頑張り屋

天乃 彗

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 頑張りたいのに、勇気がでない。どうしても、最後のもうひと頑張りが、出てこない。そんな人には、どこからか不思議な少年がやって来て、その『もうひと頑張り』を売ってくれる──『頑張り屋』に招待してくれるらしい。
 迷信かも知れないけど。隣のクラスの男子が、その少年と店主に会ったって聞いた。そのおかげかは知らないけど、その男子は、好きな子に告白をしたらしい。だからわたしは、頑張り屋は本当にあるって信じているんだ。だってわたしは、とある『頑張り』がほしくて、そのお店を必死に探し回っていたから。


 * * *


「……ここにも、ない、か」

 探すあてもなく町をさ迷っていた。無理もない。だって、情報が少なすぎる。
 ある人が言うには、古びた洋館。ある人が言うには、高層マンションの一部屋。ある人が言うには、路地裏の裏の小さな扉の奥。ある人が言うには、ごく普通の日本家屋。その『頑張り屋』がどんなもので、どこにあって──そんな情報は、ひとつも持ち合わせていないのだ。

「……だめなのに。早くしないと、わたしが、頑張らないと……」

 険しい顔で、胸元をぎゅっと握りしめた。時間がないんだ。わたしには、その『頑張り』を手にいれて、しないといけないことが──。

「……お姉さん、具合でも悪いんですか?」
「え……」

 声をかけられて、顔をあげる。そこには、小学生くらいに見える少年がいた。心配そうな瞳で、わたしのことを見ている。その瞳は、綺麗な金色をしていて、くりくりと大きな瞳だった。

──何だろう、この子。

 わたしは、その男の子をまじまじと眺めてみる。少しだけ、不思議な格好をした男の子だ。亜麻色の髪の毛は癖っ毛なのかくるくると跳ねている。その亜麻色の頭に、緑色の小さな小さなハットを被って(乗せて?)いる。丸襟の白いシャツに、黒いリボンをネクタイがわりに巻いている。深い緑色の短めなベストをその上から羽織っていて、下は、茶色いサスペンダー付のサルエルパンツだけど……。彼がはいている靴は、爪先の部分が異様に長くて、さらにくるんと丸まっていた。明らかに歩きにくそうだ。

「……ううん、少し探し物をしてただけだから」
「探し物ですか? 僕がお手伝いしましょうかっ?」

 その少年は首を傾げながら尋ねた。でも、見ず知らずの少年なんかに頼むことじゃないし、それに──。

「きっと見つからないから。わたしが探してるのは、『頑張り屋』なんだもの……」

 だから、この子に言っても無駄。そう思ってその子を見下ろすと、キョトンとした顔をだんだん緩めて、けたけたと笑った。

「なぁんだ! お姉さん、『頑張り』を必要としてるんですね!」
「……? そ、うだけど」

 その少年の様子に、今度はわたしがキョトンとする。すると、その男の子は両手を広げながら、わたしにこう言ったのだった。

「でしたら、招待します! 『頑張り屋』へ!」
「へ?」

 そう言うや否や、少年はわたしの手を取って走り出した。わたしはびっくりして振りほどくこともできず、少年に連れられるまま走る。
 走る。走る。走る。わたしは少年の背中を見つめながら、そんな靴とズボンでよく走れるなぁとか、よく帽子おちないなぁなんて考えた。
 走る。走る。走る。一瞬、まばゆい光に包まれたと思ったら──

「さぁ、着きましたよ!」

 にっこりと振り返った少年の声にはっとする。辺りを見回すと、そこは結構前に潰れて廃ビルになった建物の前だった。腹が立った。やっぱりこの子、わたしをからかっただけなんだ。

「……ふざけないでよ、わたし、帰──」
「シーザさぁん、戻りましたよぉ」

 わたしがその手を振りほどく前に、その子は廃ビルの扉を開いた。ずんずんと中に入っていくもんだから、わたしもずるずると連れ込まれていく。

「……っ!?」

 思わず息を飲んだ。外から見たこの建物は、朽ち果てた廃ビルだった。でも扉を開けて中に入ると、壁一面棚に埋め尽くされた、不思議な部屋だったから。

「コロット、おかえり」

 すると、奥から白いシャツに黒いエプロンをかけた男の人がやって来た。細身で、背が高い。若そうに見えるけど、20代くらいだろうか。茶色の髪の毛はサラサラで、女のわたしでも羨ましく思うくらいだった。その男の人は小さな丸眼鏡の奥でにこやかな笑みを浮かべている。
 男の人──少年は、シーザさんと呼んでいた──は、少年の後ろでキョトンとするわたしを見ると、驚いた顔をした。

「おっと、失礼──お客様でしたか」

 シーザさんは、いそいそと奥へと戻る。わたしがぽかんとそれを見ていると、数秒もしないうちに戻ってきた。どうやらエプロンを外して、少年とお揃いの、深い緑色のベストを羽織ってきたみたい。

「コロット──お客様を連れてきたなら先に言いなさい。……ちょっと恥ずかしかったじゃないか」
「えへへ、すみません」

 シーザさんは少しだけはにかんだ笑みを浮かべると、眼鏡を正した。少年──コロットは、ペロッと舌を出しながら頭を掻く。恥ずかしがるほどじゃないのにな、エプロン似合ってたし。なんて考えていると、自分がおかれている状況が普通じゃないことを思い出して、はっとした。
 すると、シーザさんはそんなわたしの様子を読み取ったのか、私に向けてにこりと笑った。
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