイを大切に思ってくれていたね」
ライの声に涙がジワリと滲む。温かい涙だ。目元をそっと拭ってライと微笑み合う。
「よし、たくさん食べよう。ライは水色キッチンの味は知っている? オーナーがレシピ作っていて、本当に美味しいんだ」
「そうか。適当におススメを頼んだが、ウルイの好きなのを追加しよう。持って帰ってもいいよ」
沢山注文してサードにも食べてもらった。全部を「美味しい」と笑いながら食べた。楽しくて嬉しくて最高な食事だった。
護衛兵の分のテイクアウト弁当をライが注文した。気前よくお金を使うライを見ると、伯爵公だなぁと感じた。
帰るときにオーナーが「また、顔を見せにおいで」と見送ってくれた。オーナーが優しく笑ってくれていた。必ず立ち寄ることを約束して店を後にした。
店から宿まで歩いた。街頭や店の灯りがキラキラ輝いて見えた。
心が温かくて、隣を歩くライの手にそっと触れてみた。
ライが目線だけウルイに向けた。ライのたれ目が優しくウルイを見つめている。
心に温かいものが溢れ続けて、ウルイはライの手をそっと握った。熱くて大きな手だ。この手に『ありがとう』が伝わるように願った。
ライは時々ウルイに視線を向けて、嬉しそうに微笑んでいた。
その後は各地のオアシス都市を楽しみながら王都まで五日かけて戻った。
少し距離が出来ていたように感じたライとの距離が、いつの間にか元に戻った。ギクシャクするよりこの方が良い。
ウルイは発情期以外に性的な事はしないと心に誓った。
81
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます
かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ
)は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。
ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。
今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。
本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。
全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。
(本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)
【完結】完璧アルファな推し本人に、推し語りするハメになったオレの顛末
竜也りく
BL
物腰柔らか、王子様のように麗しい顔、細身ながら鍛えられた身体、しかし誰にも靡かないアルファの中のアルファ。
巷のお嬢さん方を骨抜きにしているヴァッサレア公爵家の次男アルロード様にオレもまたメロメロだった。
時に男友達に、時にお嬢さん方に混ざって、アルロード様の素晴らしさを存分に語っていたら、なんとある日ご本人に聞かれてしまった。
しかも「私はそういう人の心の機微が分からなくて困っているんだ。これからも君の話を聞かせて欲しい」と頼まれる始末。
どうやら自分の事を言われているとはこれっぽっちも思っていないらしい。
そんなこんなで推し本人に熱い推し語りをする羽目になって半年、しかしオレも末端とはいえど貴族の一員。そろそろ結婚、という話もでるわけで見合いをするんだと話のついでに言ったところ……
★『小説家になろう』さんでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる