分身鳥の恋番

小池 月

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Ⅲ章「飛べない鳥と猛禽鳥の愛番」

side:南田 脩③

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 あれから数年が過ぎたと思う。僕は生きているのか死んでいるのか、よく分からなくなっていた。

この数年間、誰とも会話していない。そして三人の子供を産んだ。セックスして、妊娠して、産んで。それ以外何もしていない。

食べることも整容もどうでも良くなっていた。食べなくても栄養剤やら勝手に点滴された。子供を産むことに困らなければいいみたいだった。

妊娠が怖くて嫌で、自分のお腹を殴った。そうすると身体の自由が制限された。苦しくて辛い妊娠期。周産期になると麻酔をかけられ帝王切開で知らない間に出産。産んだ子を見てもいない。

あぁ、僕はもう人間でもない、産むための道具だ、そう感じた。

僕にできる事は泣くことだけだった。僕の鳥も目に見えて弱っていった。長い時間を死んだ魚のように過ごした。抵抗もやめた。好きにしたらいい。



 ある日、日本の保護局の人が来た。懐かしい日本語で色々言っていたが、何も頭に入ってこなかった。

車いすで連れ出され、気が付いたら日本の見慣れた保護施設だった。幼少期を過ごした国の保護施設の部屋だと懐かしく思った。

 日本語を話す人が数人入ってきて、何か話しかけてくる。おかしい。日本語なのは分かるけど、何を言っているのか全然分からない。知らない英語が飛び交っているようだ。

仕方ないから寝ることにした。どうぞ。セックスするならすればいい。勝手にやってくれ。目を閉じていると、ふとある言葉が頭に入ってくる。

「羽田咲人さんには会いますか? 理解できていないかな」

途端に冷汗が出た。

咲人。羽田咲人。

飛び起きて、「嫌だ! 会いたくない! こんな汚れた僕なんか、見せたくない!」必死で声に出そうとしたけれど、かすれた息しか出せない。全身がブルブル震えた。

「会いますか?」

もう一度、はっきり聞こえた言葉に、必死で首を横に振った。絶対に嫌だ。弱り切って走ることが出来なくなった僕の鳥もガタガタ震えていた。

「分かりました。会わなくて、いいですね」

ハッキリ聞こえた声に、コクコクと頷く。

久しぶりに自分で動いたように思う。これだけの動作にひどく疲れて眩暈がする。

「まぁ幸いヤンバルクイナは数が多いですから、絶滅することはないでしょう」

遠くから聞こえる声。セックスしないんだ。良かった。もう、休ませてください。

疲労感で目を閉じた。

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