生きることが許されますように

小池 月

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Ⅲ章 ロンと片耳の神の御使い

2 天の川第三区警備〈side:ロン〉

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 「おい! 遅れるなよ! 第三区の管理範囲は覚えておくように!」
「はい!」

慌てて先に歩く闘牛獣人の先輩を追う。

ため息が出る。王室護衛に入隊したのに。美しいタクマ様を守ることが俺の使命なのに。つい、天の川の豊かな流れを見つめて、タクマ様を想いうかべてぼんやりしてしまった。いけない、これもタクマ様を守るためだ。そう自分に言い聞かせる。

 王室護衛として、入隊から三年は基礎訓練期間。国内の各警備基地や都市を転々として現地の様子を知る。視察に出た時の知識を持っておくため。この期間に警備の基本や体術の強化訓練、護衛としての心構えなど習得していく。必要期間だけれど、すぐにタクマ様の傍に行けると思っていたから、気落ちしている自分がいる。

 ここ、第三区は天の川の河口から三番目区域。河口に行くほど川幅は広くなる。豊かに流れる天の川は、川幅三キロ以上の神の川。この世界にある巨大な一つの大陸を分断する川。

川より東が俺たちの国「リリア」。川向こうの西の国が「ルド」。二つしかない国は交流がない。天の川は神が住む川。これは確かな事実。川に入る者は底に沈み助かることが無いし、渡ることも橋を架けることも出来ない。

ただ、ごくまれに神に助けられる者がいる。神に命を助けられた者は信仰の対象となる。「神の御使い」と呼ばれる存在。川に入って助かった者は、現在リリアではタクマ様と第一皇子ルーカス殿下のみ。光り輝く二人の姿を思いうかべ、神が助けるのも頷ける二人だと納得する。豊かで自由で優しいリリア国と相反して奴隷制度と階級制度で恐ろしい国なのが「ルド」。

 タクマ様が十三区域で天の川から流れ着いたあと、タクマ様を誘拐しようとルドの末端王族がリリアに侵入した。歴史上初めてのことだった。侵入したが、ルドに帰るときに天の川の神の怒りに触れた。川にのまれて消えたルドの王族。

だが、ルドから侵入があったことでリリア沿岸区域の危機感が高まった。何を考えているか分からない国。リリアに害をなすかもしれない国。侵略は許してはいけない。それ以降、沿岸警備が厳重になった。

「おーい、ロン。俺は先に基地に向かう。靴の紐が切れた。すまないが、あと一キロ先までの確認をしてから戻ってくれ。何かあれば無線で直接基地に連絡をくれ」
「はい。わかりました」

定時の目視確認はトラブル予防のため単独では行わないが、この場合は仕方がない。無線を常時オンに切り替える。「頼んだ」と戻る先輩を見送り、五百メートルほど進んだ時。川に、ぼんやりと光? 双眼鏡で確認する。

呼吸が止まるような衝撃! 神の御使いだ!

「報告します! 三区、定時確認中のロンです! 天の川に神の御使いが現れました!」

『なに!? こちら三区基地本部! すぐに基地から確認する。位置の確認をして応援を派遣する。それまで、神の御使いから目を離すな! あぁ、こちらでも神の御使いを確認した! ありがたい!』

ドキドキした。無線から興奮した獣人たちの声がする。

俺は神の御使いから目が離せずに、惹かれるように川岸に歩み寄っていた。

こっちに、こちらにおいで。そっと川に向かって手を差し伸べる。ぼんやりとした光が、ゆっくり向かってくる。

その内に駆け付けた警備兵が興奮して「神の御使いだ!」「本物だ!」と騒ぐ。その声が少し遠くに感じた。あの光を失ってはいけない。そんな思いで手を差し伸べ続けた。

川の流れに逆らうように近くに来た神の御使いを、丁寧に引き寄せる。腕に収まる、これは小型の獣人だ。

びしょ濡れの大きな尻尾。リス獣人だろう。だけど、耳が片耳、ない。右耳の付け根から切られている、まだ生々しい傷。殴られたような青あざのある顔。痛々しい。天の川の神に感謝をして獣人を腕に抱く。

腕の中の獣人は青い顔で意識が無く、生気が感じられない。

「ロン! 神の御使い様を早く医療チームに」
「はい!」

急に現実に戻って、医療班に引き渡す。腕から手放すときの心に感じる喪失感。なんだ? ゾワリとする。

運ばれていく神の御使いから目が離せなかった。

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