発情期アルファ貴族にオメガの導きをどうぞ

小池 月

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Ⅹ 想いが繋がって

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「昼間に市場に買い物に行ってくるよ。部屋を暖めておくし、一時間ほどで戻るから。何かあたらすぐに呼んで」

「うん。大丈夫だよ。市場に出たついでにライは楽しんできて」

 ここに移り住んで二週間。毎日ウルイの世話も家事も全てをライがこなしている。手伝いたいのにウルイの身体はうまく動いてくれない。

「俺は今ウルイと居ることが楽しいからいいの。これまで自分の願望通りに生きたことないからな。国防軍に退役願い出して爵位返上して、スッキリした。もう俺はアルファとして国に尽くす必要もないワケだ」

 満足そうに笑うライの顔を見た。少し無理しているように思う。

 ライは軍人として国の未来を見つめていた。小型偵察機の開発はどうしたのだろう。国のために猛進していたのは、ライのやりがいでもあったのに。

「ステーキ串、買ってくるよ。ソファーで良いい? それともベッドにいる?」
「ベッドにする」

 了解、と言いながら姫を扱うように大切にウルイを運んでくれる。布団の中に温石を入れて保温してくれる。ほかほかして気持ちいい。

 枕元に通信機をセットする。これは偵察機開発をしていたライがウルイ用に作ったものだ。ライがどこに居てもウルイと繋がっている。

 ちなみに家の内外には監視機器が設置されている。敷地内に侵入者が入ると警告音が鳴る。『警告で立ち去らない人には、怖いことが起きるんだ』とライは言っていた。

 何が起きるのかは聞くのをやめておいた。動物か人かを機械が判別しているらしく、そういうことをしているライは輝いていた。

(僕とこうして一生を過ごしていくつもりだろうか。だけど、きっと次の発情期は相手が出来ない。僕の身体が、持たない)

 それを考えると心が痛んだ。

 歴史上では、オメガと死に別れたアルファは狂い死ぬか自死を選んでいる。新たなオメガを作ったケースは無い。 
 だが、オメガは本当に生涯一人しか作れないのだろうか。誰かライの助けになってくれないだろうか。

 どうにかライに生きてもらうことを考えるのだが、頭が上手く働いてくれない。

(眠い……)
 冷える身体をポカポカと温める温石が眠気を誘う。


 うとうとしていると誰かの声が聞こえた。
「お願いです。ライ様が戻られないと遠方偵察実施案が暗礁に乗り上げてしまいます」
 知らない声だ。
「参謀、お戻りになってください」
 これはサードだ。挨拶しようかな、と思ったがウルイの目は開かなかった。

「俺はもう貴族でも軍人でもない。軍中枢部に居るお前たちがここに来てはいけない」

「ライ参謀! シーズ元帥より伝言があります。ライ参謀は大将階級同等である元帥参謀であり、アルファとして軍を動かす権限もあることから、書面一つで辞めさせられない、とのことです。一度、話し合いの場を設けたいそうです」

「俺はこれまで国のため、人のために生きて来た。だが、それでは愛するウルイを守れないことを知った。俺が守るべきは、尽くすべきは一つで良い。俺はウルイと共に生きて、死ぬ」

「ライ様……」
「ウルイが起きてしまう。戻る気はないと伝えてくれ」

 数人の足音が聞こえた。バタバタと聞こえる足音がウルイの耳に響いた。
 その足音に嫌な記憶が蘇る。苦しさが押し寄せる。

(嫌だ! 嫌だぁ!)

「ウルイ!」
 身体を揺すられてハッと目覚める。目の前には青い顔のライが居た。

「ぁ……、ライ」
「あぁ、良かった。うなされていた」

 目が開いてみて身体の冷たさにガタガタ震える。悪夢を見ると身体の冷えが酷くなる。ウルイの額に手を当てて体温を確認される。

「入るよ?」
 ライが服を脱ぎ捨ててウルイのベッドに潜り込む。

 身体が冷えすぎると裸で密着したほうが、体温が上昇する。されるままに服を脱がされて抱きしめられた。
 布団をかけて肌を合わせると、ライの体温が染み込むようにウルイに伝わる。

「あったかい」
「もっと、温まって」

 まるでライの呼吸や心臓の音まで独り占めしている気分になる。身体が冷たいのに心が満たされる。

「ライ、軍の仕事をしてきて」
「どうして?」

「昼間にサードさんたちが来ていただろ?」
「聞こえていたのか」

「うん」
 ライの胸に頬をすり押せる。生命力あふれる身体だ。

「生きる道を見つけて欲しい。ライと僕が生きる道を。このまま二人でいれば死を待つだけになる。ライならそれが分かっているはずだ。二人だけの幸せな死に逃げていいの?」

 ライの身体がビクリとした。

「生きるって苦しいんだな。それは貧しくても貴族でも同じだって知った。オメガになっても苦しい。だけど、ライとなら苦しくても生きて行きたい。僕は、ライと生きたい」

 ウルイの精一杯の気持を伝えた。ウルイを抱き締めている腕に力が込められた。

 しばらくすると頭の上から小さな泣き声が聞こえてきた。つられるようにウルイの目からも涙が滲み出た。

 翌日からライが王城に行き始めた。日中はライが厳選した使用人が二人来てくれる。

 ウルイは安堵していた。
 これでライが生きる意欲を持ってくれる。

 次の発情期までにウルイが助かる道など見つけられるはずがない。けれど、ライが助かる道は見つかるかもしれない。諦めないで欲しい。

 せめて次の発情期はオメガとして何とかしなくてはいけない。そこさえ乗り切れば、ライには三ケ月の時間が出来るから。
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