恋愛天使、黒猫リカルの償い

小池 月

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Ⅱ 救済天使のルル

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 あまり好きではないのだけれど。決められたことだから仕方がない。これはルルが救済天使として命じられたことだから。

 切り取った『幸せ』が空にフワリと溶けていく。幸せを切り取られた少年を見つめ、痛む自分の心から目を逸らす。

 ルルは腰につけた鞘に刀を納めて空を仰いだ。夕焼けでオレンジに染まる空が美しい。

 救済天使など、名前だけだ。その仕事は人の幸福を切り取ること。それは人から笑顔を奪う事。この仕事を成功させるたびにルルの心がキリキリ痛む。

 ルルの白銀の髪とは真逆の黒服がヒラヒラ揺れる。人間として生きていた時には黒い服など着なかった。もっと華やかなドレスばかり着ていた。もう百年以上前のことを思い出してルルは眉をひそめた。

 ――もっと、大切にすれば良かった。
 忘れられない自分の罪を何度も後悔している。だが、もう遅い。ルルは救済天使に堕ちたのだから。


 欲望と隣接する幸福。幸福であると人はどんどん欲深くなる。
 欲望が暴走して幸福を吞み込む前に『幸せ』を切り取るのがルルの役目だ。
 幸せだけを取られたように感じるから、人からは貧乏神なんて呼ばれている。
 それも間違っていないな、とルルは思う。

 本当は人が欲に溺れてしまう前に彼らの魂を救っているのだけれど。苦しくて損な仕事だ。
 ルルはため息をついた。

「お~い、ルル。今日の調子は?」
 闇に変わった空から声がかかる。月夜がよく似合う、見知った姿が空を駆けている。恋愛天使のリカルだ。

 リカルは恋愛の捻じれを正す仕事をしている。首元の赤いリボンがヒラヒラ揺れる。黒猫の姿で夜空を翔る様は、まるで魔女の使い魔のくせに、この姿で恋愛天使だから笑いたくなる。

「……人の仕事に口出しするな」
 ルルは感情を込めずにリカルに返事をした。

「つれないな。じゃ、俺の出来を聞いてくれ。なんと今夜はこじれた恋の糸を二組も直してきたぜ。人も増えすぎてんだよな。拗れを見つけるにも糸が多すぎて絡まってやがる。ま、通常の恋愛天使なら一週間かかるところを俺なら一晩に二組だぜ? すげーだろ。ほんと、人が増えすぎて、俺らも苦労するよな」

 口では大きなことを言いながら、リカルの尻尾がパタパタ揺れている。

 まるで『褒めて』と言わんばかりの様子だ。金の瞳がキラキラ輝いている。

 リカルは猫そのもののように可愛い。心のままに可愛がれたらいいのだけど。ルルにはそれが出来ない。人の幸せを切り取っておいて、自分だけ癒されるなど許されない。

 可愛く揺れる尻尾から目を逸らして、精一杯冷たい言葉を出す。
「そうか。私には関係ない」

 その時、仕事達成の報酬がキラキラとルルに降って来た。ルルの手のひらには神の報酬が煌いている。
 ルルはそれを腰の赤いリボンに取り入れた。煌きがリボンに吸収される。

 しばらく赤いリボンを見つめるが、黄金に輝いてくれない。ルルが着ている罪人の黒服は黒いままだ。許しは、得られない。

 ――まだ、だめなのか。
 あまり期待していなかったけれど。

 この繰り返しの日々がルルの心を凍らせていく。
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