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06 ネクタイと卒業式
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卒業式当日。穏やかに晴れた今日の日、桜はまだ咲いていないけれど、卒業式がしめやかに開式された。
あの日から、本当に先輩は生徒会室にやってこなかった。卒業生の中に先輩の姿を見つけて、ぎゅっと胸が締め付けられた。
流れ通り、送辞をする。読んでる時も、読み終わった後も、先輩は私の方を向いてくれなかった。私がこうして送辞をスラスラ読めたのも先輩のおかげなのに。
もちろん、先輩が答辞をした時も、私と先輩の目は合わなかった。紗夜先輩の答辞はやっぱり完璧で、安心なような、複雑なような気持ちになる。あの時のこと、先輩はどう考えているのかな。ふるふると首を振った。余計なことは考えない。とにかく、今日の卒業式を成功させなくっちゃ。
卒業生退場の前に、校歌斉唱がある。その時に生徒会役員は在校生の列から離れて、それぞれの位置に移動する。校歌の演奏が止まった時、私たちの出番だ。吹奏楽部が演奏をやめたのを見計らって、私は優子ちゃんに目で合図を送った。コクリと頷いた優子ちゃんが、体育館の照明を落とした。
「えっ!?」
「やだ、何?」
事情を知らない生徒たちが慌てているすきに、優平くんに目配せをして、プロジェクターを起動させてもらう。モニターに映像が映し出され、騒ぎが次第に収束していく。
《……桜が咲き乱れる、三年前の四月。先輩方は、期待と不安を胸に門をくぐったことでしょう》
映像から流れ出す音声に耳を傾けている。優子ちゃんが書いた原稿を、杏奈とマイマイに半分ずつ担当して読んでもらった。モニターに映っているのは、三年前の入学式の時の写真のスライドショーだ。先生たちや写真部の人たちに提供してもらった写真を、映像部の人に教わりながらパソコンでスライドショーにした。
三年間の記憶が、スライドを通して蘇ってくれたらいいなと思った。卒業生の皆さんは、次々と映り出される写真を指差しながら「超若い」「懐かしい!」なんて囁きあっている。
《仲間と笑いあい、時には涙を流し合った三年間──長いようで短かった日々が、今日、終わりを告げようとしています》
時系列順に並べたスライドは、どんどん最新のものになっていく。それに連れ、卒業生の中からすすり泣く声が聞こえ出した。
《この学校で過ごした三年間は、先輩方にとって、かけがえのないものになるでしょう。そして、私たちにとっても、先輩方と過ごした日々は、忘れられない思い出です》
このタイミングで、スライドショーに映ったのは、私と紗夜先輩が真ん中に映っている生徒会の仕事風景の写真だった。先輩、見てるかな。暗くて先輩の姿は見えないけど、ちゃんと見てくれてたら嬉しい。この写真は、どうしても入れたかったのだ。私と先輩が過ごした日々の証。
《明日から、それぞれの道を歩き出す先輩方。仲間と別の道に進んでも、この三年間の思い出は、決して色褪せません》
《青碧学園で過ごした日々を胸に、それぞれの世界へ羽ばたいてください。在校生一同、先輩方のことを応援しています──》
映像はそこで終わりだ。だけど計画はまだまだ続いている。私はちらりと上を確認した。今日の一番の不安要素──なにせ、これは練習していない、一か八かの演出だ。優子ちゃんが照明をつけたその時が勝負。
「わぁ……!」
バチン、と照明がついた、その瞬間。二階部分にスタンバイしていた葵くんと涼介くんが、上から写真をばらまいていく。スライドショーに使用した写真を含めた様々な写真が、宙を舞う。その様子を、卒業生は驚いた様子で眺めていた。写真を拾っている人もたくさんいる。それが狙いだったから万々歳だ。
私は在校生の先頭に立って、さっき送辞をしたのと同じように、卒業生と向き合った。
「卒業生の皆さん! ご卒業おめでとうございます! ここにある写真は、持ち帰ってくださって構いません。先輩たちと過ごした日々は、私たちにとっても宝物です。この学校で過ごした日々を、どうか忘れないでください! 先輩方のご多幸をお祈りしています! 今までありがとうございました!」
深々とお辞儀をする。私の言葉に賛同するように、どこかから拍手が聞こえて、それはどんどん大きくなった。卒業生もそれに応えるように拍手をしてくれて、体育館の中は拍手に包まれた。
──大、成功だ。
計画が成功したことが嬉しい。卒業生の皆さんが嬉しそうなのが嬉しい。頑張ってよかった。みんなで協力してよかった。生徒会役員に目配せをすると、みんながやりきった顔で笑い返してくれた。いい卒業式にできたって、胸を張って言える。……でも、一つだけ気掛かりなのは。席に戻る前にちらり、と紗夜先輩の姿を伺う。先輩は拍手をせず、手元の一枚の写真をただただ眺めていたのだった。
* * *
あの日から、本当に先輩は生徒会室にやってこなかった。卒業生の中に先輩の姿を見つけて、ぎゅっと胸が締め付けられた。
流れ通り、送辞をする。読んでる時も、読み終わった後も、先輩は私の方を向いてくれなかった。私がこうして送辞をスラスラ読めたのも先輩のおかげなのに。
もちろん、先輩が答辞をした時も、私と先輩の目は合わなかった。紗夜先輩の答辞はやっぱり完璧で、安心なような、複雑なような気持ちになる。あの時のこと、先輩はどう考えているのかな。ふるふると首を振った。余計なことは考えない。とにかく、今日の卒業式を成功させなくっちゃ。
卒業生退場の前に、校歌斉唱がある。その時に生徒会役員は在校生の列から離れて、それぞれの位置に移動する。校歌の演奏が止まった時、私たちの出番だ。吹奏楽部が演奏をやめたのを見計らって、私は優子ちゃんに目で合図を送った。コクリと頷いた優子ちゃんが、体育館の照明を落とした。
「えっ!?」
「やだ、何?」
事情を知らない生徒たちが慌てているすきに、優平くんに目配せをして、プロジェクターを起動させてもらう。モニターに映像が映し出され、騒ぎが次第に収束していく。
《……桜が咲き乱れる、三年前の四月。先輩方は、期待と不安を胸に門をくぐったことでしょう》
映像から流れ出す音声に耳を傾けている。優子ちゃんが書いた原稿を、杏奈とマイマイに半分ずつ担当して読んでもらった。モニターに映っているのは、三年前の入学式の時の写真のスライドショーだ。先生たちや写真部の人たちに提供してもらった写真を、映像部の人に教わりながらパソコンでスライドショーにした。
三年間の記憶が、スライドを通して蘇ってくれたらいいなと思った。卒業生の皆さんは、次々と映り出される写真を指差しながら「超若い」「懐かしい!」なんて囁きあっている。
《仲間と笑いあい、時には涙を流し合った三年間──長いようで短かった日々が、今日、終わりを告げようとしています》
時系列順に並べたスライドは、どんどん最新のものになっていく。それに連れ、卒業生の中からすすり泣く声が聞こえ出した。
《この学校で過ごした三年間は、先輩方にとって、かけがえのないものになるでしょう。そして、私たちにとっても、先輩方と過ごした日々は、忘れられない思い出です》
このタイミングで、スライドショーに映ったのは、私と紗夜先輩が真ん中に映っている生徒会の仕事風景の写真だった。先輩、見てるかな。暗くて先輩の姿は見えないけど、ちゃんと見てくれてたら嬉しい。この写真は、どうしても入れたかったのだ。私と先輩が過ごした日々の証。
《明日から、それぞれの道を歩き出す先輩方。仲間と別の道に進んでも、この三年間の思い出は、決して色褪せません》
《青碧学園で過ごした日々を胸に、それぞれの世界へ羽ばたいてください。在校生一同、先輩方のことを応援しています──》
映像はそこで終わりだ。だけど計画はまだまだ続いている。私はちらりと上を確認した。今日の一番の不安要素──なにせ、これは練習していない、一か八かの演出だ。優子ちゃんが照明をつけたその時が勝負。
「わぁ……!」
バチン、と照明がついた、その瞬間。二階部分にスタンバイしていた葵くんと涼介くんが、上から写真をばらまいていく。スライドショーに使用した写真を含めた様々な写真が、宙を舞う。その様子を、卒業生は驚いた様子で眺めていた。写真を拾っている人もたくさんいる。それが狙いだったから万々歳だ。
私は在校生の先頭に立って、さっき送辞をしたのと同じように、卒業生と向き合った。
「卒業生の皆さん! ご卒業おめでとうございます! ここにある写真は、持ち帰ってくださって構いません。先輩たちと過ごした日々は、私たちにとっても宝物です。この学校で過ごした日々を、どうか忘れないでください! 先輩方のご多幸をお祈りしています! 今までありがとうございました!」
深々とお辞儀をする。私の言葉に賛同するように、どこかから拍手が聞こえて、それはどんどん大きくなった。卒業生もそれに応えるように拍手をしてくれて、体育館の中は拍手に包まれた。
──大、成功だ。
計画が成功したことが嬉しい。卒業生の皆さんが嬉しそうなのが嬉しい。頑張ってよかった。みんなで協力してよかった。生徒会役員に目配せをすると、みんながやりきった顔で笑い返してくれた。いい卒業式にできたって、胸を張って言える。……でも、一つだけ気掛かりなのは。席に戻る前にちらり、と紗夜先輩の姿を伺う。先輩は拍手をせず、手元の一枚の写真をただただ眺めていたのだった。
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