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Ⅳ章 リリアに幸あれ
8 天の川への葬送
しおりを挟むルドの皇女二人の遺体は天の川へ葬送することに決まった。遺体保管棺で腐敗を防ぎ天の川まで一週間かけて搬送する。
敬意を払い葬送を行う。しかし、罪人と同じ扱いとして最下流区域からの葬送となった。ルド新国王のルーカス様と妃殿下タクマ様が見守る中、天の川に沈んでいく棺を見送る。持ち込まれた『獣耳』も全て天の川に返す。
ミーは下を向いて泣いていた。声を出さずに肩を震わす姿に誰も声をかけられなかった。
(ミーのせいじゃないよ。ミーが苦しまなくていい)
そう思いを込めてロンはミーの震える肩を抱き締めた。鼻の奥がツーンと痛んだ。
天の川に葬送してから二日。ミーは体調不良で寝込んでいる。ミーの体調が整うまで、この第百区域基地で過ごすことにしている。
「ロン君、ミー君は大丈夫?」
コンコンと控えめなノックと共にタクマ様とルーカス陛下が訪室される。陛下と妃殿下の訪室にロンは膝をついて出迎える。
「おい、公式の場ではない時はいつも通りで構わない。むしろ普段通りにしてくれ。そのほうが俺もタクマも気が楽になる」
ずかずかと部屋に入るルーカス様と苦笑しているタクマ様を迎え入れて扉を閉めてから返事をする。
「かしこまりました。では、不敬罪とか後になって言わないでくださいよ」
「おいおい、信用ゼロかよ」
王位継承前のようなフランクな態度が嬉しくて笑みが漏れる。
「ロン君、ミー君は食べられている? 夜は眠れているのかな?」
心配そうなタクマ様に現状を伝えるか迷う。困って少し首を横に振る。
「そっか。そうだよね。あの、良ければだけど、アイスを差し入れに持ってきたんだ。冷たいものって食欲ない時に喉を通るから。前に皆で話した抹茶味。少し元気になってくれると良いけれど」
以前に城を抜け出して四人でアイス屋に行ったことを思い出し頬が緩む。だけど。
「葉っぱ味やら草味って言っていたやつですよね。ミーは食べるかな?」
甘いアイスならまだしも、野菜系アイスでは気が乗らないのではないか。タクマ様には申し訳ないけれど少し困る。
「ロン、葉っぱと野菜をイメージしただろ? それが騙されたと思って食べてみろ。これは、ヤバいぞ」
「葉っぱの味じゃないよ。甘いし」
楽しそうな二人。タクマ様が保冷ボックスから出す深緑のアイスを見てゾッとする。どう見ても雑草味とかミドリムシ味しかイメージできない。
「ほら、ロン」
ルーカス様に勧められて拒否できない。陛下の勧めるものを断るなど臣下としてしてはいけない。覚悟を決めて一口。
「それでは、……んぅ?」
想像した味ではない。食べたことのないすっきりとした甘さのアイス。美味しい!
「えぇ? これがマッチャですか? 旨いです」
「でしょ? でも、少しお茶の苦みが残るから、ミー君にはバニラ味とダブル盛りすると良いと思うんだ」
ほら、バニラもあるよ、と保冷ボックスを見せてくれるタクマ様。これはミーが元気になるかも!
「ありがとうございます。ここ二日、ミーはベッドから起きる気力が無く、飲み物とゼリー、プリンくらいしか口にしていません。マッチャはいい刺激になるかもです」
タクマ様がにっこり笑ってくださるのが嬉しかった。
「ミー、ルーカス様とタクマ様がお見舞いに来てくれたよ」
寝室に入り声をかけると、寝ぼけ顔でモゾリと起き上がるミー。
「え? タクマ様? 陛下も……、夢?」
ベッドにちょこんと座るミーが首をかしげる。顔色は悪いけれど暗い表情ではないことに安堵する。
「ミー君、調子どうかな?」
優しくタクマ様が声をかける。ミーはぼんやりとタクマ様を見上げたまま。これは、まだ寝ぼけている。慌ててミーの肩をトントン刺激する。
「ミー、目、覚まして」
「あ、ロン。おはよう。今日は起きても、夢の中だぁ」
ふわぁ、と欠伸をしてモゾモゾ話すミー。可愛いけれど陛下の前だから早く目覚めて欲しくてロンは焦る。
「ぶはっ! いや、すまない。ミーは朝が弱いのか」
堪えきれないという様子で肩を震わせて笑うルーカス様。それを見てミーがぱっちり目を開ける。
「え? 本物!? あ、すみません!」
急に慌ててピシっとした姿勢になるミー。
「ミー、楽にしていい。見舞いだ。気を使わなくていい」
笑いがおさまらない様子のルーカス様が声をかける。恥ずかしそうに赤くなるミーと、横からルーカス様を肘でトントン突いて諫めるタクマ様。室内が急に明るくなったようで嬉しくなる。
「ミー起きられるかな? タクマ様がマッチャアイスを持ってきてくれたよ」
ロンの言葉に首をかしげるミー。
「何それ?」
「ミー君、覚えていないかな? ほら、春先に城脱走やったよね。あの時の葉っぱ味のアイスだって想像していたアレ」
あぁ、と気が付いた表情。
「えっと、僕は、マッチャ味は、ちょっと、いらない、かなぁ」
ミーの困った顔。そりゃそうだろう。草味とか想像していたよな。笑いが込み上げてきてしまい堪えるのに苦労する。
「ミー、起きたばかりだし直ぐに食べろってワケじゃない。とりあえず調子は?」
「うん。いいよ。陛下もいるし、ちゃんと起きるよ」
「いや、このままで良いじゃないか。俺とタクマは時々ベッドで食事もお菓子も食べる行儀悪い日を作っているぞ。だから気にするな。俺たちはこの辺の椅子借りるぞ」
タクマ様は「余計な事を言わないでください」と真っ赤になっている。
「あの頃は、春の頃は、幸せってずっと続くって思っていた。あの時に、戻りたい」
ぽつりと呟いて静かに涙を流すミー。椅子を運んでいたロンの手が止まる。
「大丈夫だ。ミー、案ずるな。ミーの幸せはロンが守る。リリアでずっと幸せでいればいい」
ルーカス様の言葉に下を向いたままのミー。
「そうか。ロンは頼りないか? 俺も、頼りないかな?」
はっと顔を上げて首を振るミー。
「そんな! そんなことありません。ルーカス様は素晴らしい国王陛下です。ロンは、ちょっと変態な所があるけれど、頼りないなんてことはありません」
ブハハっとルーカス様が吹きだして笑う。「変態だとさ」「あっはは、変態」と繰り返して笑うルーカス様。タクマ様も下を向いて笑いを堪えている。ロンは居たたまれなくて恥ずかしくて。
「ミー、もう勘弁してくれ……」
「え? 僕、変なこと言った?」
「いや、いいさ。仲良しで良いじゃないか。ミー、ほら背中にクッションいれてベッドに座っていればいい。それから、見てくれ。タクマの新作アイスだ」
じゃーん、とミーの目の前に緑のアイス。
それを見て静止しているミー。分かる。分かるよ、ミー。
「ミー、すぐにアイスじゃなくていいから。食べられそうなら温かいスープとか軽食はどう?」
「うん。今日は食べられそう。ふふ。皆一緒って久しぶりだ」
ミーの頬を染めた微笑み。久しぶりに見た笑顔。タクマ様たちに心から感謝した。
軽食を取り、楽しかった思い出話に花を咲かせた。口を開けて笑うミーが愛おしくて。マッチャ味を恐々試食するミーの様子に皆で笑った。
一口食べると『美味しい! なにこれ!』と喜ぶミー。その様子にまた皆で笑った。
午後のお茶まで一緒に居たルーカス様とタクマ様。ルーカス様はソファーで昼寝までして、本当にこの人は国王陛下ですか? と疑いたくなるようなマイペースさ。幸せな一日だった。
その夜、久しぶりにミーを抱いた。ここのところミーの精神不安定のため、していなかった。珍しくミーから誘ってきた。互いにつげ櫛で尻尾を梳かし合い、微笑み合い、慈しむようなセックス。大好きだと言いあって肌を重ねる幸福。激しくなくても満たされる心。ミーの心が浮上してくれるかな、と嬉しくなる夜だった。
だけど、その翌朝にミーが消えた。全てを背負い、一人ルドに帰ってしまった。
ロンは残された手紙とつげ櫛を握り締め、悔しさと悲しさとルドへの憎しみで泣き叫んだ。あまりの混乱でそれから数日の記憶が無い。
気が付くと牢の中だった。ロンが正気である事を確認するとすぐに牢から出してもらえた。大型熊獣人のロンが理性を失い暴れたため、一時的に牢に入れられていた。
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