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06 ネクタイと卒業式
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新学期が始まって、しばらく。変わったことがひとつある。それは、三年生がいたフロアがすっからかんになってしまったことだ。
生徒会室へ向かう途中、そのフロアにちらりと目をやると、横にいた杏奈が呟いた。
「いいなぁ、自由登校。進路決まってる人らは遊び放題じゃんね」
「もう! 決まってない人は追い込みの時期なんだよ!」
そう。三年生は受験に向けて、自由登校になったのだ。うちの学園は、大学進学を望む人が多い。推薦枠もそれなりにあるけれど、やっぱり受験組も多いようだ。たまに学習室ですごい気迫の先輩たちを見る。
「でも、決まってるのに屯してる人達も多いよね~、なんでわざわざ学校なんかに来るんだか」
「それは……やっぱり今年が最後だからじゃない?」
うちの学園は、敷地は違うが初等部と中等部と高等部がある。中等部から高等部への進学は、他の高校へ行かない限りは離れ離れにはならないけど、大学進学となるとそうもいかない。だからきっと、卒業までの間、少しでも長く一緒にいるためにこうして学校へ来ているのだろう。
三年生の教室を覗いてみると、カウントダウン式の、卒業までの日めくりカレンダーがあった。それを見て、あと一ヶ月もないんだ、と実感する。最後の高校生活。それを締めくくるのは、卒業式。やっぱり、先輩たちに満足してもらえるように頑張らないと!
「よし、やるぞー!」
「え、今どこでスイッチ入ったの」
急に声を張った私を、杏奈が眉を顰めて見つめたのだった。
* * *
生徒会室が見えてくると、その扉の前に立つ人影にも気がついた。その人影は扉に手をかけようとして、迷って、手を下ろす。それを何度か繰り返している。私は、その人影をよく知っていた。
「──あれって」
「紗夜先輩っ!」
杏奈が私に確認するより早く、私はその人影の名前を呼んでいた。人影──紗夜先輩は私の声に気づいて、パッとこちらに振り向いた。
「日向ちゃん!」
「先輩お久しぶりです!」
私は先輩に飛びつかん勢いで駆けて行って、その手をぎゅーっと握った。先輩はそれに応えるようにしてくれて、きゃっきゃと飛び跳ねた。
「久しぶりぃっ! 元気だったぁ?」
「はいっ! 先輩はっ?」
「うふふっ! このとおり元気元気っ!」
紗夜先輩は柔らかな笑みを浮かべてくれた。久しぶりに見たその笑顔に、私はきゅんとしてしまう。そう、この笑みさえも懐かしい。なんて……、なんてマイナスイオン!
懐かしい顔を見れてすっかりテンションが上がった私は、そのまま入り口の前で先輩と二人ぴょんぴょん跳ねていた。
すると──
「入り口でそんなことされてると邪魔でしかないんですけど」
っ、出たな、悪魔め! 私は跳ねていた足を止め、後ろを振り返った。そこには案の定、仏頂面で私を見下ろす葵くんがいた。この顔! 紗夜先輩が天使だとしたら、葵くんは間違いなく悪魔だ。そうに違いない。
「跳ねたら余計に減りますよ。ダイエットにはなるかもしれないですけど」
「何が減るって!?」
「身長かもしれないですし、それ以外かもしれません」
「安易にバカにしてるよね!? 人の胸囲のことを!」
「考えすぎじゃないですか?」
いけしゃあしゃあと。悪意100%のアドバイスをされたところで、それを受け入れる気になんかならない。だけど葵くんのせいで我には返ったから、飛び跳ねるのはとりあえずやめた。決してあのアドバイスを受け入れたわけではない。
そこで、紗夜先輩を会話から置いてけぼりにしていることに気がついてハッとした。先輩に向き直ると、先輩は葵くんに向かってにっこり天使スマイルを浮かべている。
「気がつかなくてごめんね。えぇと、副会長の岡本葵くんよね?」
さすが先輩だ。どうやらこの悪魔を知っていたようで、説明する手間が省けた。それなら、今度は葵くんに彼女の説明をしなきゃと思って葵くんを見ると、葵くんも、かなり胡散臭い笑みを浮かべて先輩を見ていた。
「さすがに人の顔と名前を覚えるのが得意なようですね。元会長の月島紗夜先輩」
「えっ」
葵くんも、知っているじゃないか。って、そりゃそうか。紗夜先輩は私の前に会長だったんだから、公の前に立つことは多かった。役目がなくなってぽかんとしていると、二人は笑顔を崩さないまま見つめ合っている。……なんだろう、この雰囲気?
「立ち話もなんでしょうし、入ったらどうですか」
「うーん、でもわたし、もう役員じゃないし……」
「大丈夫ですよ、先輩! 私が保証します!」
私がドン、と胸を叩くと、紗夜先輩はまたうふふ、と笑った。
「じゃあ、日向ちゃんがそういうなら、お邪魔しようかな?」
「やったー! どうぞどうぞ!」
先輩をエスコートするように、私は扉を開けた。先輩が中に入ったのを確認して、私も中に入る。やれやれと言った風な杏奈と葵くんのため息が後ろから聞こえたけど、そんなのは無視することにした。
* * *
生徒会室へ向かう途中、そのフロアにちらりと目をやると、横にいた杏奈が呟いた。
「いいなぁ、自由登校。進路決まってる人らは遊び放題じゃんね」
「もう! 決まってない人は追い込みの時期なんだよ!」
そう。三年生は受験に向けて、自由登校になったのだ。うちの学園は、大学進学を望む人が多い。推薦枠もそれなりにあるけれど、やっぱり受験組も多いようだ。たまに学習室ですごい気迫の先輩たちを見る。
「でも、決まってるのに屯してる人達も多いよね~、なんでわざわざ学校なんかに来るんだか」
「それは……やっぱり今年が最後だからじゃない?」
うちの学園は、敷地は違うが初等部と中等部と高等部がある。中等部から高等部への進学は、他の高校へ行かない限りは離れ離れにはならないけど、大学進学となるとそうもいかない。だからきっと、卒業までの間、少しでも長く一緒にいるためにこうして学校へ来ているのだろう。
三年生の教室を覗いてみると、カウントダウン式の、卒業までの日めくりカレンダーがあった。それを見て、あと一ヶ月もないんだ、と実感する。最後の高校生活。それを締めくくるのは、卒業式。やっぱり、先輩たちに満足してもらえるように頑張らないと!
「よし、やるぞー!」
「え、今どこでスイッチ入ったの」
急に声を張った私を、杏奈が眉を顰めて見つめたのだった。
* * *
生徒会室が見えてくると、その扉の前に立つ人影にも気がついた。その人影は扉に手をかけようとして、迷って、手を下ろす。それを何度か繰り返している。私は、その人影をよく知っていた。
「──あれって」
「紗夜先輩っ!」
杏奈が私に確認するより早く、私はその人影の名前を呼んでいた。人影──紗夜先輩は私の声に気づいて、パッとこちらに振り向いた。
「日向ちゃん!」
「先輩お久しぶりです!」
私は先輩に飛びつかん勢いで駆けて行って、その手をぎゅーっと握った。先輩はそれに応えるようにしてくれて、きゃっきゃと飛び跳ねた。
「久しぶりぃっ! 元気だったぁ?」
「はいっ! 先輩はっ?」
「うふふっ! このとおり元気元気っ!」
紗夜先輩は柔らかな笑みを浮かべてくれた。久しぶりに見たその笑顔に、私はきゅんとしてしまう。そう、この笑みさえも懐かしい。なんて……、なんてマイナスイオン!
懐かしい顔を見れてすっかりテンションが上がった私は、そのまま入り口の前で先輩と二人ぴょんぴょん跳ねていた。
すると──
「入り口でそんなことされてると邪魔でしかないんですけど」
っ、出たな、悪魔め! 私は跳ねていた足を止め、後ろを振り返った。そこには案の定、仏頂面で私を見下ろす葵くんがいた。この顔! 紗夜先輩が天使だとしたら、葵くんは間違いなく悪魔だ。そうに違いない。
「跳ねたら余計に減りますよ。ダイエットにはなるかもしれないですけど」
「何が減るって!?」
「身長かもしれないですし、それ以外かもしれません」
「安易にバカにしてるよね!? 人の胸囲のことを!」
「考えすぎじゃないですか?」
いけしゃあしゃあと。悪意100%のアドバイスをされたところで、それを受け入れる気になんかならない。だけど葵くんのせいで我には返ったから、飛び跳ねるのはとりあえずやめた。決してあのアドバイスを受け入れたわけではない。
そこで、紗夜先輩を会話から置いてけぼりにしていることに気がついてハッとした。先輩に向き直ると、先輩は葵くんに向かってにっこり天使スマイルを浮かべている。
「気がつかなくてごめんね。えぇと、副会長の岡本葵くんよね?」
さすが先輩だ。どうやらこの悪魔を知っていたようで、説明する手間が省けた。それなら、今度は葵くんに彼女の説明をしなきゃと思って葵くんを見ると、葵くんも、かなり胡散臭い笑みを浮かべて先輩を見ていた。
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「えっ」
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「うーん、でもわたし、もう役員じゃないし……」
「大丈夫ですよ、先輩! 私が保証します!」
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「じゃあ、日向ちゃんがそういうなら、お邪魔しようかな?」
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先輩をエスコートするように、私は扉を開けた。先輩が中に入ったのを確認して、私も中に入る。やれやれと言った風な杏奈と葵くんのため息が後ろから聞こえたけど、そんなのは無視することにした。
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