生きることが許されますように

小池 月

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Ⅳ章 リリアに幸あれ

5 新国王戴冠式典とルドの狙い※

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 穏やかな気候のリリア。秋の収穫祭に合わせて、ルーカス新国王陛下とタクマ新妃殿下の戴冠式が開催予定となった。

国防会議からわずか一か月後の日程。危惧していたルドからの漂流物は時折届く文書のみ。激しい動きが無いうちに、と式典を執り行う運びとなった。

ルドからの文書の件で不安が渦巻いていた国民が、一気にお祝いモードに切り替わった。市内の至る所に笑顔が溢れている。


 「ねぇ、ロン! これ、買ってもいいかなぁ?」
ちょんちょんと可愛く服を引っ張られて足を止める。

ミーがブラッシング用櫛屋に釘付けになっている。ピクピクと片耳を動かして目をキラキラさせている。

幼子のようで見ているロンの頬が緩んでしまう。賑やかな街を見せたくて今日はミーと市街デート。忙しくて久しぶりの外出。頬を染めて「お出かけ嬉しいね」と尻尾を揺らめかせるミーを見ているだけで幸せだ。

「いいよ。何でも買って良い。どれか気になる物があった?」

「えっと、これ。この櫛、熊の絵が彫ってあるんだ。ほら、ロンの耳にそっくり」

ミーが指さす櫛を見ると、木の部分に可愛らしい熊。ロンの実家は木材屋だったから分かるが、結構腕のいい彫刻だ。木の質もいい。

「いい仕事をしていますね。これはつげ櫛ですか?」

声をかけると若い露店主が緊張した面持ちでひっくり返った声を出す。

「あぁ、はい! あの、神の子様ですか! ありがたい!」
その様子に苦笑する。

「普通の客のように接してもらって構いません。これ、店主が彫ったのですか?」

恐縮しながら店主は頬を染めて返答してくれる。

「はい。父が彫師をしています。僕は見習いです。あの、少しでもお金になればと露店に出していますが、神の子様に使っていただくような高級品ではありません。これらは安く一般市民向けとして出しておりまして、お恥ずかしい限りです。あの、西区の高級櫛店をお勧めいたしますので……」

「いや、結構な腕前だと思います。ね、ミー」
じっとロンと露店主との会話を聞いていたミーがニコリと笑う。

「うん。僕はコレが気に入ったんだ。ね、この熊はツキノワ熊ですよね? だってロンの耳と似ているんだ」

「そうです。良くお分かりになりましたね。ですが、この櫛は尻尾が大きい方には向きません。神の子様の毛質ですと、こちらのやや長めの方が良いかと」

「いいんだ。だってコレは僕がロンの尻尾を梳かしてあげるために使いたいから」

ミーの言葉にロンの顔が耳まで真っ赤に染まる。嬉し恥ずかしすぎてニヤける口元を片手で隠す。嬉しくてミーが可愛くて。

「店主、コレを下さい。他に、お勧めがあれば見せてください」

「はい。旦那様、愛されていますね。自分が彫った物を神の子様が使ってくださるなんて光栄すぎます。今日持ってきている最高品がこれです。この透かし彫りは太陽花です。大衆花で高貴な方には不向きかもしれませんが」

箱に入った櫛を取り出す露店主。丁寧な彫りが見事な逸品だ。

「いい出来ですね。コレもください」

「え? ロン、僕は一つで良いよ?」

「ミー、コレは俺がミーの尻尾を梳かす用だよ」

ミーの耳元で「夜に、ね」と、そっと囁くと「ひゃぁ」と声を上げる。ビクっとすると大きなしっぽがブワりと一瞬膨らんで愛らしい。それを見てクスクス笑うと「ロンの意地悪!」と少し拗ねるのが可愛い。

 楽しそうに笑うミーと手を繋いで賑やかな王都を歩く。時折、お菓子や小物の露店に足を止めて買い物をして。一緒に買い食いをして王城内の小宮殿に帰る。世界の全てがキラキラ輝いて見えた。幸せって輝くのだと知った。

帰り途中、歩き疲れたミーをおんぶした。小さな呼吸を首元に感じ頬が緩む。温かい感情がロンの心を満たしていた。


 「ロン、動かないでってば!」
そう言われても困ってしまう。小さな笑いをこらえて背中を丸くする。くすぐったくてプルプル震える。

「無理だよ、ミー。これはくすぐったい! あはは!」
とうとうロンは笑い出した。

 小宮殿に帰宅すると、さっそく櫛を使おうとリビングのゴロ寝スペースに二人で転がり込んだ。八畳ほどの床全体にマットレスを敷きクッションや毛布を置いている。二人生活を満喫できるゴロゴロスペース。

ミーはルド国で部屋を与えられず石の床に寝起きしていたらしい。そのため、床で寝ることにいつの間にか安心感を覚えていた。床が安心するなら、床自体を心地いい場所に変えてしまえと生まれたロンとミーの癒しの場所。

 マントを放り出し、ロンの熊尻尾を撫でさすり、「早く寝転がって」と嬉しそうに促すミー。

可愛くて笑いをこらえながら横向きに転がった。鼻歌でも歌いそうなミーが、つげ櫛でロンの尻尾を梳かし始める。が、恐々と尻尾を梳かすからくすぐったくてたまらない! 堪えても変な笑いが抑えられない。

加えて、「あれ? こうかなぁ?」と不器用に櫛を扱うミーが可愛くて面白くて。耐え切れずにロンは笑い出してしまったというワケだ。

「こら、ロン! どうして笑うの?」
櫛をもって不満そうな可愛らしいミー。起き上がり、ミーの額にロンの額をくっつける。

「ミー、優しすぎてこそばゆい。もう少し力入れてもいいんだよ? 怖い?」

「違うよ。これ、木が固くてロンが痛くないか気になって」

「そうか。この櫛は肌の部分に触れても痛くないように削ってあるんだ。ほら、ね?」
ミーの手のひらにつげ櫛を当てる。

「あ、本当だ。痛くない」
「ね。だからもう少し力入れても大丈夫だよ」

「ふぅん。知らなかった。もう一回やる」
「じゃ、お願いします」
額を合わせて笑いあい、一度キスをする。

そのままロンが横になると、ミーが愛おしそうにロンの丸い尻尾をナデナデする。そのまま、そっと付け根にミーがキスをする。ゾクリと快感が走りロンの前が固くなる。

尻尾に愛撫を繰り返しながら、櫛で丁寧に梳いていく。これは最高に気持ちがいい。ゾワゾワと走る快感に腰がモゾリと動いてしまう。

「ふぅっ」
とうとうロンの口から声が漏れる。

「今度は、気持ちいい?」

ロンによじ登るようにして獣耳の傍で話すミー。

そのままミーを持ち上げて、ごろりと仰向けになる。ミーを胸の上に抱き留めてキスをする、濃厚に口の中をむさぼり合い、勃起していたロンの陰茎をミーの身体にこすり付けて腰を動かす。気持ち良くてたまらない。

「ミー、ありがとう。最高に良かった。ほら、こんなになるくらい」
言いながらロンの勃起を可愛いミーの陰茎にすり寄せる。服を着たままでユサユサと腰を揺らしてアピールする。

「あぁ、ちょっと」と、顔を真っ赤にして照れるミー。何て可愛いのだ!
「次は俺の番。俺が尻尾を梳かすよ」


 「あぁ、きもち、いぃ、よぅ」
「ほんと? じゃ、もっと感じて?」
裸になったミーがビクビクと身体を震わせている。

艶々に毛並みの整った大きなリス尻尾をつげ櫛で梳かしながらミーの肌を愛撫する。「あぅ!」「あぁ!」と漏れる声が耳を犯す。白い柔肌に唇を落とす。

ふとミーの右背中にある焼き印が目に留まる。ミーがルド王家の奴隷であったことを証明する焼き印。これを見るたびにルド皇子たちのミーへの暴行を思い出す。

ロンが目にしたあの一場面だけでも、ミーの扱いがひどいものであったと想像できる。ルドでミーがどのような苦しみの中に居たのか、考えるだけで涙が出る。

ミーはルドで苦しかったことを口にしない。いつもニコニコと「楽しいね。幸せだぁ」「ロンと居ると嬉しい」と笑っている。そんなミーが愛おしくてたまらない。この世界の全ての幸福をミーにあげたいと思う。そんな思いを込めて丁寧にミーを愛撫する。

「ああ、もう、もう出ちゃう~~」
「いいよ。ほら、出して」

「ひゃぁ! あぁ!」
ビュクっとロンの口に射精するミー。カクリカクリと腰を突き出す動きが可愛い。

出して少し萎えたミーのペニスを手で支え、レロレロと先端を嘗め回す。すると足先まで突っ張りながら「やぁ! 今は、だめぇ~~」と嬌声を上げる。

その痴態を見ているだけでロンの股間が痛いくらい張り詰める。綺麗な尻尾の付け根を梳かしながらミーの後口にジェルを塗り込む。ほぼ毎日愛し合っているから直ぐに粘膜が吸い付いてくる。

後口が指を食むようにクパクパと動く。たまらなくてミーの腰を抱え上げて物欲しそうな後口にロンの舌をねじ込む。

「それ、いやぁ! ロン、きた、ないからぁ」
嫌々と逃げ腰になるミーを抱き寄せてしばらく舌で独特の粘膜を味わう。

本気で嫌がっているワケじゃないことは知っている。これをすると必ず涙目になって愛らしくミーが泣く。それが見たくて、してしまう。

(俺が変態でゴメン)
毎回心の中で謝る。可愛くて愛おしくて泣かせたくて。ミーが大好きで自分がコントロールできなくなる。

「ミー、愛している。大好きだ」
ミーの中にロンを埋め込みながら囁く。小さな後口が目いっぱい広がりながらハグハグとロンを飲み込んでくれる。キュウキュウと締め付けられる気持ち良さ。耳に届くミーの嬌声。悦びに染まる顔。

奥に、もっと奥に。ミーが痙攣するほど沈み込むのが気持ちいい。ミーが快感の限界に来るとブワっと羽が広がるのも美しい。こうしてずっと幸せの中にいたい。ずっと一緒に、幸せに。

愛しいミーを抱きながら微かに過る不安を抑え込む。今だけは二人だけの幸福に浸っていたいから。


 「う~~、おはよ。あぁ、また羽が出ちゃったのかぁ」
ふわぁっと欠伸をしてミーが目覚める。

「おはよ。ゴメン。俺のせいだよ。気持ち良くて可愛くて止められなかった」

「あはは。夜は変態のロンだよね」

クッションと毛布に囲まれて裸のままで抱きしめ合う。リス尻尾が甘えるようにすり寄ってくる。素肌の触れ合いがこれほど安心できるものとは知らなかった。軽くキスをして腕の中のミーを優しく抱きしめる。幸福に満たされる。

「ミーは、本当に俺の天使だ」

「じゃ、ロンは僕の神様だ」

これにはブハっと吹きだしてしまった。俺が神様って面白すぎる! 声を出して笑う俺を「何で笑うの?」って真っ赤な顔で詰め寄るミー。可愛すぎる!

「だって、俺はただの熊獣人で木材屋の息子だぞ? ただの一般人が神様って」

笑いながらミーをなだめたつもりだけど。ミーの顔色がサッと青くなり顔を逸らされる。あれ? 俺、何か悪かったか?

「え? ミー。どうかした?」
「……じゃ、僕は天使なんてとんでもないよ」

寝ていたゴロゴロスペースからスッと離れるミー。はっとする。

「ゴメン! ミー。育ちの事を言ったつもりじゃないんだ」

慌てて追いかける。目の前で羽がふわりと消える。肩を落とした小さな背中を後ろから抱きしめる。羽が消えると右背中の焼き印がくっきり目立つ。抱き締めながら「ごめん」と耳元に声を落とす。

どう償おうか考えていると、下を向いたままのミーのお腹が「グ~~」と鳴る。一瞬沈黙。どうしよう。『お腹空いた?』と聞いていい空気でもないけど。困ってしまい二人で固まる。

徐々にミーの首筋が真っ赤になっていく。恥ずかしい、のだよな? お互いに段々プルプル震えだす。もう、ダメだ!

「あははは!」
「ロン! 先に笑わないでよぉ!」

結局声を上げて笑いあって、真っ赤になったミーからポカポカ叩かれ、すぐに朝食を一緒に食べて仲直り。

次の休みに買い物に行こうと約束した。二つのつげ櫛を保管しておく箱を買おう、と。「二人の宝物だね」と笑うミーが愛おしくて大好きで。

――この時、『俺の一番の宝物はミーだよ』と伝えたかった。箱にしまわれることなく残された二つのつげ櫛を撫でさすり、心が怒りと憎しみで燃えたぎる。絶対に、護りたかったのに――
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