おとぎ日和

天乃 彗

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桃太郎

01 鬼会長をこらしめろ

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「うそぉぉおおお!?」

 いつもどおりの朝が訪れるはずのその日──川崎桃の叫び声が、高らかに響いた。
 その原因は、昇降口に貼り出された一枚の紙。桃はそれを読むなり、絶望に打ち拉がれたのである。

『豊木高校校則を、以下のように改める。
 一、髪の脱色・染色を一切禁止する。パーマ等も認めない。また、女子は髪が肩につく場合は一つにまとめること。
 一、セーターは学校指定の黒のものを着用すること。それ以外のセーター・カーディガンは一切禁止する。
 一、制服は正しく着用すること。
 一、化粧、装飾品の着用などは一切禁止する。
 一、成績が著しく悪い者には休日の課外授業への参加を命ずる。』

 桃は、ガラスに映る自分を上から順に眺めた。
 ピンクブラウンに染めた髪は、ゆるいパーマをかけている。つけまつげばっちりのフルメイクに、昨日買ったばかりのかわいいピアス。ピンクのだぼっとしたカーディガンは、かなりのお気に入りだ。スカートは常に三回は折っている。ソックスは黒のニーハイソックスをはいている。
 ちなみに……成績はかなり悪く、赤点は見慣れたものである。

「信じらんない……何で急に!?」
「生徒会長変わったからね」
「……おばあちゃん!」

 何気ない独り言に答えたのは、いつの間にか隣にいた大場綾子だった。彼女はしっかり者でみんなのまとめ役になることが多く、「おばあちゃん」と呼ばれ慕われている(本人はあまり望んでいないあだ名のようだが、みんなが呼ぶからあきらめている)。
 綾子は騒ぐ桃を宥めるように肩を叩く。

「この間役員選挙あったでしょ。あんた寝てたから知らないだろうけど、新しく会長になったのがかなり熱心で。“みんながしっかりした学生生活を送れるようにしたい”ってことで、この校則」
「はぁ!? しっかりしたって何よ!? 意味わかんないこんな校則!」
「まぁまぁ落ち着きなさい。クールダウンクールダウン。ほら、このフリスクあげるからさ」

 綾子は苦笑いを浮かべながら、ポケットから未開封のフリスクを取り出した。桃はそれを受け取りながら、不満を洩らす。

「こんな勝手にさ……! ねぇおばあちゃん、これってもう決まりなの?」
「そうなんじゃないの? それに……あんた一人が文句言いに行ったところで何も変わらないでしょ」

 貼り出された紙を眺めながら、綾子はつぶやいた。まぁしょうがない。そんな感情が見て取れた。
 しかし、桃は納得いかなかった。いいわけがない。こんなふうに縛られてしまったら、学校生活を楽しめるわけがないのだ。どうにかして、この校則を取り消せないだろうか? 桃はない頭を必死に働かせて解決策を考える。

“あんた一人が文句言いに行ったところで何も変わらないでしょ”

 綾子の言葉が頭をよぎった。

──そうか! 

「じゃあさ! あたしよりすごい人何人も連れていけば、どうにかなるってこと!?」
「……は?」
「そうだよね! あたしはどうせただのバカだけど、そうじゃない人が文句言えば!」
「……おーい? 桃さーん……」
「よぉし! そうと決まれば、協力者集めてこなきゃ。みんなで鬼会長を撃退するぞ!」
「桃ー……」
「行ってくる! あ、おばあちゃん、フリスクありがと! じゃあね!」

 桃は、綾子のさり気ない制止に気付くこともなく、ニッコリと笑った。勢い良く飛び出した桃の背中を見ながら、綾子は小さく呟いた。

「じゃあねって……一限どうすんのよ、あいつ……」


 * * *
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