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Ⅲ章 ロンと片耳の神の御使い
6 白き羽と痛む心〈side:ミゴ〉
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『初めまして。リリア国、第一皇子ルーカスだ。新しい神の御使いを見られて嬉しいよ』
『初めまして、僕は君と同じ神の御使いと呼ばれているタクマと言います。よろしく』
大きな画像越しに、精悍な獅子獣人と可憐な黒髪の青年。天国にも獅子獣人がいた。どうしていいか分からずロンにしがみ付く。
『わぁ、大きな尻尾、可愛いね』
『こら、タクマ。尻尾はむやみに褒めるなと言っているだろう?』
『いえ、これは可愛いでしょう』
獅子獣人が怖くてロンに隠れたけれど、画面の向こうでは僕に構わず楽しそうな声が流れる。チラリと見れば、優しそうな獅子獣人の顔。僕が見たのが分かったのか、視線をこちらに向ける。慌ててロンに顔をうずめる。
「ミー、大丈夫だよ。意地悪なミーの兄弟皇子じゃない。リリアの王族だ」
ロンの優しい声。リリア? ここ、天国じゃないの?
「え? ここは、リリア、なの? あの、怖くて野蛮な国って言う、リリア?」
僕の呟きに周囲皆がブハっと吹きだす。
『そうか、ルドではそんな風に聞いているのか。面白いなぁ』
画面の中の獅子獣人が口を開けて笑っている。
「そうだよ、ミー。ここは天国じゃなくてリリアだ。ミーはリリアに流れ着いたんだ。ミーの背中の奴隷の焼き印。コレを調べた。この家紋はルド王家のものだ。あとは会話の中からミーのことが分かったよ」
『調書を見た。ミー、いやミゴのことは知っている。リリアではミーとして幸せに暮らせばいい。さて今は、王家の白き羽をどう戻すかが問題だな』
『ルーカス様、このままがいいですよ。見てください。すっごく可愛らしいです』
『あはは。タクマ。好みの問題じゃないから』
黒髪の獣人を見る。あれ? この獣人、耳が、ない。聞いてみたくて、ドキドキしながらたずねる。
「あの、耳は? 両耳とも、切られたんですか?」
片耳を切られた痛みを思い出す。
『う~ん、ちょっと違うのですが。それについては今度ゆっくり話しましょう』
黒髪の神の御使いに微笑みかけられると、心臓がドキンとする。神秘的な、綺麗な方だ。
『俺が幼いころ獣化して戻れなくなった時には、三日くらい獅子でいたな。そうだ、食い物が食べにくくて人型になりたいって強く願ったんだよ。人型を、いつもの自分の身体を思い浮かべるんだ』
「いつもの、自分?」
よく分からない。背中に生えてしまえばコレが普通のような気もするし。もぞもぞ羽を動かして、こんな大きいのが僕のどこに収納されるのか分からなくて首をかしげる。
『難しいか。困ったな。このままでもいいのかもしれないが、獣体で長くいると人型に戻れなくて獣になるらしい。本当か分からんが。ミーの場合は部分的に羽だけだから、獣になるワケじゃないし、問題ないか』
「問題あります。服は、どうしましょう」
真面目に答えたのに、わはは、と笑うルーカス皇子殿下。なんで?
『いいさ。洋服は特注で羽出し服を作ると良い。十日ほどでそちらに向かおう。羽のあるミーを王都に呼べば大騒ぎだ。俺たちが会いに行く』
『お会いするのが楽しみです』
「ルーカス様、タクマ様。俺も会えるのを楽しみにしています」
頬を染めるロン。恋焦がれるようなその視線はタクマ様に釘付け。熱のこもった視線に、心がチクっとした。
「おい、ロン。想い人のタクマ様を見られたじゃないか。良かったな」
映像電話を見守っていた副隊長さんが声をかける。「はい」と頬を染めて答えるロン。
やっぱり、そうか。ロンはタクマ様が好き。チクチクしていた心が、ズキンとする。僕だけに優しくて僕だけのロンだと思ったのに。
ロンが言っていた「大型獣人の本能」という言葉を思い出す。僕に優しいのは、小型獣人に対する本能。でも、タクマ様には? 頬を染めてタクマ様を見つめるロンの顔が頭に過る。あぁ、モヤモヤする。
「ミー、部屋に戻りましょう」
「ひとりで行ける!」
椅子から立ち上がって早足でロンの前を過ぎる。あっけにとられる周囲。興奮して前かがみに歩いて、羽の大きさでバランスが取れずに、前のめりに転ぶ、と思ったらロンに抱き上げられていた。
困った顔のロン。違う。こんな顔をさせたいんじゃない。違うんだ。何だかワケの分からない、悲しい感情に混乱する。
「ぅ、うわ~ん」
よく分からないまま、声を上げて泣いた。ボロボロと涙が溢れて止まらない。わーっと泣く僕を、「大丈夫ですよ、大丈夫」と抱き締めてくれるロン。
この優しさが、僕が欲しい優しさなのか分からない。心が、痛い。
『初めまして、僕は君と同じ神の御使いと呼ばれているタクマと言います。よろしく』
大きな画像越しに、精悍な獅子獣人と可憐な黒髪の青年。天国にも獅子獣人がいた。どうしていいか分からずロンにしがみ付く。
『わぁ、大きな尻尾、可愛いね』
『こら、タクマ。尻尾はむやみに褒めるなと言っているだろう?』
『いえ、これは可愛いでしょう』
獅子獣人が怖くてロンに隠れたけれど、画面の向こうでは僕に構わず楽しそうな声が流れる。チラリと見れば、優しそうな獅子獣人の顔。僕が見たのが分かったのか、視線をこちらに向ける。慌ててロンに顔をうずめる。
「ミー、大丈夫だよ。意地悪なミーの兄弟皇子じゃない。リリアの王族だ」
ロンの優しい声。リリア? ここ、天国じゃないの?
「え? ここは、リリア、なの? あの、怖くて野蛮な国って言う、リリア?」
僕の呟きに周囲皆がブハっと吹きだす。
『そうか、ルドではそんな風に聞いているのか。面白いなぁ』
画面の中の獅子獣人が口を開けて笑っている。
「そうだよ、ミー。ここは天国じゃなくてリリアだ。ミーはリリアに流れ着いたんだ。ミーの背中の奴隷の焼き印。コレを調べた。この家紋はルド王家のものだ。あとは会話の中からミーのことが分かったよ」
『調書を見た。ミー、いやミゴのことは知っている。リリアではミーとして幸せに暮らせばいい。さて今は、王家の白き羽をどう戻すかが問題だな』
『ルーカス様、このままがいいですよ。見てください。すっごく可愛らしいです』
『あはは。タクマ。好みの問題じゃないから』
黒髪の獣人を見る。あれ? この獣人、耳が、ない。聞いてみたくて、ドキドキしながらたずねる。
「あの、耳は? 両耳とも、切られたんですか?」
片耳を切られた痛みを思い出す。
『う~ん、ちょっと違うのですが。それについては今度ゆっくり話しましょう』
黒髪の神の御使いに微笑みかけられると、心臓がドキンとする。神秘的な、綺麗な方だ。
『俺が幼いころ獣化して戻れなくなった時には、三日くらい獅子でいたな。そうだ、食い物が食べにくくて人型になりたいって強く願ったんだよ。人型を、いつもの自分の身体を思い浮かべるんだ』
「いつもの、自分?」
よく分からない。背中に生えてしまえばコレが普通のような気もするし。もぞもぞ羽を動かして、こんな大きいのが僕のどこに収納されるのか分からなくて首をかしげる。
『難しいか。困ったな。このままでもいいのかもしれないが、獣体で長くいると人型に戻れなくて獣になるらしい。本当か分からんが。ミーの場合は部分的に羽だけだから、獣になるワケじゃないし、問題ないか』
「問題あります。服は、どうしましょう」
真面目に答えたのに、わはは、と笑うルーカス皇子殿下。なんで?
『いいさ。洋服は特注で羽出し服を作ると良い。十日ほどでそちらに向かおう。羽のあるミーを王都に呼べば大騒ぎだ。俺たちが会いに行く』
『お会いするのが楽しみです』
「ルーカス様、タクマ様。俺も会えるのを楽しみにしています」
頬を染めるロン。恋焦がれるようなその視線はタクマ様に釘付け。熱のこもった視線に、心がチクっとした。
「おい、ロン。想い人のタクマ様を見られたじゃないか。良かったな」
映像電話を見守っていた副隊長さんが声をかける。「はい」と頬を染めて答えるロン。
やっぱり、そうか。ロンはタクマ様が好き。チクチクしていた心が、ズキンとする。僕だけに優しくて僕だけのロンだと思ったのに。
ロンが言っていた「大型獣人の本能」という言葉を思い出す。僕に優しいのは、小型獣人に対する本能。でも、タクマ様には? 頬を染めてタクマ様を見つめるロンの顔が頭に過る。あぁ、モヤモヤする。
「ミー、部屋に戻りましょう」
「ひとりで行ける!」
椅子から立ち上がって早足でロンの前を過ぎる。あっけにとられる周囲。興奮して前かがみに歩いて、羽の大きさでバランスが取れずに、前のめりに転ぶ、と思ったらロンに抱き上げられていた。
困った顔のロン。違う。こんな顔をさせたいんじゃない。違うんだ。何だかワケの分からない、悲しい感情に混乱する。
「ぅ、うわ~ん」
よく分からないまま、声を上げて泣いた。ボロボロと涙が溢れて止まらない。わーっと泣く僕を、「大丈夫ですよ、大丈夫」と抱き締めてくれるロン。
この優しさが、僕が欲しい優しさなのか分からない。心が、痛い。
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