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Ⅹ 想いが繋がって
①
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怒鳴り声にウルイが薄く目を開ければ、怒り狂っているライの顔が目に入った。
どうしたのだろうと疑問が浮かぶ。
ライが怒りを表出するなんて有り得ない事だ。だから夢でも見ているのだとウルイは思った。
鬼のように怒るライだが、ウルイを胸に抱き締めている腕は労わるように優しい。そのギャップがおかしかった。
ライは一体何に怒っているのかと目線を向けると、ササラとトムが平伏していた。後ろに数名の侍女侍従も皆、まるで罪人のように膝をついて頭を垂れている。
「俺の愛するウルイだぞ! 他の誰でもない、俺の生涯ただ一人の伴侶だ! オメガにした時に違法薬物を使ったのはオアシスの愚かな者たちだ! ウルイじゃない!」
ライの声にササラが震えた声を出す。
「そんな。ウルイ様が、番になったのは薬のせいだって……」
「薬は関係ない! 俺はオアシスに入ってから何度もウルイを甘噛みしてマーキングしていた。発情期の前からオメガにするのはウルイだと俺が決めていたのだ!」
「私どもはライ様を思って、ライ様に相応しいお方にオメガになっていただきたくて……」
「なぜ俺が大切に愛する者を大事に出来ない! 俺が選んだオメガだぞ! それを受け入れないなど、俺への侮辱か!」
ライの怒りに全員が震えあがっている。
周りを見ればサードがいた。サードにとライの部下も数名いる。皆、一様に青白く怖い顔をしている。オアシスから王都に来るまでには見たことが無い顔だった。
(いやな、夢だ)
怖くなってウルイは身体を丸くした。少し動けばウルイを包み込んでいるライの腕に力が込められた。
「ん? ウルイ、寒いかな?」
怒り狂っていたのが嘘のように優しいライの声がした。その変わりようが不思議でライの顔を見上げていた。
ウルイに目を向けるライと目が合った。ライが驚いたかのように目を見開いてウルイを抱き締めた。
「あぁ、神よ。感謝します」
「なんと! 目が覚めましたか! ウルイ様、良かった」
「ウルイ様!」
いくつかの声が聞こえたけれど、全部夢だから返事をしなくていいと思った。
(さっきからライが僕の事を愛しているって言っている。こんなこと現実じゃない。都合のいい僕の夢だ)
そう思いながら、夢ならウルイも言ってみたくなった。夢でも言うのに勇気がいる。くすぐったい心に頬が緩む。
「僕も、ライを、愛している、よ」
声にすると、あまりに小さな自分の声に笑ってしまった。息を飲むようなライの様子が腕から伝わってくる。ライの心臓の音が急に速くなる。
「二人だけなら、いいのにね……」
いつも思っていた。ライと二人なら幸せだ。だが、ライが貴族アルファである以上は叶わない願いだ。その虚しさに涙が一粒、頬を伝った。
目を閉じて熱い胸に身を預けた。
ウルイの耳には「ウルイ、愛している」と言葉が入り込んできた。それは周囲に向けた怒鳴り声とは違って、慈愛に満ちた優しい声だった。嬉しくてコクリと頷き返した。
(夢じゃなければいいなぁ)
ウルイは再び眠りに入った。
「ウルイ、今日は西の砂漠で竜巻警報が出ているぞ。オアシスの皆には気を付けてほしいなぁ。どう? 起きられる?」
ライののんびりした声にウルイは少し微笑みかける。
「起こしてもらって、いい?」
すぐにライがウルイを抱き起こす。そのままソファーに運んでくれる。
「ありがとう。ベッドからソファーが数歩だ。これまでのドラール伯爵邸じゃ考えられない事だ」
おかしくて軽く笑う。
「俺と二人ならこの広さで十分だろ」
「確かに」
少し笑って室内を見渡す。キッチンとリビングダイニングがある。壁を取り外し、室内が一続きの部屋になっている。
ライがウルイを抱きかかえて動くのにドアや壁が邪魔だと言って急遽取り外した。室内を区切る壁をとれば広く見えたが、これまでの伯爵邸とは比べ物にならない狭さだ。
ソファーで休んでいるとライが温かいハチミツ紅茶を持ってきてくれる。
「はい」
「あはは。ライにお茶を淹れてもらうなんて贅沢だ」
温かい紅茶を手に取ると冷えた手にジワリと熱が伝わる。その温かさが心まで染み込む。しばらくそのまま温かさを感じていた。
「ウルイ? 調子悪い?」
「うん。ちょっと、寒い」
素直に伝えるとライが温石を数個持ってきてウルイを包んでいる毛布の中に入れてくれる。
「眠ければ寝ても良いから」
ウルイの横に座るライに寄りかかって紅茶を飲んだ。
「ウルイ、愛している」
ここのところ毎日注がれる甘い言葉に頬が緩む。
「僕も、ライが大好きだ」
お決まりになった愛のささやきにライと額をくっつけて笑い合った。
心の繋がる幸せにずっと浸っていたい。
あの夢かと思ったライの激怒シーンは現実だった。ライはウルイに危害を加えた、または加担した全ての者を処罰した。どう処罰したかは聞いていない。ただ、それについては周囲の誰もが口を閉ざした。
そして、発情期の後からウルイの体調がおかしくなった。
身体が冷えて寒くて仕方ない。温めていないと動くのが困難になるくらい身体が冷える。
医師によると、これは放置すれば仮死状態になってしまう原因不明の状態らしい。だが、ウルイには何となく原因が分かった。穢れたからだ。
きっとオメガとして失格となったのだ。
さらに、大きな変化があった。発情期を過ぎた数日で、ライが仕事を辞めた。国防軍に退役願いを出し、貴族爵位返上を国王陛下に上申した。
そして、この王都の端っこにある空き家を買い取りウルイと二人で移り住んだ。
使用人を一人も付けず、世の中の全てを遮断するように二人きりの生活になった。
二人だけなら礼儀もマナーも気にせず過ごせる。甘えても許される。身体が冷たいのが残念なくらい幸せな生活だ。
どうしたのだろうと疑問が浮かぶ。
ライが怒りを表出するなんて有り得ない事だ。だから夢でも見ているのだとウルイは思った。
鬼のように怒るライだが、ウルイを胸に抱き締めている腕は労わるように優しい。そのギャップがおかしかった。
ライは一体何に怒っているのかと目線を向けると、ササラとトムが平伏していた。後ろに数名の侍女侍従も皆、まるで罪人のように膝をついて頭を垂れている。
「俺の愛するウルイだぞ! 他の誰でもない、俺の生涯ただ一人の伴侶だ! オメガにした時に違法薬物を使ったのはオアシスの愚かな者たちだ! ウルイじゃない!」
ライの声にササラが震えた声を出す。
「そんな。ウルイ様が、番になったのは薬のせいだって……」
「薬は関係ない! 俺はオアシスに入ってから何度もウルイを甘噛みしてマーキングしていた。発情期の前からオメガにするのはウルイだと俺が決めていたのだ!」
「私どもはライ様を思って、ライ様に相応しいお方にオメガになっていただきたくて……」
「なぜ俺が大切に愛する者を大事に出来ない! 俺が選んだオメガだぞ! それを受け入れないなど、俺への侮辱か!」
ライの怒りに全員が震えあがっている。
周りを見ればサードがいた。サードにとライの部下も数名いる。皆、一様に青白く怖い顔をしている。オアシスから王都に来るまでには見たことが無い顔だった。
(いやな、夢だ)
怖くなってウルイは身体を丸くした。少し動けばウルイを包み込んでいるライの腕に力が込められた。
「ん? ウルイ、寒いかな?」
怒り狂っていたのが嘘のように優しいライの声がした。その変わりようが不思議でライの顔を見上げていた。
ウルイに目を向けるライと目が合った。ライが驚いたかのように目を見開いてウルイを抱き締めた。
「あぁ、神よ。感謝します」
「なんと! 目が覚めましたか! ウルイ様、良かった」
「ウルイ様!」
いくつかの声が聞こえたけれど、全部夢だから返事をしなくていいと思った。
(さっきからライが僕の事を愛しているって言っている。こんなこと現実じゃない。都合のいい僕の夢だ)
そう思いながら、夢ならウルイも言ってみたくなった。夢でも言うのに勇気がいる。くすぐったい心に頬が緩む。
「僕も、ライを、愛している、よ」
声にすると、あまりに小さな自分の声に笑ってしまった。息を飲むようなライの様子が腕から伝わってくる。ライの心臓の音が急に速くなる。
「二人だけなら、いいのにね……」
いつも思っていた。ライと二人なら幸せだ。だが、ライが貴族アルファである以上は叶わない願いだ。その虚しさに涙が一粒、頬を伝った。
目を閉じて熱い胸に身を預けた。
ウルイの耳には「ウルイ、愛している」と言葉が入り込んできた。それは周囲に向けた怒鳴り声とは違って、慈愛に満ちた優しい声だった。嬉しくてコクリと頷き返した。
(夢じゃなければいいなぁ)
ウルイは再び眠りに入った。
「ウルイ、今日は西の砂漠で竜巻警報が出ているぞ。オアシスの皆には気を付けてほしいなぁ。どう? 起きられる?」
ライののんびりした声にウルイは少し微笑みかける。
「起こしてもらって、いい?」
すぐにライがウルイを抱き起こす。そのままソファーに運んでくれる。
「ありがとう。ベッドからソファーが数歩だ。これまでのドラール伯爵邸じゃ考えられない事だ」
おかしくて軽く笑う。
「俺と二人ならこの広さで十分だろ」
「確かに」
少し笑って室内を見渡す。キッチンとリビングダイニングがある。壁を取り外し、室内が一続きの部屋になっている。
ライがウルイを抱きかかえて動くのにドアや壁が邪魔だと言って急遽取り外した。室内を区切る壁をとれば広く見えたが、これまでの伯爵邸とは比べ物にならない狭さだ。
ソファーで休んでいるとライが温かいハチミツ紅茶を持ってきてくれる。
「はい」
「あはは。ライにお茶を淹れてもらうなんて贅沢だ」
温かい紅茶を手に取ると冷えた手にジワリと熱が伝わる。その温かさが心まで染み込む。しばらくそのまま温かさを感じていた。
「ウルイ? 調子悪い?」
「うん。ちょっと、寒い」
素直に伝えるとライが温石を数個持ってきてウルイを包んでいる毛布の中に入れてくれる。
「眠ければ寝ても良いから」
ウルイの横に座るライに寄りかかって紅茶を飲んだ。
「ウルイ、愛している」
ここのところ毎日注がれる甘い言葉に頬が緩む。
「僕も、ライが大好きだ」
お決まりになった愛のささやきにライと額をくっつけて笑い合った。
心の繋がる幸せにずっと浸っていたい。
あの夢かと思ったライの激怒シーンは現実だった。ライはウルイに危害を加えた、または加担した全ての者を処罰した。どう処罰したかは聞いていない。ただ、それについては周囲の誰もが口を閉ざした。
そして、発情期の後からウルイの体調がおかしくなった。
身体が冷えて寒くて仕方ない。温めていないと動くのが困難になるくらい身体が冷える。
医師によると、これは放置すれば仮死状態になってしまう原因不明の状態らしい。だが、ウルイには何となく原因が分かった。穢れたからだ。
きっとオメガとして失格となったのだ。
さらに、大きな変化があった。発情期を過ぎた数日で、ライが仕事を辞めた。国防軍に退役願いを出し、貴族爵位返上を国王陛下に上申した。
そして、この王都の端っこにある空き家を買い取りウルイと二人で移り住んだ。
使用人を一人も付けず、世の中の全てを遮断するように二人きりの生活になった。
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