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本編
01 カボチャ頭に恋をしました
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「カボチャ頭の方に、恋をしてしまいました」
「はぁ?」
こいつはいつも唐突なことを言い出す。今度はなんだって? カボチャが何?
「だから、カボチャ頭の方に恋をしてしまったんです」
「俺にもわかるように説明してくれ」
「だからぁ!」
このやりとりを何回か繰り返す。そしてようやく、このやりとりが俺の聞き間違いでもなんでもないことがわかった。こいつは、「カボチャ頭」に「恋をした」らしい。
「どうしましょう、初めての恋が人間ではないかもしれないなんて……! 私、いけない子でしょうか!?」
「えーと、ちょっと待って整理させて。ツッコミが追いつかないから。えっと、そのカボチャ頭と出会ったのはどこ?」
「駅前です!」
「OK、じゃあそいつは100%人間だ安心しろ」
「えっ!」
前から天然というか本気でアホだよなぁとは思っていたが、ここまでだったとは。俺は呆れてため息をついた。
事の顛末を聞いてみると、こうだ。こいつが駅前を歩いているときに、転けて膝を擦りむいた。そして、そのまま座り込んでいると、地面にぬっとカボチャの影が落ちた。見上げてみると、カボチャ頭がこっちを見ていて、「大変! お菓子をあげないとイタズラされちゃう!」と思って慌てたが(……というか、ここでその考えに至ることがまずおかしい気がする)、生憎お菓子を持ち合わせていない。どうするべきかと肩を震わせていると、そのカボチャ頭が差し出して来たのはイタズラの魔の手ではなく、救いの手。無言で手を差し伸べられて、おずおずとその手を掴むと、そっと立ち上がらせてくれた。
「ありがとうございます」と感謝を告げると、そのカボチャ頭はまた無言で、何かを差し出して来た。それは、袋に入った棒付きキャンディだった。
「……は? それだけ?」
「だって! 本来は人間からお菓子を奪わないといけないカボチャさんが、逆にお菓子を下さったんですよ!? なんと言いますか、ギャップ萌えというかっ」
まさに電撃に打たれたような感覚でした、と嬉々として語る。カボチャ頭に飴を差し出されるところを想像してみたが、なるほど、全くと言っていいほど胸はときめかない。
「……ていうか、脚はもう大丈夫なんか」
「はいもうバッチリ! それで、これがカボチャさんからもらったキャンディなんですけど──」
おい。俺の心配は即無視か。ちょっとだけ奮った勇気を返して欲しい。俺はちょっとむしゃくしゃして、ガサゴソとカバンの中からこいつが取り出した飴を奪い取った。
「ああっ!」
「ドゥ・ムモン……? これ、駅前に新しくできたお菓子屋じゃねーの?」
「返してくださいー! 思い出の品ー!!」
まじまじとそれを見てみる。ハロウィンモチーフのその飴は、ジャックオランタンの絵柄の棒付きキャンディ。袋を止めてある針金入りのリボンには、店名がしっかりと書かれている。ははーん、わかったぞ。
「バイトだよ、バイト。ハロウィンの客寄せに飴配ってただけ。それ以上でも以下でもないだろ」
新しくできたあの店は、外装もオシャレで、ちょっとお高いイメージがあって、客足もそんなに多いわけではなさそうだった。それを危惧してのハロウィン戦法だろう。タダで飴配って、敷居を低くしようっていう、それだけの。
「……なっ」
「先輩のバカー! なんでそういうこと言うんですかー!」
こいつは、目をウルウルさせて、今にも泣きそうな顔をしながら俺を叩いた。
「なっ、泣くなよ!」
「先輩がイジワル言うからじゃないですかぁっ……!」
俺は、まさか泣かれるとは思わなくて、オロオロと袖でその涙を拭った。
「わ、わかった。今度俺が一緒にそのカボチャ頭がどんな奴か、見に行ってやるから! 泣き止め、なっ!?」
「……本当ですか?」
一転して、表情をぱぁっと明るくさせる。さっきまで泣いてたのが嘘みたいに、満面の笑みで俺を見た。口を滑らせて出た発言だった。本当ならば、そんなことしたくない。こいつが恋をしたというカボチャ頭に会いに行くなんて。
「じゃあ先輩、今日授業終わったら一緒に駅前行きましょう! 約束ですよ!」
「お、おぅ……」
でもさぁ、その笑顔は反則、じゃねぇの? そんな顔されたら断れるわけがない。俺はこいつにばれないように、こっそりとため息をついた。
カボチャ頭に恋をした? そんなふざけたこと言われても困る。俺はそれよりずっと前から、このふわふわ頭に恋してんだよ。
カボチャ頭上等。そんなやつに負けてたまるか。
「えへへ、楽しみですー」
「……おぅ」
何気に、一緒に帰る約束を取り付けたことに後から気づいて、俺は生返事をしたのだった。
「はぁ?」
こいつはいつも唐突なことを言い出す。今度はなんだって? カボチャが何?
「だから、カボチャ頭の方に恋をしてしまったんです」
「俺にもわかるように説明してくれ」
「だからぁ!」
このやりとりを何回か繰り返す。そしてようやく、このやりとりが俺の聞き間違いでもなんでもないことがわかった。こいつは、「カボチャ頭」に「恋をした」らしい。
「どうしましょう、初めての恋が人間ではないかもしれないなんて……! 私、いけない子でしょうか!?」
「えーと、ちょっと待って整理させて。ツッコミが追いつかないから。えっと、そのカボチャ頭と出会ったのはどこ?」
「駅前です!」
「OK、じゃあそいつは100%人間だ安心しろ」
「えっ!」
前から天然というか本気でアホだよなぁとは思っていたが、ここまでだったとは。俺は呆れてため息をついた。
事の顛末を聞いてみると、こうだ。こいつが駅前を歩いているときに、転けて膝を擦りむいた。そして、そのまま座り込んでいると、地面にぬっとカボチャの影が落ちた。見上げてみると、カボチャ頭がこっちを見ていて、「大変! お菓子をあげないとイタズラされちゃう!」と思って慌てたが(……というか、ここでその考えに至ることがまずおかしい気がする)、生憎お菓子を持ち合わせていない。どうするべきかと肩を震わせていると、そのカボチャ頭が差し出して来たのはイタズラの魔の手ではなく、救いの手。無言で手を差し伸べられて、おずおずとその手を掴むと、そっと立ち上がらせてくれた。
「ありがとうございます」と感謝を告げると、そのカボチャ頭はまた無言で、何かを差し出して来た。それは、袋に入った棒付きキャンディだった。
「……は? それだけ?」
「だって! 本来は人間からお菓子を奪わないといけないカボチャさんが、逆にお菓子を下さったんですよ!? なんと言いますか、ギャップ萌えというかっ」
まさに電撃に打たれたような感覚でした、と嬉々として語る。カボチャ頭に飴を差し出されるところを想像してみたが、なるほど、全くと言っていいほど胸はときめかない。
「……ていうか、脚はもう大丈夫なんか」
「はいもうバッチリ! それで、これがカボチャさんからもらったキャンディなんですけど──」
おい。俺の心配は即無視か。ちょっとだけ奮った勇気を返して欲しい。俺はちょっとむしゃくしゃして、ガサゴソとカバンの中からこいつが取り出した飴を奪い取った。
「ああっ!」
「ドゥ・ムモン……? これ、駅前に新しくできたお菓子屋じゃねーの?」
「返してくださいー! 思い出の品ー!!」
まじまじとそれを見てみる。ハロウィンモチーフのその飴は、ジャックオランタンの絵柄の棒付きキャンディ。袋を止めてある針金入りのリボンには、店名がしっかりと書かれている。ははーん、わかったぞ。
「バイトだよ、バイト。ハロウィンの客寄せに飴配ってただけ。それ以上でも以下でもないだろ」
新しくできたあの店は、外装もオシャレで、ちょっとお高いイメージがあって、客足もそんなに多いわけではなさそうだった。それを危惧してのハロウィン戦法だろう。タダで飴配って、敷居を低くしようっていう、それだけの。
「……なっ」
「先輩のバカー! なんでそういうこと言うんですかー!」
こいつは、目をウルウルさせて、今にも泣きそうな顔をしながら俺を叩いた。
「なっ、泣くなよ!」
「先輩がイジワル言うからじゃないですかぁっ……!」
俺は、まさか泣かれるとは思わなくて、オロオロと袖でその涙を拭った。
「わ、わかった。今度俺が一緒にそのカボチャ頭がどんな奴か、見に行ってやるから! 泣き止め、なっ!?」
「……本当ですか?」
一転して、表情をぱぁっと明るくさせる。さっきまで泣いてたのが嘘みたいに、満面の笑みで俺を見た。口を滑らせて出た発言だった。本当ならば、そんなことしたくない。こいつが恋をしたというカボチャ頭に会いに行くなんて。
「じゃあ先輩、今日授業終わったら一緒に駅前行きましょう! 約束ですよ!」
「お、おぅ……」
でもさぁ、その笑顔は反則、じゃねぇの? そんな顔されたら断れるわけがない。俺はこいつにばれないように、こっそりとため息をついた。
カボチャ頭に恋をした? そんなふざけたこと言われても困る。俺はそれよりずっと前から、このふわふわ頭に恋してんだよ。
カボチャ頭上等。そんなやつに負けてたまるか。
「えへへ、楽しみですー」
「……おぅ」
何気に、一緒に帰る約束を取り付けたことに後から気づいて、俺は生返事をしたのだった。
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