生きることが許されますように

小池 月

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Ⅳ章 リリアに幸あれ

2 幸せな日々②

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 王都に来てからロンの父に会いに行った。

ロンが神の御使いになり、神の子ミーと恋人であることを伝えると見事にひっくり返った。父も大型熊獣人だから、ひっくり返るくらいは身体的には何ともないだろうが、見ている周りが驚いた。

「父さん!?」
「いや、大丈夫。大丈夫だ……。ロンが神の御使いになって、神の子と恋人……」

呟きながら起き上がって、正面にいるミーの羽を見て、またひっくり返ってしまった。急に倒れた父に驚いてミーが王族の白き羽を出してしまっていた。ミーは目を白黒させて固まっていた。

「ミー、ちょっと座っていて」

目の前の出来事に付いて行けていないミーを休ませて、とりあえず父を支えてソファーに座らせる。すぐにタオルを濡らして父の額に乗せる。

「ロン、父さんは頭がパンクしそうだ……」
「うん。わかるよ。でも俺が何か変わったわけじゃない。神の御使いになったけど、俺は俺だよ」

「そんなものなのか……。ダメだ。ついていけない」
「少し休んでいて。ミーが大丈夫か見てくる」

ダイニングテーブルの椅子に座るミーのところに行く。
「ミー、驚かせてゴメン。父は大型獣人で屈強だからこれくらいじゃ何ともないよ」
コクコクと首を縦に振るミー。

「羽、しまえる? そのままじゃ目立つから」
ひとつ頷いて、首をかしげながら羽をしまおうとするが上手くいかない様子。

「ごめんなさい。どうしてかな。羽が消えないよ」
困った顔のミー。きっと知らない場所で驚くことがあって、落ち着いてコントロールできないのだろう。仕方ない。

「あぁ、すみません。神の子様。驚かせてしまいました」
ソファーから父が歩み寄る。もう大丈夫そうだ。良かった。

そんな父を見て、片方しかないリス耳をピンと立たせてミーが起立する。めちゃくちゃ緊張しているのが伝わってくる。

「あの、僕はミゴと言います。ミーと呼ばれています! 本当は、ルドではゴミのミゴって呼ばれていましたが、リリアではミーでいいってロンが言ってくれて。あの、ルド生まれで、奴隷だから天の川に捨てられて、リリアに流れ着きました! あの、あ、耳は……」

「ミー! いいから。もう、いい。そこまで言わなくていいから」

ド緊張して混乱しているミーをなだめる。顔を真っ赤にして話していて、今度はミーが倒れてしまいそうだ。ミーが倒れたら父のように無傷では済まない。そっと背中を支える。

父さんはそんなミーをじっと見て、優しく微笑んだ。きっと色々察してくれた。

「神の子ミー様。お会い出来て光栄です。うちのバカ息子と仲良くしていただき心から感謝します」
そっと膝をつく父。

やっとミーと目線が合う位置になり、ミーがふわりと微笑む。王族の白き羽が出ているミーの微笑みは、まるで天使が降臨したかのようだ。その神々しさに感動の涙が流れそうになっている父。

「あぁ、ありがたい」
つい漏れ出る父の言葉に、ウンウンと頷いてしまう。

「えっと、あの、お父さんも熊、なんですね」
ミーの可愛い質問に頬を赤くする父。

「そうです。ロンと同じツキノワグマです。妻は他界していますが中型の狸獣人でした。病弱でしたが、それは愛らしい獣人で」
デレっとした顔をする父。こんな顔、久々に見るから笑いが込み上げる。

「父さん、お茶を入れるよ。お菓子ある? ミーは甘いお菓子大好きだから」
「ちょっと、ロン! 僕はそんなに食い意地張ってない!」

「ミー様のために用意してあります」
父が少し笑って茶の準備にキッチンに行く。

「ミー、羽は仕舞えそう?」
「うん。もう一回やってみる」
首をかしげながら真剣な顔で考えこむようにして数分。ふわりと白い残像を残して羽が消える。

 羽が消える時は、一度羽ばたくようにして、閉じる時に柔らかくミーに吸収されていく。

この瞬間は何度見ても見とれてしまう。ミーが白い光に包まれるようで美しい。神の子、と言う言葉が良く似合うと思う瞬間。

視線を感じてキッチンを見ると、目を見開いて見入っている父。そうだよな。噂でミーは羽がある神の子と有名だけど、実際目の前で見ると誰もが静止してしまう驚きの光景だ。世の中には羽をもつ鳥類の獣人なんて存在しないから。

羽があるのは獣化した獅子王族だけ。

「すごい……。神の降臨だ」
父の感嘆の声に照れた笑いを漏らすミー。そのままキッチンにトコトコ来る。

「僕、手伝います」
「とんでもありません! 神の子様は座っていてください。あぁ、このような神々しい存在が我が家に居るなんて……」

「そんな、僕はルドでは奴隷として生かされていましたし、敬われるような存在じゃありません。どうしよう、ロン」
ミーの困り顔。

羽が生えたからってミーの中身が変わったわけじゃないからな。父の気持も分かるし、ミーの気持ちも分かる。

「父さん、ミーを息子として受け入れてもらいたいんだ。俺はミーと伴侶の婚姻を結ぶつもりだ。俺を大切に育ててくれたように、ミーを大切に愛してほしいんだ。家族に迎え入れて欲しい」

真剣に伝えると、隣でミーがユデダコのように真っ赤になっている。そんなロンをゆっくり見る父。落ち着いた顔になり、にっこり微笑む。

「そうか。じゃ、ミー君と呼んでいいかな? こんなに愛らしい息子が出来るなんて嬉しすぎる。ロンは親孝行者だ」
林業を営む父の厚く大きな手がそっとミーを撫でる。幸せそうに笑うミー。

「僕、お茶運びます!」
「あぁ、ミー君はお菓子を運んでくれ。転んだら大変だ」
「はい!」
リス尻尾をユラユラ揺らして全身で喜びを表現しているミー。楽しそうにキッチンとダイニングを行き来する。

「可愛らしいなぁ」そんな父の呟きに「だろ?」と相槌を打つ。

 お茶をして、家を案内して、父の仕事場を見せて、母の墓参りをした。あっという間の一日。ミーは父の事を「お父さん」と呼ぶようになり、父はその可愛らしさにデレデレだった。

「時々、遊びにおいで。ミー君、ロンと喧嘩したらココに逃げ込みなさい。父さんはミー君の味方だよ。ロンのお尻をひっぱたいてやるからね。ココはミー君の家だと思っていいからね」

(おい、俺も息子だろうが)と思ったがグッと我慢した。隣でミーが幸せそうに笑っていた。

 ――絵にかいたような幸福な時の中にいた。この幸せを失うなんて、考えていなかった――


 十年以上前、タクマ様を誘拐しようとルドの末端王族がリリアに侵入した。歴史上初めてのことだった。リリアもルドも王族は獣化できる獅子獣人。獣化した獅子王族には大きな白き羽があり空を飛べる。

獣人には鳥類は存在しないため、空を飛べるのは唯一王族だけ。ルドの王族は空から侵入したがルドに帰るときに天の川の神の怒りに触れた。川にのまれて消えたルドの王族。だが、ルドから侵入があったことでリリア沿岸区域の危機感が高まった。

 そして去年、ルドの王族奴隷であったミーがリリアに流れ着いた。リリアでミーに王家の白き羽があることが分かり、ルドの皇子三人がミーを攫うためにリリアに侵入した。

だが、やはり天の川の神の怒りに触れて川の底に沈んだ。ロンはその時、ミーを助けるために天の川に飛び込んだ。ミーと一緒に川に沈んだと思ったが、天の川の神に助けられて神の御使いと呼ばれるようになっている。

ロンは国防局特別参謀としての役職をいただいた。

これまでルド国から侵入が二度。三度目が無いとも限らない。そして、ルドが欲するのはタクマ様とミーだ。ロンは絶対にミーを守ると決意している。そのために国政と国防について勉強しながらルーカス様の側近として過ごす日々だ。

ちなみにミーは、タクマ様と一緒にリリアについて学習し、適度な運動をして、時々国内を視察する穏やかな日々を過ごしている。

ミーとタクマ様に教える講師たちが二人にメロメロになっている。そのせいで、学習ペースがとてもゆっくり。ルーカス様は、二人のペースでゆっくり学べばいい、と笑って見守っている。

全てがキラキラした幸せに満ちていた。



 平和をかき乱す小さな事件。ソレはある日、突然に流れ着いた。

瓶に入ったリリア国王宛書状。その日以降、天の川から沿岸に何回か流れ着いているルド国王からの書状。全て回収している。沿岸区域は緊張が高まっている。王都にてどう対処するか方向を決めなくてはいけない。

国内にもザワザワと不安がくすぶり始めた。
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