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Ⅱ章 リリア王都編
7 共に生きる※〈SIDE:タクマ〉
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「さて、タクマ。しっかり話をしよう」
優しい顔のルーカス様を見つめる。少し顔がほっそりしたように見える顔。
ルーカス様に会えて、何より欲しかった言葉をもらえて、その腕の中に収まっている喜びに酔いしれていたけれど、向き合わなくてはいけない。困ってしまって下を向く。
首都までルーカス様が僕を抱き上げて移動し、一回も降ろしてもらっていない。僕を抱き締める腕から、ルーカス様の必死な思いが伝わってきていた。
周囲の人々に余裕のある態度で堂々と挨拶を交わしているルーカス様の様子と、僕を抱き締める腕の必死さ。その反する様子にルーカス様の深い思いが伝わって来て、心が震えた。
ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。不安にして、ごめんなさい。ルーカス様にこの思いが伝わるように、厚い胸にそっとしがみついている。
「長かった。一緒に居る一年より、離れていた二か月が辛くて長く感じた」
下を向く僕の頭に顔をうずめる様にして言葉が注がれる。優しさと寂しさが溢れる言葉に胸がいっぱいになる。コクコクと頷きながら泣けてくる。
「怪我は? 今、痛いところや傷になっているところはある?」
「ない、です」
「マントに血が付いていた。大きなケガじゃなかったかな?」
「はい」
「体調は、悪くない?」
「はい」
頭から声を注がれて、決して僕を責めない優しさに涙が止まらない。
「ごめん、なさい」
精一杯言葉にすると、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「こんなに辛く苦しい思いは、二度としたくない。タクマがいなければダメだ。ダメなんだよ。俺は、生きてゆけない。タクマ、タクマ……」
ルーカス様の腕が震える。僕を気遣う言葉も優しさでもない。これは、ルーカス様の本音だ。僕にすがりつくような言葉。泣き声のような飾らない本心。
僕は分かった。堂々として国を、国民をリードしているルーカス様の心を支えるのは、僕だ。これは、きっと僕にしか出来ないことだ。ルーカス様が前を向き光り輝くように、僕がルーカス様の心の一部になっていればいいのか。神の子だ、とか関係なかったのか。僕がこの腕の中に居れば、良かったのか。不安になる事なんて無かったのか。
僕は、なんてバカだったのだろう。
腕の中でモゾモゾ動き、ルーカス様の顔にキスをする。そっと労わるようなキス。ルーカス様の心を舐めて癒すように、優しくキスを繰りかえす。ルーカス様の本音も心も全てを受け止めます。そんな覚悟をキスに込める。
「愛しています。僕が生涯をかけてルーカス様を支えます」
そっと耳元に囁く。僕のキスを受け止めていたルーカス様が、僕の唇を食む。息も全て奪い取られるような濃厚なキスに変わる。キスの合間に「愛している」「タクマだけだ」「大好きだ」と激情が言葉になって注がれる。その全てを受け止める。
「今夜はゆっくり話そうと思っていたけれど、抱いても良いだろうか?」
「はい」
「今日は加減が出来そうにない。本能がむき出しになってしまうかも。それでも、タクマを抱きたい。許してくれるか?」
「はい。僕がルーカス様の全てを受け止めます。その心も、欲望も。あ、愛して、いるから」
大きな事を言ってしまい恥ずかしさに顔が熱い。
「ありがとう。俺も愛している」
そう囁かれて抱き上げられる。行き先は、分かっている。
「あぁ~! らめぇ、奥、もう、くるしぃ」
「あぁ、タクマ、可愛い。愛している」
奥の奥まで埋め込んで全身を揺すられる。心臓の裏側を突き刺されているような限界を超えた快感。
いつものルーカス様より太くて大きい。これまでの限界が塗り替えられる行為。息が、苦しい。頭がパンクする!
僕の中に二回は吐精しているのに、全然萎えないルーカス様。僕はすでに出るモノが無いくらい、出している。逃せない快感が辛い。ここまで連続して追いつめられるのは初めてだ。全てを受け止めたい心と、限界を超える身体が正反対でパニックになる!
内壁が心に従ってキュンキュンとルーカス様を締め付けて、その都度キラキラした星が弾ける。そうすると、身体が快感に痙攣して辛いって訴える。必死で首を振って悲鳴を上げて耐えようとするけれど、もう何が何だかわからなくなる! もう、助けて!
その日は本当に一晩中、だった。獅子は性欲がすごいって身をもって再確認した。正常な意識が保てなくて、はっきり気がついたのが二日後だった。熱も出していたらしい。初めての時みたいで恥ずかしい。「愛している」「かわいい」といった優しい愛おしい声が、耳に残っていた。
「あぁ、幸せだ。タクマが腕の中に居る。夢じゃない。良かった」
王都青宮殿に戻って一週間。僕はここから一歩も出ていない。この数日で僕が失踪した経緯も伝えた。ルーカス様は全て分かっているような顔をしていた。話が出来てスッキリした。
セックスすると、数日は僕を部屋に閉じ込めて誰にも会わせない習性がルーカス様にあって、慣れてはいるけれど今回は長い。離れていた二か月に加えて獣のような行為の後だから仕方がないと思うけれど、ルーカス様の仕事も困るだろう。
「ルーカス様、お仕事は大丈夫ですか?」
「仕事なんてどうでもいいさ。それよりタクマと一生ぐーたらして過ごすほうが良いな」
ぎょっとする。本気っぽくて笑えない。
「それはダメです。僕はルーカス様のカッコいい皇子姿が見たいから」
懸命に伝えると、そんな僕を見て嬉しそうに微笑む。
「タクマがそう言うならガンガン働く! そうだ。手始めにタクマと共に西区を再訪問したい。あの地区の住民全員に悪い事をした。タクマを俺から奪った奴がいると決めつけて、怒りをぶつけてしまった。ちゃんとした謝罪に訪問したい。あとは、リーナ婆さんにお礼もね」
「それなら、僕も訪問したい場所があります。僕が助けることが出来なかった狸獣人女性のお宅。あの獣人は、どうなったのでしょうか?」
僕を見たまま何も言わないルーカス様。
「知りたい?」
もしかして、と息を飲む。でも知らなくてはいけないと思う。コクリと頷く。
「亡くなったよ」
やっぱり。どう答えていいか分からず、ルーカス様から目を逸らす。
「僕は、何もしてあげられなかったです」
「そうかな? 会うことが、出来たじゃないか」
はっとルーカス様を見る。
「狸獣人女性の夫の熊獣人男性に話を聞いたよ。もうあの女性は亡くなる寸前だったらしい。仕方なかったと。そんな時に西区に俺たちが視察に来ることを聞いて、死ぬ前に会ってみたいと彼女の最期の願いだったそうだ。会うことは叶わないだろうから、せめて、と熊獣人がタクマの写真を撮りに出かけていたらしい。その間に、倒壊事故があり、留守番をしていたはずの息子が、何とか母の願いを叶えたいとタクマを連れ去った。息子は、神の子が病気を治せると勘違いしていた。皆が崇めるから神様だと思い込んだみたいだね。神の奇跡にすがりたくなるほど、あの少年も追いつめられていたんだよ」
聞いていて泣けてきた。僕は、ただあの女性の手を握ってあげれば良かったのか。ただ、それだけで良かったのか。
「ご慈悲を」とかすれる声を思い出す。あの女性は決して「助けて、治して!」とは言っていなかった。最期の時に神の存在をただ近くに感じたかったのか。
「時を、戻したい。あの女性に、謝りたい」
「そうだね。その気持ちの分、これからも俺と共に国を支えてくれればいい。国民の心に寄り添うことが神の子としての仕事だと思うよ。出来ないことは、できません、でいい。無理せずに行こうよ。俺もだけど、ね」
泣けてしまい、まともに言葉が出せなかった。ただ何度も頷いて思いを伝えた。
後日、ルーカス様と正式に王都西区を謝罪訪問した。リリアの獣人は優しく、皆が揃って全てを許してくれた。人を許すことも優しさだと知った。
リーナさんのお宅にもお礼に行き、時々草刈りや掃除でうかがうことを伝えた。「神の子にそんなことはさせられんから、トムとして来い」と豪快に笑われた。それを聞いてルーカス様は、「俺はサムとなって参加する」と言った。十三区の双子虎獣人を思い出し、二人で大笑いしてしまった。
最後に、あの狸獣人女性の家。心臓がドキドキ鳴った。申し訳なさとあの時の自分に向き合う辛さで震える手を握りしめる。お宅に行くと家の前で熊獣人と少年が立って待っていた。少年が一歩前に出る。
「ごめんなさい。僕は、いけないことを、しました」
震える声。はっと見ると、耳は垂れて泣きそうな、堪えている顔。悲しませるために来たのではない。
「違うんだ。君は悪くない。君はいけないことはしていないよ。大人は君の行動をいけないと言ったのかな? 僕からしたら、君はお母さんの望みを叶えた最高の息子だと思う。行動力があって、君はすごいね」
少年が僕を見る。父親が横で涙を拭う。少しして、ワーンと泣きだした少年。
「お母さんを助けたかったんだ。神の子を見つけて、これで全部願いが叶うと思ったんだ。悪い事って思わなかったんだ。ごめんなさい」
声を上げて謝りながら泣く少年を父親がなだめる。少し落ち着くまで待ってルーカス様が少年に声をかける。
「お前は今日、神の子に会えて心が軽くなっただろう? タクマは、そういう者なのだ。きっとタクマと母親を会わせたことは、母親の心の救いになっただろう。お前もお前の父親も、罪に問わない。お前は見所がある。大きくなったら護衛兵になれ。城で神の子を守る仕事だ。お前なら良い護衛になりそうだ」
「はい! なるよ! 僕は、神の子を、タクマ様を守る護衛になる!」
熊の耳がピーンと立って、可愛い笑顔を見せてくれる少年。父親が「ありがとうござます」と頭を下げる。とても温かい光景だった。
あの狸獣人女性の小さなお墓に花を捧げる。献花と一緒に太陽花も。空からこの親子を見守ってあげてください。そっと願いを込めた。そんな僕の背中を支えてくれるルーカス様。この人と生きて僕にできる事を探していこう。人を救うことじゃない。僕にできる事で良いから。
森の風が木の匂いを運ぶ。その心地よさにルーカス様と微笑み合う。この心を満たす温かさを大切にしようと思った。
Ⅱ章 完
優しい顔のルーカス様を見つめる。少し顔がほっそりしたように見える顔。
ルーカス様に会えて、何より欲しかった言葉をもらえて、その腕の中に収まっている喜びに酔いしれていたけれど、向き合わなくてはいけない。困ってしまって下を向く。
首都までルーカス様が僕を抱き上げて移動し、一回も降ろしてもらっていない。僕を抱き締める腕から、ルーカス様の必死な思いが伝わってきていた。
周囲の人々に余裕のある態度で堂々と挨拶を交わしているルーカス様の様子と、僕を抱き締める腕の必死さ。その反する様子にルーカス様の深い思いが伝わって来て、心が震えた。
ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。不安にして、ごめんなさい。ルーカス様にこの思いが伝わるように、厚い胸にそっとしがみついている。
「長かった。一緒に居る一年より、離れていた二か月が辛くて長く感じた」
下を向く僕の頭に顔をうずめる様にして言葉が注がれる。優しさと寂しさが溢れる言葉に胸がいっぱいになる。コクコクと頷きながら泣けてくる。
「怪我は? 今、痛いところや傷になっているところはある?」
「ない、です」
「マントに血が付いていた。大きなケガじゃなかったかな?」
「はい」
「体調は、悪くない?」
「はい」
頭から声を注がれて、決して僕を責めない優しさに涙が止まらない。
「ごめん、なさい」
精一杯言葉にすると、ぎゅっと強く抱きしめられる。
「こんなに辛く苦しい思いは、二度としたくない。タクマがいなければダメだ。ダメなんだよ。俺は、生きてゆけない。タクマ、タクマ……」
ルーカス様の腕が震える。僕を気遣う言葉も優しさでもない。これは、ルーカス様の本音だ。僕にすがりつくような言葉。泣き声のような飾らない本心。
僕は分かった。堂々として国を、国民をリードしているルーカス様の心を支えるのは、僕だ。これは、きっと僕にしか出来ないことだ。ルーカス様が前を向き光り輝くように、僕がルーカス様の心の一部になっていればいいのか。神の子だ、とか関係なかったのか。僕がこの腕の中に居れば、良かったのか。不安になる事なんて無かったのか。
僕は、なんてバカだったのだろう。
腕の中でモゾモゾ動き、ルーカス様の顔にキスをする。そっと労わるようなキス。ルーカス様の心を舐めて癒すように、優しくキスを繰りかえす。ルーカス様の本音も心も全てを受け止めます。そんな覚悟をキスに込める。
「愛しています。僕が生涯をかけてルーカス様を支えます」
そっと耳元に囁く。僕のキスを受け止めていたルーカス様が、僕の唇を食む。息も全て奪い取られるような濃厚なキスに変わる。キスの合間に「愛している」「タクマだけだ」「大好きだ」と激情が言葉になって注がれる。その全てを受け止める。
「今夜はゆっくり話そうと思っていたけれど、抱いても良いだろうか?」
「はい」
「今日は加減が出来そうにない。本能がむき出しになってしまうかも。それでも、タクマを抱きたい。許してくれるか?」
「はい。僕がルーカス様の全てを受け止めます。その心も、欲望も。あ、愛して、いるから」
大きな事を言ってしまい恥ずかしさに顔が熱い。
「ありがとう。俺も愛している」
そう囁かれて抱き上げられる。行き先は、分かっている。
「あぁ~! らめぇ、奥、もう、くるしぃ」
「あぁ、タクマ、可愛い。愛している」
奥の奥まで埋め込んで全身を揺すられる。心臓の裏側を突き刺されているような限界を超えた快感。
いつものルーカス様より太くて大きい。これまでの限界が塗り替えられる行為。息が、苦しい。頭がパンクする!
僕の中に二回は吐精しているのに、全然萎えないルーカス様。僕はすでに出るモノが無いくらい、出している。逃せない快感が辛い。ここまで連続して追いつめられるのは初めてだ。全てを受け止めたい心と、限界を超える身体が正反対でパニックになる!
内壁が心に従ってキュンキュンとルーカス様を締め付けて、その都度キラキラした星が弾ける。そうすると、身体が快感に痙攣して辛いって訴える。必死で首を振って悲鳴を上げて耐えようとするけれど、もう何が何だかわからなくなる! もう、助けて!
その日は本当に一晩中、だった。獅子は性欲がすごいって身をもって再確認した。正常な意識が保てなくて、はっきり気がついたのが二日後だった。熱も出していたらしい。初めての時みたいで恥ずかしい。「愛している」「かわいい」といった優しい愛おしい声が、耳に残っていた。
「あぁ、幸せだ。タクマが腕の中に居る。夢じゃない。良かった」
王都青宮殿に戻って一週間。僕はここから一歩も出ていない。この数日で僕が失踪した経緯も伝えた。ルーカス様は全て分かっているような顔をしていた。話が出来てスッキリした。
セックスすると、数日は僕を部屋に閉じ込めて誰にも会わせない習性がルーカス様にあって、慣れてはいるけれど今回は長い。離れていた二か月に加えて獣のような行為の後だから仕方がないと思うけれど、ルーカス様の仕事も困るだろう。
「ルーカス様、お仕事は大丈夫ですか?」
「仕事なんてどうでもいいさ。それよりタクマと一生ぐーたらして過ごすほうが良いな」
ぎょっとする。本気っぽくて笑えない。
「それはダメです。僕はルーカス様のカッコいい皇子姿が見たいから」
懸命に伝えると、そんな僕を見て嬉しそうに微笑む。
「タクマがそう言うならガンガン働く! そうだ。手始めにタクマと共に西区を再訪問したい。あの地区の住民全員に悪い事をした。タクマを俺から奪った奴がいると決めつけて、怒りをぶつけてしまった。ちゃんとした謝罪に訪問したい。あとは、リーナ婆さんにお礼もね」
「それなら、僕も訪問したい場所があります。僕が助けることが出来なかった狸獣人女性のお宅。あの獣人は、どうなったのでしょうか?」
僕を見たまま何も言わないルーカス様。
「知りたい?」
もしかして、と息を飲む。でも知らなくてはいけないと思う。コクリと頷く。
「亡くなったよ」
やっぱり。どう答えていいか分からず、ルーカス様から目を逸らす。
「僕は、何もしてあげられなかったです」
「そうかな? 会うことが、出来たじゃないか」
はっとルーカス様を見る。
「狸獣人女性の夫の熊獣人男性に話を聞いたよ。もうあの女性は亡くなる寸前だったらしい。仕方なかったと。そんな時に西区に俺たちが視察に来ることを聞いて、死ぬ前に会ってみたいと彼女の最期の願いだったそうだ。会うことは叶わないだろうから、せめて、と熊獣人がタクマの写真を撮りに出かけていたらしい。その間に、倒壊事故があり、留守番をしていたはずの息子が、何とか母の願いを叶えたいとタクマを連れ去った。息子は、神の子が病気を治せると勘違いしていた。皆が崇めるから神様だと思い込んだみたいだね。神の奇跡にすがりたくなるほど、あの少年も追いつめられていたんだよ」
聞いていて泣けてきた。僕は、ただあの女性の手を握ってあげれば良かったのか。ただ、それだけで良かったのか。
「ご慈悲を」とかすれる声を思い出す。あの女性は決して「助けて、治して!」とは言っていなかった。最期の時に神の存在をただ近くに感じたかったのか。
「時を、戻したい。あの女性に、謝りたい」
「そうだね。その気持ちの分、これからも俺と共に国を支えてくれればいい。国民の心に寄り添うことが神の子としての仕事だと思うよ。出来ないことは、できません、でいい。無理せずに行こうよ。俺もだけど、ね」
泣けてしまい、まともに言葉が出せなかった。ただ何度も頷いて思いを伝えた。
後日、ルーカス様と正式に王都西区を謝罪訪問した。リリアの獣人は優しく、皆が揃って全てを許してくれた。人を許すことも優しさだと知った。
リーナさんのお宅にもお礼に行き、時々草刈りや掃除でうかがうことを伝えた。「神の子にそんなことはさせられんから、トムとして来い」と豪快に笑われた。それを聞いてルーカス様は、「俺はサムとなって参加する」と言った。十三区の双子虎獣人を思い出し、二人で大笑いしてしまった。
最後に、あの狸獣人女性の家。心臓がドキドキ鳴った。申し訳なさとあの時の自分に向き合う辛さで震える手を握りしめる。お宅に行くと家の前で熊獣人と少年が立って待っていた。少年が一歩前に出る。
「ごめんなさい。僕は、いけないことを、しました」
震える声。はっと見ると、耳は垂れて泣きそうな、堪えている顔。悲しませるために来たのではない。
「違うんだ。君は悪くない。君はいけないことはしていないよ。大人は君の行動をいけないと言ったのかな? 僕からしたら、君はお母さんの望みを叶えた最高の息子だと思う。行動力があって、君はすごいね」
少年が僕を見る。父親が横で涙を拭う。少しして、ワーンと泣きだした少年。
「お母さんを助けたかったんだ。神の子を見つけて、これで全部願いが叶うと思ったんだ。悪い事って思わなかったんだ。ごめんなさい」
声を上げて謝りながら泣く少年を父親がなだめる。少し落ち着くまで待ってルーカス様が少年に声をかける。
「お前は今日、神の子に会えて心が軽くなっただろう? タクマは、そういう者なのだ。きっとタクマと母親を会わせたことは、母親の心の救いになっただろう。お前もお前の父親も、罪に問わない。お前は見所がある。大きくなったら護衛兵になれ。城で神の子を守る仕事だ。お前なら良い護衛になりそうだ」
「はい! なるよ! 僕は、神の子を、タクマ様を守る護衛になる!」
熊の耳がピーンと立って、可愛い笑顔を見せてくれる少年。父親が「ありがとうござます」と頭を下げる。とても温かい光景だった。
あの狸獣人女性の小さなお墓に花を捧げる。献花と一緒に太陽花も。空からこの親子を見守ってあげてください。そっと願いを込めた。そんな僕の背中を支えてくれるルーカス様。この人と生きて僕にできる事を探していこう。人を救うことじゃない。僕にできる事で良いから。
森の風が木の匂いを運ぶ。その心地よさにルーカス様と微笑み合う。この心を満たす温かさを大切にしようと思った。
Ⅱ章 完
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