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Ⅸ 王都への帰還
⑤※
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「久しぶりにお会いしたのに、挨拶のひとつもできませんか?」
ウルイの直ぐ傍にササラが無表情で立つ。その顔が怒りを含んでいることは分かった。顔から血の気が引く感覚がした。
「あ、あの、お久しぶりです。お変わりは、ありませんか……」
以前に教えられていた通りの言葉がウルイの口からこぼれた。それを聞いたササラの表情がピクリと動く。
(あ、ダメだった? 怒られる!)
懐かしい恐怖感がウルイの心を占めて身体がビクリと震えた。
「白々しい。お変わりないか、ですか? あなたが邸から追い出したくせに。変わったわよ!伯爵家別荘で毎日来ることも無いライ様や伯爵家の方々のために邸管理をしているのよ! 長年誠心誠意尽くしてきた私とトムは、別荘で毎日毎日掃除ばかりしているわ! 私はこのドラール伯爵家の優秀な侍女ですのに! 全部、お前のせいだ!」
ササラの怒鳴り声に身体が固くなる。染み付いた習性なのかウルイは逃げることも出来ずに凍り付いていた。変な汗が流れた。
「この部屋は、ライ様もダリア様も教育室としてお使いになったのですよ」
ササラの言いたいことが分からない。なぜ嬉しそうにしているのか理解できない。
「貴族教育には音楽もあります。ここは、音が漏れないように防音室になっています」
ササラの優しい声を聞いてウルイの手が震えだした。つまり、悲鳴を上げようが室内で音を立てようが外に届くことが無いということだ。
部屋のドアはササラが入って来た一か所だけ。逃げるならドアしかない。きっとササラは怖い事を考えている。
嫌な予感がして椅子から立ち上がろうとしたのに、ササラに肩を押さえつけられる。急な接触に身構えた時、ガチャリとドアが開いた。
「少し入るのに手間取って時間がかかった」
振り向かなくても分かる。声の主は侍従長だったトムだ。トムに続く足音が数名分は聞えた。
「痛っ」
肩を抑えていたササラが手を離したと思ったら、誰かに腕を掴まれて乱暴に立たせられた。顔を上に向けさせられる。必死に抵抗したが、男の腕はビクともしなかった。
「へぇ、なかなか美人だ。これがオメガ様か」
「すげぇ。本当にオメガ様とセックスできるのか。夢みたいだ」
部屋には知らない男性が四人いた。セックスと言われて何が起こるか理解した。
オメガにとって最も苦しむことは番のアルファ以外との性交らしい。無理やりセックスされればオメガが死ぬこともある。
それはアルファとオメガについての教育で学んだ。だから不貞があってはいけないと言われている。
(逃げないとマズイ! 助けを呼ばないと!)
トムとササラはドアの前まで下がっている。逃げ道を塞いでいる。それなら窓を割って助けを呼べないだろうか。さすがに窓が割れれば誰か気が付いてくれるだろう。
一瞬の隙でいい。その隙を生むために、ウルイは怖くて男たちに抵抗できない振りをした。男たちはウルイの顔を眺め、服の上から身体のラインを触りゲラゲラ笑った。
それだけで吐き気がするほど気持ち悪かった。ライの優しい手と全然違う。
「しおらしいじゃん」
「怖くて抵抗できなくなっちゃったかな?」
「お漏らししてもいいですよぉ。他のもいっぱい出してもらっちゃうけど」
わははは、と笑う男たちが腕を掴む力を弱めた。
(今だ!)
ウルイは思いっきり腕を振り払い窓に走った。だが、窓に手をかける寸前でウルイの視界が歪んだ。
続いて身体に激痛と衝撃が走った。
「ゲホッ、ゲホッ!」
上手く息が出来なくて咳き込む。壁際に吹き飛ばされた身体はすぐに起こせなくて、痛む腹部を腕で抱え込んだ。
むせながら倒れているウルイの身体を男に踏みつけられた。
「やめ、苦し、い」
必死に声に出すが、体重をかけられてウルイの身体がミシミシ鳴る。痛くて苦しくてジワジワ涙が浮かんでくる。
「逃走、大失敗だなぁ」
「いや、勇気あるじゃんか」
ゴン、と蹴られて床を転がった。容赦のない暴力だ。
這いつくばるように必死で逃げた。
けれど、笑い声と沢山の手が降ってきて、抵抗する力が削がれていった。「こういうのを見るのは好まない。外に居る」そんなササラとトムの声が遠くに聞こえた。
それは、想像を絶するような苦痛だった。
泣き叫んで嫌だと訴えたけれど、男たちは止まらなかった。何度もライを呼んだ。
苦しくて意識が朦朧とする中で、(これは、僕がライのオメガになった罰だ)そんな冷めた考えが頭を過った。
「ウルイ!」
急に部屋のドアが開いた。見なくてもライだと分かる。ライに向けて必死に手を伸ばした。伸ばせていたのか分からないけれど、ライに触れたかった。
(助けて)
声にならない言葉を思い浮かべ、ウルイはいつもライに助けを求めてばかりだと思った。
「貴様ら! 殺してやる! 八つ裂きにしてやる! ウルイに、俺のウルイに~~!」
獣の様な咆哮が響いた。
部屋の中にライの匂いが満ちる。ライの怒りの圧を感じた。ウルイの周囲に居た男たちがいつの間にか吹き飛んでいる。
障害物が無くなったのに起き上がることが出来なくてウルイはライの姿を見つめていた。
「あぁ、あぁ、ウルイ。ウルイ」
怒りの圧に反してライが震える小声で呼んでくる。返事をしたいのに呼吸が苦しくて声が出ない。手足が冷たくて抱きしめ返すことも出来ない。
温かい腕のなかで息をするのが精一杯だった。だけど、それが来た。ライの発情期だ。
(そろそろだと思っていたけど、今かぁ)
ライから漏れ出る強い匂いに薄く笑った。ウルイを抱き締める腕の力が強くなる。そのまま、流れるように発情期に入った。
(死んでもいいからライの熱を受け止めよう)
そう覚悟を決めた。泣きながら謝るライを見るのは何度目だろう、と思った。
(僕はオメガだから、ライが泣くことはないんだ。僕はライが大好きだから、いいんだ)
ウルイの思いがライに届くように願った。
ウルイの直ぐ傍にササラが無表情で立つ。その顔が怒りを含んでいることは分かった。顔から血の気が引く感覚がした。
「あ、あの、お久しぶりです。お変わりは、ありませんか……」
以前に教えられていた通りの言葉がウルイの口からこぼれた。それを聞いたササラの表情がピクリと動く。
(あ、ダメだった? 怒られる!)
懐かしい恐怖感がウルイの心を占めて身体がビクリと震えた。
「白々しい。お変わりないか、ですか? あなたが邸から追い出したくせに。変わったわよ!伯爵家別荘で毎日来ることも無いライ様や伯爵家の方々のために邸管理をしているのよ! 長年誠心誠意尽くしてきた私とトムは、別荘で毎日毎日掃除ばかりしているわ! 私はこのドラール伯爵家の優秀な侍女ですのに! 全部、お前のせいだ!」
ササラの怒鳴り声に身体が固くなる。染み付いた習性なのかウルイは逃げることも出来ずに凍り付いていた。変な汗が流れた。
「この部屋は、ライ様もダリア様も教育室としてお使いになったのですよ」
ササラの言いたいことが分からない。なぜ嬉しそうにしているのか理解できない。
「貴族教育には音楽もあります。ここは、音が漏れないように防音室になっています」
ササラの優しい声を聞いてウルイの手が震えだした。つまり、悲鳴を上げようが室内で音を立てようが外に届くことが無いということだ。
部屋のドアはササラが入って来た一か所だけ。逃げるならドアしかない。きっとササラは怖い事を考えている。
嫌な予感がして椅子から立ち上がろうとしたのに、ササラに肩を押さえつけられる。急な接触に身構えた時、ガチャリとドアが開いた。
「少し入るのに手間取って時間がかかった」
振り向かなくても分かる。声の主は侍従長だったトムだ。トムに続く足音が数名分は聞えた。
「痛っ」
肩を抑えていたササラが手を離したと思ったら、誰かに腕を掴まれて乱暴に立たせられた。顔を上に向けさせられる。必死に抵抗したが、男の腕はビクともしなかった。
「へぇ、なかなか美人だ。これがオメガ様か」
「すげぇ。本当にオメガ様とセックスできるのか。夢みたいだ」
部屋には知らない男性が四人いた。セックスと言われて何が起こるか理解した。
オメガにとって最も苦しむことは番のアルファ以外との性交らしい。無理やりセックスされればオメガが死ぬこともある。
それはアルファとオメガについての教育で学んだ。だから不貞があってはいけないと言われている。
(逃げないとマズイ! 助けを呼ばないと!)
トムとササラはドアの前まで下がっている。逃げ道を塞いでいる。それなら窓を割って助けを呼べないだろうか。さすがに窓が割れれば誰か気が付いてくれるだろう。
一瞬の隙でいい。その隙を生むために、ウルイは怖くて男たちに抵抗できない振りをした。男たちはウルイの顔を眺め、服の上から身体のラインを触りゲラゲラ笑った。
それだけで吐き気がするほど気持ち悪かった。ライの優しい手と全然違う。
「しおらしいじゃん」
「怖くて抵抗できなくなっちゃったかな?」
「お漏らししてもいいですよぉ。他のもいっぱい出してもらっちゃうけど」
わははは、と笑う男たちが腕を掴む力を弱めた。
(今だ!)
ウルイは思いっきり腕を振り払い窓に走った。だが、窓に手をかける寸前でウルイの視界が歪んだ。
続いて身体に激痛と衝撃が走った。
「ゲホッ、ゲホッ!」
上手く息が出来なくて咳き込む。壁際に吹き飛ばされた身体はすぐに起こせなくて、痛む腹部を腕で抱え込んだ。
むせながら倒れているウルイの身体を男に踏みつけられた。
「やめ、苦し、い」
必死に声に出すが、体重をかけられてウルイの身体がミシミシ鳴る。痛くて苦しくてジワジワ涙が浮かんでくる。
「逃走、大失敗だなぁ」
「いや、勇気あるじゃんか」
ゴン、と蹴られて床を転がった。容赦のない暴力だ。
這いつくばるように必死で逃げた。
けれど、笑い声と沢山の手が降ってきて、抵抗する力が削がれていった。「こういうのを見るのは好まない。外に居る」そんなササラとトムの声が遠くに聞こえた。
それは、想像を絶するような苦痛だった。
泣き叫んで嫌だと訴えたけれど、男たちは止まらなかった。何度もライを呼んだ。
苦しくて意識が朦朧とする中で、(これは、僕がライのオメガになった罰だ)そんな冷めた考えが頭を過った。
「ウルイ!」
急に部屋のドアが開いた。見なくてもライだと分かる。ライに向けて必死に手を伸ばした。伸ばせていたのか分からないけれど、ライに触れたかった。
(助けて)
声にならない言葉を思い浮かべ、ウルイはいつもライに助けを求めてばかりだと思った。
「貴様ら! 殺してやる! 八つ裂きにしてやる! ウルイに、俺のウルイに~~!」
獣の様な咆哮が響いた。
部屋の中にライの匂いが満ちる。ライの怒りの圧を感じた。ウルイの周囲に居た男たちがいつの間にか吹き飛んでいる。
障害物が無くなったのに起き上がることが出来なくてウルイはライの姿を見つめていた。
「あぁ、あぁ、ウルイ。ウルイ」
怒りの圧に反してライが震える小声で呼んでくる。返事をしたいのに呼吸が苦しくて声が出ない。手足が冷たくて抱きしめ返すことも出来ない。
温かい腕のなかで息をするのが精一杯だった。だけど、それが来た。ライの発情期だ。
(そろそろだと思っていたけど、今かぁ)
ライから漏れ出る強い匂いに薄く笑った。ウルイを抱き締める腕の力が強くなる。そのまま、流れるように発情期に入った。
(死んでもいいからライの熱を受け止めよう)
そう覚悟を決めた。泣きながら謝るライを見るのは何度目だろう、と思った。
(僕はオメガだから、ライが泣くことはないんだ。僕はライが大好きだから、いいんだ)
ウルイの思いがライに届くように願った。
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