猫系男子注意報

天乃 彗

文字の大きさ
17 / 17
エトセトラ

窮鼠、猫を噛む?

しおりを挟む
「ナツねぇって、上になることある?」
「は?」
「セックスの時」
「あんたね……」

 ユウもマトさんも、なんで息をするように猥談を持ちかけるのか。ジト目で睨みつけてみるけれど、悪びれる様子もなく、むしろあたしの答えを心待ちにしている。誰が教えるかそんなこと。シカトを決め込もうとすると、ユウがふてくされたように唇を尖らせた。

「まっ、想像つくけどね! 猫の話聞いたりする限り、ナツねぇって、見た目によらずドMっぽいし」
「なっ……! タマまたあんたらに何か言ったの!? あいつコロス……っ!」
「いいじゃん減るもんじゃないしぃ」

 羞恥心というものがないのか! この変態兎兄妹にはないんだろうけど! あたしにはあるのよ!? 

「まぁまぁナツねぇ、落ち着いてよ。あいつに何言っても無駄だし。たまにはさぁ、違う方法であの猫をギャフンと言わせるのもいいんじゃない?」
「ギャフン、って?」

 あの猫を懲らしめる方法なら、聞いてあげないこともない。あたしがユウを見ると、ユウはあたしを下から覗き込むようにしながら、妖艶に微笑んだ。そして、両腕をあたしの首に回す。あぁ、この子はこうやって男をその気にさせてきたんだろうな、と頭の片隅で思った。

「窮鼠猫を噛むって言うじゃない? だから、例えば──」

 ユウがあたしの耳元で囁く声は、どこか楽しげでもあった。


 * * *


「なぁおい」

 ベットに腰掛けるタマに対し、あたしはベットを背もたれにして床に座ってテレビを見ている。ガン無視だ。
 テレビでは、ちょうど再放送のドラマのクライマックスがやっていた。連ドラだったし、その話を知ってるわけではなかったけど、まぁまぁ面白かったし、タマの相手をするよりかはそれを見ている方がいい。それなのに、テレビの画面は急に真っ暗になった。

「あっ!」
「シカトしてんじゃねーよ」

 振り返ると、リモコンを持ったタマが不機嫌そうに眉をひそめた。ふざけないでよ、いいとこだったのに! 

「構え」
「……自分が構って欲しい時だけそれか」
「悪いかよ?」

 猫みたいって言うか、猫そのものって言うか。あたしは深いため息をつく。それを聞いているのかいないのか、タマはあたしの襟元に手を滑らせようとする。いつものパターンだ。そのままなし崩しにされる! あたしは慌ててその手を掴んだ。

「ちょっ、こら!」
「んだよ、ヤらせろ」

 だったらもうちょっと言葉を選びなさいよクソ猫。ムードもへったくれもない言い草に、あたしはますます深いため息をつく。

“窮鼠猫を噛むって言うじゃない?”

 ふと、ユウの言葉が頭をよぎった。タマをギャフンと──言わせるのは、今なんじゃない? 
 その言葉の一つ一つを思い出しては、羞恥心を拭い捨てる。あたしはすっと立ち上がり、膝をベットに乗せる。ギシ、とベットが軋む音がした。そのまま、タマの体を後ろに押し倒す。油断してたからか、タマの体は案外あっさり倒れた。

「あ?」

 タマはキョトンとしている。そりゃそうかもしれない。あたしがこんなことするのは初めてだ。恥ずかしい。恥ずかしい、けど。間髪入れずに、その唇を奪う。タマの顔を両手で掴む。触れるだけのキスを何度も繰り返す。

“ナツねぇのほうからとろけるようなキスの一つでもしたら、あいつきっとびっくりするよ。もしかしたら、焦っちゃうかもね。こいつ、浮気でもしたのか、みたいな?”

 意を決して、舌を差し入れる。何度もしたはずのディープキスのはず、なのに。自分が主体になると、こんなにも恥ずかしいものなのか、と思った。

“ディープはね、ただ舌を絡ませりゃいいってもんじゃないの! まぁ、普段あいつにされてることをし返せばいいのよ。相手の舌を甘噛みしたり、吸ったりして”

 ユウに言われたとおりにしてみる。あたしの舌に応えたタマの舌を捕らえて、甘噛みをする。加減がわからない。もしかしたら強すぎた、かも? タマの体が少しだけピクリと動いた。でも、「ごめん」なんて言ったら、窮鼠猫を噛む作戦が台無しだし、そのまま続ける。今度は、吸ってみる。じゅる、と自分の口がいやらしい音を立てて、ぞくっとした。

「んっ……」

 荒い息の間で、思わず声がもれた。舌を絡ませている間も、ちゅく、ちゅ、と卑猥な音がして。まるで自分の脳内にそれが響いているような錯覚に陥る。

“舌だけじゃないの。たまに、唇も甘噛みするの。軽く吸ってもいいかもね”

 唇を離したら、糸が引いた。それほどまでに濃厚なキスを自分から仕掛けた、という事実が、恥ずかしくて仕方が無い。それをごまかすみたいに、あたしはまたキスをする。今度はタマの下唇を甘噛みする。

「……っふ、」

 タマが声を漏らした。タマがこんな風に、声を漏らすのは珍しい。部屋にはリップ音が響く。ちゅ、ちゅく、という音の間に、二人の息遣いと、たまに漏れる声。キスなんて普段からしてることなのに──なんか、脳がくらくらする。普段見上げてるタマの顔が下にあるからなのか、なんだかとてもイケナイことをしているような気持ちになって。あぁ、やばい、かも。あたし、多分今、いつもよりだらしない顔、してる──。

「……っ!」

 その瞬間だった。なぜか、タマの顔をあたしが見上げている。世界が反転したのかと思った。まぁ実際そんなことはあるわけなくて、タマがあたしの腕を掴んで、あたしを組み敷いたからなんだ、けど、あれ? なんで? 

「んなことされて、オレ様が黙ってると思ってんの?」
「ふぁ……?」
「なんかいつもより積極的じゃん? そんなに俺様とヤりたいなら、今日は死ぬほどイかせてやるよ」
「やっ、違っ……、」
「あんなにエロいキスして、こんなにエロい顔しといて、違うとは言わせねぇよ?」

 そう言って、タマはあたしの頬を撫でた後、ニヤリと笑った。そして、またあたしにキスをする。さっきと同じはずのディープキス。あたしがタマにしたのと同じはずの、ディープキス。逃げる舌を捕らえるように絡みつく舌。あたしはうまく息が出来なくて、苦しくてぎゅっとタマの首筋を抱きしめた。
 あたしは、タマの真似をしたはずなのだ。それなのに、やっぱりタマからされるディープキスは、痺れるみたいって言うか、なにも考えられなくなるような感じで。あたしは、抵抗さえ出来なくなるのに。
 タマは、あたしにキスされた時、どうだったのだろう。おんなじだったかな。そんなことを考えていたら、タマがあたしに触れるだけのキスをした。いつもの貪るようなキスとはまた違って、それさえ、あたしをとろけさせるようなものだった。あぁ、まだまだ修行が足りないな。窮鼠猫を噛む作戦、大失敗。
 タマをギャフンと言わせるのは、どうやら難しいみたいだ。


しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...