発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅸ 王都への帰還

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 だが、気持ちが落ち着くと、ウルイはどんな顔をしてオーナーに会えばいいのか分からなくなった。
 ライから離れてウルイはその場に静止した。

「どうかした?」
 ライに顔を覗き込まれた。

「うん。どの面下げて来たんだって怒られる、かな」
 正直に答えると、ライの大きな手がウルイの頭を撫でる。

「大丈夫だと思うよ。じゃ、俺の後ろに隠れておいで」
 不安な気持ちには勝てず、ウルイはライの影に入り込んだ。

 ガチャリと入り口ドアを開けると『カランコロン』と来店を知らせる鐘が鳴る。

「は~い、いらっしゃいませ」
 女性スタッフが対応してくれて店内に案内された。オーナーは見当たらない。少し緊張の糸が緩んだ。

 席について一息つくと、店員が水とメニューを持ってテーブルに来た。コトンとテーブルに水が置かれた。

「いらっしゃい、ウルイ」
 声が掛けられてハッと顔を上げた。ウルイの横にオーナーが立っていた。

 ウルイはどう声をかければ良いのか分からず口をパクパクさせた。そんなウルイにオーナーがニコリと微笑み、ライと挨拶を交わし始めた。

 その様子を見守りながら、ウルイは決意を固めた。
「では注文を承りました。少々お待ちください」

「オーナー、あの……」
 立ち去ろうとするオーナーを呼び止めた。

「ウルイ、なんだ? オメガ様になったお前はもう雇ってやらんぞ」

「いえ、僕がいたせいで、嫌な思いをさせてしまって、すみません。お店、ごめんなさい」

 こんな謝罪しても意味がないのかもしれない。すでにオーナーの前の店は潰れてしまった。それでもウルイは頭を下げずにはいられなかった。

「おいおい、やめてくれ。ウルイは何を思ったか知らないけどな、店を閉めたのは俺の責任だ。俺はウルイの頑張るところが気に入っていたんだ。だからな、ウルイを悪く言うならウチの店に来るなぁ、って何回か客に啖呵きったんだ。ま、客にそんな事をすれば店は繁盛しないよな」

 ははは、とオーナーが笑った。ウルイはただオーナーを見つめた。

「俺は後悔していないさ。もともと自分の決めた正義のもとに生きて行くのがモットーだ。そして、今はこの店を大きくするために奮闘中だ。どうだ? 前ほどの大きさじゃないが、いい店だろう?」

 オーナーに言われてウルイはコクコクと頷きを返した。感動でそれ以上何も言えなかった。

「じゃ、料理と飲み物持ってくるからな」
 オーナーはキッチンに消えて行った。

「ウルイ、良かったね。ウルイを大切に思ってくれていたね」
 ライの声に涙がジワリと滲む。温かい涙だ。目元をそっと拭ってライと微笑み合う。

「よし、たくさん食べよう。ライは水色キッチンの味は知っている? オーナーがレシピ作っていて、本当に美味しいんだ」

「そうか。適当におススメを頼んだが、ウルイの好きなのを追加しよう。持って帰ってもいいよ」

 沢山注文してサードにも食べてもらった。全部を「美味しい」と笑いながら食べた。楽しくて嬉しくて最高な食事だった。

 護衛兵の分のテイクアウト弁当をライが注文した。気前よくお金を使うライを見ると、伯爵公だなぁと感じた。

 帰るときにオーナーが「また、顔を見せにおいで」と見送ってくれた。オーナーが優しく笑ってくれていた。必ず立ち寄ることを約束して店を後にした。

 店から宿まで歩いた。街頭や店の灯りがキラキラ輝いて見えた。

 心が温かくて、隣を歩くライの手にそっと触れてみた。

 ライが目線だけウルイに向けた。ライのたれ目が優しくウルイを見つめている。

 心に温かいものが溢れ続けて、ウルイはライの手をそっと握った。熱くて大きな手だ。この手に『ありがとう』が伝わるように願った。

 ライは時々ウルイに視線を向けて、嬉しそうに微笑んでいた。

 その後は各地のオアシス都市を楽しみながら王都まで五日かけて戻った。

 少し距離が出来ていたように感じたライとの距離が、いつの間にか元に戻った。ギクシャクするよりこの方が良い。

 ウルイは発情期以外に性的な事はしないと心に誓った。
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