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Ⅳ章 リリアに幸あれ
9 奪還作戦
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天の川第百区域基地の牢から出た翌日。ロンは何もする気が起きず、ミーを想い天の川を眺めていた。残された手紙を何度も指でなぞり流れる涙を止めることが出来ず嗚咽が漏れる。
悲しいなんてモノではない。この沈んだ心をなんと表現していいのか分からない。苦しくて痛くて。
そんな時、ルーカス陛下の訪室。
「さて、ロン。少し落ち着きは取り戻したか?」
ルーカス様から声がかかる。今日はタクマ様がいないな、とぼんやり考えた。
「……はい。ご迷惑を、おかけしました」
下を向いて小さな声で返答する。返事をしている最中も涙が止まらない。体裁を整えるとか出来る状況ではなかった。
「そうだな。お前は普段穏やかなくせに、ミーが絡むと人が変わるからな。なぁ、ロン。ミーはルドで幸せだと思うか?」
ルーカス様の言葉に頭がカッとした。目の前の机を思いっきり叩いていた。
「ルドが幸せなわけがない!! ミーは、ミーは俺の傍に居るのが幸せなんだ!」
興奮するロンに対し、ルーカス様がニッコリ微笑む。
「だよな。ルドになんか渡したくないよな。お前が諦めているのなら、この話はやめようと思っていた。だが、その気持ちがあるならば、取り戻すか?」
はっとルーカス様を見る。今度は真剣な瞳になりロンを見ている。
「時間がかかるかもしれん。だが、ルドがミーをすぐに殺すようなことはしないだろう。ルドにしてみたら唯一の神の御使いであり王家の羽を持つミーだ」
「攻めるの、ですか?」
「いや、返せと直談判する。ロン、お前がやるんだ」
ルドと交流がないのにどうしろと言うのだ? 意味が分からない。
「ロン、タクマの世界では空を飛ぶ乗り物があるそうだ」
「空を、飛ぶ?」
「そうだ。タクマを交えて話をしたいが、ロンが暴れるならばタクマを同席させない。タクマに危害が加わるならばダメだ。どうだ? 我慢できそうか?」
「もちろんです! タクマ様に危害を成すなど絶対いたしません。誓います!」
「そうだ。絶対、だぞ。お前が暴れると大変なんだからな」
わざとらしくため息をつくルーカス様に深く頭を下げて謝罪した。
「ロン君、こんな時に話しに来てごめんね」
申し訳なさそうなタクマ様。タクマ様も赤い目だ。きっとミーの事で泣いてくれているのだろう。我慢できずに再びロンの目から涙が零れる。
「ロン、大丈夫か?」
「はい。絶対に暴れません。涙は止まりません。申し訳ありません」
「いいさ。暴れなきゃ涙くらいかまわん」
タクマ様をそっと自分の後ろに隠すルーカス様。
そうだろうな、と納得。絶対にタクマ様の前で自制心を失わないように自分を戒めた。室内の応接ソファーで対面する。窓の外には夕日に水面を光らせる天の川。美しい川を見て、川の向こうのミーを想う。無事でいて。
苦しいことが無いように。ミーを想うとまた涙が頬を伝う。
「ロン君、辛い、ね」
タクマ様の一言に天の川を見たまま嗚咽が漏れる。情けないが堪えることができない。
「すみま、せん……」
嗚咽の合間に謝罪を示す。首を横に振りながら一緒に涙するタクマ様。
「ミー君が無事であるよう心から願います」
タクマ様の言葉が優しくロンの心に染み込んだ。
「さて、そろそろ話しを進めようか。タクマ、ロン、共に大丈夫か?」
「はい」
「大丈夫です。申し訳ありませんでした」
ポンポンと肩を叩くルーカス様の気遣いに頭を下げて感謝を示す。気持ちを切り替えなくては。助け出す手段があるならば一日でも早く。ロンが顔を上げるとルーカス様がひとつ頷き話し始める。
「タクマ、空を飛ぶ乗り物の事をロンに話してくれるか?」
「はい。僕のいた世界では飛行機やヘリコプターという機械の原動機力を使用した飛行技術と、風を利用したパラグライダーやハングライダーという飛行技術。そしてもう一つ。熱の上昇気流の力を利用した熱気球や飛行船という飛行技術がありました」
チンプンカンプンな話に首をかしげる。
「ま、絵にしてみれば分かりやすいさ。俺も初めて聞いた時には想像もできなかったからな」
ルーカス様がイメージ図を用意してくれてあり、タクマ様の説明でやっと理解できた。もしかしたら、空を飛べるかもしれない。ミーを迎えに、行けるかも。淡い期待が生まれる。希望が、ある!
「ただ、ロン。これは危険な事でもある。ルドに侵入すれば、その時点で殺される可能性がある。着地できないかもしれん。団体で行けば敵襲だと思われる。飛行技術をルドに知られるのは避けたい。乗り物を奪われてはいけない。これまでの経験上、片道は天の川の上を飛べるが、二度は川の上を飛べない。意味が分かるか?」
ロンは手を握りしめて頷く。
「いいです。ルドに行き、ミーを奪還します。ルドに着いたら乗り物は天の川に流します。戻りは、ミーと川に入ります。全てを神の意志に委ねます。川の底に沈むのもミーとなら、いいです。離れて苦しい思いをするより、いい」
ミーに会えるなら、助ける可能性があるなら、死んでもいい。ミーと一緒ならいい。何もできずに泣くしかないより、いい。
「ロン君……」
タクマ様が涙を流し泣いていた。
けれど、もうロンは共に涙が流れることは無かった。命を懸けてミーを取り戻す。その思いが炎のようにロンの中に燃え上がっていたから。
『愛するロン。僕は、僕だけが幸せでいるなんて出来ないよ。僕の幸せと引き換えのように、ルドの獣人一人が死ぬような苦しみを味わうのは耐えられないよ。僕はルドに戻ります。ロン、僕に幸せの日々をありがとう。愛してくれて、ありがとう。ロンは幸せに生きてください。大好きなリリアの全てが、幸せでありますように。ミーより』
幼い字を何度も指でなぞり、覚悟を決めて折りたたむ。二つのつげ櫛と一緒に袋に入れて首から下げる。首に下げるとカチャリと鳴る櫛。ロンの胸で寄り添うような二つの櫛をそっと手で握る。
(待っていて、ミー)
天の川の神にミーの無事を祈った。
悲しいなんてモノではない。この沈んだ心をなんと表現していいのか分からない。苦しくて痛くて。
そんな時、ルーカス陛下の訪室。
「さて、ロン。少し落ち着きは取り戻したか?」
ルーカス様から声がかかる。今日はタクマ様がいないな、とぼんやり考えた。
「……はい。ご迷惑を、おかけしました」
下を向いて小さな声で返答する。返事をしている最中も涙が止まらない。体裁を整えるとか出来る状況ではなかった。
「そうだな。お前は普段穏やかなくせに、ミーが絡むと人が変わるからな。なぁ、ロン。ミーはルドで幸せだと思うか?」
ルーカス様の言葉に頭がカッとした。目の前の机を思いっきり叩いていた。
「ルドが幸せなわけがない!! ミーは、ミーは俺の傍に居るのが幸せなんだ!」
興奮するロンに対し、ルーカス様がニッコリ微笑む。
「だよな。ルドになんか渡したくないよな。お前が諦めているのなら、この話はやめようと思っていた。だが、その気持ちがあるならば、取り戻すか?」
はっとルーカス様を見る。今度は真剣な瞳になりロンを見ている。
「時間がかかるかもしれん。だが、ルドがミーをすぐに殺すようなことはしないだろう。ルドにしてみたら唯一の神の御使いであり王家の羽を持つミーだ」
「攻めるの、ですか?」
「いや、返せと直談判する。ロン、お前がやるんだ」
ルドと交流がないのにどうしろと言うのだ? 意味が分からない。
「ロン、タクマの世界では空を飛ぶ乗り物があるそうだ」
「空を、飛ぶ?」
「そうだ。タクマを交えて話をしたいが、ロンが暴れるならばタクマを同席させない。タクマに危害が加わるならばダメだ。どうだ? 我慢できそうか?」
「もちろんです! タクマ様に危害を成すなど絶対いたしません。誓います!」
「そうだ。絶対、だぞ。お前が暴れると大変なんだからな」
わざとらしくため息をつくルーカス様に深く頭を下げて謝罪した。
「ロン君、こんな時に話しに来てごめんね」
申し訳なさそうなタクマ様。タクマ様も赤い目だ。きっとミーの事で泣いてくれているのだろう。我慢できずに再びロンの目から涙が零れる。
「ロン、大丈夫か?」
「はい。絶対に暴れません。涙は止まりません。申し訳ありません」
「いいさ。暴れなきゃ涙くらいかまわん」
タクマ様をそっと自分の後ろに隠すルーカス様。
そうだろうな、と納得。絶対にタクマ様の前で自制心を失わないように自分を戒めた。室内の応接ソファーで対面する。窓の外には夕日に水面を光らせる天の川。美しい川を見て、川の向こうのミーを想う。無事でいて。
苦しいことが無いように。ミーを想うとまた涙が頬を伝う。
「ロン君、辛い、ね」
タクマ様の一言に天の川を見たまま嗚咽が漏れる。情けないが堪えることができない。
「すみま、せん……」
嗚咽の合間に謝罪を示す。首を横に振りながら一緒に涙するタクマ様。
「ミー君が無事であるよう心から願います」
タクマ様の言葉が優しくロンの心に染み込んだ。
「さて、そろそろ話しを進めようか。タクマ、ロン、共に大丈夫か?」
「はい」
「大丈夫です。申し訳ありませんでした」
ポンポンと肩を叩くルーカス様の気遣いに頭を下げて感謝を示す。気持ちを切り替えなくては。助け出す手段があるならば一日でも早く。ロンが顔を上げるとルーカス様がひとつ頷き話し始める。
「タクマ、空を飛ぶ乗り物の事をロンに話してくれるか?」
「はい。僕のいた世界では飛行機やヘリコプターという機械の原動機力を使用した飛行技術と、風を利用したパラグライダーやハングライダーという飛行技術。そしてもう一つ。熱の上昇気流の力を利用した熱気球や飛行船という飛行技術がありました」
チンプンカンプンな話に首をかしげる。
「ま、絵にしてみれば分かりやすいさ。俺も初めて聞いた時には想像もできなかったからな」
ルーカス様がイメージ図を用意してくれてあり、タクマ様の説明でやっと理解できた。もしかしたら、空を飛べるかもしれない。ミーを迎えに、行けるかも。淡い期待が生まれる。希望が、ある!
「ただ、ロン。これは危険な事でもある。ルドに侵入すれば、その時点で殺される可能性がある。着地できないかもしれん。団体で行けば敵襲だと思われる。飛行技術をルドに知られるのは避けたい。乗り物を奪われてはいけない。これまでの経験上、片道は天の川の上を飛べるが、二度は川の上を飛べない。意味が分かるか?」
ロンは手を握りしめて頷く。
「いいです。ルドに行き、ミーを奪還します。ルドに着いたら乗り物は天の川に流します。戻りは、ミーと川に入ります。全てを神の意志に委ねます。川の底に沈むのもミーとなら、いいです。離れて苦しい思いをするより、いい」
ミーに会えるなら、助ける可能性があるなら、死んでもいい。ミーと一緒ならいい。何もできずに泣くしかないより、いい。
「ロン君……」
タクマ様が涙を流し泣いていた。
けれど、もうロンは共に涙が流れることは無かった。命を懸けてミーを取り戻す。その思いが炎のようにロンの中に燃え上がっていたから。
『愛するロン。僕は、僕だけが幸せでいるなんて出来ないよ。僕の幸せと引き換えのように、ルドの獣人一人が死ぬような苦しみを味わうのは耐えられないよ。僕はルドに戻ります。ロン、僕に幸せの日々をありがとう。愛してくれて、ありがとう。ロンは幸せに生きてください。大好きなリリアの全てが、幸せでありますように。ミーより』
幼い字を何度も指でなぞり、覚悟を決めて折りたたむ。二つのつげ櫛と一緒に袋に入れて首から下げる。首に下げるとカチャリと鳴る櫛。ロンの胸で寄り添うような二つの櫛をそっと手で握る。
(待っていて、ミー)
天の川の神にミーの無事を祈った。
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