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Ⅱ章 リリア王都編

1 幸せな生活※ <SIDE:タクマ>

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 獣人の国リリア。日本でも地球でもない不思議な場所。僕は今、リリアで暮らしている。

リリアは大陸は一つだけで、真ん中を神の川「天の川」が分断している。海が無くて大陸の周りを天の川が巡っている。

この世界に存在するのは二つの国。東の大国リリアと西の大国ルド。まるで正反対の国。リリアは商業や工業が栄えて人々が笑いあい楽しそうに暮らしている国。そして温かく優しい国。

一年前にこの国に僕が流れ着いてしまった時にも、獣人たちは温かく迎え入れてくれた。

僕は、天の川の神に守られた「神の子」として信仰の対象とされている。沢山助けてもらって、僕はこの国で生きて行くと覚悟を決めた。

 西の大国ルドは恐ろしい国。はっきりと情報が無いけれど、少数の貴族や王族が全てを支配する階級国家。奴隷制もあり、獣人にとって誇りである耳や尻尾を切り落とすこともあるらしい。

僕は実際にルドの皇子二人に会っているからその残酷さが分かる。思い出すとゾッとする誘拐未遂事件だった。

その一件のあと、半年ほどをリリア川沿い十三区で過ごしてから王都に移り住んでいる。僕が精神的に不安定だったからゆっくり時間をとってくれた。常に僕を守るように寄り添ってくれる獅子獣人ルーカス殿下も一緒に。

ちょっと照れくさいけれど、この国の第一皇子ルーカス様は僕の恋人だ。


 「タクマ様、そろそろ部屋にもどりますか?」
「はい。すみません。気分転換になりました」

僕の世話係である犬獣人女性サラさんが声をかけてくれる。今は勉強合間の休憩時間。城離宮の中庭を散歩していた。中庭は沢山あるけれど、ルーカス様と僕が住む離宮「青宮殿」の中庭は広すぎなくて安心する。小さな噴水が一つに緑の多い庭。

ルーカス様は日中政治活動で忙しく、王都に来てからは一緒に過ごす時間が少ない。十三区基地では働くルーカス様と一緒の部屋で勉強したけど、王都では会議や政治活動に偉い方々がいて機密情報もあるから僕が同席出来ない。

僕の身分は天の川の神に助けられた者として崇められているけれど、それと権力や国政は別物だと分かった。僕は権力のない象徴のような存在だ。

日中はリリア国について勉強をして、立ち居振る舞いの練習。十三区から一緒についてきてくれたサラさんと、穏やかな時間を過ごしている。教えてくれる先生も優しくて恵まれているなぁと思う。

「タクマ様、リリア言語の先生が来ておりますよ。今日はタクマ様にお花を、とお持ちくださいました。お部屋に飾ってあります」

「ありがとうございます。いいのかな。教わる身分なのに、先生たちが手土産をくださって申し訳ないです」

「いいのですよ。私たち国民からするとタクマ様に会えることが、タクマ様を崇めることが神への崇拝なのです」

いまだに慣れないこの認識。この国の宗教的な考えだけれど、僕のようなただの人間が「神の子」であることに恐縮してしまう。

「今日は少し先に進みたいな。せめて本がスラスラ読めるようになりたい」
「大丈夫ですよ。タクマ様なりに学んでくださればいいとルーカス殿下もおっしゃっていました」

サラさんはとことん優しい。「そうだね」と笑い返して一緒に室内に向かう。

 青宮殿はこじんまりした宮殿。他の離宮よりややコンパクト。豪華絢爛じゃないところがルーカス様らしい。もともとはルーカス様の別邸扱いの場所らしい。主城「黄金城」内にルーカス様の居室がある。でも、黄金城は下層階で会議や国政が行われていて、ついでに僕を見たいと集まる人が多く困ってしまい離宮に移り住んだ。

青宮殿は王城敷地内の端にあり落ち着いた場所。コンパクトな宮殿と言っても僕には十分豪邸だ。学習室にしている一階客間に向かう。

「失礼します。お待たせしてすみません」
声をかけて入室すると、狼獣人の語学の先生が頬を染めて尻尾を振りながら出迎えてくれる。

「タクマ様、今日も顔色が良いですね。天気もいいですし、こんな日はタクマ様が一層輝いて見えます」
ニコニコ優しい言葉をくれる先生。いつもながら、くすぐったい挨拶。照れ笑いしながら感謝の言葉を伝える。

「あの、お花をお持ちいただいたようで、ありがとうございます。部屋が明るくなります」
「いや、お恥ずかしい限りです。タクマ様が高価なものやお金のかかる贈り物は好まないと聞いておりますので、庭の花を摘んできました」

「え? お庭に咲いているのですか? こんなに綺麗な花が? すごいですね!」
見たことが無い赤と黄色の花を見つめる。

「これは太陽花といって、太陽の方向に向く花です。一日咲いて萎んでしまいます」
「一日限りの花なんですね。室内でも太陽が分かるのかな?」

「この花の不思議な所です。室内でも、暗くしても日中は咲きますし、太陽の方角を向いています。光の感じ方が我々とは違うのでしょうな」

先生と花を覗き込み笑いあった。
その後の勉強は花の名前を書くことにしてくれた。図鑑で花の説明を読みながら書く練習をして、楽しい勉強時間だった。



 「へぇ、今日は太陽花を見たのか。あれは国中に咲いている大衆花だ」
「はい。言語学の先生が摘んできてくれました」

王城から帰宅したルーカス様と食事。

リリアでは労働時間という感覚が少ない。自分のやるべき仕事をこなして終わり。警備や軍など時間で縛られている仕事もあるけど。休日は自分が休みたいときが休日。人間社会のように細かな規則で縛られてなくても社会が上手く回っている。獣人の社会は面白いな、と思う。

「日中、本当に室内でも太陽の方を向くのか見ていました。陽が沈むのと同じように下を向いてしぼんでいく様子が少し寂しかった、かな」

この世界の太陽は東から昇って東の空にあり東に沈む。地球とは違うんだな、と改めて感じている。

「そうか。見慣れていると普通に思うが、タクマは感性が細やかだからな。明日、早起きしてみるか? 今の時期なら日の出とともに花が咲いて、太陽を歓迎しているような様子を見られるぞ」

「ぜひ見てみたいです。どこに咲いていますか?」

「じゃ、朝の散歩だな。整備された庭園内にはないから、馬舎のあたりにあったはずだ」

ニコニコ話してくれるルーカス様。僕が知らないことは丁寧に教えてくれるし、どんなことにも優しく対応してくれる。優しさと愛情が溢れていて、自然と頬が熱を持つ。

ルーカス様といると、ソワソワして頬が緩んでしまう。幸せとか好きって思いは、じっとしていられないモゾモゾする感覚で、顔が緩んでしまうし、心のままにルーカス様に抱きつきたくなる気持ち。

苦しい気持ちは我慢が効くけれど、この温かい照れくさい気持ちはなかなか我慢が効かなくて困る。明日の朝の散歩、ちょっと嬉しくて頬の緩みがおさまらない。恥ずかしくてそっとルーカス様から目線を外す。

「ルーカス殿下、私が今から太陽花がある場所を見てまいります」
サラさんがそっと声をかける。

「頼んだ」
ガタン、と席を立ち僕の傍に来るルーカス様。

「タクマ、そんなに可愛い顔をされると我慢が出来なくなるよ」

そっと耳元に注ぎ込まれる息のような声。その低い声に身体がビクンと反応してしまう。意地悪だ。とっさに耳を手で覆って、ルーカス様を睨む。

「そんな可愛い顔をするタクマが悪い」

そっと耳を覆う手を外されて、注ぎ込まれる声。息が、僕の内部に入り込む。ゾクリと走る何か。心臓がドキドキ鳴り響く。

お腹の奥がキュッとする。精一杯言葉を返そうとしたけれど、椅子からひょいっと抱き上げられてしまう。

「わっ。ルーカス様? まだ、食事が……」
「今日も、行儀悪い日、にするからいい」

それを聞いて顔が真っ赤になってしまう。

お行儀悪い日、それはベッドでイチャイチャしながら食べること。時にはルーカス様に食べさせてもらい、身体に食べ物を乗せて食べ合うこともある。ものすごくエッチな食事のことだ。そんな色々を考えてしまい恥ずかしさに頭がパンクしそうになる。

「何を想像したのかな?」
意地悪過ぎる言葉に胸がハクハクする。

「……すけべ!」
精一杯言い返した。

とたんに歩みを止めて腕の中の僕を見る。ぽかんとした顔。え? なんで? 少し時間をおいてブハハ、とルーカス様が笑い出す。

笑いすぎて、いったん僕を床に降ろすルーカス様。周りを見ると使用人さんもクスクス笑っている。なんで? 急に居たたまれなくなる。恥ずかしい。

「ごめん、ごめん。タクマ、あんまり可愛すぎて」
「もう、知りません!」
早足で部屋に向かう。

「あぁ、タクマ。ごめんよ。俺にそんな風に言う者がこれまで居なかったから。つい、嬉しさも可笑しさも相重なってしまって」
僕の後ろをついてきながら、目じりの涙を拭いている。

歩みを止めない僕をかっさらうようにして抱き上げるルーカス様。驚きで落とされないように右腕でしがみ付く。

「ご機嫌、直して」
そっと頭にキスを落とされる。

その柔らかい仕草に優しさが満ちている。甘えるような声に笑みが漏れてしまう。ふわりと心が軽くなる。こういう時は、カッコいい逞しいルーカス様が可愛らしく思えるから不思議だ。

ふふっと笑いかけると、ははは、と笑い返してくれる。可笑しくて笑いあいながら部屋に入る。そんな僕たちを優しい目で見守ってくれる使用人さんたち。満たされていて幸せだ。



 「ぐぅっ」
僕の喉の奥でくぐもった音がする。ルーカス様の食べつくす勢いの濃厚なキス。必死で受け止めるけれど、薄っすらと涙も、唾液も溢れ出てしまう。脳の奥を舐め尽くされるような感覚。

口の中からの濃厚な支配と、僕のペニスを弄り回す大きな手。コレのせいで頭がチカチカして身体のビクつきが止まらない。自然と揺れる腰を、痴態を恥ずかしいとも考えられない興奮。

セックスの時のルーカス様は獣だ。獣人は性欲が強い。頭がグラグラする興奮と快感で身体に力が入らなくなると、後ろに指が入ってくる。

僕が苦しくないようにジェルのようなものを塗り込んでくれる。その動きが艶めかしくて、指の動きを確かめるように食んでしまうのが恥ずかしい。ペニスをいじられながら後ろに指を出し入れされると星が飛ぶ。

「あぁ! ダメっ、で、出ちゃう!」
堪えようとしてもピュルっと漏れてしまう。

出したのに手の動きを止めずに擦られる。これをされると全身が痙攣する! 痛いのか気持ちいいのかどう表現していいのか分からない感覚に身体が逃げを打つ。

「やぁ、いやぁぁ!」
連続して少量出してしまい、悲鳴が漏れた。息をハクハクとくりかえる合間に、ルーカス様が挿入ってくる。

「ぁあ~~、う~~」
この瞬間は細く声を出していないと苦しくて受け入れられない。存在感のあるルーカス様のペニス。身体の内側を擦り上げられるゾワリとする快感。

「タクマ、可愛い。愛らしい。ここもいっぱいに拡がって、おいしそうに俺を食べてくれている」

ルーカス様が繋がっている場所をナデナデ刺激するからたまらない! 拡がって敏感になったソコを触られるたびに内壁がキュンっと締まってしまう! お腹がビクンと動くと変な声が漏れてしまう。

こうなると、あとは嵐のような感覚に翻弄されて、逞しいルーカス様に縋り付くだけになる。僕の身体が溶けてしまったような感覚。グチュグチュに熱棒でかき乱される快感。どこかに聞こえる嬌声と悲鳴。「可愛い」「愛している」そんな言葉が頭に入り込む。

「明日の朝があるから、奥には入り込まないよ」

荒い息とともに耳から注がれる声。あぁ、この獣じみた息遣いが愛おしい。

コクコクと頷きながら愛おしい唇にキスをする。行為の激しさで言葉に出来ない「愛しています」の代わりに、僕からそっとキスをする。

幸せな気持ちが溢れるかのように、僕のペニスから何かが漏れ出る。ジョワッと生温かいそれを身体に感じながら、意識を手放す。




 もぞもぞと頬を撫でる柔らかい尻尾。ルーカス様、目が覚めたのかな? くすぐったくて、目を開ける前に頬が緩む。目を開けようか迷ううちにルーカス様の優しい声。

「おはよう」
「おはよう、ございます」
目を開けてみて驚く。すごく早い。まだ夜明け前?
 
「タクマ、身体は大丈夫? 太陽花を見に行ってみる?」
ぼんやりしていた意識がはっきり覚醒する。

「行きます。そうだ、太陽花」
身体をぐっと起こすとお腹奥の違和感とお尻の痛みに動きを止める。「うぅっ」と唸ると、すぐにルーカス様が毛布ごと抱き上げてくれる。

「夜明けに間に合うように急ぐよ」
僕を抱き上げてバイクのように速い速度で走るルーカス様。慣れて来たけれど獣人の身体能力は凄い。


 馬舎の壁沿いに生える太陽花。いくつかの蕾が茎から垂れている。どの蕾も東の方角を向いている。なんだか花のソワソワした期待感が伝わってくるようでドキドキする。

空が明るくなると九十度まで首を上げる。徐々に朝日が顔を出す。太陽花が一斉に蕾を開いて開花しながら目いっぱい太陽に向く。すごい。圧巻だ。僕の手のひらより小さな花が、全身全霊を太陽に捧げているよう。朝露に光るその様子に、熱い涙が溢れた。

「美しいね」
「はい」
「タクマが、美しいね」
意味が分からなくてルーカス様を見上げる。

「誰もが見慣れた道端に広がる風景を、感動の涙を流して見ているタクマが美しい。おかげで、俺もこの小さな花の生きる美しさを思うことができた」

「私も、小さな命の大切さに気付かされました」
いつの間にか近くに居たサラさんも温かい微笑みを向けてくれる。ちょっと恥ずかしい。

えへへ、と笑いかけると皆がニコリと笑ってくれる。心が温まる。

「いくつか摘んでいく?」
ルーカス様に聞かれて、首を振る。

「いいです。この花は、ここで精一杯咲いてほしいから」
ルーカス様を見上げれば朝日に金髪が輝いている。ピンと誇らしげに立っている獅子の耳。美しいのはルーカス様だよ。心の中でそう呟いた。

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