真面目学級委員がファッティ男子を徹底管理した結果⁉

小池 月

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Ⅱ ダイエットは食事から!

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 凛太朗は久しぶりに駅前の本屋に来た。高校入試の時に参考書を買ったとき以来だ。この本屋は駅ビルワンフロアを占拠していて、広くて快適だ。

「さて、どこ見よっか」
「図書室なら日常雑学のコーナーにあったけどな。雑学系のとこ?」
「行ってみるか」

 書店のディスプレイに沿って二人で歩いた。並んでいると改めて酒井が大きいと感じる。
「危ない」
 酒井の声とともに凛太朗は肩をグイっと引き寄せられた。気を抜いていてポヨンと酒井の肉厚な胸にぶつかった。

「は?」
 前を見ると人がいた。隣の酒井に気を取られていて突進してしまうところだった。

「あ、ヤバ。前見てなかった。ごめん」
「いや、気づいていないのか分からなくて、直前まで声かけなくて悪かった」

 申し訳なさそうな酒井の胸板から凛太朗はすぐに離れた。
 助けてくれたのに謝ってくれて酒井は良いヤツだ。性格の良い酒井が痩せてイケメンになったら、と考えるとワクワクした。モテモテになるかもしれない。
 酒井が痩せるのが楽しみになった。

 ダイエットの本は、高校図書室とは違って沢山置いてあった。
 世の中にはダイエット本を必要とする人が多いのだと分かった。凛太朗はダイエットメニューが載っている本を購入した。酒井が支払いすると言い張るのを何とか抑えて凛太朗が自分で買った。

 これは凛太朗が酒井にしてあげたいことだから、凛太朗のお金で買いたかった。

 駅で酒井と別れた帰り道、クラスメイトに見直される酒井を想像して凛太朗は何度もニヤけてしまった。


 凛太朗が酒井に弁当を作り初めて三週間が経過した。

 凛太朗は料理の腕が上がった。ダイエット本に加えて栄養バランスについても勉強して弁当は彩り豊かになったし味も大満足だ。自分には料理のセンスがあったと新たな発見にもなっている。
 
 そして酒井は三週間で四キロの減量に成功した。酒井が頑張ると言ってくれたのは嘘ではなく、筋トレとウォーキングを始めたらしい。四キロ痩せると少し顔が締まったように見えた。イケメンへの道が見えた気がした。

 凛太朗が減量に大喜びすると酒井は頬をピンクに染めて照れ笑いをした。その様子が可愛らしくて、凛太朗は酒井の頬をグニグニ手で包んで褒め倒した。酒井は頬を染めたまま満面の笑みを浮かべていた。

 その表情は凛太朗の脳裏に焼き付いた。綺麗な笑い方をすると思った。
 そんな酒井と一緒に笑うのが楽しかった。


「すご。今日はカレーじゃん」
「そ。野菜と豆のドライカレー。豆が入ってるからボリュームあるだろ?」

 弁当箱を開けるとカレーの良い香りが漂う。その匂いに酒井と目を合わせて微笑み合った。
 豆と夏野菜がゴロゴロ入ったカレーが白米にデンっと載っている。見た目から食欲をそそる。

「うまそ! こんなに食べていいなんて幸せ。いただきます!」
 酒井の明るい笑みを見て凛太朗は頬を緩めた。
「はい、召し上がれ」

「めっちゃ美味い! な、凛太朗は弁当作るの大変じゃ無い?」
「全然大丈夫。むしろ料理が楽しくなったかも」
 酒井が箸を止めて少し考えこんだ。

「もともと凛太朗が使っていた何かの時間を犠牲にしているんじゃ無いかって思うんだ」
 酒井の発言に凛太朗は少し考えた。凛太朗が料理する時間は前日の夜の一時間弱だ。今は当たり前のように料理しているけれど、もともと何に使っていた時間なのか考えても分からない。

「酒井、僕は認知症かも。そう言われても、何してた時間なのか分からん」
「ぶっは。さすが凛太朗。勉強の時間とか趣味の時間が犠牲になっているかもって気になって仕方なかったんだけど」

「いや、もともと勉強は夕食前にやるし、趣味は食後のゲームくらいだし」
「ゲーム何やってる?」

「ニンテンドースイッチでマイクラ、あつ森、マリカ、格ブラとか」
「あはは! 小学生だ!」

 凛太朗はそれ以上ハマっているゲームを言うのを止めた。本当は最近一番ハマっているのは学園恋愛系ゲームだ。だが目の前で笑う酒井を見たら、現実では体験できないドキドキを妄想で味わっているとは言えない。

「別に、いいだろ」
 少し拗ねて凛太朗が返事すれば酒井はなぜか嬉しそうに笑う。
「俺も、スイッチ派」
「え、まじか。酒井は何が好き?」

「内緒」
「は? ふざけんな。白状しろよ」

「だって、凛太朗だって隠してるだろ? 全部昔に発売されたのばっかし。今ハマってるのじゃないだろ」
 酒井にするどく言い当てられてしまい凛太朗は動きを止めた。すぐに顔が熱を持つ。

「……酒井って、変なところ鋭い」
 顔を見られないように視線を弁当に移してカレーを口に運んだ。ズッキーニと茄子が蕩けるように美味しい。

「凛太朗のことは良く分かるよ」
 まるで恋人のような酒井のセリフに吹き出してしまった。

「夫婦かよ」
「あはは。夫としては愛妻弁当に毎日感謝です」
「ばっか! 何で僕が妻役なんだよ。ふざけんな」

 酒井の肩を軽くどついた。その一瞬の感触が想像より固くて凛太朗は(あれ?)と思った。以前に凛太朗が触れた時にはポヨンとしていた。気のせいだったかな、と首を傾げる。

「あのさ、俺、凛太朗のために何かしたいんだ。一緒にいることが、本当にうれしくて」
 温かい感情が込められた言葉に酒井を見れば、優しい顔を凛太朗に向けていた。その顔を見て、(顎ラインが締まったなあ)と思った。

「んーー、別に無い、かな」
 首を傾げたまま答えると、酒井は明らかにガッカリした。

「俺が助けになること、無いかな? ほら、学級委員の仕事とか」

 凛太朗は朝の教室チェックを思い浮かべた。
 あれは個人的に実施していることで酒井を巻き込むことではない。酒井は朝が弱いのか登校してくる時間がギリギリだ。そんな酒井に朝の仕事は難しいだろう。
 そう思いながらも他に思いつくことが無くて、迷いながらも口にした。

「僕が勝手にしていることだけど。朝、早くに来て教室の確認をしている、かな」
「まじ? そんな事までしてくれてるの?」

「あ、いや、勝手にやっているだけだけど。僕が学級委員としてできる事があまりなくて」
 せっかく学級委員に選出されたのに役に立てていない自分が恥ずかしくて、凛太朗は下を向いた。やはり言うべきでは無かった。そんな後悔が頭を過る。

「凛太朗って、凄いヤツだな」
 予想していなかった褒めの言葉が聞こえて驚いた。酒井に褒められると、くすぐったい様な恥ずかしい気持ちが押し寄せて、どう対応していいのか分からなくなる。そんな自分の感情に耐えられなくて凛太朗は話題を変えた。

「あのさ、酒井は食べたいとか美味しいとかの感覚が鈍いって言っていたよな。最近、よく美味しいって言ってくれるけど、味覚が変わった?」
「どうかな。凛太朗との昼は楽しみで食べたいと思う。本当に美味しいし。最近は『早く昼飯食いたい』しか考えてないかも」
「それ、良いことじゃんか! めっちゃ嬉しい」

 凛太朗は酒井の味覚が正常になりつつあるのが嬉しかった。きっと、昔は美味しいとかこれが食べたいと考えていたはずなのだ。その感覚が戻れば、酒井の中で何かが動くような気がする。

「じゃ、ここで酒井にご褒美の提案」
「え? ご褒美?」
「うん。体重落ちたから、お祝いしよう」
「まだ少ししか落ちていないって」

「いいじゃん。今週末の土曜か日曜日に二人で出かけよう。酒井の行きたいとこ、行こ」
「え? まじで? 凛太朗とデートか。それはスゴイご褒美だ!」

 満面の笑みの酒井が可愛くて凛太朗はクスクス笑いが収まらなかった。「行きたいところ考えておいて」と伝えて昼休みを終えた。

 最近は昼休みが短くて困る。もっと酒井と居たいなぁと考えながら午後の授業を受けた。
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