猫系男子注意報

天乃 彗

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犬系男子注意報

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 犬系男子注意報、まさかの発令。
 その注意報は、あたしに、タマに、そして宇佐美兄妹に、何を引き起こすのでしょうか──? 


 * * *


「海だぁ!」

 突然ですが、海です。あたしたちの大学はテスト期間を経て、無事に夏休みを迎えた。そして、以前から計画していた(タマに阻止されていた)海へ旅行に来たのです。来たのは、主催者のシバケン含めクラスの数人か(その中にはあたしとタマも含まれてる)、そして何故か「友達だからいいでしょ?」と乱入して来た宇佐美兄妹という異色のメンバーだ。
 大体が貧乏学生のため、電車とバスで数時間かけてやってきたのだ。あたしたちは各々宿に荷物を置いて、着替えを済ませて、海に繰り出した。去年の水着がようやく晴れ舞台に──! 

「おい」
「ふぁ!?」

 後ろから声がして、目の前が暗くなる。息が苦しくなって慌てて顔周辺を触ってみると、どうやら布が被せられたようだった。ジタバタとしていると、首がスポッと抜けた。何これ……Tシャツ? 

「着とけ」
「な……?」

 そう言い放ったのは、一応あたしの彼氏である多摩川大和──通称タマだった。夏仕様……水着だ。タマの匂いのするTシャツ。一回り大きいそれは、あたしの身体をすっぽり包み込んでしまう。ちょっとしたワンピースみたいだ。

「……なんで?」
「言ったろ、他の奴らに見せる必要ねーよ。お前のハダカどーぜんの姿なんか」
「いや、水着ですから」
「かわんねーだろ」

 ギロリと睨まれる。あーこれ着とかないとうるさいやつだわ……と思っていると、タマはあたしの耳をペロリと舐めた。

「ぅひゃっ!?」
「ハダカは夜たっぷり見てやるよ」
「……っ、バッ──!」
「はいはいいちゃつかないいちゃつかない」

 ぐいっとタマとの距離を離される。何かと思うと、あたしとタマとの間でマトさんがニコリと笑った。まぁ当たり前だけど、マトさんも水着だ。細い割に、意外といい身体をしている。

「あ、見惚れてる? いいよ? さっき地元の人に聞いたんだ。あそこの岩場、死角になっていいヤリスポットらし」
「失せろ発情期!」

 タマがローキックを喰らわす。結構効いたらしい。マトさんは膝から崩れ落ちた。海でも相変わらずすぎて、思わずため息が出た。


 * * *


 潮風を浴びながら、俺は騒ぐ三人の様子を遠巻きに眺めていた。背景に海。無理だと思ってたのに、ここに逢坂がいる。

「にやけてる」

 横からした声にハッとすると、俺の顔を凝視するユウちゃんと目があった。俺は慌てて口元を隠す。……ていうか、ユウちゃん大胆すぎないか、その水着。普通にしてても目立つ……その、胸が、何というか、余計に……。

「ユウの胸見過ぎ。やっぱりあんたムッツリなわけ?」
「なっ……違!」

 俺は慌てて目を逸らしたけど、「ま、いいけど」とユウちゃんはむしろ誇らしげに胸を張った。ユウちゃんはしばらく俺の姿を見たあと、逢坂たちの方へ目線をやった。

「……バッカじゃない? あんた」
「え」
「ナツねぇのこと好きなんでしょ?」

 ナツねぇ──逢坂のことだ。俺は動揺を隠そうとしたが、どうしてばれてるのかという疑問で頭がいっぱいでそれどころじゃなかった。

「バレバレだから。見てたらわかるから。わかってないのナツねぇくらいでしょ」
「あー……」

 バレバレでしたか。俺は苦笑いをする。

「しーんじらんない。あんな暴力女のどこがいいんだか」

 ユウちゃんは後ろで手を組みながらくるり、と回った。俺はユウちゃんの言葉を頭の中で繰り返す。

「どこがいい、と聞かれると困るんだけど」

 気づいたら惹かれてて、気づいたら誰かのものになっていた。俺はそれを遠くで近くで見てただけ。

「でも……ユウちゃんも好きでしょ? 逢坂のこと。実際、姉みたいに慕ってるわけだし」

 俺の言葉に、ユウちゃんは少しムッとした。すると、少しだけ頬を赤くしながら「……知らないっ」と言い残して、走り去った。そのまま逢坂に勢いよく抱きつく。逢坂はバランスを崩して海に突っ込んだ。
 俺は思わず笑ってしまいながら、小さく拳を握る。ここまで来たからには、決めて来た目標。逢坂に少しでも近づく。そして出来たら、逢坂に──告白する。
 旅先では何が起こるか分からない。俺はその何かの可能性にかけているのだ。


 * * *


「逢坂、今、ひとり?」

 砂浜で座ってのんびりしている逢坂に話しかけた。偶然を装った。本当はずっとタイミングを見計らっていたんだけど、常に近くにタマがいたり、マトさんに迫られたりしてて、中々一人になってくれなかった。

「あ、うん。今、タマは水泳部のコと泳ぎ対決してる。マトさんはあっちでナンパしてる」
「はは、すげぇ」

 俺は苦笑いを浮かべて、逢坂に手を差し伸べた。

「じゃあさ、ちょっとその辺歩かない?」
「え? いいけど……」

 逢坂は少し不思議そうな顔をして、俺の手を取り立ち上がった。それにすら、俺は少しだけ動揺する。俺は不自然にならないようにその手を解いて、歩き出した。やっと二人きりだ。

「楽しんでる? 逢坂」
「うん、まぁまぁ。シバケンこそどうなの? まとめ役で苦労ばっかしてるけど、ちゃんと楽しんでるの?」
「俺は好きでやってるから、それに……」

──逢坂が来てくれただけで、俺は楽しい。

「……それに?」

 首を傾げた逢坂が俺を見つめた。あ、やべっ……。俺は慌てて言葉を探そうとする。

「あっと……みんなが楽しそうなの見てたら楽しいし」

 嘘は言ってない。すると逢坂は、あはは、と笑った。その笑顔にドキリとする。

「シバケンらしい」
「……そ、う?」

 俺らしい、か。どういうことだろう。そんなこと言われると思わなかったから驚いた。俺は逢坂の少し前を歩く。隣は、ちょっと恥ずかしい。
 波打ち際を歩くから、波が足にあたって気持ちがいい。誘い出してはみたものの、これからどうすればいいんだろう。夜は、逢坂どうするんだろう。タマと会うのかな。だとしたら、その前に俺とも会ってくれないかな。なら、今、その約束しておかないと……? いやでも……。
 悶々と考えながら歩いていると、後ろの方で「痛っ……!」と叫ぶ声がした。驚いて振り返ると、逢坂が足元をおさえてうずくまっていた。

「逢坂っ……!?」
「……、何か、刺され、」
「クラゲか何か!? 見せて!」

 逢坂が手を離すと、刺されたらしい足は赤く腫れ上がっていた。クラゲの毒ってたしかやばいよな!? 

「……っ、とりあえず、救護員さんを呼んでく──」

 俺が立ち上がろうとした瞬間だった。

「──菜月!!」

 海から上がってきたばかりなのか、びしょ濡れのタマが俺を突き飛ばした。俺は呆気に取られて、そのまま尻餅をつく。

「クラゲか!?」
「た、ぶん」

 逢坂が答えると、タマは迷うことなく逢坂の傷口に口付けた。そのまま強く吸う。

「っな、にして……」

 逢坂の制止を聞かず、タマはしばらくして口を離した。口の中のものを砂浜に吐くと、そのまま逢坂を抱きかかえる。

「救護室何処だ!」

 タマにギロリと睨まれ、俺はただただ救護室の方向を指をさした。そのまま駆け出すタマの背中を眺めながら、俺は何もすることができなかった。
 何も、出来なかった。


 * * *
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