73 / 80
Ⅹ 想いが繋がって
②
しおりを挟む
「昼間に市場に買い物に行ってくるよ。部屋を暖めておくし、一時間ほどで戻るから。何かあたらすぐに呼んで」
「うん。大丈夫だよ。市場に出たついでにライは楽しんできて」
ここに移り住んで二週間。毎日ウルイの世話も家事も全てをライがこなしている。手伝いたいのにウルイの身体はうまく動いてくれない。
「俺は今ウルイと居ることが楽しいからいいの。これまで自分の願望通りに生きたことないからな。国防軍に退役願い出して爵位返上して、スッキリした。もう俺はアルファとして国に尽くす必要もないワケだ」
満足そうに笑うライの顔を見た。少し無理しているように思う。
ライは軍人として国の未来を見つめていた。小型偵察機の開発はどうしたのだろう。国のために猛進していたのは、ライのやりがいでもあったのに。
「ステーキ串、買ってくるよ。ソファーで良いい? それともベッドにいる?」
「ベッドにする」
了解、と言いながら姫を扱うように大切にウルイを運んでくれる。布団の中に温石を入れて保温してくれる。ほかほかして気持ちいい。
枕元に通信機をセットする。これは偵察機開発をしていたライがウルイ用に作ったものだ。ライがどこに居てもウルイと繋がっている。
ちなみに家の内外には監視機器が設置されている。敷地内に侵入者が入ると警告音が鳴る。『警告で立ち去らない人には、怖いことが起きるんだ』とライは言っていた。
何が起きるのかは聞くのをやめておいた。動物か人かを機械が判別しているらしく、そういうことをしているライは輝いていた。
(僕とこうして一生を過ごしていくつもりだろうか。だけど、きっと次の発情期は相手が出来ない。僕の身体が、持たない)
それを考えると心が痛んだ。
歴史上では、オメガと死に別れたアルファは狂い死ぬか自死を選んでいる。新たなオメガを作ったケースは無い。
だが、オメガは本当に生涯一人しか作れないのだろうか。誰かライの助けになってくれないだろうか。
どうにかライに生きてもらうことを考えるのだが、頭が上手く働いてくれない。
(眠い……)
冷える身体をポカポカと温める温石が眠気を誘う。
うとうとしていると誰かの声が聞こえた。
「お願いです。ライ様が戻られないと遠方偵察実施案が暗礁に乗り上げてしまいます」
知らない声だ。
「参謀、お戻りになってください」
これはサードだ。挨拶しようかな、と思ったがウルイの目は開かなかった。
「俺はもう貴族でも軍人でもない。軍中枢部に居るお前たちがここに来てはいけない」
「ライ参謀! シーズ元帥より伝言があります。ライ参謀は大将階級同等である元帥参謀であり、アルファとして軍を動かす権限もあることから、書面一つで辞めさせられない、とのことです。一度、話し合いの場を設けたいそうです」
「俺はこれまで国のため、人のために生きて来た。だが、それでは愛するウルイを守れないことを知った。俺が守るべきは、尽くすべきは一つで良い。俺はウルイと共に生きて、死ぬ」
「ライ様……」
「ウルイが起きてしまう。戻る気はないと伝えてくれ」
数人の足音が聞こえた。バタバタと聞こえる足音がウルイの耳に響いた。
その足音に嫌な記憶が蘇る。苦しさが押し寄せる。
(嫌だ! 嫌だぁ!)
「ウルイ!」
身体を揺すられてハッと目覚める。目の前には青い顔のライが居た。
「ぁ……、ライ」
「あぁ、良かった。うなされていた」
目が開いてみて身体の冷たさにガタガタ震える。悪夢を見ると身体の冷えが酷くなる。ウルイの額に手を当てて体温を確認される。
「入るよ?」
ライが服を脱ぎ捨ててウルイのベッドに潜り込む。
身体が冷えすぎると裸で密着したほうが、体温が上昇する。されるままに服を脱がされて抱きしめられた。
布団をかけて肌を合わせると、ライの体温が染み込むようにウルイに伝わる。
「あったかい」
「もっと、温まって」
まるでライの呼吸や心臓の音まで独り占めしている気分になる。身体が冷たいのに心が満たされる。
「ライ、軍の仕事をしてきて」
「どうして?」
「昼間にサードさんたちが来ていただろ?」
「聞こえていたのか」
「うん」
ライの胸に頬をすり押せる。生命力あふれる身体だ。
「生きる道を見つけて欲しい。ライと僕が生きる道を。このまま二人でいれば死を待つだけになる。ライならそれが分かっているはずだ。二人だけの幸せな死に逃げていいの?」
ライの身体がビクリとした。
「生きるって苦しいんだな。それは貧しくても貴族でも同じだって知った。オメガになっても苦しい。だけど、ライとなら苦しくても生きて行きたい。僕は、ライと生きたい」
ウルイの精一杯の気持を伝えた。ウルイを抱き締めている腕に力が込められた。
しばらくすると頭の上から小さな泣き声が聞こえてきた。つられるようにウルイの目からも涙が滲み出た。
翌日からライが王城に行き始めた。日中はライが厳選した使用人が二人来てくれる。
ウルイは安堵していた。
これでライが生きる意欲を持ってくれる。
次の発情期までにウルイが助かる道など見つけられるはずがない。けれど、ライが助かる道は見つかるかもしれない。諦めないで欲しい。
せめて次の発情期はオメガとして何とかしなくてはいけない。そこさえ乗り切れば、ライには三ケ月の時間が出来るから。
「うん。大丈夫だよ。市場に出たついでにライは楽しんできて」
ここに移り住んで二週間。毎日ウルイの世話も家事も全てをライがこなしている。手伝いたいのにウルイの身体はうまく動いてくれない。
「俺は今ウルイと居ることが楽しいからいいの。これまで自分の願望通りに生きたことないからな。国防軍に退役願い出して爵位返上して、スッキリした。もう俺はアルファとして国に尽くす必要もないワケだ」
満足そうに笑うライの顔を見た。少し無理しているように思う。
ライは軍人として国の未来を見つめていた。小型偵察機の開発はどうしたのだろう。国のために猛進していたのは、ライのやりがいでもあったのに。
「ステーキ串、買ってくるよ。ソファーで良いい? それともベッドにいる?」
「ベッドにする」
了解、と言いながら姫を扱うように大切にウルイを運んでくれる。布団の中に温石を入れて保温してくれる。ほかほかして気持ちいい。
枕元に通信機をセットする。これは偵察機開発をしていたライがウルイ用に作ったものだ。ライがどこに居てもウルイと繋がっている。
ちなみに家の内外には監視機器が設置されている。敷地内に侵入者が入ると警告音が鳴る。『警告で立ち去らない人には、怖いことが起きるんだ』とライは言っていた。
何が起きるのかは聞くのをやめておいた。動物か人かを機械が判別しているらしく、そういうことをしているライは輝いていた。
(僕とこうして一生を過ごしていくつもりだろうか。だけど、きっと次の発情期は相手が出来ない。僕の身体が、持たない)
それを考えると心が痛んだ。
歴史上では、オメガと死に別れたアルファは狂い死ぬか自死を選んでいる。新たなオメガを作ったケースは無い。
だが、オメガは本当に生涯一人しか作れないのだろうか。誰かライの助けになってくれないだろうか。
どうにかライに生きてもらうことを考えるのだが、頭が上手く働いてくれない。
(眠い……)
冷える身体をポカポカと温める温石が眠気を誘う。
うとうとしていると誰かの声が聞こえた。
「お願いです。ライ様が戻られないと遠方偵察実施案が暗礁に乗り上げてしまいます」
知らない声だ。
「参謀、お戻りになってください」
これはサードだ。挨拶しようかな、と思ったがウルイの目は開かなかった。
「俺はもう貴族でも軍人でもない。軍中枢部に居るお前たちがここに来てはいけない」
「ライ参謀! シーズ元帥より伝言があります。ライ参謀は大将階級同等である元帥参謀であり、アルファとして軍を動かす権限もあることから、書面一つで辞めさせられない、とのことです。一度、話し合いの場を設けたいそうです」
「俺はこれまで国のため、人のために生きて来た。だが、それでは愛するウルイを守れないことを知った。俺が守るべきは、尽くすべきは一つで良い。俺はウルイと共に生きて、死ぬ」
「ライ様……」
「ウルイが起きてしまう。戻る気はないと伝えてくれ」
数人の足音が聞こえた。バタバタと聞こえる足音がウルイの耳に響いた。
その足音に嫌な記憶が蘇る。苦しさが押し寄せる。
(嫌だ! 嫌だぁ!)
「ウルイ!」
身体を揺すられてハッと目覚める。目の前には青い顔のライが居た。
「ぁ……、ライ」
「あぁ、良かった。うなされていた」
目が開いてみて身体の冷たさにガタガタ震える。悪夢を見ると身体の冷えが酷くなる。ウルイの額に手を当てて体温を確認される。
「入るよ?」
ライが服を脱ぎ捨ててウルイのベッドに潜り込む。
身体が冷えすぎると裸で密着したほうが、体温が上昇する。されるままに服を脱がされて抱きしめられた。
布団をかけて肌を合わせると、ライの体温が染み込むようにウルイに伝わる。
「あったかい」
「もっと、温まって」
まるでライの呼吸や心臓の音まで独り占めしている気分になる。身体が冷たいのに心が満たされる。
「ライ、軍の仕事をしてきて」
「どうして?」
「昼間にサードさんたちが来ていただろ?」
「聞こえていたのか」
「うん」
ライの胸に頬をすり押せる。生命力あふれる身体だ。
「生きる道を見つけて欲しい。ライと僕が生きる道を。このまま二人でいれば死を待つだけになる。ライならそれが分かっているはずだ。二人だけの幸せな死に逃げていいの?」
ライの身体がビクリとした。
「生きるって苦しいんだな。それは貧しくても貴族でも同じだって知った。オメガになっても苦しい。だけど、ライとなら苦しくても生きて行きたい。僕は、ライと生きたい」
ウルイの精一杯の気持を伝えた。ウルイを抱き締めている腕に力が込められた。
しばらくすると頭の上から小さな泣き声が聞こえてきた。つられるようにウルイの目からも涙が滲み出た。
翌日からライが王城に行き始めた。日中はライが厳選した使用人が二人来てくれる。
ウルイは安堵していた。
これでライが生きる意欲を持ってくれる。
次の発情期までにウルイが助かる道など見つけられるはずがない。けれど、ライが助かる道は見つかるかもしれない。諦めないで欲しい。
せめて次の発情期はオメガとして何とかしなくてはいけない。そこさえ乗り切れば、ライには三ケ月の時間が出来るから。
81
あなたにおすすめの小説
運命を知らないアルファ
riiko
BL
オメガ嫌いの西条司は女性アルファとしか付き合わない、そんな中やたらと気になるオメガを見つけた。
運命やフェロモンという不確かなモノではなく、初めて本気で惹かれた唯一のオメガにはとんでもない秘密があった!?
オメガ嫌い御曹司α×ベータとして育った平凡Ω
オメガ主人公がお好きな方は『運命を知っているオメガ』をお読みくださいませ。こちらはその物語のアルファ側のお話です。このお話だけでも物語は完結しますが、両方読まれると答え合わせが楽しめます。
性描写が入るシーンは
※マークをタイトルにつけます、ご注意くださいませ。
コメント欄はそのまま載せておりますので、ネタバレ大丈夫な方のみご覧くださいませ。
物語、お楽しみいただけたら幸いです。
大嫌いなアルファと結婚しまして
リミル
BL
面倒見のいい隠れSなα×アルファから転化したΩ
久世優生と神崎基城はアルファの幼馴染みで、互いのスペックを競い合うライバル同士でもあった。
パーティーの最中、基城は原因不明の体調不良に襲われ、第二性がアルファからオメガに転化したと告げられる。
オメガになったことで、優生に馬鹿にされるかと思えば、何故かプロポーズを申し込まれてしまい──!?
僕の幸せは
春夏
BL
【完結しました】
【エールいただきました。ありがとうございます】
【たくさんの“いいね”ありがとうございます】
【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】
恋人に捨てられた悠の心情。
話は別れから始まります。全編が悠の視点です。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
【完結済】極上アルファを嵌めた俺の話
降魔 鬼灯
BL
ピアニスト志望の悠理は子供の頃、仲の良かったアルファの東郷司にコンクールで敗北した。
両親を早くに亡くしその借金の返済が迫っている悠理にとって未成年最後のこのコンクールの賞金を得る事がラストチャンスだった。
しかし、司に敗北した悠理ははオメガ専用の娼館にいくより他なくなってしまう。
コンサート入賞者を招いたパーティーで司に想い人がいることを知った悠理は地味な自分がオメガだとバレていない事を利用して司を嵌めて慰謝料を奪おうと計画するが……。
【完結済】「理想の恋人 〜タイムリープしたので、全財産貢いだダメ猫と別れます
かすがみずほ@理想の結婚二巻発売中
BL
30歳の警察官、オメガの貴弘(たかひろ
)は、猫獣人の不実な恋人・アルファの猫井司(ねこいつかさ)に裏切られたショックで家出をした矢先、埼玉山中の交通事故で事故死してしまう。
ところが、気付けば猫井と出会う前に時間が戻っていた。
今度の人生では猫井に振り回されるのをやめようと決心するが……。
本編「理想の結婚 俺、犬とお見合いします」のスピンオフです。
全く話が繋がっていないので、単体で問題なく読めます。
(本編のコミカライズにつきましては、日頃より有難うございます)
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる