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Ⅱ ダイエットは食事から!
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「そう言えば、酒井の食生活ってどうなってんの? ダイエットの本には自分の食べている量や食べ物の傾向を知ることも大事って書いてあったけど」
「ん――。腹にたまればいい、かな。こだわりなし」
「え? 肉食いたいな、とか無いのか?」
凛太朗の質問に少し困り顔で酒井が答える。
「実は、食いたいってのが無いかも。でも今日は久しぶりに美味いって気持ちになった。懐かしい感じだった」
凛太朗は酒井を見つめた。
詳しく説明してこないけれど、きっと母親が生きている事には「美味しい」とか「食べたい」とかの感情があったのだろう。それが、いつの間にか「腹が満たされれば何でもいい」に変わってしまったのかもしれない。
それはまるで「生きる」ことがどうでも良くなってしまったかのように思えてしまう。凛太朗は込み上げる思いをどう表現していいのか分からず、言葉が出なかった。
「どうかした?」
怪訝な顔になった酒井には凛太朗の胸の内を知って欲しくなかった。憐れんでいると思われたくない。凛太朗の心のどこかで『酒井には嫌われたくない』との思いが生まれた。
「そ、そっか。だから、パンを多く食べていたんだな」
心を読まれないように焦って話した凛太朗の言葉に、酒井が一度首を傾げた。
「あ、やっぱし俺の食べる量って多い? 腹が満たされるまで、何でもいいから詰め込んじゃえって食ってたけど、多かったんだな」
穏やかに話す酒井に凛太朗は少しホッとした。凛太朗の考えはきっとバレていない。気持ちを切り替えて凛太朗は酒井に向き合った。
「昼のパンって何個くらい?」
「六個」
「六個? よく腹に入ったな」
「うん。パンってさ、パクパクいけるんだ。それで腹持ちがイイ」
淡々と話す酒井に凛太朗は笑った。
「味はマジで二の次なんだな。嫌いな味とかないのかよ」
「うん。無い」
即答する酒井が面白かった。
「好き嫌いのない良い子だな」
凛太朗が笑いながら声を掛けると酒井も楽しそうに笑った。
「だろ? 何でも食べてグングン育つぞ」
「アホか。それ以上育つな! 逆だ、逆!」
酒井のこれまでの静かなイメージを覆すような冗談が面白かった。この居心地の良さに頬が和らぐ。
酒井と楽しく話すうちに昼休みが終わった。
これまで凛太朗は陽キャには緊張して過ごし、女子とは話せなくて、孤独に食事をしていた。昼休みは一人の時間だった。そんな凛太朗にとって今日の昼休みはとても満たされた時間だった。
「あ、酒井。一緒に帰ろう」
帰り際に教室で凛太朗が声を掛けると酒井はコクリと頷いた。
「凛太朗、図書室寄る? 本、どうする?」
凛太朗は先日借りたダイエット専門書を参考に料理を始めている。返却するには早い。
「まだ借りていようかな。酒井は運動編、読み終わった?」
「終わったけど、見ながらやりたいこともあるし、期日ギリギリまで借りるよ」
「じゃ、図書室は他に良いダイエット本が無いかチェックに立ち寄って、その後、本屋とか行かね?」
「いいけど」
「図書館の本だと返さなきゃだろ? 市販でいいのがあるか見に行こう」
「あ、それいい。高くないと良いけど。駅前の本屋が大きいかな」
「おう。駅行くけど、買い食いはしないぞ」
「分かってるって。今日は凛太郎弁当で満足してる。けど、実はちょい腹減った」
二人で笑いながら教室を出た。そのまま図書室に立ち寄り、ダイエット本の並ぶ棚を眺めて、「新しいのは無いな」と確認をしてから酒井とバスに乗った。
「酒井ん家って駅方向?」
バスの後方座席で揺られながら声を掛けた。
「駅向こう。凛太朗の家は?」
「僕は駅からバスで十五分。なぁ、酒井の家って、その、食事どうしてんの?」
聞いて良いのか分からないけれど、家の話が出たついでに聞いた。
「父さんと二人だけど、それぞれ弁当買ったり。父さんは外で食べることが多いかな」
「ふうん。兄弟は?」
「いないよ。俺一人」
「そっか」
父親と二人なのに、その父親と別々に食事していると想像して、凛太朗は酒井の孤独に触れた気がした。穏やかな酒井の心にはたくさんの感情が隠されていると思った。
「かわいそうって言われ慣れているから、大丈夫」
酒井の言葉が凛太朗の胸にグサリと刺さった。凛太朗が心の底で感じていた『かわいそう』の気持ちを酒井に知られていた衝撃で、身体がビクリと反応した。
「凛太朗に気ぃ使わせて、ごめん」
優しく微笑む酒井を見て凛太朗は泣きたくなった。
かわいそうと言われることに慣れなければいけなかった酒井の人生を想像すれば、鼻の奥がツンとした。そんな凛太朗の心を見透かしているだろう酒井に背を向けたくなかった。
「酒井、僕こそごめん。憐れんじゃいけないと思いながらも、お前ん家の事を考えると、心がジンとするというか、込み上げるものがあって。それを隠すべきだと思いながら上手く出来なくて。結局、嫌な思いさせてるかも」
正直な凛太朗の気持ちを伝えた。隠せない感情なら話してしまった方が良いだろうと思ったから。だが、上手く表現できずに自分の語彙力のなさにガッカリしてしまった。酒井は凛太朗と目を合わせたままポカンとしていた。
「って、何言ってんのか分からんよな。ははは」
恥ずかしさに照れ笑いをして酒井から視線を外した。
「いや、良く分かった、気がする。すごくストレートな言葉が嬉しい。凛太朗、ありがとう」
落ち着きのある声が聞こえて凛太郎は横目で酒井を見た。酒井は頬を染めて微笑んでいた。
「ん」と返事をしながら、(このぽっちゃり頬が可愛いんだよな)と凛太朗は思った。
その後は静かにバスに揺られた。無理に話をしなくても酒井となら安心した時間になるから不思議だった。
「ん――。腹にたまればいい、かな。こだわりなし」
「え? 肉食いたいな、とか無いのか?」
凛太朗の質問に少し困り顔で酒井が答える。
「実は、食いたいってのが無いかも。でも今日は久しぶりに美味いって気持ちになった。懐かしい感じだった」
凛太朗は酒井を見つめた。
詳しく説明してこないけれど、きっと母親が生きている事には「美味しい」とか「食べたい」とかの感情があったのだろう。それが、いつの間にか「腹が満たされれば何でもいい」に変わってしまったのかもしれない。
それはまるで「生きる」ことがどうでも良くなってしまったかのように思えてしまう。凛太朗は込み上げる思いをどう表現していいのか分からず、言葉が出なかった。
「どうかした?」
怪訝な顔になった酒井には凛太朗の胸の内を知って欲しくなかった。憐れんでいると思われたくない。凛太朗の心のどこかで『酒井には嫌われたくない』との思いが生まれた。
「そ、そっか。だから、パンを多く食べていたんだな」
心を読まれないように焦って話した凛太朗の言葉に、酒井が一度首を傾げた。
「あ、やっぱし俺の食べる量って多い? 腹が満たされるまで、何でもいいから詰め込んじゃえって食ってたけど、多かったんだな」
穏やかに話す酒井に凛太朗は少しホッとした。凛太朗の考えはきっとバレていない。気持ちを切り替えて凛太朗は酒井に向き合った。
「昼のパンって何個くらい?」
「六個」
「六個? よく腹に入ったな」
「うん。パンってさ、パクパクいけるんだ。それで腹持ちがイイ」
淡々と話す酒井に凛太朗は笑った。
「味はマジで二の次なんだな。嫌いな味とかないのかよ」
「うん。無い」
即答する酒井が面白かった。
「好き嫌いのない良い子だな」
凛太朗が笑いながら声を掛けると酒井も楽しそうに笑った。
「だろ? 何でも食べてグングン育つぞ」
「アホか。それ以上育つな! 逆だ、逆!」
酒井のこれまでの静かなイメージを覆すような冗談が面白かった。この居心地の良さに頬が和らぐ。
酒井と楽しく話すうちに昼休みが終わった。
これまで凛太朗は陽キャには緊張して過ごし、女子とは話せなくて、孤独に食事をしていた。昼休みは一人の時間だった。そんな凛太朗にとって今日の昼休みはとても満たされた時間だった。
「あ、酒井。一緒に帰ろう」
帰り際に教室で凛太朗が声を掛けると酒井はコクリと頷いた。
「凛太朗、図書室寄る? 本、どうする?」
凛太朗は先日借りたダイエット専門書を参考に料理を始めている。返却するには早い。
「まだ借りていようかな。酒井は運動編、読み終わった?」
「終わったけど、見ながらやりたいこともあるし、期日ギリギリまで借りるよ」
「じゃ、図書室は他に良いダイエット本が無いかチェックに立ち寄って、その後、本屋とか行かね?」
「いいけど」
「図書館の本だと返さなきゃだろ? 市販でいいのがあるか見に行こう」
「あ、それいい。高くないと良いけど。駅前の本屋が大きいかな」
「おう。駅行くけど、買い食いはしないぞ」
「分かってるって。今日は凛太郎弁当で満足してる。けど、実はちょい腹減った」
二人で笑いながら教室を出た。そのまま図書室に立ち寄り、ダイエット本の並ぶ棚を眺めて、「新しいのは無いな」と確認をしてから酒井とバスに乗った。
「酒井ん家って駅方向?」
バスの後方座席で揺られながら声を掛けた。
「駅向こう。凛太朗の家は?」
「僕は駅からバスで十五分。なぁ、酒井の家って、その、食事どうしてんの?」
聞いて良いのか分からないけれど、家の話が出たついでに聞いた。
「父さんと二人だけど、それぞれ弁当買ったり。父さんは外で食べることが多いかな」
「ふうん。兄弟は?」
「いないよ。俺一人」
「そっか」
父親と二人なのに、その父親と別々に食事していると想像して、凛太朗は酒井の孤独に触れた気がした。穏やかな酒井の心にはたくさんの感情が隠されていると思った。
「かわいそうって言われ慣れているから、大丈夫」
酒井の言葉が凛太朗の胸にグサリと刺さった。凛太朗が心の底で感じていた『かわいそう』の気持ちを酒井に知られていた衝撃で、身体がビクリと反応した。
「凛太朗に気ぃ使わせて、ごめん」
優しく微笑む酒井を見て凛太朗は泣きたくなった。
かわいそうと言われることに慣れなければいけなかった酒井の人生を想像すれば、鼻の奥がツンとした。そんな凛太朗の心を見透かしているだろう酒井に背を向けたくなかった。
「酒井、僕こそごめん。憐れんじゃいけないと思いながらも、お前ん家の事を考えると、心がジンとするというか、込み上げるものがあって。それを隠すべきだと思いながら上手く出来なくて。結局、嫌な思いさせてるかも」
正直な凛太朗の気持ちを伝えた。隠せない感情なら話してしまった方が良いだろうと思ったから。だが、上手く表現できずに自分の語彙力のなさにガッカリしてしまった。酒井は凛太朗と目を合わせたままポカンとしていた。
「って、何言ってんのか分からんよな。ははは」
恥ずかしさに照れ笑いをして酒井から視線を外した。
「いや、良く分かった、気がする。すごくストレートな言葉が嬉しい。凛太朗、ありがとう」
落ち着きのある声が聞こえて凛太郎は横目で酒井を見た。酒井は頬を染めて微笑んでいた。
「ん」と返事をしながら、(このぽっちゃり頬が可愛いんだよな)と凛太朗は思った。
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