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Ⅲ章 ロンと片耳の神の御使い

3 ゴミのミゴ〈side:ミゴ〉

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 「ゴミ。おい、ゴミが落ちているぞ。掃除してやろう」
「あはは」

頭の上から降ってくる声。怖い。やめてください、と言えない。

「ほら、でかい尻尾だなぁ。掴むのにちょうどいい!」
出来るだけじっとする。動かないように。

掃除ごっこ。僕の大きな尻尾を掴んで、気が済むまで引きずる遊び。城の侍女や貴族も嘲るように面白そうに見るだけ。誰も助けないし、止めない。

兄弟の中で僕だけ小型だった。しかも珍しいリス獣人。小型獣人は最下層の存在。虐げられるか性的愛玩物とされるか。この国で最上位の獅子皇子たちに何をされても、仕方ない。

 僕は現王の二十二番目の子。多くの側室と妾がいる王の子は僕を含めて二十二人。その内、皇子が十五人。皇女が六人。僕は小型獣人だったため王の子だけど皇子の称号が与えられていない。

王の子は皆、獅子であるはずが、母と同じリスで生まれた僕。獅子を生まなかった、と母は処刑された。愛玩物として人気のリス獣人はなかなか生まれないため、年上の皇子たちが僕を欲しいと要望したらしく僕は生かされている。

僕は獅子皇子たちの奴隷という立場。王家のゴミだと言われ、ゴミからとって名前はミゴ。


 「この尻尾、たまんないよな」

「わかる。尻尾だけは良いよな。どうする? もう少ししたら切り取って飾っとく?」

「そうだなぁ。おい、ゴミ。お前、尻尾どうするか?」

「……お好きに、してください」

「切っていいってよ! あはは。こいつ獣人として頭大丈夫かよ!?」

尻尾を掴んで身体を持ち上げられる。歯を食いしばって痛みに耐える。笑い声が頭に響く。

「すげー顔。おもしれー」

そのまま揺すられて、落とされる。

しばらく身体が痙攣して動けない。冷汗が噴き出る。必死で苦痛をやり過ごす。尻尾と動物耳は神経が過敏で痛みも快感も大きい場所。しかも僕のような小型獣人は特にその傾向が強い。分かっていて、いつも尻尾を攻撃する獅子皇子たち。僕を笑う大きな獅子たち。怖い。

僕がどんなに苦しくても、楽しそうに笑う大型獣人貴族たちに城勤めの中型獣人たち。
こいつらは皆、バケモノだ。

 「来月の神への生贄、お前に決まりだってさ」
唐突に獅子皇子たちが言う。何? 

「最近神の御使いになれる者が居なくて、みんな戻って来ないから、一応王家の血を引くお前なら神の御使いになるんじゃないかって」

「父上、好きだからなぁ。神の御使い」

あははは、と笑い声。ゾクリと寒気が走る。

王族は白き羽のある獅子に獣化できる。王になる者は白き羽のある獅子獣人と決まっている。父王は獣化すると獰猛になる。小型獣人を噛み殺していると聞いた。

年間数名を天の川に入水させて、神の御使いとなり戻った者を獣化した父が食べている、とも聞いた。その行為が神の怒りに触れたのか、最近は神の御使いとして戻る者がいない。

「とうとうか。こいつの尻尾、切るかな。俺、貰えるかな? 剥製にしておきたい」
「父上に聞いておこう」
楽しそうに去っていく獅子皇子たち。

僕が性的な愛玩用にされなかったのは、いつか天の川への生贄になるかもしれなかったから。

神様に心から願う。僕を川の底に沈めてください。どうか、このルドの国に僕が戻らなくていいように、川の底に引き込んでください。お願いします。日々痛めつけられてジンジン痛む尻尾を抱き締めて、神に祈った。



 頭の上の動物耳を片方、切り落とされた。

 生贄にするため、天の川に入る前に動物耳や尻尾を切り落とす。貴族や王族の楽しみでもあるらしく、いたぶるように切る。

頭から身体を切り裂かれるような痛みと恐怖。悲鳴と涙でぐちゃぐちゃになりながら抵抗した。

執行人である大きな熊獣人が「抵抗した罰」として何度も殴る。意識を失いたいほどの苦痛なのに、気付けの薬というのを使われて気を失えない。

歓声と拍手が頭に響いている。片耳が切り落とされる頃には、「死にたい、もう殺して」それしか思い浮かばなかった。身体を少しも動かすことができず、そのまま熊獣人に天の川へ放り込まれた。大きな熊獣人が歓喜の雄叫びを上げていた。


 天の川の神様。お願い。僕を川底深くまで沈めて。

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