生きることが許されますように

小池 月

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Ⅳ章 リリアに幸あれ

6 新国王戴冠式典とルドの狙い②

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 王都の賑わいと比例してロンの仕事は多忙になった。

ルド対策、情報把握に加えて戴冠式における護衛任務と安全対策。式典は一日だが一週間は王都が祝賀祭となるため王都の警備を強化していかなくてはいけない。ルーカス様も王位継承直後で激務になっている。

「なぁ、ロン」
「はい。ルーカス陛下」

「俺たちは、いつになったら恋人に会えるのかなぁ」
「……はい」

「もう、何日かなぁ」
「……五日です」

戴冠式典と祝賀祭にルド対策。やることが多くて主城に泊まり込み五日目。ルーカス様がバンっと執務机をたたく。

「よし! 決めた! もういいよ。ほら、戴冠式って王冠かぶれば終わりだよな。今、ここでかぶる! それで式典終わり! さ、やろう。今済ませよう!」

「……ルーカス陛下」
ロンをはじめ数名が困った顔でルーカス様を見つめる。ゴホンと咳をして内政大臣が発言する。

「陛下。戴冠式は伴侶であるタクマ妃殿下の戴冠もございます。いつも慎ましくお過ごしの妃殿下が国民の大喝采を浴びて陛下と並ぶお姿。ご想像くださいませ。美しいでしょうなぁ。それこそ女神と称えられて後世に語り継がれる伝説の妃殿下の誕生でしょうなぁ。何しろ神の子が妃殿下ですぞ。国民の心の支えにもなりましょう」

先ほどまで投げやりな態度であったルーカス様がピタリと静止している。

「……うん。タクマの戴冠か。そうか。まぁ、美しいのは分かっているが、そうか。大喝采に囲まれて俺と並ぶのか。それなら、そうだな。戴冠式は華やかな方がいいな! おい! 式典の詳細をもう一度詰めるぞ。衣装とパレードが最重要だ! タクマをより美しく華やかにな! だが、タクマの負担になってもだめだ。あと、ミーとロンは神の御使いとして傍に。特別来賓だ。神の祝福を授ける役はミーがいいだろう」

執務室にいた全員が胸をなでおろした。ルーカス様は本気で「やめた!」と言い出しかねないから。ちょっと気まぐれが出ると困った方だが、陛下として十分な資質のある方だ。

「陛下、俺とミーも参列ですか?」

「当然だ。国の象徴としての仕事だ。ミーがいればタクマの緊張が薄れる。それに羽を出したミーから神の祝福を授かるのは絵的に映えるだろう。いいか、ロン。国防参謀と共に我々が神の御使いでもあることを忘れるな」

「先ほどまで駄々をこねていた方の言葉とは思えません」

つい言い返してしまった。しまった。プライベートじゃない。ここは公務の場だ。返答を間違ってしまった。ルーカス様は半目でロンを見据えている。

「ロン、お前のパレード衣装パンツ一丁に決まりな。そうだ。パンツの前にでっかい熊のアップリケでも付けたらどうだ? ミーが喜ぶだろう。おい、ちゃんと準備するよう手配しろ」

「陛下、タクマ様の近くにそのようなハレンチ男を置いて良いのですか?」

側近の言葉に笑いながら「それはダメだな」と話が進んでいく。

(ちょっと待て。何故俺がハレンチ扱いなんだよ??)

納得いかないと思いながらも、ルーカス様がやる気になったなら、良しとする。

まぁ、ルーカス様の気持ちは分かる。もう五日も帰っていない。五日間、ミーに会えていない。会いたくてイライラするよ。

 結局、戴冠式典の日までは一週間に二日程度しか帰宅できなかった。それも寝落ちするだけの帰宅。ミーに会いに帰るようなものだった。


 戴冠式。

秋の収穫祭に合わせた祝日。王城大広間で全国に映像配信をしての王冠授与。前国王からの戴冠。ルーカス様は赤と白の正装に金の装飾タキシード。

目を引くのが床にゆったりと広がる宝石をちりばめた赤の重厚なマント。タクマ様は白銀タキシードに濃紺色のマント。リリアでは国王と国王妃殿下だけが床に着くマントを着用する。床に美しく広がるマントは繁栄の象徴。

国の要人が見守る中、金に輝く王冠を授かるルーカス様とタクマ様。静寂な大広間に城外からの大歓声が響き渡る。

最後に天の川の聖水を新国王、新妃殿下の両手に注ぐ。

常に清き手であるように願いを込めて。聖水の入った金の水桶を持ち運ぶのはロンの役割。聖水を注ぐのはミーが担当。ミーがド緊張していて可哀そうだった。それでも練習と同じようにしっかりこなせていた。その場で褒めたたえたい衝動を抑えるのが大変だった。

白き羽を出したミーの姿が神の子そのものに思えた。心臓が跳ね出そうなくらい愛らしかった。

儀式自体は簡単な一連の流れ。一時間もかからない。滞りなく遂行できている。だが、ここからが大変だ。ルーカス様の新国王スピーチに、王都パレード。夕刻には祝賀会。それら全てにロンとミーが同席する。

 ルーカス殿下の新国王スピーチも大変素晴らしく、問題なく終了。国民の大喝采の中にルーカス様とタクマ様の寄り添う姿。

神の御使いが国王になるなど歴代なく、ルーカス様は『リリアの太陽』と称されている。

ルーカス様とタクマ様がいればリリアは平穏安泰であると誰もが確信した。ロンとミーはリリアの自然を表す緑の衣装に身を包み、最も近くで拝見できた。この迫力ある歴史の一ページに最前列で参加でき、感激と感動を覚えた。リリアは美しく気高い大国だと実感した。


 「ミー、疲れた?」
パレードのため式典会場から馬車に移動中。支えるようにしながらミーに話しかける。

「ううん。疲れより、緊張がスゴイ。これ、リリアって、こんなに獣人がいるの? すごいよね。ワァってなる迫力とか、もう、なんて言って良いのかな」

赤い顔で興奮しているミーをヨシヨシと撫でる。

「そうだよね。ミー君の言う通りだよ。迫力が凄すぎて、緊張しっぱなしで、眩暈がするよ」
前を歩いているタクマ様が振り返りながら少し困った微笑み。

「何!? 眩暈か! タクマ、どうする? パレードは中止でも良いぞ。すぐに青宮殿に戻ろうか?」

タクマ様を抱えるように支えていたルーカス様が歩みを止める。その言葉に周囲の護衛も大臣たちもギョッとして「陛下!」「なりません!」と声を上げる。

「うるさい! タクマが調子悪いのならば中止で良いだろうが!」

「ルーカス様、僕は大丈夫です。ほら、国民の皆さんがルーカス様をお待ちです。僕はパレードでも大人気のルーカス様が見られるのが楽しみです」

タクマ様のニッコリ笑顔にルーカス様がそっとキスをする。公衆の面前でのキスに周囲の皆が頬を染める。ミーなんか尻尾をビーンと立てて真っ赤になっている。

「る、ルーカス様! こんな、こんな場で!」
真っ赤になりプルプル震えるタクマ様をルーカス様がフワリと横抱きにする。

「わぁ!」と小さな悲鳴が聞こえ、豪華なパレード用オープン馬車に乗り込むお二人。二つの金の王冠が陽の光に反射してキラキラと美しい。仲の良い二人を見てミーとクスクス笑った。

ロンたちは二台目のオープン馬車に乗る。
全て順調。素晴らしい戴冠式だ。これからのリリアを神までが祝福してくれているような晴天。騎兵隊隊列に囲まれてパレードが開始。

街頭には一目見たいと駆け付けた人々。祝福の花びらを撒き、「陛下!」「新国王!」「万歳!」の大歓声に包まれ歓喜の渦の最中。

 それが、起きた。
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