○○な副会長。

天乃 彗

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05 ひまわりコンビ、初デート?

03

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「どれにしますか」
「あ、えーっと……」

 少し迷って、私はこのお店一押しであるだろう(至る所に広告や写真があったから)オリジナルハンバーガーを選んだ。写真もとってもおいしそうだったし、おすすめを選んだらきっと間違いは無いだろう。葵くんは続けて、自分のホットドックとドリンクセットを注文した。後から気づいたけど、私の分もドリンクセットにしてくれたみたいだ。やることなすことスマートすぎてちょっとむかつく。
 私は慌てて財布を取り出そうとしたけれど、葵くんは「いりませんよ」と一言言うだけだった。それは先輩としての威厳に関わる。無理に葵くんの財布にお金をねじ込もうとしたけれど、財布を上の方に掲げられてしまって、言葉通り手も足も出なかった。
 渡されたトレイを持って席につく。二人席しか空いていなかったから、私は葵くんの向かい側に座った。

「ドリンク、リンゴジュースでよかったですか」
「うん! わざわざありがとう!」

 私は差し出されたドリンクを受け取って、そのまま口に運んだ。リンゴジュースの甘酸っぱい味が口の中を通り抜ける。おいしい。喉が乾いていたからか、なおさらそう感じる。
 ハンバーガーの包みをはがしてみる。想像していたよりもそのハンバーガーは大きくて、食べるのに苦労しそうだと思った。おっきな口を開けて、とりあえず一口頂く。ソースが濃厚で、お肉との相性抜群……とってもおいしい! 

「うん、おいひい!」
「落ち着いてくださいよ」

 至極冷静に返される。葵くんは自分のホットドックを片手でもぐもぐと食べている。ふと、私の方を見たと思うと、葵くんの手がすっとこちらに伸びてきた。葵くんの親指が、私の口元を撫でる。突然のことにぽかんとしていた私をよそに、葵くんは口端をつり上げた。

「ソース、ついてました」
「へっ……? あ! ご、ごめん!」

 確かに、葵くんがさっき私に触れた親指にはしっかりとソースがついている。私は慌ててナフキンを差し出した。しかし葵くんはそれを受け取らず──そのままぺろりと、親指についたソースを舐め取ったのだ。

「ほんとだ。美味いですね」
「……っ!」

 私は空気が抜けた風船みたいに、しゅるしゅると席に着いた。そ、そんな、少女漫画によくあるような、『ザ☆デートの定番! 』みたいなこと、さらりとやらないでほしい……! また顔に熱が集まってきて、私はうつむきがちに残りのハンバーガーを食べ始めた。
 向かい側で、葵くんがクスリと笑ったのが聞こえた。きっと、人の反応を見てからかっているんだ。すぐに毒舌の矢がこちらに向けて放たれるに違いない。身構えたけど、意外にも毒舌はやってこない。おそるおそる、視線だけを葵くんに向けると、葵くんはもうホットドックを食べ終えていて、私が食べ終わるのを待っていてくれているようだった。
 い、いけない。慌ててハンバーガーを口の中に放り込むと、喉が詰まってしまった。胸をドンドンと叩いてドリンクを流し込むと、今度こそ人を馬鹿にしたような声音で「アホですか」と言われたのだった。


 * * *


 ご飯を食べ終わると、「さ。行きますよ」ってあらがう間もなくまた手を取られてしまった。抵抗するのもどうせ無駄だろうから、そのままにしておく。
 順に園内を回っていると、あっという間に時間が過ぎていった。ふと、猿の檻の前で足を止めた葵くんは、猿の群れをじいっと見つめている。

「……」
「? どうしたの、葵くん」

 私が尋ねると、葵くんは猿を眺めたまま呟いた。

「いや、先輩に一番似てるのどれかなあと思いまして」
「なっ!」
「でもやっぱりニホンザルにはいませんね。ここの動物園ってリスザルいるんですかね?」
「葵くん、自分がかなり失礼なこと言ってるの気づいてる!?」
「勿論、わかって言ってますけど」

 本当に、葵くんってば……! 怒りに任せて何か言おうとしたところで、脚に何かがぶつかってきた。思わず「ひゃっ!?」と声を出してしまうのと同時に、下の方から「キャ!」という声がした。
振り返って下を見てみると、小さな女の子が一人、尻餅をついてしまっている。さっきぶつかってきたのがこの子だと理解して、私のせいで尻餅をついてしまったことに気がついた。

「ごっ、ごめんね!」

 私がその子に手を差し伸べるより前に、葵くんがその子の体を支えて立ち上がらせてくれていた。

「大丈夫? 怪我は無い?」

 葵くんの問いかけに、その女の子はこくりと頷いた。葵くんのスマートな対応のおかげか、女の子は泣くことは無かった。尻餅をついたこと自体には驚いているようだったけど。私も葵くんと同じく女の子の目線に合わせてしゃがみ込んだ。女の子は、葵くんと私を交互に見ながらきょとんとしている。

「ごめんね? びっくりしたよね?」
「ううん……へいき」

 女の子は、にっこりと笑ってくれた。そしてまた、葵くんと私を交互に見た。どうしたのだろうと思っていると、女の子はにこやかに私に向かって尋ねたのだった。

「おねえちゃんたち、こいびとなの?」
「へっ……」
「おデートなの?」
「なっ!?」
「ちゅーはもうしたの?」
「ち、ちちちちち!?」
「こらーっメグ!」

 遠くから、慌てて走ってくる女の人の姿が見えた。お母さんであることは間違いないだろう。お母さんは、こちらにたどり着くと、女の子(お母さんはメグちゃんと呼んでいた)を抱きかかえた。そして、すごい勢いで頭を何度も下げると、「うちの子がご迷惑をおかけしました!」と言った。

「そ、そんな、迷惑だなんて……」
「あのね、メグのパパとママはいっつもいってきますのちゅーしてるよ」
「ああもうこの子は! 何を言ってるの! すみません! ほんとに申し訳ないです!」
「い、いえ……」
「ねえ、おにいちゃん、ちゅーしないの?」
「もう! 行くよ! 本当にご迷惑おかけしました!」

 お母さんは、真っ赤になりながら、逃げるようにこの場をあとにした。いや、そりゃそうか、子どもって素直だから……恥ずかしかっただろう。しかし、恥ずかしかったのはこちらも一緒だ。メグちゃんには、そういう風に、見えたのだろうか。だとしたら、とても、とても、こまるというかなんというか! 

「今時の子はませてますね」
「ほ、ほんとにね!」

 声が裏返ってしまう。本当に、ませてるよ! 高校生の私だって、そんな軽々しく口に出せないよ、ちちち、ちゅーなんて……! すると、葵くんが鼻で笑うのが聞こえた。すると、こちらの顔を覗き込むように体を傾けると、私の目を見つめて妖艶に微笑んだ。

「──ちゅー、します?」
「!?」

 私はさっきのお母さん顔負けの勢いで後ずさる。

「しししししし、しません!」

 いきなり何を言い出すのかと思えば! 私は葵くんをキッと睨みつけた。葵くんはやれやれといったように肩をすくめると、いつの間にか距離をつめられて、また手を取られた。その、至極当たり前のような動作に、私の心臓は飛び跳ねた。

「早く行かないと、ふれあいコーナー終わっちゃいますよ。閉園より少し早く終わるみたいですし」
「そっ……そう、だね」

 私は冷静を装って、小さな声で葵くんに返事をした。うつむいていたから、葵くんの顔はわからなかった。


 * * *

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