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Ⅱ章「幸せを運ぶコウノトリと小さな文鳥の幸せ番」
side:加藤幸一④
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「これ、目が回る。俺には無理だって」
「ジャイロ機能オフにすればどう?」
二人で過ごす三日目。
リビングの大きなテレビで一緒にゲームをしている。俺はテレビゲームをしたことが無いから全然分からない。教えてもらっても、上手くいかない。
それでも徹が楽しそうなら良いと思える。
ここで引きこもっていると、世界に二人で生きているような変な気持ちが芽生えている。俺の鳥は、背中に文鳥を乗せて飛び、楽しそうに遊んでいる。たった三日で貧乏が遠い昔のよう。
だけど、気持ちを切り替えないと。
明日から大学に行く。何が変わるわけではないけれど、新しい世界に飛び出すような高揚感がある。
「そうだ、幸一。クレジットカード一枚渡す。携帯電話はコレ。あと、月十二万振り込むから食費とお小遣いとして使って。今月の分は入れてあるから」
「は? 多いって。奨学金だって二つ合わせて月七万だ。そこから光熱費や家賃引いて残りで何とかしていたって」
初めての携帯電話を物珍しく触る。
「節約するなら任せる。余ったらためとけばいいよ」
「徹に貧乏飯なんか出せるかよ」
「あはは。俺、菓子パンでも何でも出てくれば食べるよ。高校の寮生活で慣れている。週三日はハウスキーパーさんに徹の分も作ってもらうし、気負わなくていいって」
結局、家事全般請け負うことは柔らかく断られた。俺の家事担当は週四日。火曜木曜土日に決まった。本業は学生であることと、番として二人の時間を大切にしようと押し切られた。
どこまでも甘やかされている。携帯電話の扱いを教えてもらった。
大切にされるくすぐったさ。頬が緩む温かさ。
「おはよう。三日分のノート、いる?」
大学で大型インコと九官鳥、鳩を肩に乗せた三人に声をかけられた。
「……いいのか?」
正直助かるけれど、顔も知らない人たち。
「オレたち同じ法学部一年だよ。加藤君、宮下先輩と番鳥だろ。番の鳴き合い見たよ。感動した」
話しながら俺の横に自然に座る。これまで、汚いとか、ダサいとか言われて俺の横に座る人はいなかった。見た目が変わると周囲の対応も違ってくるのか。
「休んだ分、他の講義のも僕たちのノートで良ければ参考にして。このあと、フリースペースでどう?」
優しく声をかけられて顔が熱を持つ。
「あ、時計カッコいい。コレ高いだろ」
気づいてもらえて、心がホワッとする。
「徹と揃いで買った」
嬉しくて正直に話す。
「さすが番鳥。仲良しじゃん。いいなぁ」
優しく笑ってくれる三人。もしかして友達になれそうじゃないか。
嬉しくて俺の鳥と微笑み合った。いいことばかりだな。
フリースペースで、コーヒーを一緒に飲みながらノートを写させてもらう。講義はココまで進んだよ、と丁寧に教えてくれる。仲良くなれそう。
「幸一、友達?」
透き通る声。黒い艶髪に姿勢のいい立ち姿の徹が傍に来ていた。外で見るとまた凛として綺麗だ。見惚れてしまう。
「うん。休んだ分のノート、借りてる」
「へぇ。良かったじゃん」
穏やかな目元の徹が来ると、ノートを貸してくれた三人が頬を染めて自己紹介をした。
俺とお揃いの時計の話題も出している。徹が優しく対応している。
こうしてみると、背は高くないし細身の徹が一番存在感ある。会話をしていても背筋から首のラインがぶれずに綺麗な姿勢。自信に満ち気品のある雰囲気もいい。
「じゃ、俺いくね。幸一をよろしく」
にこやかに去っていく徹。
「加藤君といて良かった! あの宮下徹先輩と繋がりが出来そうだ! これからも仲よくしような!」
三人の興奮した言葉に、なぜかチクリと心が痛んだ。何だろう? よく分からない引っかかりを飲み込んだ。
それからは大学生活が楽しくなった。友達と話して、笑いあって。俺は知らないことばかりだけど、優しく輪に入れてくれる。これまでの孤独が嘘のよう。
徹に衝動行為でキスすることもなくなった。空腹じゃなければコントロールできる。困るのは、日を追うごとに徹が綺麗に見えること。徹のための家事もとても楽しい。充実した生活になっていた。
<華やかな集まり>
六月の終わりの金曜。試験準備で午後の講義が無い日。
昼にフリースペースで待ち合わせ。今日は、徹の高校時代の友人が遊びに来る。
絶滅危惧保護高位と最高位だと聞いた。通常出会うこともない保護種。徹は引き寄せる何かを持つのかもしれない。
彼らが「徹の番に会いたい」と大学に来てくれる。「被保護者が集まるなんて、目を引くぞ」と楽しそうな徹。俺はちょっと緊張する。徹の周りには人が集まる。きっと高校時代も充実していたのだろう。
何もない俺とは、違う。苦しいだけの貧しい孤児院での高校生活を思い出し、またチクリと心が痛かった。
「宮下君」
やや高めの少年のような声が呼ぶ。混雑しているフリースペースの人が静まり、彼らに道を譲っている。
「小坂! フジ!」
にこやかに手を振る徹。
驚いて声が出なかった。少年のような中性的な美しい男性の後ろに、大きな人。初めて見た巨大な猛禽類。ごくりと喉が鳴る。大型鳥の俺でも怖いと感じる。これまで見たことのない鳥だ。
「世界最大最強の猛禽類、オウギワシだ……」
何処かでつぶやく声が聞こえる。
「幸一、ビビっただろ」
横で楽しそうな徹。いや、ビビったどころじゃない! コレは知らせてもらわないと怖いだろう!
「宮下君、久しぶり」
低く穏やかな声。
百八十五センチ身長のある俺より目線が高い。百九十センチ以上は背丈のある男性。男前だ。近くに見るオウギワシに、俺の鳥を隠したくなる。俺のコウノトリは体長九十センチ以上あるけれど、それより大きい。ジワリと汗がにじむ。
「あはは。ドッキリ大成功! ちょっと注目浴びるのも良いかと思って大学構内待ち合わせにしたんだ」
カラカラ笑う徹。肩の文鳥も楽しそう。
「なるほどね。さすが宮下君。俺たちは上手く利用されたわけか」
「察しが良いね。そういうこと。この後は接待するよ。今は、幸一の箔をつけるために協力してくれ」
「え? ルイ、どうゆうこと?」
オウギワシの人と徹が話しているが、黒い小鳥の彼はついていけていない。耳の金のピアスが二つ。懐かしい。チクリと心が痛む。彼が絶滅危惧最高位の分身鳥を持つのか。
「小坂はそこにニコニコいるだけでいい。幸一と仲良くしてくれれば良いから」
俺たちは、すっかり注目を浴びている。
「席とってあるから、座って」
フリースペースの目立つ真ん中に陣取る。
周囲からササっと人が退く。千人以上いる大学の中で絶滅危惧の被保護者は俺だけ。今は、さらに猛禽類絶滅危惧高位のオウギワシと、絶滅危惧最高位のタヒチヒタキ。きらきらとピアスの輝く集団。普通に見る光景じゃない。
周りがざわめくのも無理はない。写真を撮られている音もする。この状況に慣れていそうな二人を見る。荷物を置いて、四人でコーヒーを買う。動きにいちいち視線を感じる。
「幸一君って呼んでいい?」
低い位置から見上げられて、ちょっとドキリとする。
変な色気のある人だな。片腕が不自由なのかサポーターで固定している。コクリと頷くと彼が頬を染めて笑う。上からの視線を感じ見上げれば、オウギワシの人が突き刺すように俺を見ていた。あぁ、彼らは番か。その視線で全てが分かった。
「俺は徹以外に興味ない」
ハッキリと彼に伝えると、穏やかな目元に戻るオウギワシの人。
「そう、良かった」
「コウノトリって最高位の保護鳥かと思っていた。高位なんだね」
四人でコーヒーを飲みながら話している。
「……最高位だったけれど、個体数が多くなって高位に下げられた」
正直に答える。
「そんなこともあるんだね。じゃ、コウノトリは少し救われたんだね。良かったね」
心臓がズキリと痛んだ。良い事なんか何もなかったよ、そう教えてあげたかった。
この幸せそうな彼には分からないだろうな。世の中は残酷なんだ。久しぶりに唇を噛みしめた。
「小坂。良かったかどうか、その立場にならないと分からないこともある。小坂はタヒチヒタキを分身鳥に持つ人が、世界に二人しかいないことで苦労したよな。強制的にフランス人と番鳥にさせられるところだったし。その経験からすると最高位から高位になることは良い事に思うだろう。一方の幸一は、まだ中学の頃に最高位から下げられて、強制的に国の保護施設を追い出され、家族のもとにも帰れず、孤児院で過ごしている。幸一からしたら最高位のまま過ごせた小坂は幸せ者だ」
「え? そんなこと、あるの?」
驚いた顔で俺を見る小坂君。俺も徹の言葉に驚いて小坂君を見ていた。
「宮下君、涼は深い意味はなく、思ったことを口にしただけだよ」
藤原君が穏やかな顔で守りの姿勢を見せる。
「あぁ、小坂を責めたわけじゃない。フジ、落ち着け。オウギワシを怒らすな。俺は小坂と幸一が互いの事を知ることが、いい意味で互いのためになると思っているんだ。ちょっとお互いに興味出ただろ?」
「なるほどね。本当に宮下君には敵わないな」
はは、と笑うオウギワシを肩に乗せた藤原君。
「土日あるし、ゆっくり話そう。とりあえず、この場で存在アピール作戦に乗ってくれてありがとう。フジの察しが良くて助かった」
「どういたしまして」
にこやかな二人のやり取りが分からず、俺と小坂君は首をかしげていた。
昼食を近くの蕎麦屋ですませた。なぜか、「カレーうどん」に大笑いする小坂君と藤原君。高校時代の思い出、か。徹は恵まれているからな。そう考えて、また心がチクリと痛んだ。
「ジャイロ機能オフにすればどう?」
二人で過ごす三日目。
リビングの大きなテレビで一緒にゲームをしている。俺はテレビゲームをしたことが無いから全然分からない。教えてもらっても、上手くいかない。
それでも徹が楽しそうなら良いと思える。
ここで引きこもっていると、世界に二人で生きているような変な気持ちが芽生えている。俺の鳥は、背中に文鳥を乗せて飛び、楽しそうに遊んでいる。たった三日で貧乏が遠い昔のよう。
だけど、気持ちを切り替えないと。
明日から大学に行く。何が変わるわけではないけれど、新しい世界に飛び出すような高揚感がある。
「そうだ、幸一。クレジットカード一枚渡す。携帯電話はコレ。あと、月十二万振り込むから食費とお小遣いとして使って。今月の分は入れてあるから」
「は? 多いって。奨学金だって二つ合わせて月七万だ。そこから光熱費や家賃引いて残りで何とかしていたって」
初めての携帯電話を物珍しく触る。
「節約するなら任せる。余ったらためとけばいいよ」
「徹に貧乏飯なんか出せるかよ」
「あはは。俺、菓子パンでも何でも出てくれば食べるよ。高校の寮生活で慣れている。週三日はハウスキーパーさんに徹の分も作ってもらうし、気負わなくていいって」
結局、家事全般請け負うことは柔らかく断られた。俺の家事担当は週四日。火曜木曜土日に決まった。本業は学生であることと、番として二人の時間を大切にしようと押し切られた。
どこまでも甘やかされている。携帯電話の扱いを教えてもらった。
大切にされるくすぐったさ。頬が緩む温かさ。
「おはよう。三日分のノート、いる?」
大学で大型インコと九官鳥、鳩を肩に乗せた三人に声をかけられた。
「……いいのか?」
正直助かるけれど、顔も知らない人たち。
「オレたち同じ法学部一年だよ。加藤君、宮下先輩と番鳥だろ。番の鳴き合い見たよ。感動した」
話しながら俺の横に自然に座る。これまで、汚いとか、ダサいとか言われて俺の横に座る人はいなかった。見た目が変わると周囲の対応も違ってくるのか。
「休んだ分、他の講義のも僕たちのノートで良ければ参考にして。このあと、フリースペースでどう?」
優しく声をかけられて顔が熱を持つ。
「あ、時計カッコいい。コレ高いだろ」
気づいてもらえて、心がホワッとする。
「徹と揃いで買った」
嬉しくて正直に話す。
「さすが番鳥。仲良しじゃん。いいなぁ」
優しく笑ってくれる三人。もしかして友達になれそうじゃないか。
嬉しくて俺の鳥と微笑み合った。いいことばかりだな。
フリースペースで、コーヒーを一緒に飲みながらノートを写させてもらう。講義はココまで進んだよ、と丁寧に教えてくれる。仲良くなれそう。
「幸一、友達?」
透き通る声。黒い艶髪に姿勢のいい立ち姿の徹が傍に来ていた。外で見るとまた凛として綺麗だ。見惚れてしまう。
「うん。休んだ分のノート、借りてる」
「へぇ。良かったじゃん」
穏やかな目元の徹が来ると、ノートを貸してくれた三人が頬を染めて自己紹介をした。
俺とお揃いの時計の話題も出している。徹が優しく対応している。
こうしてみると、背は高くないし細身の徹が一番存在感ある。会話をしていても背筋から首のラインがぶれずに綺麗な姿勢。自信に満ち気品のある雰囲気もいい。
「じゃ、俺いくね。幸一をよろしく」
にこやかに去っていく徹。
「加藤君といて良かった! あの宮下徹先輩と繋がりが出来そうだ! これからも仲よくしような!」
三人の興奮した言葉に、なぜかチクリと心が痛んだ。何だろう? よく分からない引っかかりを飲み込んだ。
それからは大学生活が楽しくなった。友達と話して、笑いあって。俺は知らないことばかりだけど、優しく輪に入れてくれる。これまでの孤独が嘘のよう。
徹に衝動行為でキスすることもなくなった。空腹じゃなければコントロールできる。困るのは、日を追うごとに徹が綺麗に見えること。徹のための家事もとても楽しい。充実した生活になっていた。
<華やかな集まり>
六月の終わりの金曜。試験準備で午後の講義が無い日。
昼にフリースペースで待ち合わせ。今日は、徹の高校時代の友人が遊びに来る。
絶滅危惧保護高位と最高位だと聞いた。通常出会うこともない保護種。徹は引き寄せる何かを持つのかもしれない。
彼らが「徹の番に会いたい」と大学に来てくれる。「被保護者が集まるなんて、目を引くぞ」と楽しそうな徹。俺はちょっと緊張する。徹の周りには人が集まる。きっと高校時代も充実していたのだろう。
何もない俺とは、違う。苦しいだけの貧しい孤児院での高校生活を思い出し、またチクリと心が痛かった。
「宮下君」
やや高めの少年のような声が呼ぶ。混雑しているフリースペースの人が静まり、彼らに道を譲っている。
「小坂! フジ!」
にこやかに手を振る徹。
驚いて声が出なかった。少年のような中性的な美しい男性の後ろに、大きな人。初めて見た巨大な猛禽類。ごくりと喉が鳴る。大型鳥の俺でも怖いと感じる。これまで見たことのない鳥だ。
「世界最大最強の猛禽類、オウギワシだ……」
何処かでつぶやく声が聞こえる。
「幸一、ビビっただろ」
横で楽しそうな徹。いや、ビビったどころじゃない! コレは知らせてもらわないと怖いだろう!
「宮下君、久しぶり」
低く穏やかな声。
百八十五センチ身長のある俺より目線が高い。百九十センチ以上は背丈のある男性。男前だ。近くに見るオウギワシに、俺の鳥を隠したくなる。俺のコウノトリは体長九十センチ以上あるけれど、それより大きい。ジワリと汗がにじむ。
「あはは。ドッキリ大成功! ちょっと注目浴びるのも良いかと思って大学構内待ち合わせにしたんだ」
カラカラ笑う徹。肩の文鳥も楽しそう。
「なるほどね。さすが宮下君。俺たちは上手く利用されたわけか」
「察しが良いね。そういうこと。この後は接待するよ。今は、幸一の箔をつけるために協力してくれ」
「え? ルイ、どうゆうこと?」
オウギワシの人と徹が話しているが、黒い小鳥の彼はついていけていない。耳の金のピアスが二つ。懐かしい。チクリと心が痛む。彼が絶滅危惧最高位の分身鳥を持つのか。
「小坂はそこにニコニコいるだけでいい。幸一と仲良くしてくれれば良いから」
俺たちは、すっかり注目を浴びている。
「席とってあるから、座って」
フリースペースの目立つ真ん中に陣取る。
周囲からササっと人が退く。千人以上いる大学の中で絶滅危惧の被保護者は俺だけ。今は、さらに猛禽類絶滅危惧高位のオウギワシと、絶滅危惧最高位のタヒチヒタキ。きらきらとピアスの輝く集団。普通に見る光景じゃない。
周りがざわめくのも無理はない。写真を撮られている音もする。この状況に慣れていそうな二人を見る。荷物を置いて、四人でコーヒーを買う。動きにいちいち視線を感じる。
「幸一君って呼んでいい?」
低い位置から見上げられて、ちょっとドキリとする。
変な色気のある人だな。片腕が不自由なのかサポーターで固定している。コクリと頷くと彼が頬を染めて笑う。上からの視線を感じ見上げれば、オウギワシの人が突き刺すように俺を見ていた。あぁ、彼らは番か。その視線で全てが分かった。
「俺は徹以外に興味ない」
ハッキリと彼に伝えると、穏やかな目元に戻るオウギワシの人。
「そう、良かった」
「コウノトリって最高位の保護鳥かと思っていた。高位なんだね」
四人でコーヒーを飲みながら話している。
「……最高位だったけれど、個体数が多くなって高位に下げられた」
正直に答える。
「そんなこともあるんだね。じゃ、コウノトリは少し救われたんだね。良かったね」
心臓がズキリと痛んだ。良い事なんか何もなかったよ、そう教えてあげたかった。
この幸せそうな彼には分からないだろうな。世の中は残酷なんだ。久しぶりに唇を噛みしめた。
「小坂。良かったかどうか、その立場にならないと分からないこともある。小坂はタヒチヒタキを分身鳥に持つ人が、世界に二人しかいないことで苦労したよな。強制的にフランス人と番鳥にさせられるところだったし。その経験からすると最高位から高位になることは良い事に思うだろう。一方の幸一は、まだ中学の頃に最高位から下げられて、強制的に国の保護施設を追い出され、家族のもとにも帰れず、孤児院で過ごしている。幸一からしたら最高位のまま過ごせた小坂は幸せ者だ」
「え? そんなこと、あるの?」
驚いた顔で俺を見る小坂君。俺も徹の言葉に驚いて小坂君を見ていた。
「宮下君、涼は深い意味はなく、思ったことを口にしただけだよ」
藤原君が穏やかな顔で守りの姿勢を見せる。
「あぁ、小坂を責めたわけじゃない。フジ、落ち着け。オウギワシを怒らすな。俺は小坂と幸一が互いの事を知ることが、いい意味で互いのためになると思っているんだ。ちょっとお互いに興味出ただろ?」
「なるほどね。本当に宮下君には敵わないな」
はは、と笑うオウギワシを肩に乗せた藤原君。
「土日あるし、ゆっくり話そう。とりあえず、この場で存在アピール作戦に乗ってくれてありがとう。フジの察しが良くて助かった」
「どういたしまして」
にこやかな二人のやり取りが分からず、俺と小坂君は首をかしげていた。
昼食を近くの蕎麦屋ですませた。なぜか、「カレーうどん」に大笑いする小坂君と藤原君。高校時代の思い出、か。徹は恵まれているからな。そう考えて、また心がチクリと痛んだ。
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