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06 ネクタイと卒業式
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「……お帰りになったらどうですか?」
日向が生徒会室を後にしてからしばらくしてから発された葵の言葉に、紗夜はピクリと身を強張らせた。本当に、この男の発言はいちいち刺々しい、と思う。
「ところで、ネクタイはどうしたのかしら? 付けてないようだけれど」
「それはこちらの台詞ですね」
吐き捨てるように言った葵の首元には、確かにネクタイが巻かれていない。しかし葵は、紗夜の質問には答えず、訝しげな目で紗夜の首元を見ている。これ以上会話をしても何も生まれないだろう。ここにいても仕方がないし、言葉通り紗夜は「お帰りになる」ことにした。
「じゃあ、日向ちゃんによろしくね」
「はい──あ」
葵は返事をした後、何かを思いついて紗夜を見やる。紗夜は一旦足を止め、葵に向き直った。
「──大学でいい人に巡り合えるよう祈ってますよ」
「……ええ、ありがとう」
にっこりと笑顔で返して、紗夜は生徒会室を後にした。
あんな言葉をかけられるとは思っていなかった。反応が少し遅れたこともばれてしまっただろうか、と少し不安になった。
ネクタイがなくなって緊縛がなくなった首元をさする。小さくため息をついて、ポケットの中にあった写真を取り出してもう一度眺めた。自分と、日向が写っている写真だ。さっき見せた笑顔と変わらない笑顔が、写真に収められている。
「……日向ちゃん、最後まで気づいてくれなかったなぁ」
もう一度、首元をさする。他でもない日向に、ネクタイを渡した意味は、一つしかないというのに。
──まぁ、そういう鈍いところも可愛いんだけど。
どうにかなろうという気持ちはなかったが、せめて日向のネクタイをもらえたらよかった、と思うのは、やはりわがままなのだろう。渡したネクタイに想いを忍ばせて、紗夜は歩き出したのだった。
* * *
体育館に戻ってみると、片付けはもう終わっていて、顧問を探して声をかけると「別に呼んでない」とのこと。他のメンバーも片付けが終わって解散したらしい。訳が分からずにいたけど、この食い違いのわけは一つしかない。葵くんに騙された!
私はUターンで生徒会室に舞い戻り、のんきに座っている葵くんに早速文句をつけた。
「呼んでるなんて嘘じゃない!」
「あれ? じゃあ俺の気のせいだったんですかね」
飄々と言ってのける葵くんの胸ぐらを掴んだところで気がつく。あれ? 葵くん、ネクタイは?
「葵くん! ダメでしょ、ブレザー着るときはネクタイしないと! 副会長が校則破ってどうするの?」
「面倒ごとを避けるために外してたんですよ……まぁいいか、ここにいる分には」
すると葵くんはポケットからネクタイを取り出して、結び始めた。慣れてるなぁ、とその手つきを見ながら考えた。ネクタイをし終わった葵くんが、立ち上がって私を見下ろす。なんだか胸元をまじまじと見られてる気がして落ち着かないんだけど。
「……先輩」
「な、何?」
「一応聞きますけど、今してるのって先輩、自分のネクタイですよね?」
「へ? そうだけど……」
なんでそんなこと聞かれるのか、と考える前に、伸びてきた手が私のネクタイを掴んだ。
「じゃあ、問題ないです」
「……? うん」
「先輩、来年の卒業式、これ俺に下さいね」
「え? ネクタイ? 別にいいけど……?」
「約束ですよ」
そう言うと葵くんは、少し屈みこんで私のネクタイに軽く口付けた。まるでお姫様の手の甲に口付ける王子みたいな仕草だなって思った。そんなことメルヘンチックなことを考えてしまったことが恥ずかしくて、顔に熱が集まる。
「くっ、首が締まる! 手を離しなさい!」
「それは先輩の身長に問題があるかと思います」
「煩いよ!」
逃げるように葵くんの手から逃れて、ネクタイをしまう。葵くんが、キスをした。これからネクタイ締めるたびにそれを思い出してしまいそうで。それって、間接的に葵くんの唇に触れることになるんじゃ。
「~~~っ!」
──なんてことしてくれるのよ葵くんのバカ!
余計に顔が赤くなる。ネクタイってうちで洗濯できるのかな!? あとで絶対確認しようと心に決めた。
* * *
卒業式を経て、会長として大きく成長できたような気がする。これはきっと、紗夜先輩と葵くん、そして私を支えてくれたみんなのおかげだ。感謝してもしたりないけど、この調子で、来年度もしっかり頑張りたいって思った。
今日の気持ちを忘れそうになったら、部屋に飾った先輩のネクタイを見て思い出すのだ。
そう考えて、ふと思う。ネクタイといえば。先輩も葵くんも、なんであんなにネクタイにこだわってたんだろう──?
大きな疑問を一つ残して、今年の卒業式は大成功を収めたのでした。
日向が生徒会室を後にしてからしばらくしてから発された葵の言葉に、紗夜はピクリと身を強張らせた。本当に、この男の発言はいちいち刺々しい、と思う。
「ところで、ネクタイはどうしたのかしら? 付けてないようだけれど」
「それはこちらの台詞ですね」
吐き捨てるように言った葵の首元には、確かにネクタイが巻かれていない。しかし葵は、紗夜の質問には答えず、訝しげな目で紗夜の首元を見ている。これ以上会話をしても何も生まれないだろう。ここにいても仕方がないし、言葉通り紗夜は「お帰りになる」ことにした。
「じゃあ、日向ちゃんによろしくね」
「はい──あ」
葵は返事をした後、何かを思いついて紗夜を見やる。紗夜は一旦足を止め、葵に向き直った。
「──大学でいい人に巡り合えるよう祈ってますよ」
「……ええ、ありがとう」
にっこりと笑顔で返して、紗夜は生徒会室を後にした。
あんな言葉をかけられるとは思っていなかった。反応が少し遅れたこともばれてしまっただろうか、と少し不安になった。
ネクタイがなくなって緊縛がなくなった首元をさする。小さくため息をついて、ポケットの中にあった写真を取り出してもう一度眺めた。自分と、日向が写っている写真だ。さっき見せた笑顔と変わらない笑顔が、写真に収められている。
「……日向ちゃん、最後まで気づいてくれなかったなぁ」
もう一度、首元をさする。他でもない日向に、ネクタイを渡した意味は、一つしかないというのに。
──まぁ、そういう鈍いところも可愛いんだけど。
どうにかなろうという気持ちはなかったが、せめて日向のネクタイをもらえたらよかった、と思うのは、やはりわがままなのだろう。渡したネクタイに想いを忍ばせて、紗夜は歩き出したのだった。
* * *
体育館に戻ってみると、片付けはもう終わっていて、顧問を探して声をかけると「別に呼んでない」とのこと。他のメンバーも片付けが終わって解散したらしい。訳が分からずにいたけど、この食い違いのわけは一つしかない。葵くんに騙された!
私はUターンで生徒会室に舞い戻り、のんきに座っている葵くんに早速文句をつけた。
「呼んでるなんて嘘じゃない!」
「あれ? じゃあ俺の気のせいだったんですかね」
飄々と言ってのける葵くんの胸ぐらを掴んだところで気がつく。あれ? 葵くん、ネクタイは?
「葵くん! ダメでしょ、ブレザー着るときはネクタイしないと! 副会長が校則破ってどうするの?」
「面倒ごとを避けるために外してたんですよ……まぁいいか、ここにいる分には」
すると葵くんはポケットからネクタイを取り出して、結び始めた。慣れてるなぁ、とその手つきを見ながら考えた。ネクタイをし終わった葵くんが、立ち上がって私を見下ろす。なんだか胸元をまじまじと見られてる気がして落ち着かないんだけど。
「……先輩」
「な、何?」
「一応聞きますけど、今してるのって先輩、自分のネクタイですよね?」
「へ? そうだけど……」
なんでそんなこと聞かれるのか、と考える前に、伸びてきた手が私のネクタイを掴んだ。
「じゃあ、問題ないです」
「……? うん」
「先輩、来年の卒業式、これ俺に下さいね」
「え? ネクタイ? 別にいいけど……?」
「約束ですよ」
そう言うと葵くんは、少し屈みこんで私のネクタイに軽く口付けた。まるでお姫様の手の甲に口付ける王子みたいな仕草だなって思った。そんなことメルヘンチックなことを考えてしまったことが恥ずかしくて、顔に熱が集まる。
「くっ、首が締まる! 手を離しなさい!」
「それは先輩の身長に問題があるかと思います」
「煩いよ!」
逃げるように葵くんの手から逃れて、ネクタイをしまう。葵くんが、キスをした。これからネクタイ締めるたびにそれを思い出してしまいそうで。それって、間接的に葵くんの唇に触れることになるんじゃ。
「~~~っ!」
──なんてことしてくれるのよ葵くんのバカ!
余計に顔が赤くなる。ネクタイってうちで洗濯できるのかな!? あとで絶対確認しようと心に決めた。
* * *
卒業式を経て、会長として大きく成長できたような気がする。これはきっと、紗夜先輩と葵くん、そして私を支えてくれたみんなのおかげだ。感謝してもしたりないけど、この調子で、来年度もしっかり頑張りたいって思った。
今日の気持ちを忘れそうになったら、部屋に飾った先輩のネクタイを見て思い出すのだ。
そう考えて、ふと思う。ネクタイといえば。先輩も葵くんも、なんであんなにネクタイにこだわってたんだろう──?
大きな疑問を一つ残して、今年の卒業式は大成功を収めたのでした。
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