○○な副会長。

天乃 彗

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番外編

花が伝えるあいことば

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 生徒会室にやってくるなり、葵くんは目を丸くして言った。

「なんですか、この造花」

 対する私はこともなげに、持っていた造花をもう1本花瓶に挿した。どんどん豪華になっていく花瓶は、色のなかった生徒会室に彩りを与えてくれて、すごく晴れやかな気持ちになれる。

「この前ね、美術部が経費で新しいデッサン用の造花買ったんだって。それで、古いのはもういらないっていうから、じゃあ貰うって持ってきたんだ。何種類か花瓶も一緒に」
「これ全部ですか」
「うん、そうだよ?」

 葵くんはため息をついた。全部ですか、と聞いた声はとげとげしい。確かに、いくらなんでも貰いすぎたかな、という気はする。ダンボールいっぱいに貰ってきた造花は、一本ずつ机に並べたら机が埋まってしまったほどだった。

「全部飾るなんて馬鹿なこと言い出しませんよね」
「そ、それはもちろん。これから、選別しようとしてたの!」

 選別といっても、花のことはあまり詳しくないので、汚れが目立たない綺麗なものを花瓶に挿して行くだけなんだけど。すると、隣にやってきた葵くんが、花瓶に挿していた造花を抜き取り、元のように机の上に広げてしまった。

「あぁっ! 何てことを!」
「センスがないんですよ、センスが」

 サラッと悪口を言われた。私的には満足していたのに、上から叩き潰されるように言われて言葉も出ない。唇を尖らせて恨めしく葵くんを見つめるけど、葵くんはそんなの御構い無しで、机の上にあった造花をじっと眺め、1本手にとっては真剣に考えている。

「自分にはセンスがあるって言い方だね」
「先輩よりはあると思いますけど。ハサミ取ってください」
「はいはい! わかりましたっ」

 ペン立てからハサミを取って渡すと、葵くんは何本かの造花の下の方を切って長さを調節し始めた。さっき私がそのまま花瓶に挿していたものも、周りの花とのバランスを見ながら無遠慮にチョキチョキと造花を切っている。

「にしても、いろんな種類ありますね。先輩、名前とかわかってます?」
「ある程度はわかるよ! えーっと、これがバラで……これが、ユリ? この小さいのは……なんだっけ」
「カスミソウです」

 ああ、そうだった、と思い出すのと同時に、男の子の葵くんに知識で負けたことが悔しくて押し黙る。ていうか、なんでそんなことまで知ってるのよ。葵くんの博学オバケ。黙っている私をからかうためか、葵くんがニヤリとして話題をふってきた。

「先輩、花言葉って知ってます?」
「あるのは知ってるよ! ……詳しくは知らないけど。葵くん、詳しいの?」
「親が植物好きなので、ある程度は。家族みんな植物にちなんだ名前ですし」
「へぇ……あ、そっか、葵、も花か」

 葵くんのことを呼び捨てにしてしまったみたいで変な感じがする。葵くんは一瞬だけチラリとこっちを見たけど、すぐに手元の花に目線を戻した。

「葵も花です。花言葉も色々あります。『大望』とか『野心』とか、『豊かな実り』とか。『気高く威厳に満ちた美』なんてのもあります」
「悔しいけどそれっぽい……」

 なんでも出来ちゃう葵くんの人生は実り多いものだろうし、気高く威厳に満ちた美、だなんて、モテモテな葵くんにぴったりじゃないか。それっぽいという自覚はあるのか、私の言葉には返事をせず、チラリといつも杏奈が座る席に目をやった。

「杉田先輩の名前の杏にも花言葉はありますよ。『臆病な愛』『乙女のはにかみ』……」
「乙女ぇ!? 嘘っ、似合わな──」
「『疑い』『疑惑』なんてのもあります」
「……あはは! そっちのが杏奈っぽい!」

 あとでそのネタでからかってやろう、と、さっき聞いた花言葉をしっかりと覚えた。
 それにしても、花言葉っていろいろあるんだな。ここにある花の一つ一つに、花言葉があるのだと思うとワクワクする。

「葵くん、じゃあこれは?」
「赤いバラは、『情熱』『美』『熱烈な恋』とか……」
「じゃあこれは? これは?」
「ユリは『純真』『無垢』とか。カスミソウは『無邪気』です。……っていうか、全部聞いてくるつもりですか。さすがに俺も全部はわかりませんよ」
「えへへ、ごめん、つい……。あ、じゃあさ、」

 そう言いながら、机の上にあった黄色い花に手を伸ばす。太い茎に大きな黄色の花。私も大好きな向日葵だ。見てると元気になれる明るい花。杏奈のせいで葵くんとひとくくりで『ひまわりコンビ』だなんて呼ばれるし、個人的にも所縁のある花だと思う。私は茎を持つ手を胸元に持って行き、その花弁で口元を隠すようにして笑った。

「向日葵は? 『元気』とか?」

 向日葵のイメージってそんな感じだ。太陽に向かって咲く、夏のイメージの強い花。花言葉もそんな感じだと思ったんだけど。
 葵くんは、造花の茎を切る作業をやめて、私の姿をじっと眺めている。何も言ってくれない。もしや、正解だった? 葵くんの出鼻をくじくことができたのだろうか。それが嬉しくて、してやったりな顔になってしまう。
 葵くんはまだ何も言わない。ただただまっすぐ私のことを見ている。何も言わない葵くんに少し不安になって、首をかしげて尋ねた。

「……葵くん? 何とか言ってよ」

 その刹那、葵くんが立ち上がって、私の方へにじり寄ってきた。突然のことに驚いた私は、思わず後ずさりをしてしまったのだけど、葵くんがそれを許さなかった。向日葵を持っていた私の手を上から包むように掴んで、私の前に跪いた。いつも見上げる他なかった葵くんの目線がいくらか下がって、初めて見上げられてどきりとする。その目は相変わらず、私の目をまっすぐ捕らえて離さない。こんなにじっと見られることってあまりないから、なんだかどぎまぎしてしまう。

「あ、おいくん?」

 動揺しているのがばれないように、大きな向日葵の花で顔を隠そうとする。すると、葵くんの顔がずいとこちらに近づいてきて、私は肩をすくめた。せ、セクハラされる! 向日葵を挟んですぐの距離にある葵くんの眼鏡に私の姿が映って、その距離の近さに改めて気付かされる。なにこれはずかしい──! 
 恥ずかしくてぎゅっと目を閉じてしまうと、口元にコツン、と衝撃があった。何が起こったのかよくわからなくて、そっと目を開ける。向日葵の造花が前後に揺れて、その奥で葵くんが意地悪く笑っている。ああそうか、向日葵の造花が口に触れたのだ。それだけのことなのに、あんなに緊張していたのがなんだかバカみたいじゃないか。葵くんはキョトンとしている私のことを鼻で笑うと、すっと立ち上がって私から向日葵を奪って、元いた席につかつかと歩いていく。

「……あ! そうだよ、向日葵の花言葉って結局なんなの!?」
「自分で調べたらどうですか」
「なんでよー意地悪!」

 きっと当たりだったから悔しいんだ。葵くんって本当素直じゃない。答えなんてわかりきってるんだから、調べてやるもんか。私は心の中で葵くんに思い切りあっかんべーをした。


 * * *


 葵くんに奪われた向日葵は、花瓶の中で一番目立つ位置に配置された。素人目から見ても綺麗にいけられたその花瓶は、いつまでも美しく生徒会室を彩ったのだった。

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