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走る
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1周目。
夜中の11時半を過ぎた頃、僕は走り出した。冬の夜にしては温度が高くて、ろくに体操もしてなくても身体は動いた。久しぶりの運動でペースが掴めなくて最初はすぐに酸素がなくなって、口の中で血の味を感じた。頭も心も佳子ちゃんのことでいっぱいになっていた。
2周目、まだペースが掴めない僕は早くなったり、遅くなったりしながら運動公園を走る。いつもは聞かない失恋ソングが、その日は温かいような、心に刺さるような、どちらとも言えないまま僕の耳を刺激する。
あの人はどんな気持ちだったんだろう?
いつもは優しい、無邪気な先輩が、ぎこちなく詰め寄ってきて怖かったんだろうか?
3周目、息がしんどい。
ランニングコースにはほとんど人はいない。僕は届けたい相手がいないまま、感情を空に放つ。
「好きだ」「ごめんね」「ありがとう」「好きだ」「ごめんね」「ごめんね」
ぐちゃぐちゃになった感情を、汽車の煙突から出る煙のようなテンポで吐き出す。
佳子ちゃんに悪い所が見つからないところがずるいところだ。
4周目。
右足がつった。
高校の部活の時は足がつったと嘘をついて、ズル休みしたことを思い出す。
今日はそれでも走った。
佳子ちゃんの笑顔を思い出す。
彼女はかわいくて、面白くて、悪口を言わない。
僕が素敵だと思うところは全部もっていた。
そんなあなたがくれた言葉達は、僕には少し甘すぎて、先輩を立てているだけなんだと思うことにしていた。
その時から僕の心には禁断のスイッチが埋め込まれていた。
5周目。
走り方がわかってきた、体が走りたいと叫んでた。涙を零しながらなお走った。
大学の昼休み、お気に入りのベンチに横になって空を見ていた僕は、とうとうスイッチをオンにしてしまった。
1年半とあまりに遅すぎるスイッチだ、戦争ならきっと負けているだろう。
実際に負けたのだが。
6周目、左足がつった。
両足に張り詰めた緊張を抱えながら走る。
涙はまだ乾かない。
佳子ちゃんは、僕が働いている塾の元生徒だ。僕は教えたことはなかったが、同じ大学に入り、そのまま塾のバイトをするようになった。
7周目、足は止まらない。
口も止まらない。
時計は止めたあとに巻き戻したい。
初めて話をするようになった彼女は、僕の視覚から全身を揺さぶり、聴覚から洗脳されそうになったのを感じた。
期待なんてしてはいけない、僕は大人で彼女は子供だ。
きっと先輩の私に気に入れられようと、愛想よく振舞っているだけだ。
そう思うことで、僕はいつも通り振舞ってきた。
8周目、腹筋が痛くなった。
だけども声を振り絞った。
失恋ソングに、大好きなバンドの曲が流れてきた。
バイト仲間で一緒にカラオケに行った時のことを思い出した。
僕と彼女以外その歌を知らなくて、2人の声を重ねた。
モニターに映る歌詞よりも、お互いの足並みを揃えれるように、何度も見つめあって歌った。
9周目。
10周くらい走るつもりだったからあと少しだ、そう思い勢いよく走った。
心はまだ彼女のことでいっぱいだった。
彼女は男の子ばかりいる集まりに1人で行くのを躊躇っていた。
僕は「いつも僕らの集まりには1人で来てるじゃん。行ってきなよ。」
あの時彼女は一瞬時が止まったように静止し、納得したように返事をした。
勘違いかもしれないけど、悲しそうな顔をしていたと思った。
10周目。
あと少しで、心から彼女を追い出せそうだ。まだ走ってやる。
彼女をデートに誘った。
顔には見せないが、動揺していたのが僕に伝わった。
その場で日時を決めた。
場所は知る人ぞ知るカレー屋さん。
きっと喜んでもらえるだろうと考えたデートプラン。
デートの3日前に断りの連絡が来るとは思わなかった。
最近彼氏ができて、彼氏が男と2人で行かないで、とかどうとか言っていた。
本当に言葉の通りなのか、自分が嫌われているのか、わからなくなった。
とんでもなく痛い男だなぁと自分が情けなくなった。
11周目。
気づけば走っていた。
走りたくなっていた。
今まで見てこなかった、公園の木々から力を貰っている気がする。
こっちが身を引いたら、「優しい」だってさ。
手も足も出せなくなって悔しくなった。
それでも、諦めが聞かず、強くなろうとするなんて、馬鹿な男だと自分を卑下した。
夜中の11時半を過ぎた頃、僕は走り出した。冬の夜にしては温度が高くて、ろくに体操もしてなくても身体は動いた。久しぶりの運動でペースが掴めなくて最初はすぐに酸素がなくなって、口の中で血の味を感じた。頭も心も佳子ちゃんのことでいっぱいになっていた。
2周目、まだペースが掴めない僕は早くなったり、遅くなったりしながら運動公園を走る。いつもは聞かない失恋ソングが、その日は温かいような、心に刺さるような、どちらとも言えないまま僕の耳を刺激する。
あの人はどんな気持ちだったんだろう?
いつもは優しい、無邪気な先輩が、ぎこちなく詰め寄ってきて怖かったんだろうか?
3周目、息がしんどい。
ランニングコースにはほとんど人はいない。僕は届けたい相手がいないまま、感情を空に放つ。
「好きだ」「ごめんね」「ありがとう」「好きだ」「ごめんね」「ごめんね」
ぐちゃぐちゃになった感情を、汽車の煙突から出る煙のようなテンポで吐き出す。
佳子ちゃんに悪い所が見つからないところがずるいところだ。
4周目。
右足がつった。
高校の部活の時は足がつったと嘘をついて、ズル休みしたことを思い出す。
今日はそれでも走った。
佳子ちゃんの笑顔を思い出す。
彼女はかわいくて、面白くて、悪口を言わない。
僕が素敵だと思うところは全部もっていた。
そんなあなたがくれた言葉達は、僕には少し甘すぎて、先輩を立てているだけなんだと思うことにしていた。
その時から僕の心には禁断のスイッチが埋め込まれていた。
5周目。
走り方がわかってきた、体が走りたいと叫んでた。涙を零しながらなお走った。
大学の昼休み、お気に入りのベンチに横になって空を見ていた僕は、とうとうスイッチをオンにしてしまった。
1年半とあまりに遅すぎるスイッチだ、戦争ならきっと負けているだろう。
実際に負けたのだが。
6周目、左足がつった。
両足に張り詰めた緊張を抱えながら走る。
涙はまだ乾かない。
佳子ちゃんは、僕が働いている塾の元生徒だ。僕は教えたことはなかったが、同じ大学に入り、そのまま塾のバイトをするようになった。
7周目、足は止まらない。
口も止まらない。
時計は止めたあとに巻き戻したい。
初めて話をするようになった彼女は、僕の視覚から全身を揺さぶり、聴覚から洗脳されそうになったのを感じた。
期待なんてしてはいけない、僕は大人で彼女は子供だ。
きっと先輩の私に気に入れられようと、愛想よく振舞っているだけだ。
そう思うことで、僕はいつも通り振舞ってきた。
8周目、腹筋が痛くなった。
だけども声を振り絞った。
失恋ソングに、大好きなバンドの曲が流れてきた。
バイト仲間で一緒にカラオケに行った時のことを思い出した。
僕と彼女以外その歌を知らなくて、2人の声を重ねた。
モニターに映る歌詞よりも、お互いの足並みを揃えれるように、何度も見つめあって歌った。
9周目。
10周くらい走るつもりだったからあと少しだ、そう思い勢いよく走った。
心はまだ彼女のことでいっぱいだった。
彼女は男の子ばかりいる集まりに1人で行くのを躊躇っていた。
僕は「いつも僕らの集まりには1人で来てるじゃん。行ってきなよ。」
あの時彼女は一瞬時が止まったように静止し、納得したように返事をした。
勘違いかもしれないけど、悲しそうな顔をしていたと思った。
10周目。
あと少しで、心から彼女を追い出せそうだ。まだ走ってやる。
彼女をデートに誘った。
顔には見せないが、動揺していたのが僕に伝わった。
その場で日時を決めた。
場所は知る人ぞ知るカレー屋さん。
きっと喜んでもらえるだろうと考えたデートプラン。
デートの3日前に断りの連絡が来るとは思わなかった。
最近彼氏ができて、彼氏が男と2人で行かないで、とかどうとか言っていた。
本当に言葉の通りなのか、自分が嫌われているのか、わからなくなった。
とんでもなく痛い男だなぁと自分が情けなくなった。
11周目。
気づけば走っていた。
走りたくなっていた。
今まで見てこなかった、公園の木々から力を貰っている気がする。
こっちが身を引いたら、「優しい」だってさ。
手も足も出せなくなって悔しくなった。
それでも、諦めが聞かず、強くなろうとするなんて、馬鹿な男だと自分を卑下した。
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