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桃太郎 番外編②
見てるこっちがハラハラ《一真目線》
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「祐樹、それ一口ちょーだい」
「だっ、誰がやるかバカ!」
祐樹のジュース(新発売の炭酸飲料らしい)をめぐって、二人は今日も騒いでいた。毎回毎回よく飽きないなと思いつつ、俺はそれを眺めていた。
どうやら祐樹は、間接キスを気にしてるようだ。いまどきめずらしい純情少年だ。間接キスくらい、そんな。
「いーもんバカ! 一真、それ飲ませて?」
桃はにっこりと、俺が持っていた紅茶を指差した。そういえばこれもつい最近出たやつだった。断る理由もないし、俺はそれを差し出す。
「はい、いいよ」
「ありがとー! 一真大好きっ」
「はいはい、俺も大好き」
桃は嬉しそうに、俺の紅茶を飲む。祐樹は唖然とその様子を眺めていた。
本当に、バカ。俺と桃が間接キスするのが嫌なら、早くあげちゃえばよかったのに。桃が俺に「大好き」だと言うのが嫌なら、素直になればいいのに。返された紅茶を受け取って、祐樹に差し出した。
「……飲む?」
「ふざけてんのか!」
ここで受け取るような奴じゃないことはわかってた。「あ、そう?」と笑いながら、紅茶を飲む。桃のグロスが飲み口についていて、俺の唇にもべったりとついた。
本当にキスしたみたいだ。苦笑しながら口元を拭う。桃は次は純平のお茶を狙っていた。
* * *
一緒にお昼を食べる日じゃない日、自販機の前で桃に会った。俺と祐樹も、今日は一緒に食べる約束をしてたから一緒にいたんだけど。
「あれ? 桃一人?」
「うん、ジュース休み時間に飲んじゃって」
俺は桃に話し掛けながら小銭を入れる。桃は俺らより早く来てるのにまだ買っていない。桃のことだ。何にするか決めあぐねていたのだろう。
俺は、フルーツオレのボタンを押した。紙パックのそれが取り出し口に落ちる。それを手にして、桃に手渡した。
「はい」
「えっ? ありがとー!」
びっくりしながら桃はフルーツオレを受け取った。ニコニコとそれを眺めている。かわいいな。
「よくやる……」
祐樹が小さく呟いたのが聞こえた。俺は曖昧に笑ってみせる。祐樹が自分のジュースを買っている間、桃は俺を見て言った。
「えへへ、祐樹と違って、一真やっさしー」
「……聞こえてんぞバカ女!」
祐樹は桃を睨み付ける。桃はべーと舌を出した。
「一真には、今度お礼しないとなー。何がいい? 一真」
桃は小首を傾げながら尋ねた。急な質問だったから少し目を白黒させてしまった。
ふと、祐樹がこちらを見ていることに気付く。いいことを考えた。俺は笑いながら、桃を見下ろす。
「……ものじゃなくちゃ駄目なの?」
「え? 別に、あたしができることならいーよ? 宿題とかは絶対ムリだけど」
えへへと笑う桃。俺はその柔らかい髪の毛にそっと触れた。
「……じゃあ」
「何?」
「桃を拘束して、離したくない」
毛束を指で弄びながら、微笑んだ。ふわりといい匂いがする。桃の香水の匂いだろう。もう嗅ぎ慣れたと思っていたこの匂いが、無性に恋しくなる。
この子は無自覚で小悪魔だから、たまに、本気で思うんだ。そうして俺のものになってくれればどんなに──。
「──ほらっ! お前の分! お茶でいいよな!?」
目の前に緑色が広がって、状況を理解するのに少し時間がかかった。祐樹が、俺の鼻先数センチのところに、買ったばかりのお茶を突き出したのだ。
「……あぁ、買ってくれたの? ありがとう」
笑いながらお礼をするも、その表情は険しいままだった。俺をギロリと睨み付けている。……怖い怖い。
「行くぞ、一真!」
荒々しく言い放つと、俺の手首を掴んで歩き始める。痛いっつの。
「あ、桃」
直立している桃に、声をかける。さっきみたいな挑戦的な笑みじゃなく、いつもの笑みを心がけながら。
「冗談だから。今度、飲み物おごってね」
固まっていた桃が、魔法がとけたみたいにふにゃっと笑った。「りょーかい」と笑いながら手を振る桃に、同じように手を振り返した。
* * *
「……ホントに冗談か?」
こちらを見ないまま、祐樹は言った。その声は低く、怒りを含んだような声色だった。俺の手首を掴む手に力が入る。
「……冗談に聞こえた?」
わざと、鼻で笑う。弾かれたように俺を見た祐樹と、目が合った。
ほら、ね。祐樹の目に、焦りが見えた。
近いようで遠い、祐樹と桃の距離。桃が近寄れば、祐樹があとずさるから。俺はあとずさったりしない。したくはない。──好きだから。
だからこそ、ハラハラしていた。桃の目がこっちに向くことは、有り得ないことではないのだ。自分の気持ちに嘘はつきたくない。でも、友人を出し抜くつもりもない。だから、気付いてほしい。祐樹に、自分で。変かもしれないけど、これは本心だ。
「……っ」
祐樹の手が離れた。俺は手首をさすりながら、祐樹を見た。思わず、笑いそうになった。
「……なっさけない顔」
「なっ……!?」
俺は堪えきれずにクスクス笑いながら、立ち尽くす祐樹を置いて歩きだす。さっき──思わずもらした本音に、桃が怯えてくれて、よかった。……と、思うのは、何でなんだろうね。
今一歩逃げてばかりの親友に、もう少し助け船を出してやる計画を企てつつ、苦笑いを浮かべた。
(C)確かに恋だった
「だっ、誰がやるかバカ!」
祐樹のジュース(新発売の炭酸飲料らしい)をめぐって、二人は今日も騒いでいた。毎回毎回よく飽きないなと思いつつ、俺はそれを眺めていた。
どうやら祐樹は、間接キスを気にしてるようだ。いまどきめずらしい純情少年だ。間接キスくらい、そんな。
「いーもんバカ! 一真、それ飲ませて?」
桃はにっこりと、俺が持っていた紅茶を指差した。そういえばこれもつい最近出たやつだった。断る理由もないし、俺はそれを差し出す。
「はい、いいよ」
「ありがとー! 一真大好きっ」
「はいはい、俺も大好き」
桃は嬉しそうに、俺の紅茶を飲む。祐樹は唖然とその様子を眺めていた。
本当に、バカ。俺と桃が間接キスするのが嫌なら、早くあげちゃえばよかったのに。桃が俺に「大好き」だと言うのが嫌なら、素直になればいいのに。返された紅茶を受け取って、祐樹に差し出した。
「……飲む?」
「ふざけてんのか!」
ここで受け取るような奴じゃないことはわかってた。「あ、そう?」と笑いながら、紅茶を飲む。桃のグロスが飲み口についていて、俺の唇にもべったりとついた。
本当にキスしたみたいだ。苦笑しながら口元を拭う。桃は次は純平のお茶を狙っていた。
* * *
一緒にお昼を食べる日じゃない日、自販機の前で桃に会った。俺と祐樹も、今日は一緒に食べる約束をしてたから一緒にいたんだけど。
「あれ? 桃一人?」
「うん、ジュース休み時間に飲んじゃって」
俺は桃に話し掛けながら小銭を入れる。桃は俺らより早く来てるのにまだ買っていない。桃のことだ。何にするか決めあぐねていたのだろう。
俺は、フルーツオレのボタンを押した。紙パックのそれが取り出し口に落ちる。それを手にして、桃に手渡した。
「はい」
「えっ? ありがとー!」
びっくりしながら桃はフルーツオレを受け取った。ニコニコとそれを眺めている。かわいいな。
「よくやる……」
祐樹が小さく呟いたのが聞こえた。俺は曖昧に笑ってみせる。祐樹が自分のジュースを買っている間、桃は俺を見て言った。
「えへへ、祐樹と違って、一真やっさしー」
「……聞こえてんぞバカ女!」
祐樹は桃を睨み付ける。桃はべーと舌を出した。
「一真には、今度お礼しないとなー。何がいい? 一真」
桃は小首を傾げながら尋ねた。急な質問だったから少し目を白黒させてしまった。
ふと、祐樹がこちらを見ていることに気付く。いいことを考えた。俺は笑いながら、桃を見下ろす。
「……ものじゃなくちゃ駄目なの?」
「え? 別に、あたしができることならいーよ? 宿題とかは絶対ムリだけど」
えへへと笑う桃。俺はその柔らかい髪の毛にそっと触れた。
「……じゃあ」
「何?」
「桃を拘束して、離したくない」
毛束を指で弄びながら、微笑んだ。ふわりといい匂いがする。桃の香水の匂いだろう。もう嗅ぎ慣れたと思っていたこの匂いが、無性に恋しくなる。
この子は無自覚で小悪魔だから、たまに、本気で思うんだ。そうして俺のものになってくれればどんなに──。
「──ほらっ! お前の分! お茶でいいよな!?」
目の前に緑色が広がって、状況を理解するのに少し時間がかかった。祐樹が、俺の鼻先数センチのところに、買ったばかりのお茶を突き出したのだ。
「……あぁ、買ってくれたの? ありがとう」
笑いながらお礼をするも、その表情は険しいままだった。俺をギロリと睨み付けている。……怖い怖い。
「行くぞ、一真!」
荒々しく言い放つと、俺の手首を掴んで歩き始める。痛いっつの。
「あ、桃」
直立している桃に、声をかける。さっきみたいな挑戦的な笑みじゃなく、いつもの笑みを心がけながら。
「冗談だから。今度、飲み物おごってね」
固まっていた桃が、魔法がとけたみたいにふにゃっと笑った。「りょーかい」と笑いながら手を振る桃に、同じように手を振り返した。
* * *
「……ホントに冗談か?」
こちらを見ないまま、祐樹は言った。その声は低く、怒りを含んだような声色だった。俺の手首を掴む手に力が入る。
「……冗談に聞こえた?」
わざと、鼻で笑う。弾かれたように俺を見た祐樹と、目が合った。
ほら、ね。祐樹の目に、焦りが見えた。
近いようで遠い、祐樹と桃の距離。桃が近寄れば、祐樹があとずさるから。俺はあとずさったりしない。したくはない。──好きだから。
だからこそ、ハラハラしていた。桃の目がこっちに向くことは、有り得ないことではないのだ。自分の気持ちに嘘はつきたくない。でも、友人を出し抜くつもりもない。だから、気付いてほしい。祐樹に、自分で。変かもしれないけど、これは本心だ。
「……っ」
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「……なっさけない顔」
「なっ……!?」
俺は堪えきれずにクスクス笑いながら、立ち尽くす祐樹を置いて歩きだす。さっき──思わずもらした本音に、桃が怯えてくれて、よかった。……と、思うのは、何でなんだろうね。
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