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Ⅰ章 生きることが許されますように
12 生きて行く場所 <SIDE:タクマ>
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ゆるゆると僕の上半身にまとわりつくフワフワの尻尾。ルーカス様だ。
まだ眠い瞼を閉じたまま、尻尾をよしよしと撫でる。どうして起きる前に動物耳や尻尾がモヤモヤ動き出すのだろう。こうやって尻尾は動くのに、絶対本人は寝ているんだ。
またモゾモゾする尻尾に笑いが漏れてしまい、仕方なく目を開けた。
「おはよう」
あ、ルーカス様が起きている。
「気分はどう? 痛いところはある?」
心配そうにのぞき込まれ、昨日の事を思い出した。
急に恥ずかしくなって、ルーカス様の顔が見られなくなる。熱を持った顔をルーカス様の胸にうずめて隠す。
「タクマ、顔を見せて?」
優しい声に、ゆっくり顔を上げる。
「声が出る? 喉を傷めてないかな?」
「……出ます。喉は、大丈夫みたいです」
声がちょっとかすれているけれど、喉が痛いほどじゃない。
支えられて上半身を起こす。身体は綺麗になっていて、寝巻もちゃんと着ている。
殿下から、「飲んで」と果実水を受け取る。いつもの桃みたいな味と違ってハチミツ系の味だ。少し酸味もあって美味しい。身体を起こすと、腰やお腹の鈍痛。お尻の穴の違和感と痛み。骨盤の骨が、内臓がギシギシいっている。
全身倦怠感で、ちょっとしんどい。
「…寝ていても、いいですか?」
「もちろんだよ。無理させてごめんね。お腹空いてない?」
コクリと頷く。疲れすぎて空腹が分からなくなる感じに似ている。とにかく体を休めたい。
「ルーカス様は、召し上がってください。僕、少し横になっています」
「じゃ、ここで食べるから、食べられそうなら教えて」
僕は、ちょっと食べられないだろうなぁと思いながら身体を横にする。ウトウトしていると、ふわふわと頭を撫でられる。
愛されているな、とじんわり感じる。大切だよって手から伝わってくる。
僕は、ルーカス様のために生きていこうと思った。この手を、この人を大切にしたい。
僕が誰かのために生きたいと思ったのは初めてだ。僕の生きてきた人生のことは心の箱に仕舞い込もうと決めた。
これからルーカス様と生きる道を、僕が何をすべきかをルーカス様と考えていくんだ。僕は一人きりじゃない。愛する人がいて、愛されて、生きる場所がある。心が満たされて身体がホカホカ温まるのを感じた。
あれから一週間。結局、僕は三日間寝込んでしまい、獣人を受け入れることの大変さを痛感した。だけど、愛し合うことの幸せを知ったから、ルーカス様とゆっくりとセックスをしよう、と話し合った。こんなことを話し合うなんて、照れくさくて笑いあってしまった。
行為の後は、ルーカス様が僕を外に出したがらず、数日は人に会わない日々だった。どうやら、リリアの大型獣人の特性らしく、伴侶や恋人は独占欲で自分の中だけに囲いたくなるらしい。
そのため、何となく基地の皆さんに、ルーカス様と僕がそういう仲になったことがバレていて恥ずかしい。建物内を歩くにも、どこに行くにも今まで以上にルーカス様と一緒。
サラさんたちの見舞いに数日ぶりに行った。
「タクマ様、よろしかったですね。幸せになれますよ。このリリアで、幸せになってください。これからも私は、タクマ様の幸せをお支えします」
僕の幸せを願ってくれる人がいる。心が震えるような感動だった。サラさんが涙目で優しい顔をしている。僕も目から温かいものが溢れた。
「僕は、この国に来ることができて良かったです」
「では、私は早くタクマ様のお傍に戻るように全力で回復いたします」
「はい。サラさん、早く戻ってきてください」
サラさんと手を握り合って、回復を願った。
サラさんと別の部屋に静養しているトムさんサムさんのところにも寄った。
「とうとう殿下にとられた!」
「分かってはいたが、悔しい!」
と元気いっぱいに叫ばれてしまい恥ずかしかった。
ルーカス様は思いっきり睨んでいたけれど、さすがに怪我人に威圧はしなかった。
「殿下にイジメられたら、すぐに俺たちのところに逃げ込め」
そう小声でささやかれて笑ってしまった。皆、早くケガから回復するといいな。幸い、後遺症になりそうな大けがは無いそうだ。
「獣人の皆さんは優しいですね」
ルーカス様と四階の自室に戻る途中。僕に合わせてゆっくり歩いてくれている。
少し離れて護衛数名が前後についている。ルドの侵入の件以降、建物内でも必ずこの体制がとられている。
「ここの皆の優しさが伝わっているみたいだね」
「もちろんです。心が温まる優しさです。僕の幸せを一緒に喜んでくれる。胸がいっぱいになりました」
「タクマ、それも愛なんだよ。俺とタクマは恋人の愛し合う愛だ。タクマの周りにいるサラたちの愛は、家族のような愛だ。どれも、相手を大切に思う愛情だよ。愛情にも優しさにもいろんな形がある。タクマはこの国で愛情をたくさん受け取るんだ。もちろん、俺の愛が最大の愛だけどな」
歩いていた僕を抱き上げて頬にキスをするルーカス様。
「ちょっと分かる気がします。僕はルーカス様が大好き。サラさんたちも好きだけど、違う好きなんだ。そういうことでしょう?」
「そういうことだ」
ふふふ、と笑いあう。抱き上げられるとルーカス様の心臓の音や逞しい筋肉の動きが伝わってきて気持ちいい。
楽ちんで最近は抱き上げて運ばれることに甘えてしまっている。護衛さんと目が合うと、皆ニッコリ微笑んでくれる。
「俺はタクマを守ることを誓うよ。タクマのために俺自身の身の安全も考える。ルドからの侵入は不意打ちだった。今は、皆がお互いを、この国を守るために対策を立てている。俺たちは一人じゃない。お互いに愛情で繋がっている。たくさんの大切を守るために、尽力している。守るために頑張っている者たちがいる。その者たちを信頼してみないか?」
はっとする。僕は、怖がって外に出ないことで基地の人たちを、護衛さんを信頼していないように見えていたのだろうか。頑張ってくれている人に、背を向けていたのだろうか。驚いてしまい言葉が出ない。
「責めているわけじゃない。周囲の者も、タクマを心配しているし、守れなかった責任を感じている。それだけタクマや、俺を守ろうと努力してくれている。それに報いていくことも王族として大切なんだよ。彼らの努力に、信頼の情を見せることが大切なんだ」
コクリと頷く。僕は自分しか見えていなかった。いつも傍にいてくれる護衛さんや基地の人への信頼や感謝を、置き去りにしてしまっていた。
「俺と、外にも顔を出そう。大丈夫。今まで通りに元気なタクマを見せることが、周りの者たちへの信頼を表すことになる。落ち着いたら、皆に愛情返しをしていこうか」
愛情を返していくのか。素敵な提案だ。ルーカス様は素晴らしい方だ!
「はい。僕は沢山の事を見ないでいた気がします。ルーカス様が教えてくれることは僕にとって大切な事ばかりだ。僕は周りの人たちにちゃんと愛情返しをしたい。顔を見せて、信頼していますって伝えたい。僕とルーカス様を守ってくれてありがとう、これからもお願いしますって伝えていきたい!」
ルーカス様に抱きついて伝える。
この時、前後の護衛さん達の獣耳がピクピク動いていることには、気づいていなかった。後で知ったのだが、人間の耳では聞き取れない小さな音を獣耳で聴きとっているらしく、僕とルーカス様の会話はいつも筒抜けだったらしい。サラさんから教えてもらい、とんでもなく恥ずかしい思いをした。
自分のすべきことが少し見えて、心がワクワクした。僕がここに居るために、できること、していくこと。それらは大好きなルーカス様から学んでいこうと思った。見上げると微笑みを返してくれるルーカス様。輝いている。
この方を兄と間違えることは、もうないだろう。この人の隣に立つように、この国で生きてゆくために頑張ろうと心に誓った。
エピローグ
リリア国、国王誕生記念日。この祝日に、王族にして神の御使いとなった『生きる国の宝』ルーカス殿下と、二度神の光に守られた『神の子』タクマ様の披露がされた。
二人で寄り添い愛する伴侶であることも公表された。国中が祝福の喜びに沸いた。それからこの日は『神の幸福の日』とされた。
二人はリリア国の都市を転々と訪問し、国が豊かであるために力を尽くした。その姿は国民から大いに歓迎された。国を幸せに導くための王族の姿。それを見て、王族を、国を支えたいと思う人々。互いの支え合いは、愛情を重んじる獣人国家リリアの繁栄の基盤となった。
リリアでは至る所に飾られているルーカス殿下と神の子タクマの写真。どの写真も寄り添う二人は柔らかな笑顔で、見る者の心に小さな幸せを与える物であった。
<Ⅰ章 完>
まだ眠い瞼を閉じたまま、尻尾をよしよしと撫でる。どうして起きる前に動物耳や尻尾がモヤモヤ動き出すのだろう。こうやって尻尾は動くのに、絶対本人は寝ているんだ。
またモゾモゾする尻尾に笑いが漏れてしまい、仕方なく目を開けた。
「おはよう」
あ、ルーカス様が起きている。
「気分はどう? 痛いところはある?」
心配そうにのぞき込まれ、昨日の事を思い出した。
急に恥ずかしくなって、ルーカス様の顔が見られなくなる。熱を持った顔をルーカス様の胸にうずめて隠す。
「タクマ、顔を見せて?」
優しい声に、ゆっくり顔を上げる。
「声が出る? 喉を傷めてないかな?」
「……出ます。喉は、大丈夫みたいです」
声がちょっとかすれているけれど、喉が痛いほどじゃない。
支えられて上半身を起こす。身体は綺麗になっていて、寝巻もちゃんと着ている。
殿下から、「飲んで」と果実水を受け取る。いつもの桃みたいな味と違ってハチミツ系の味だ。少し酸味もあって美味しい。身体を起こすと、腰やお腹の鈍痛。お尻の穴の違和感と痛み。骨盤の骨が、内臓がギシギシいっている。
全身倦怠感で、ちょっとしんどい。
「…寝ていても、いいですか?」
「もちろんだよ。無理させてごめんね。お腹空いてない?」
コクリと頷く。疲れすぎて空腹が分からなくなる感じに似ている。とにかく体を休めたい。
「ルーカス様は、召し上がってください。僕、少し横になっています」
「じゃ、ここで食べるから、食べられそうなら教えて」
僕は、ちょっと食べられないだろうなぁと思いながら身体を横にする。ウトウトしていると、ふわふわと頭を撫でられる。
愛されているな、とじんわり感じる。大切だよって手から伝わってくる。
僕は、ルーカス様のために生きていこうと思った。この手を、この人を大切にしたい。
僕が誰かのために生きたいと思ったのは初めてだ。僕の生きてきた人生のことは心の箱に仕舞い込もうと決めた。
これからルーカス様と生きる道を、僕が何をすべきかをルーカス様と考えていくんだ。僕は一人きりじゃない。愛する人がいて、愛されて、生きる場所がある。心が満たされて身体がホカホカ温まるのを感じた。
あれから一週間。結局、僕は三日間寝込んでしまい、獣人を受け入れることの大変さを痛感した。だけど、愛し合うことの幸せを知ったから、ルーカス様とゆっくりとセックスをしよう、と話し合った。こんなことを話し合うなんて、照れくさくて笑いあってしまった。
行為の後は、ルーカス様が僕を外に出したがらず、数日は人に会わない日々だった。どうやら、リリアの大型獣人の特性らしく、伴侶や恋人は独占欲で自分の中だけに囲いたくなるらしい。
そのため、何となく基地の皆さんに、ルーカス様と僕がそういう仲になったことがバレていて恥ずかしい。建物内を歩くにも、どこに行くにも今まで以上にルーカス様と一緒。
サラさんたちの見舞いに数日ぶりに行った。
「タクマ様、よろしかったですね。幸せになれますよ。このリリアで、幸せになってください。これからも私は、タクマ様の幸せをお支えします」
僕の幸せを願ってくれる人がいる。心が震えるような感動だった。サラさんが涙目で優しい顔をしている。僕も目から温かいものが溢れた。
「僕は、この国に来ることができて良かったです」
「では、私は早くタクマ様のお傍に戻るように全力で回復いたします」
「はい。サラさん、早く戻ってきてください」
サラさんと手を握り合って、回復を願った。
サラさんと別の部屋に静養しているトムさんサムさんのところにも寄った。
「とうとう殿下にとられた!」
「分かってはいたが、悔しい!」
と元気いっぱいに叫ばれてしまい恥ずかしかった。
ルーカス様は思いっきり睨んでいたけれど、さすがに怪我人に威圧はしなかった。
「殿下にイジメられたら、すぐに俺たちのところに逃げ込め」
そう小声でささやかれて笑ってしまった。皆、早くケガから回復するといいな。幸い、後遺症になりそうな大けがは無いそうだ。
「獣人の皆さんは優しいですね」
ルーカス様と四階の自室に戻る途中。僕に合わせてゆっくり歩いてくれている。
少し離れて護衛数名が前後についている。ルドの侵入の件以降、建物内でも必ずこの体制がとられている。
「ここの皆の優しさが伝わっているみたいだね」
「もちろんです。心が温まる優しさです。僕の幸せを一緒に喜んでくれる。胸がいっぱいになりました」
「タクマ、それも愛なんだよ。俺とタクマは恋人の愛し合う愛だ。タクマの周りにいるサラたちの愛は、家族のような愛だ。どれも、相手を大切に思う愛情だよ。愛情にも優しさにもいろんな形がある。タクマはこの国で愛情をたくさん受け取るんだ。もちろん、俺の愛が最大の愛だけどな」
歩いていた僕を抱き上げて頬にキスをするルーカス様。
「ちょっと分かる気がします。僕はルーカス様が大好き。サラさんたちも好きだけど、違う好きなんだ。そういうことでしょう?」
「そういうことだ」
ふふふ、と笑いあう。抱き上げられるとルーカス様の心臓の音や逞しい筋肉の動きが伝わってきて気持ちいい。
楽ちんで最近は抱き上げて運ばれることに甘えてしまっている。護衛さんと目が合うと、皆ニッコリ微笑んでくれる。
「俺はタクマを守ることを誓うよ。タクマのために俺自身の身の安全も考える。ルドからの侵入は不意打ちだった。今は、皆がお互いを、この国を守るために対策を立てている。俺たちは一人じゃない。お互いに愛情で繋がっている。たくさんの大切を守るために、尽力している。守るために頑張っている者たちがいる。その者たちを信頼してみないか?」
はっとする。僕は、怖がって外に出ないことで基地の人たちを、護衛さんを信頼していないように見えていたのだろうか。頑張ってくれている人に、背を向けていたのだろうか。驚いてしまい言葉が出ない。
「責めているわけじゃない。周囲の者も、タクマを心配しているし、守れなかった責任を感じている。それだけタクマや、俺を守ろうと努力してくれている。それに報いていくことも王族として大切なんだよ。彼らの努力に、信頼の情を見せることが大切なんだ」
コクリと頷く。僕は自分しか見えていなかった。いつも傍にいてくれる護衛さんや基地の人への信頼や感謝を、置き去りにしてしまっていた。
「俺と、外にも顔を出そう。大丈夫。今まで通りに元気なタクマを見せることが、周りの者たちへの信頼を表すことになる。落ち着いたら、皆に愛情返しをしていこうか」
愛情を返していくのか。素敵な提案だ。ルーカス様は素晴らしい方だ!
「はい。僕は沢山の事を見ないでいた気がします。ルーカス様が教えてくれることは僕にとって大切な事ばかりだ。僕は周りの人たちにちゃんと愛情返しをしたい。顔を見せて、信頼していますって伝えたい。僕とルーカス様を守ってくれてありがとう、これからもお願いしますって伝えていきたい!」
ルーカス様に抱きついて伝える。
この時、前後の護衛さん達の獣耳がピクピク動いていることには、気づいていなかった。後で知ったのだが、人間の耳では聞き取れない小さな音を獣耳で聴きとっているらしく、僕とルーカス様の会話はいつも筒抜けだったらしい。サラさんから教えてもらい、とんでもなく恥ずかしい思いをした。
自分のすべきことが少し見えて、心がワクワクした。僕がここに居るために、できること、していくこと。それらは大好きなルーカス様から学んでいこうと思った。見上げると微笑みを返してくれるルーカス様。輝いている。
この方を兄と間違えることは、もうないだろう。この人の隣に立つように、この国で生きてゆくために頑張ろうと心に誓った。
エピローグ
リリア国、国王誕生記念日。この祝日に、王族にして神の御使いとなった『生きる国の宝』ルーカス殿下と、二度神の光に守られた『神の子』タクマ様の披露がされた。
二人で寄り添い愛する伴侶であることも公表された。国中が祝福の喜びに沸いた。それからこの日は『神の幸福の日』とされた。
二人はリリア国の都市を転々と訪問し、国が豊かであるために力を尽くした。その姿は国民から大いに歓迎された。国を幸せに導くための王族の姿。それを見て、王族を、国を支えたいと思う人々。互いの支え合いは、愛情を重んじる獣人国家リリアの繁栄の基盤となった。
リリアでは至る所に飾られているルーカス殿下と神の子タクマの写真。どの写真も寄り添う二人は柔らかな笑顔で、見る者の心に小さな幸せを与える物であった。
<Ⅰ章 完>
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